噂の不良は甘やかし上手なイケメンくんでした

ミヅハ

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いつもと違う放課後

 あの後、昇降口で待ってるっていう神薙から逃げるように教室に戻ったんだけど、現場を目撃していたクラスメイトに憐れむような視線を向けられしまった。そんな目で見るくらいなら変わって欲しい。
 でも、わざとじゃないとはいえアレは誰でも怒るだろうに、神薙は一度も怒らなかった。
 噂と違って本当は優しい人だったりして。
 あ、そうだ。薫に一緒に帰れないって連絡しとかないと。

「頑張れよ、弟」
「……骨を拾ってくれる気はない?」
「それは遠慮しておく」

 手を洗って帰り支度を終わらせて薫にメッセージを送りつつ教室を出ようとしたら、普段はあまり話さないクラスメイトに肩をポンっと叩かれる。少し驚いたけど、あわよくば着いて来てくれないかなーって思って聞いてみたら即答で拒否された。
 まぁ、そうですよね。

「どうか一発だけで済みますように!」

 あと出来れば顔はやめて欲しい。薫にバレたら絶対神薙に文句いいに行くから。
 重い足を引き摺りながら昇降口に行くと、下駄箱に寄り掛かってスマホを弄っている神薙がいた。……こうして見るとやっぱカッコイイ。ほら、女の子たちチラチラ見てるし。
    神薙は俺に気付くと、スマホをズボンのポケットにしまって近付いてきた。

「……神薙、くん」
「んー」
「?」
「〝くん〟はいらないな」
「え……」
「同じクラスだろ? 呼び捨てでいいって」

 ……それ、本気で言ってます?
 確かに取って付けたように〝神薙くん〟とは言ってるけど、同じクラスになってから二ヶ月、さっき初めて話したのにもう呼び捨て?
 えーって思いながらまごまごしていると、神薙が俺の顔の横に片手を付いて俺を覗き込んで来た。
 こ、これが噂の壁ドン……!

「俺も湊って呼ぶから」
「……あ、は、はい、どうぞ…」

 ってか名前、知ってくれてたんだ。薫の方が印象に残りやすいから、大体俺は〝弟くん〟って呼ばれる事が多いのに。
 それより近いから離れて欲しい。

「呼んでみ?」
「か、神、薙……くん」
「…………」

 が、頑張った方だと思うんだけど、やっぱり怖くて外せない。
 神薙からの提案だし怒られないとは分かりつつも、こんな近くで呼び捨てに出来るほどの度胸、俺にはないんだ。
 ふーっとどこか残念そうに息を吐いた神薙は、俺から離れると顎で外をしゃくってみせる。

「まぁいっか。行くよ」
「……どこに?」
「湊はゲーセンとか行く?」
「たまに……」

 薫と悠介がクレーンゲーム好きだから三人で帰る時に寄ったりはしてるけど、俺はあの人の多さには一向に慣れない。オマケにクレーンゲームやってる時に見てくる人が本当に苦手で、出来れば見ないで欲しいと思ってる。
 上履きからスニーカーに履き替え、ポケットに手を入れて気怠げに待ってくれてる神薙の傍に寄ると歩き出した。
 さっきも思ったけど、背が高くて脚が長い。

 俺と薫は男女の双子にしては珍しく顔立ちが似ている部分が多く、おまけに背格好も似ていて身長なんてほとんど差がないから、同じ服着て同じ髪型して後ろを向いてたらまず両親でも分からないらしい。
 つまり何が言いたいかというと、俺の頭は神薙の肩にも届いていないって事。

 それにしても、物凄く視線を集めている。そりゃ今まで接点の〝せ〟の字もなかった俺たちが一緒に歩いてるし、俺に至ってはリュックの肩紐を掴んでビクビクしてるからみんな何事って思うよね。
 というか何でゲーセン? もしかして仲間がいるとか……やっぱりボコボコにされる!?

「湊」
「……! な、何…?」
「信号赤」
「あ……」

 暴力が嫌いな俺の胃がキリキリと痛み出したから抑えていると、いきなり腕を引かれて背中が神薙の身体にぶつかる。驚いて目を瞬いていると、目の前を勢い良く車が通り過ぎた。
 うわ、危うく引かれるところだった。
 今度はバクバクと主張し始めた胸に手を当てて神薙を見上げたら、あからさまにホッとした顔をしててまた驚く。

「あ、ありがとう……」
「お前ね、ちゃんと前見て歩きな?」
「全くもってその通りで……」

 こればかりは神薙が正しい。
 この年になってこんな事で注意を受けるとか恥ずかしすぎる。
 信号が青に変わってパッと掴まれていた手が離れた。
 手も大きい……さっき背中が触れた時もそうだけど、何ていうか男らしいんだよね。
 同じ男なのに、悠介とも全然違う。
 隣に並ぶのは何となく気まずくて斜め後ろを歩いてるんだけど、すーごい視線を感じて顔を上げられない。え、何、言外にもっと離れて歩けって言ってる?
 ちょっとだけ歩調を緩めて神薙との距離を開けようとしたら、突然頭を掴まれて驚いた。

「!?」
「前見ろって」
「……う、うん」

 そういえばさっき注意されてた。
 何か神薙って聞いてたイメージと違うって言うか……だからか俺は、今だにどう接したらいいか分かってない。

 他の人が話してた神薙は、人当たりが良さそうに見えてキレやすくて、自分が気に入らないとすぐ暴力。上級生だろうと関係なし、売られた喧嘩はもれなく購入して遠慮なく返り討ち。酒も煙草も女も好き放題な節操なしで、来る者拒まず去る者追わず……だっけ?
    節操なしが良く分かんないけど、女の子とのお付き合いをたくさん経験してるって事かな。でも、それって悪い事なのかな。

 確かにこんだけイケメンで背も高くて喧嘩も強いなら女の子は夢中になると思う。というか、今は彼女はいないんだろうか。

「湊?」
「へ? あれ?」
「ふ…くく………こっちだよ」

 呼ばれて顔を上げたけど何故か目の前にいたのは電信柱で、危うくぶつかりそうだった俺は目を瞬いた。神薙が電信柱になった?
 俺の頭は相当混乱しているようで、ペタペタと電信柱を叩いていたら横から声がかけられる。慌ててそっちを向くと、手の甲で口元を押さえて笑いを堪えている神薙がいた。
 これ、本当にただの電信柱だったんだ。
 他の人に見られてなくて良かったと思いながら神薙の傍まで行くと何故か頭をポンポンされる。

「面白いね、お前」
「今のは別にボケてた訳じゃ……」
「それが余計に面白いんだって。あ、ほら。あそこのゲーセン」
「あ、ここは初めてかも」

 いつも行くのは駅前のゲーセンだから、こっちにもあるのは知らなかった。最新のプライズとかあるのかな。
 俺は初めて来る場所はどんなところでもワクワクするから、こっちには何があって、あっちには何があるのかってウロウロして良く怒られてた。
 今は親や薫と一緒なわけじゃなく、何ならと噂されてる神薙だから下手な事は出来ない。ああでも、あっち気になる。

「あ、周防さんだ」
「ホントだ、お久しぶりでーす」
「おー、久し振り。元気?」
「元気っす」

 店内をキョロキョロしてると後ろから声が聞こえてきた。振り向くと、制服を着崩した髪色の派手な二人組がいて神薙に明るく話し掛けてる。
    同じ学校の生徒じゃなさそうだけど、ピアスの数凄い。
 神薙の耳といいこの人たちといい、不良はピアス開けまくるのが流行ってるのかな?

「そいつ誰です?」
「ん? ああ、俺の……」
「ダチっすか?」
「…まぁそんなとこ」

 え? 俺たち友達だったの? いつの間に?
 っていうか俺、殴られる覚悟で来たんだけど、もしかして本当に遊びに来ただけ?

「湊、適当に中見てきな」
「あ…うん」

 神薙が言うなら遠慮なく。
 俺はそそくさと気になっていた方に向かうと、何があるのかと覗き込みながら通路を歩き、奥まった場所にある筐体の中に置かれた景品を見て目を丸くした。
 欲しいと思ってたけどゲット出来なかった〝リアルな餃子クッション〟が、そこに鎮座ましましてたから。
 一年前にプライズ用として出されたけど、あっという間になくなって悔しかったのを覚えてる。

「すっごく欲しい……」

 だけど俺、クレーンゲームは苦手な部類に入る。しかもあれ、シールド低めだけど確率機だし…寄せたら取れるかな。
 リュックから財布を取り出し資金を確認する。
 出来てせいぜい千円分、五百円で六回プレイ出来るから、十二回で取れなかったら諦めるしかない。

「……やる前から諦めるとかかっこ悪い。男は度胸。よし、やってみよう」

 もしかしたら運良く取れるかもしれないし。
 俺は近くの両替機で千円を崩し、百円玉を五枚入れてさっそくプレイし始めた。



 俺、クレーンゲーム苦手どころか下手なのかもしれない。
 何であっちこっちに転がるの? せっかく獲得口の近くに持って来れても、掴み方が悪かったら反対に転がってく。
 どこ狙えばいいか本当に分からない。

「あと二回しかないのに」

 確率さえも来る気配がない。一年前のプライズなんだから、ちょっとは設定緩めでもいいと思うんだ。ずっと餃子クッション見てたせいかお腹まで空いて来たし。

「あ」

 今度は上手く転がって、半分近くが獲得口のシールドに乗った。待って、大チャンス到来だけどラスイチだよ、これ。
 とりあえずアーム動かして……ここらへん? こっち?
 時間制だからなるべく慎重に、と思いながらレバーを操作していると不意に誰かの手が重なってビクっとする。
 手の主は勝手にアームを動かして位置を定めると、これまた勝手にボタンを押してアームを下ろした。シールドに乗っていない方を持ち上げ、重さで滑るように獲得口に落ちる。

「へ?」
「取れたな」
「え? あれ、神薙?」

 最後のチャンスで起きたまさかの逆転劇に呆けていると、さっきからずっと聞いてる声がそう言って足元に屈んだ。取り出し口から餃子クッション引っ張り出し俺に差し出してくれる。
    驚き過ぎて〝くん〟が外れちゃったのは気付かなかった。

「ほら、欲しかったんだろ?」
「……うわぁ…餃子クッションだ…」
「変わった趣味だな」
「リアルで可愛くない?」

 結構モチモチした素材で、中はすぐにヘタレそうなくらい柔い綿が入っててクッション性はないけど、ずっと欲しかった物だから素直に嬉しい。

「ありがとう、神薙。凄く嬉しい」
「………こういうのが好きとか、ホント可愛いな…」
「え?」
「何でもない。取れて良かったな、湊」
「うん」

 相手が怖い噂のある神薙だとか不良だとかそんなのもう関係なくて、餃子を抱き締めて見上げると、神薙は少しだけ驚いた顔をしたあとポツリと呟いた。
 俺は聞こえなかったから聞き返したんだけど、首を振って餃子を人差し指で突ついた神薙はそう言ってにこっと笑う。
 大人びて見える神薙の年相応な笑顔に俺は何故かドキッとしてしまい、頭の中いっぱいにハテナを浮かべながら餃子に顔を埋めた。
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