噂の不良は甘やかし上手なイケメンくんでした

ミヅハ

文字の大きさ
23 / 63

悠介のケジメ

しおりを挟む
「湊、悠介と何かあった?」

 お風呂にも入って部屋で周防くんとメッセージのやりとりをしていると、ノックもなく入って来た薫がいきなりそう聞いてきた。
 何かあったかと聞かれても朝練がある時以外は一緒に行ってるし普通に話してる。喧嘩してもいないし、そう聞かれる理由が分からない。

「別に何もないけど…何で?」
「最近、悠介がおかしいんだよね。前までは隙あらば湊のところに行こうとしてたのに、今はぼんやりする事が増えて私の話聞いてない事多くて」
「俺のところに行く?」

 それは初めて聞いたし知ったんだけど、悠介は心配性だからもしかしたら俺がちゃんとやれてるのか気にしてくれてたのかもしれない。

「良く分かんないけど、俺と悠介はほんとに何もないよ」
「そう? じゃあ違う事なのかな」
「悩んでるとかなら俺も相談に乗るから」
「うん。まぁギリギリまで聞かないでおくよ」

 俺が悩んでたら遠慮なく突撃してくるくせに、他の人には待て出来るの何でなんだ。
 スマホが震え、周防くんからの返信だと画面を開いたら、いきなり薫が覗き込んで来て慌てて自分の胸に当てて隠す。

「ちょ、覗かないでよ」
「甘ったるいやりとりしてるわね」
「普通だし」
「…ねぇ、湊」
「? 何?」

 薫に見えないようスマホを顔に近付けて返事を打ち込んでいると、神妙な様子で呼ばれて目を瞬く。俺のベッドに腰掛け目を伏せる薫に少しだけ心配になった。

「薫?」
「神薙くんとエッチな事したの?」
「……は?」
「この間神薙くんの家に泊まったじゃない? もしかしてそういう雰囲気になったりしたのかなーって」
「…………」

 心配して損した。そもそもエッチな事って何?    ………ん?    あれ?    もしかしてあれってエッチな事…になる、のかな。もしそうだったらは俺はされた事になるんだろうけど、そんな事薫に言える訳ないしそもそも人に話す事じゃない。
 その時の事を思い出して顔が熱くなるのを感じながら薫の背中を押して立たせると、文句を言う薫をそのまま扉の外まで出して勢いよく閉める。弟に対して聞くような内容じゃないよ、まったく。

「湊のケチ!」

 扉の向こうから意味の分からない言葉にが聞こえてきたけど無視してベッドに寝転び、スマホを点灯させてメッセージアプリを開いた。
 さっきまで今度の休みにデートしようって話をしてて、今度こそ行きたい場所を決めてって周防くんに言われたところだった。周防くんと手を繋いで歩けるならどこでもいいんだけどなぁ。
 うーん、悩む。運動は苦手だからアスレチックは遠慮したいし、ずっと街をブラブラしてるのも周防くんは暇だろうし……あ、そうだ。
 俺はスマホのサーチエンジンをタップして文字を打ち込むと、なるべく広い場所を検索して周防くんに送る。すぐに周防くんから「いいよ」って返事が来たから、今度のデートはお弁当を作って公園デートに決まった。
 お母さんにもっとたくさん教えて貰わないと。





 週中の放課後、図書室に用事があったから周防くんに教室で待ってて貰って済ませて戻る途中、部活に行ってるはずの悠介に声をかけられた。
 見上げるとめったに見ないほど真剣な顔をしていて、何を言われるのかと不安になる。

「湊、ケジメをつけたい」
「ケジメ?」
「俺の勝手な気持ちだけど、聞いてくれるか?」
「う、うん」
「……俺、湊が好きだよ」
「え?」

 突然の告白に今度は目が点になった。
 好きって、今更幼馴染みとしてなんて言わないだろうからそういう意味でって事だよね。

「小学生に上がった頃からずっと、湊だけを見てきた」
「……悠介は、薫が好きなんだと思ってた…」
「薫の事は妹みたいに思ってるけど、好きなのは湊だよ」
「……」

 まさか全部俺の勘違いだったなんて、そんな事思いもしなかった。でも悠介は嘘をつくような人じゃないし、言ってる事は本当なんだろう。
 こうして真っ直ぐに伝えてくれるなら、俺もちゃんと答えないと悠介に失礼だよね。

「…俺も好きだったよ」
「え…」
「でも悠介は薫が好きなんだって思ってたから言わなかった」
「…何で…」
「だって悠介、薫の話ばかりだったし、ずっと薫を見てたし」
「湊と出来る共通の話がネタに事欠かない薫だっただけだし、見てたのは……湊を見れないから」
「見れない?」
「二人だけの時に湊の顔を見ると我慢出来なくなる気がして…」

 我慢って何の?
 目を瞬いて首を傾げると、悠介はクスリと笑って「何でもない」と首を振り一瞬だけ視線を逸らした。
 何か、俺の後ろ見てた?

「今はもう好きって気持ちはない?」
「うん。今は周防くんが好きだから」
「…そっか……もう少し早く言えてれば、湊と付き合えてたのかな」
「どうだろ…でももしかしたら、悠介に告白されても信じられなかったかもしれない」
「薫が好きだって思ってたから?」
「うん…」

 幼馴染みとしてなら悠介の事は変わらず好きだ。でも触れたいとか触れて欲しいとか、そんな風に思うのはもう周防くんだけだから。
 悠介は頭を掻くとあんまり聞きたくなさそうにしながらも気になったのか俺に問い掛けてきた。

「神薙のどこが好きなの?」
「んー…全部」
「全部か」
「嫌だなって思うところが全然ない」

 一緒にいてモヤッとする事もないし、本当の恋人になってからは俺がヤキモチを妬く暇もないくらい大事にされてる。
 相変わらずナンパもされるし、たくさん友達がいるから歩いてると声をかけられるけど、ハッキリ言ってくれるし俺を優先してくれる周防くんには好きが増してくばかりだ。

「……馬鹿だな、俺。関係が壊れるのが怖いからって何の行動にも移さないで…」
「俺も一緒だから。幼馴染みのままなら近くにいられるって思ってた」
「悔しいけど、アイツと付き合い出してから湊が明るくなったのは確かだし…本当は諦めたくないけど、湊を困らせるのは本意じゃないし諦めるよ」
「ありがとう、悠介」
「俺の方こそ、ちゃんと答えてくれてありがとう」

 今思えば、悠介には本当の意味で恋してなかったのかもしれない。周防くんに感じる気持ちとか感覚とか、悠介を好きな時にはなかったから。
 それでも近くにいてドキドキしたりはしてたから、好きは好きだったと思う。
 悠介と手を振って別れ、息を吐いて教室に戻ろうと階段がある角を曲がったら腕を引かれて誰かに抱き竦められた。一瞬焦ったけど、知ってる匂いがしたから顔を上げるとやっぱり周防くんがいてホッとする。

「お疲れ」
「周防くん」
「なかなか戻って来ないから探しに来た」
「あ、ごめんね。ありがとう」
「いいよ」

 大きな手が前髪を掻き上げるように撫でてくれる。反射的に目を瞑ると額に唇が触れ、そこから耳元まで来て音を立ててキスされ小さく肩が跳ねた。

「俺も湊の全部が好きだよ」
「! き、聞いて…?」
「聞くつもりはなかったけど、周りが静かだったから聞こえた」

 周防くんがいるとは思ってなかったから仕方ないとはいえ、本人に聞かれていたのは恥ずかしい。呻きながら両手で顔を覆うとクスリと笑った周防くんがおもむろに俺を抱き上げ階段を上がり始めた。

「え、周防く…」
「イチャイチャして帰ろ」
「そ、それはいいんだけど…重いから、自分で歩く」
「重くないって。大体、身長も体格もどんだけ差があると思ってんだ」

 俺は周防くんの肩より下くらいまでしかなくて、貧相で筋肉もない俺の身体と違い周防くんはちゃんと男の人の身体をしてる。しかも俺は、薫よりも非力だった。
 いや、でも絶対薫の方がおかしいと思う。10キロのお米抱えて階段駆け上がるんだよ? お母さんもびっくりしてた。
 ちなみに俺は持てるけどよろよろになる。

 周防くんはいつもお弁当を食べる屋上前の踊り場まで俺を抱いたまま上がり切り、胡座を掻いて座ると腰壁に寄り掛かり俺にキスしてきた。触れて離れて、そのたびに音がして誰かに聞こえないか心配になる。

「ん、ん…」

 でも、周防くんとキスしてるとすぐに頭の中がふわふわしてくるからそんな心配もすぐになくなって、俺の頬に触れてる手に自分の手を重ねるとすぐに繋いでくれた。
    くっつけるだけのキスなのは、俺を気にしてくれてるからかな。

「……湊」
「…くすぐったい……ンッ」

 でも何となく物足りなくて、とはいえ自分からするのは恥ずかしいからされるがままになってたら、周防くんの唇が俺の耳から首筋に移動して繋いでいない方の手で制服のボタンが外される。
 甘噛みされて小さく震えていると、襟元が開かれて露わになった鎖骨に下りてきた唇が触れ針で刺されたみたいな痛みが走った。

「…? 何…?」
「俺のものって印。でも、誰にも見せちゃ駄目だからな?」
「う、うん…」

 周防くんのものって印? どんなだろう…でも位置的に自分じゃ見えない。
 頷いた俺にふっと笑った周防くんは今度は首の付け根に歯を立ててガジガジと何度も噛んでくる。痛くはないけど、擽ったさとは違う感覚が押し寄せて周防くんの服を掴む手が震えた。

「や…か、噛まないで…」
「あ、ごめん。湊の肌、すべすべだし柔らかいしで何か噛みたくなって…嫌だった?」
「嫌とかじゃなくて……変な声、出ちゃうから…」
「変じゃないよ、可愛い」

 俯く俺の頭を撫でて、ボタンを留めて襟元を直してくれた周防くんは、膝から俺を下ろして立ち上がると手を出して首を傾げた。

「湊なら全部可愛いって思うから、何してもどんな声出してもいいよ」
「変顔しても?」
「それはむしろ見たいかも。ほら、デート行くだろ? 帰ろう」
「うん」

 頷き差し出された手を掴んで立ち上がり繋いだまま階段を降りる。
 途中で周防くんに「変顔いつ見せてくれんの?」って聞かれたけど、不細工にしかならないから首を振って拒否しておいた。
 変顔なんて絶対に見せられないよ。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結済】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!

キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!? あらすじ 「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」 前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。 今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。 お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。 顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……? 「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」 「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」 スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!? しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。 【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】 「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」 全8話

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...