噂の不良は甘やかし上手なイケメンくんでした

ミヅハ

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疎外感

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「神薙くん、またもや質問よろしいですか?」

 白井くんから宣戦布告された日の夜、俺はなかなか寝られなくて、薫と悠介から今日は休んだ方がいいって言われるくらいひどい顔をしていたらしい。
 でも休んだら周防くんの隣が白井くんに取られそうで怖くて、とてもじゃないけどそんな事出来ないって思って急いで昇降口に行ったらちょうど白井くんが周防くんに話し掛けてるところだった。

「あ?」
「神薙くんは那岐原くんが好みなんですか?」
「好みっつーか、湊じゃなきゃ好きになってねぇから〝湊〟が好みなんだろうな」
「へぇ。……羨ましいですね」
「あ?」
「いえいえ。それにしても、毎日待つのは大変ではないですか?」
「全然。むしろ待たせるよりいい」

 昨日より距離が近い気がする。周防くんはそこまで人との距離が遠い訳じゃないから、街で声をかけてくる人たちも普通に肩を組んだり腕に触れたりしてるけど、俺から周防くんを奪うって言った白井くんが近いのは嫌だ。
 ずっとコソコソしてる訳には行かないし、覚悟を決めて二人に近付くと周防くんが気付いてくれた。

「湊、おはよう」
「おはよう」
「おはようございます、那岐原くん」
「お、おはよう、白井くん」

 昨日のヒンヤリとした笑顔とは違う、人懐っこく笑う白井くんに言葉が詰まりながらも返しさりげなく周防くんと白井くんの間に入る。感じが悪いかもしれないけど、あんまり近くにいて欲しくない。
 ……やだな、俺、凄く嫌な人になってる。

「教室行くか」
「うん」
「ではまた」
「んー」

 肩を抱かれ下駄箱に向かう背中に白井くんの声がかかった。それにやる気のない返事をした周防くんが俺の上靴を出してくれて、欠伸を零して自分も履き替える。
 少しだけ気になって白井くんを振り返ると、キョトンとしたあと何かを含んだ笑いを浮かべた。うぅ…あの笑顔怖い。
 俺は顔を背けてさっさと上靴に足を通して靴をしまい、先に廊下に立ってる周防くんの腕に抱き着くと逃げるように昇降口をあとにした。





 それから毎朝白井くんは周防くんと昇降口で楽しそうに話してて、俺が先に待ってる日はどうしてか並んで入ってくる事もある。驚いて口をパクパクさせてたら門で鉢合ったって周防くんは教えてくれたけど、それからも何度かあってそのたんびにモヤモヤが増えてく。
 周防くんと一緒に学校行きたくても真逆だから……あれ、でも周防くん帰りは毎日送ってくれてるよね。それなら朝は俺が頑張れば一緒に行ける?

「ねぇ、周防くん」
「ん?」
「朝迎えに行ってもいい?」
「え?」

 いつもの昼休み、お弁当を食べ終わって周防くんの立てた膝の間に座って寄り掛かってた俺は思い付いた事を聞いてみた。
 周防くんはキョトンとしてたけど、少しして意味が分かったのか苦笑する。

「遠いから駄目」
「でも周防くんは毎日送ってくれてるのに…」
「それは俺が心配性なだけだから」
「どうしても?」
「なら俺が迎えに行く」
「そ、それはダメ」

 周防くんの負担を増やしたくてそう言った訳じゃない。
 ただでさえ俺を送ったあとに長い時間を掛けて帰るのに、朝が苦手な周防くんに無理させるなんて絶対ダメだ。
 …でも、それならどうしたらいい? どうしたらこの不安がなくなるの?

「…ごめんなさい…」
「謝る事じゃないけど…どうした?」
「……」

 白井くんと仲良くしないでなんて、そんなひどい事言えない。白井くんが周防くんを好きで、アピールして好きになって貰おうとしてるのは俺だけが知ってる事だし、恋人だからって人の気持ちに口を出すのはしちゃいけない。
 それに、周防くんは白井くんを友達だと思ってるから…余計にそんな事言えないよ。
 だけどどう言えばいいかも分からなくて俯いたら、周防くんの腕が身体に回されて抱き寄せられた。

「また何か飲み込んでんな? 言いたくないなら聞かないけど、一人で抱え込むなよ」
「……ありがとう」

 どこまでも優しい周防くんに胸が痛む。
 俺、絶対負けないって決めたのに、思った以上に積極的な白井くんの行動に怖気付いてて、こういうのも初めてだからどうするのが正解なのかも分からない。ヤキモチも妬き過ぎると周防くんも迷惑だし嫌だよね。
 周防くんにだけは嫌われたくない。

「……湊、誕生日の話どうなった?」
「え? ……あ、えっと、一緒にしていいよってお母さんに言って貰えた」
「そっか。今度はちゃんと手土産持ってかないとな」
「気にしなくていいのに」
「好感度は高く持って貰いたいから」

 お母さんとお父さんの周防くんに対する好感度なんて一番高いところまできてるのに、これ以上高くしてどうするんだろう。もしかして二人をメロメロにするつもりなのかな。
 ライバルはもうお腹いっぱいだよ。

「湊」
「? ……あ…」

 また気分が沈みそうになって目を伏せたら周防くんに呼ばれたから視線だけを上げる。顎に長い指が掛かって上向かされ唇が塞がれた。

「好きだよ」
「…俺も好き」

 不思議だ。周防くんの言葉一つでドロドロだった気持ちが綺麗になって、俺の気持ちが浮上していく。周防くんって凄いな。
 優しく微笑む周防くんににこっと笑った俺は腰に抱き着き肩に頬を寄せる。
 周防くんに心配掛けたくない、困らせたくない。もっともっと頑張らなきゃ。


 とはいえ、白井くんは本当に大胆で前向きで、いつの間にかクラスにも馴染んでみんなと話をするくらいにまでなってた。
 まるで最初から同じクラスだったみたいにそこにいる。

「え、それは初耳です! もっと詳しくお願いします!」
「あはは、すっごい食い付き!」
「白井くん、こういう話好きなんだね」
「知らない事を知れるのは楽しいですよ! ね、神薙くん!」
「お前、うるせぇからもうちょい静かに喋れ」
「これはとんだ失礼を。お詫びに一句」
「何でだよ」

 周防くん、楽しそう。
 クラスの子と普通に話せるようにはなったけど、賑やかな教室に入るのはまだ少し怖い。俺が入った瞬間みんなの笑い声がピタッてやんで、視線が一気にこっちを向いて、俺が席に着くまでシーンとして見られるのが凄く居心地悪くて心臓がキュッてなる。
 でも薫ならそこに入っていけるから笑いは途切れなくて、いつも薫のクラスからは楽しそうな声が聞こえてきてた。
『どうせなら薫と一緒のクラスが良かった』なんて、何度言われた事か。

「それにしても、那岐原くん遅いですね」
「先生の用事って言ってたけど、時間掛かってるのかな」
「無茶なお願いされてないといいけど」

 チャイムが鳴ったタイミングなら入れるかもって廊下に座って教室の壁に寄り掛かるようにして待ってると、不意に白井くんが俺の名前を出してドキッとする。
 ど、どうしよう。盗み聞きみたいな事したくないのに身体が動かない。

「那岐原くん、愛されてますねぇ」
「あの子は愛でられる為にこの世に生を受けたようなものだもの」
「湊は俺のなんだけど?」
「はいはい、それは分かってるって」
「でも可愛いんだから仕方ないよね?」
「あの子と話してると心が洗われるというかなんと言うか…とにかく、湊くんは我がクラスの癒しなのよ」
「勝手に癒されんな。それは俺の特権だ」
「嫉妬乙」

 聞こえてくる言葉に胸がじんわり温かくなる。
 優しくて、こんな俺にも親切にしてくれるし何かと助けてくれるみんなには本当に感謝してた。いつの間にかクラス内には〝弟くん〟って呼ぶ人がいなくなって、名前で呼んで貰えるだけでも嬉しいのに笑い掛けてくれて…全部周防くんのおかげだ。

「僕もこのクラスが良かったな。そうしたら神薙くんともっと早くお話出来たかもしれないのに」
「学校来てなかった奴とどう話すんだよ」
「それは盲点でした。…ですが、那岐原くんよりはチャンスがあったと思うんですよね」
「? 何の?」
「いろいろです」

 その言葉の意味が分かる俺はきゅっと唇を噛む。
 白井くんは凄いな。言いたい事、何の気負いもなく言えて。

「良く分かんねぇな。っつか、湊迎えに行ってくる」
「はーい」
「僕もご一緒しても」
「却下」
「隙のない即答」

 椅子を引く音がして、周防くんの足音が近付いてくる。ここで話を聞いてた事がバレたら大変だ。
 俺は慌てて立ち上がり、今戻って来たって風を装って教室に入ろうとしたんだけど、意外にも近い場所に周防くんがいて思いっきりぶつかってしまった。

「ぶ…っ」
「湊!? 悪い、大丈夫か?」
「いたた……俺の鼻、潰れてない?」
「潰れてないし、可愛いままだよ」

 鼻に可愛いとか可愛くないとかあるのは初めて知った。
 ヒリヒリする鼻を撫でながら中に入ると、みんなが口々に心配して声をかけてくれる。でもおかげで肩の力が抜けたから逆に良かったかも。

「先生の手伝いお疲れ」
「う、うん。ありがとう」

 視界の端で白井くんが俺をじっと見てるのが分かったけど、気付いていないフリをして周防くんの袖を掴んで見上げる。表情までは分からないけど、チクチクしたものを感じてちょっと痛い。

 大丈夫、周防くんはそう簡単に気持ちが変わる人じゃない。
 俺は周防くんを信じてる。
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