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悠介のケジメ
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「湊、悠介と何かあった?」
お風呂にも入って部屋で周防くんとメッセージのやりとりをしていると、ノックもなく入って来た薫がいきなりそう聞いてきた。
何かあったかと聞かれても朝練がある時以外は一緒に行ってるし普通に話してる。喧嘩してもいないし、そう聞かれる理由が分からない。
「別に何もないけど…何で?」
「最近、悠介がおかしいんだよね。前までは隙あらば湊のところに行こうとしてたのに、今はぼんやりする事が増えて私の話聞いてない事多くて」
「俺のところに行く?」
それは初めて聞いたし知ったんだけど、悠介は心配性だからもしかしたら俺がちゃんとやれてるのか気にしてくれてたのかもしれない。
「良く分かんないけど、俺と悠介はほんとに何もないよ」
「そう? じゃあ違う事なのかな」
「悩んでるとかなら俺も相談に乗るから」
「うん。まぁギリギリまで聞かないでおくよ」
俺が悩んでたら遠慮なく突撃してくるくせに、他の人には待て出来るの何でなんだ。
スマホが震え、周防くんからの返信だと画面を開いたら、いきなり薫が覗き込んで来て慌てて自分の胸に当てて隠す。
「ちょ、覗かないでよ」
「甘ったるいやりとりしてるわね」
「普通だし」
「…ねぇ、湊」
「? 何?」
薫に見えないようスマホを顔に近付けて返事を打ち込んでいると、神妙な様子で呼ばれて目を瞬く。俺のベッドに腰掛け目を伏せる薫に少しだけ心配になった。
「薫?」
「神薙くんとエッチな事したの?」
「……は?」
「この間神薙くんの家に泊まったじゃない? もしかしてそういう雰囲気になったりしたのかなーって」
「…………」
心配して損した。そもそもエッチな事って何? ………ん? あれ? もしかしてあれってエッチな事…になる、のかな。もしそうだったらは俺はされた事になるんだろうけど、そんな事薫に言える訳ないしそもそも人に話す事じゃない。
その時の事を思い出して顔が熱くなるのを感じながら薫の背中を押して立たせると、文句を言う薫をそのまま扉の外まで出して勢いよく閉める。弟に対して聞くような内容じゃないよ、まったく。
「湊のケチ!」
扉の向こうから意味の分からない言葉にが聞こえてきたけど無視してベッドに寝転び、スマホを点灯させてメッセージアプリを開いた。
さっきまで今度の休みにデートしようって話をしてて、今度こそ行きたい場所を決めてって周防くんに言われたところだった。周防くんと手を繋いで歩けるならどこでもいいんだけどなぁ。
うーん、悩む。運動は苦手だからアスレチックは遠慮したいし、ずっと街をブラブラしてるのも周防くんは暇だろうし……あ、そうだ。
俺はスマホのサーチエンジンをタップして文字を打ち込むと、なるべく広い場所を検索して周防くんに送る。すぐに周防くんから「いいよ」って返事が来たから、今度のデートはお弁当を作って公園デートに決まった。
お母さんにもっとたくさん教えて貰わないと。
週中の放課後、図書室に用事があったから周防くんに教室で待ってて貰って済ませて戻る途中、部活に行ってるはずの悠介に声をかけられた。
見上げるとめったに見ないほど真剣な顔をしていて、何を言われるのかと不安になる。
「湊、ケジメをつけたい」
「ケジメ?」
「俺の勝手な気持ちだけど、聞いてくれるか?」
「う、うん」
「……俺、湊が好きだよ」
「え?」
突然の告白に今度は目が点になった。
好きって、今更幼馴染みとしてなんて言わないだろうからそういう意味でって事だよね。
「小学生に上がった頃からずっと、湊だけを見てきた」
「……悠介は、薫が好きなんだと思ってた…」
「薫の事は妹みたいに思ってるけど、好きなのは湊だよ」
「……」
まさか全部俺の勘違いだったなんて、そんな事思いもしなかった。でも悠介は嘘をつくような人じゃないし、言ってる事は本当なんだろう。
こうして真っ直ぐに伝えてくれるなら、俺もちゃんと答えないと悠介に失礼だよね。
「…俺も好きだったよ」
「え…」
「でも悠介は薫が好きなんだって思ってたから言わなかった」
「…何で…」
「だって悠介、薫の話ばかりだったし、ずっと薫を見てたし」
「湊と出来る共通の話がネタに事欠かない薫だっただけだし、見てたのは……湊を見れないから」
「見れない?」
「二人だけの時に湊の顔を見ると我慢出来なくなる気がして…」
我慢って何の?
目を瞬いて首を傾げると、悠介はクスリと笑って「何でもない」と首を振り一瞬だけ視線を逸らした。
何か、俺の後ろ見てた?
「今はもう好きって気持ちはない?」
「うん。今は周防くんが好きだから」
「…そっか……もう少し早く言えてれば、湊と付き合えてたのかな」
「どうだろ…でももしかしたら、悠介に告白されても信じられなかったかもしれない」
「薫が好きだって思ってたから?」
「うん…」
幼馴染みとしてなら悠介の事は変わらず好きだ。でも触れたいとか触れて欲しいとか、そんな風に思うのはもう周防くんだけだから。
悠介は頭を掻くとあんまり聞きたくなさそうにしながらも気になったのか俺に問い掛けてきた。
「神薙のどこが好きなの?」
「んー…全部」
「全部か」
「嫌だなって思うところが全然ない」
一緒にいてモヤッとする事もないし、本当の恋人になってからは俺がヤキモチを妬く暇もないくらい大事にされてる。
相変わらずナンパもされるし、たくさん友達がいるから歩いてると声をかけられるけど、ハッキリ言ってくれるし俺を優先してくれる周防くんには好きが増してくばかりだ。
「……馬鹿だな、俺。関係が壊れるのが怖いからって何の行動にも移さないで…」
「俺も一緒だから。幼馴染みのままなら近くにいられるって思ってた」
「悔しいけど、アイツと付き合い出してから湊が明るくなったのは確かだし…本当は諦めたくないけど、湊を困らせるのは本意じゃないし諦めるよ」
「ありがとう、悠介」
「俺の方こそ、ちゃんと答えてくれてありがとう」
今思えば、悠介には本当の意味で恋してなかったのかもしれない。周防くんに感じる気持ちとか感覚とか、悠介を好きな時にはなかったから。
それでも近くにいてドキドキしたりはしてたから、好きは好きだったと思う。
悠介と手を振って別れ、息を吐いて教室に戻ろうと階段がある角を曲がったら腕を引かれて誰かに抱き竦められた。一瞬焦ったけど、知ってる匂いがしたから顔を上げるとやっぱり周防くんがいてホッとする。
「お疲れ」
「周防くん」
「なかなか戻って来ないから探しに来た」
「あ、ごめんね。ありがとう」
「いいよ」
大きな手が前髪を掻き上げるように撫でてくれる。反射的に目を瞑ると額に唇が触れ、そこから耳元まで来て音を立ててキスされ小さく肩が跳ねた。
「俺も湊の全部が好きだよ」
「! き、聞いて…?」
「聞くつもりはなかったけど、周りが静かだったから聞こえた」
周防くんがいるとは思ってなかったから仕方ないとはいえ、本人に聞かれていたのは恥ずかしい。呻きながら両手で顔を覆うとクスリと笑った周防くんがおもむろに俺を抱き上げ階段を上がり始めた。
「え、周防く…」
「イチャイチャして帰ろ」
「そ、それはいいんだけど…重いから、自分で歩く」
「重くないって。大体、身長も体格もどんだけ差があると思ってんだ」
俺は周防くんの肩より下くらいまでしかなくて、貧相で筋肉もない俺の身体と違い周防くんはちゃんと男の人の身体をしてる。しかも俺は、薫よりも非力だった。
いや、でも絶対薫の方がおかしいと思う。10キロのお米抱えて階段駆け上がるんだよ? お母さんもびっくりしてた。
ちなみに俺は持てるけどよろよろになる。
周防くんはいつもお弁当を食べる屋上前の踊り場まで俺を抱いたまま上がり切り、胡座を掻いて座ると腰壁に寄り掛かり俺にキスしてきた。触れて離れて、そのたびに音がして誰かに聞こえないか心配になる。
「ん、ん…」
でも、周防くんとキスしてるとすぐに頭の中がふわふわしてくるからそんな心配もすぐになくなって、俺の頬に触れてる手に自分の手を重ねるとすぐに繋いでくれた。
くっつけるだけのキスなのは、俺を気にしてくれてるからかな。
「……湊」
「…くすぐったい……ンッ」
でも何となく物足りなくて、とはいえ自分からするのは恥ずかしいからされるがままになってたら、周防くんの唇が俺の耳から首筋に移動して繋いでいない方の手で制服のボタンが外される。
甘噛みされて小さく震えていると、襟元が開かれて露わになった鎖骨に下りてきた唇が触れ針で刺されたみたいな痛みが走った。
「…? 何…?」
「俺のものって印。でも、誰にも見せちゃ駄目だからな?」
「う、うん…」
周防くんのものって印? どんなだろう…でも位置的に自分じゃ見えない。
頷いた俺にふっと笑った周防くんは今度は首の付け根に歯を立ててガジガジと何度も噛んでくる。痛くはないけど、擽ったさとは違う感覚が押し寄せて周防くんの服を掴む手が震えた。
「や…か、噛まないで…」
「あ、ごめん。湊の肌、すべすべだし柔らかいしで何か噛みたくなって…嫌だった?」
「嫌とかじゃなくて……変な声、出ちゃうから…」
「変じゃないよ、可愛い」
俯く俺の頭を撫でて、ボタンを留めて襟元を直してくれた周防くんは、膝から俺を下ろして立ち上がると手を出して首を傾げた。
「湊なら全部可愛いって思うから、何してもどんな声出してもいいよ」
「変顔しても?」
「それはむしろ見たいかも。ほら、デート行くだろ? 帰ろう」
「うん」
頷き差し出された手を掴んで立ち上がり繋いだまま階段を降りる。
途中で周防くんに「変顔いつ見せてくれんの?」って聞かれたけど、不細工にしかならないから首を振って拒否しておいた。
変顔なんて絶対に見せられないよ。
お風呂にも入って部屋で周防くんとメッセージのやりとりをしていると、ノックもなく入って来た薫がいきなりそう聞いてきた。
何かあったかと聞かれても朝練がある時以外は一緒に行ってるし普通に話してる。喧嘩してもいないし、そう聞かれる理由が分からない。
「別に何もないけど…何で?」
「最近、悠介がおかしいんだよね。前までは隙あらば湊のところに行こうとしてたのに、今はぼんやりする事が増えて私の話聞いてない事多くて」
「俺のところに行く?」
それは初めて聞いたし知ったんだけど、悠介は心配性だからもしかしたら俺がちゃんとやれてるのか気にしてくれてたのかもしれない。
「良く分かんないけど、俺と悠介はほんとに何もないよ」
「そう? じゃあ違う事なのかな」
「悩んでるとかなら俺も相談に乗るから」
「うん。まぁギリギリまで聞かないでおくよ」
俺が悩んでたら遠慮なく突撃してくるくせに、他の人には待て出来るの何でなんだ。
スマホが震え、周防くんからの返信だと画面を開いたら、いきなり薫が覗き込んで来て慌てて自分の胸に当てて隠す。
「ちょ、覗かないでよ」
「甘ったるいやりとりしてるわね」
「普通だし」
「…ねぇ、湊」
「? 何?」
薫に見えないようスマホを顔に近付けて返事を打ち込んでいると、神妙な様子で呼ばれて目を瞬く。俺のベッドに腰掛け目を伏せる薫に少しだけ心配になった。
「薫?」
「神薙くんとエッチな事したの?」
「……は?」
「この間神薙くんの家に泊まったじゃない? もしかしてそういう雰囲気になったりしたのかなーって」
「…………」
心配して損した。そもそもエッチな事って何? ………ん? あれ? もしかしてあれってエッチな事…になる、のかな。もしそうだったらは俺はされた事になるんだろうけど、そんな事薫に言える訳ないしそもそも人に話す事じゃない。
その時の事を思い出して顔が熱くなるのを感じながら薫の背中を押して立たせると、文句を言う薫をそのまま扉の外まで出して勢いよく閉める。弟に対して聞くような内容じゃないよ、まったく。
「湊のケチ!」
扉の向こうから意味の分からない言葉にが聞こえてきたけど無視してベッドに寝転び、スマホを点灯させてメッセージアプリを開いた。
さっきまで今度の休みにデートしようって話をしてて、今度こそ行きたい場所を決めてって周防くんに言われたところだった。周防くんと手を繋いで歩けるならどこでもいいんだけどなぁ。
うーん、悩む。運動は苦手だからアスレチックは遠慮したいし、ずっと街をブラブラしてるのも周防くんは暇だろうし……あ、そうだ。
俺はスマホのサーチエンジンをタップして文字を打ち込むと、なるべく広い場所を検索して周防くんに送る。すぐに周防くんから「いいよ」って返事が来たから、今度のデートはお弁当を作って公園デートに決まった。
お母さんにもっとたくさん教えて貰わないと。
週中の放課後、図書室に用事があったから周防くんに教室で待ってて貰って済ませて戻る途中、部活に行ってるはずの悠介に声をかけられた。
見上げるとめったに見ないほど真剣な顔をしていて、何を言われるのかと不安になる。
「湊、ケジメをつけたい」
「ケジメ?」
「俺の勝手な気持ちだけど、聞いてくれるか?」
「う、うん」
「……俺、湊が好きだよ」
「え?」
突然の告白に今度は目が点になった。
好きって、今更幼馴染みとしてなんて言わないだろうからそういう意味でって事だよね。
「小学生に上がった頃からずっと、湊だけを見てきた」
「……悠介は、薫が好きなんだと思ってた…」
「薫の事は妹みたいに思ってるけど、好きなのは湊だよ」
「……」
まさか全部俺の勘違いだったなんて、そんな事思いもしなかった。でも悠介は嘘をつくような人じゃないし、言ってる事は本当なんだろう。
こうして真っ直ぐに伝えてくれるなら、俺もちゃんと答えないと悠介に失礼だよね。
「…俺も好きだったよ」
「え…」
「でも悠介は薫が好きなんだって思ってたから言わなかった」
「…何で…」
「だって悠介、薫の話ばかりだったし、ずっと薫を見てたし」
「湊と出来る共通の話がネタに事欠かない薫だっただけだし、見てたのは……湊を見れないから」
「見れない?」
「二人だけの時に湊の顔を見ると我慢出来なくなる気がして…」
我慢って何の?
目を瞬いて首を傾げると、悠介はクスリと笑って「何でもない」と首を振り一瞬だけ視線を逸らした。
何か、俺の後ろ見てた?
「今はもう好きって気持ちはない?」
「うん。今は周防くんが好きだから」
「…そっか……もう少し早く言えてれば、湊と付き合えてたのかな」
「どうだろ…でももしかしたら、悠介に告白されても信じられなかったかもしれない」
「薫が好きだって思ってたから?」
「うん…」
幼馴染みとしてなら悠介の事は変わらず好きだ。でも触れたいとか触れて欲しいとか、そんな風に思うのはもう周防くんだけだから。
悠介は頭を掻くとあんまり聞きたくなさそうにしながらも気になったのか俺に問い掛けてきた。
「神薙のどこが好きなの?」
「んー…全部」
「全部か」
「嫌だなって思うところが全然ない」
一緒にいてモヤッとする事もないし、本当の恋人になってからは俺がヤキモチを妬く暇もないくらい大事にされてる。
相変わらずナンパもされるし、たくさん友達がいるから歩いてると声をかけられるけど、ハッキリ言ってくれるし俺を優先してくれる周防くんには好きが増してくばかりだ。
「……馬鹿だな、俺。関係が壊れるのが怖いからって何の行動にも移さないで…」
「俺も一緒だから。幼馴染みのままなら近くにいられるって思ってた」
「悔しいけど、アイツと付き合い出してから湊が明るくなったのは確かだし…本当は諦めたくないけど、湊を困らせるのは本意じゃないし諦めるよ」
「ありがとう、悠介」
「俺の方こそ、ちゃんと答えてくれてありがとう」
今思えば、悠介には本当の意味で恋してなかったのかもしれない。周防くんに感じる気持ちとか感覚とか、悠介を好きな時にはなかったから。
それでも近くにいてドキドキしたりはしてたから、好きは好きだったと思う。
悠介と手を振って別れ、息を吐いて教室に戻ろうと階段がある角を曲がったら腕を引かれて誰かに抱き竦められた。一瞬焦ったけど、知ってる匂いがしたから顔を上げるとやっぱり周防くんがいてホッとする。
「お疲れ」
「周防くん」
「なかなか戻って来ないから探しに来た」
「あ、ごめんね。ありがとう」
「いいよ」
大きな手が前髪を掻き上げるように撫でてくれる。反射的に目を瞑ると額に唇が触れ、そこから耳元まで来て音を立ててキスされ小さく肩が跳ねた。
「俺も湊の全部が好きだよ」
「! き、聞いて…?」
「聞くつもりはなかったけど、周りが静かだったから聞こえた」
周防くんがいるとは思ってなかったから仕方ないとはいえ、本人に聞かれていたのは恥ずかしい。呻きながら両手で顔を覆うとクスリと笑った周防くんがおもむろに俺を抱き上げ階段を上がり始めた。
「え、周防く…」
「イチャイチャして帰ろ」
「そ、それはいいんだけど…重いから、自分で歩く」
「重くないって。大体、身長も体格もどんだけ差があると思ってんだ」
俺は周防くんの肩より下くらいまでしかなくて、貧相で筋肉もない俺の身体と違い周防くんはちゃんと男の人の身体をしてる。しかも俺は、薫よりも非力だった。
いや、でも絶対薫の方がおかしいと思う。10キロのお米抱えて階段駆け上がるんだよ? お母さんもびっくりしてた。
ちなみに俺は持てるけどよろよろになる。
周防くんはいつもお弁当を食べる屋上前の踊り場まで俺を抱いたまま上がり切り、胡座を掻いて座ると腰壁に寄り掛かり俺にキスしてきた。触れて離れて、そのたびに音がして誰かに聞こえないか心配になる。
「ん、ん…」
でも、周防くんとキスしてるとすぐに頭の中がふわふわしてくるからそんな心配もすぐになくなって、俺の頬に触れてる手に自分の手を重ねるとすぐに繋いでくれた。
くっつけるだけのキスなのは、俺を気にしてくれてるからかな。
「……湊」
「…くすぐったい……ンッ」
でも何となく物足りなくて、とはいえ自分からするのは恥ずかしいからされるがままになってたら、周防くんの唇が俺の耳から首筋に移動して繋いでいない方の手で制服のボタンが外される。
甘噛みされて小さく震えていると、襟元が開かれて露わになった鎖骨に下りてきた唇が触れ針で刺されたみたいな痛みが走った。
「…? 何…?」
「俺のものって印。でも、誰にも見せちゃ駄目だからな?」
「う、うん…」
周防くんのものって印? どんなだろう…でも位置的に自分じゃ見えない。
頷いた俺にふっと笑った周防くんは今度は首の付け根に歯を立ててガジガジと何度も噛んでくる。痛くはないけど、擽ったさとは違う感覚が押し寄せて周防くんの服を掴む手が震えた。
「や…か、噛まないで…」
「あ、ごめん。湊の肌、すべすべだし柔らかいしで何か噛みたくなって…嫌だった?」
「嫌とかじゃなくて……変な声、出ちゃうから…」
「変じゃないよ、可愛い」
俯く俺の頭を撫でて、ボタンを留めて襟元を直してくれた周防くんは、膝から俺を下ろして立ち上がると手を出して首を傾げた。
「湊なら全部可愛いって思うから、何してもどんな声出してもいいよ」
「変顔しても?」
「それはむしろ見たいかも。ほら、デート行くだろ? 帰ろう」
「うん」
頷き差し出された手を掴んで立ち上がり繋いだまま階段を降りる。
途中で周防くんに「変顔いつ見せてくれんの?」って聞かれたけど、不細工にしかならないから首を振って拒否しておいた。
変顔なんて絶対に見せられないよ。
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