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穏やかに過ぎる時間
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短い春休みが終わり、俺たちは無事二年生に進級した。
嬉しい事に、周防くんと佐々木さんと大宮さんが同じクラスだったし、他にも違うクラスだったけど話すようになった人たちも何人かいて、初めて新しいクラスでも頑張れそうって気持ちになれた。
このまま三年生になっても、周防くんとは同じクラスがいいなぁ。
それから、周防くんのお母さんは冬頃には離婚が成立してたみたいなんだけど、途中で苗字が変わるのは可哀想だって思って黙ってたらしく、進級に合わせて変えるって話を周防くんとしてたんだって。
だから新学期から、周防くんの苗字はお父さんの〝神薙〟からお母さんの旧姓である〝御子柴〟に変わった。
御子柴周防。何だか凄い字面だ。
でもみんな、神薙で慣れてるから当分はそう呼んじゃいそうだよね。うちのお父さんとお母さんにも言わないとだけど、ヤキモチ妬かずに〝周防くん〟呼びいいよって言ってあげれば良かったかも。
トイレから戻って来ると、周防くんと友達二人が何かの話で盛り上がってた。
「うわ、御子柴、マジで言ってる?」
「何でコレに反応しねぇんだよ。それでも男か?」
「うるせぇ。興味ねぇもんはねぇんだよ」
「これだから恋人持ちは…」
「見ろよ、このナイスバディを!」
「あー、このおっぱいに挟まれてー」
「アホか」
どうやら雑誌を開いてそれを見ながら話してるみたいで、気になった俺は首を傾げつつ近付こうとしたんだけど、どうしてか佐々木さんに止められて大宮さんのいる席まで引っ張られた。
周防くんとの距離が空いてしまい眉尻を下げたら佐々木さんが苦笑して俺の頭を撫でてくる。
「あの空間は、湊くんにはまだ早いからね」
「?」
「ほんっと、男子ってバカだわ」
まだ早いってどういう意味だろ。
まだテンションの高い友達二人に対して周防くんは冷めた目で見てるけど、一体なんの雑誌を見たらあんなに盛り上がれるのかな。
気になってじっと見てたら周防くんが気付いてくれて、椅子から立ち上がってこっちまで来てくれた。
「湊、戻ってたのか」
「うん。ただいま」
「おかえり」
「何見てたの?」
「え? あー…いや、大したもんじゃないよ」
「?」
どうしてか一瞬ギクッてなってたけど、すぐに笑って首を振った周防くんは俺の頭を撫でたあとぎゅって抱き締めてくれる。そのまま肩に頭を寄り掛からせてしばらく他愛ない話をしてたら、廊下側の席から悲痛な叫びが聞こえてビクってなった。
何事かと思ってそっちに視線を移したら、一人がタイミング良くこっちを見て声を上げる。
「御子柴ー、ヘルプー!」
「あ? 何だよ、今湊といるんだっつの」
「頼む! マジ無理! クリア出来ん!」
「だから…」
「行ってあげて、周防くん」
「……分かった」
せっかく呼ばれてるんだからって言うと、周防くんは俺のこめかみにキスしてから友達の方に歩いて行った。教室でのハグには慣れたものの、こういうスキンシップはまだ恥ずかしい。
「湊くん、大人になって…」
「いや、でもわりかし最初からくっつきたがってたのは御子柴くんだと思うよ」
佐々木さんがしみじみとそう言うけど、正直俺にも離れ難い気持ちはある。でもみんなだって周防くんと遊びたいのに、俺が我儘言って独り占めする訳にはいかないもんね。
友達は一生の宝物だって言うし。
「違う、御子柴、こっちこっち!」
「あ? 早く言えよ」
「マジか、そこから立て直すのかよ」
周防くんがいる場所には二人のクラスメイトがいて、スマホのゲームをしてるらしく盛り上がってる。周防くん、ゲームやった事ないのにあっという間に操作とか覚えて、今ではなかなかな腕前を見せてるらしい。
みんなでワイワイプレイしてる光景は楽しそうでちょっとだけ羨ましくなる。俺がゲーム上手だったら、一緒にやりたいって言えたんだけどなぁ。
「突撃しちゃえ」
「邪魔は出来ないよ」
「御子柴くんは遠慮しないのに、湊くんは遠慮しいだよねぇ」
「…周防くんにも良く言われる」
「恋人なんだから気を遣わなくていいんじゃない? 湊くんは、もっと我儘であるべきだと思うよ」
もう充分我儘になってると思うんだけどな。
チラリと周防くんの方を見たら、一人と目が合ってにこやかに手を振られる。それに振り返してると、周防くんが気付いてその人の頭にチョップした。
仲良いなぁ。
「まるで子犬だね」
「垂れた耳が見える気がするわ」
何か言われるたびに眉を顰める周防くんをウズウズしながら眺めていた俺は、その姿を佐々木さんと大宮さんが生暖かい目で見ていた事には気付かなかった。
それから少しして、五月十日は周防くんの誕生日。学校帰りにケーキを買って周防くんのお家で二人だけでお祝いしたんだけど、俺はこの前の日に家で準備して仕上げは周防くんのお家でしようと思い持って来てたものがあった。
周防くんが一番好きだって言ってた筑前煮。
誕生日には絶対筑前煮を作るんだっていっぱい練習して、お母さんから無事合格を貰えたから、周防くんに絶対見に来ないでってお願いして最後まで一人で作ったんだ。
ちょっと味が濃くなっちゃった気がしなくもないけど、周防くんは驚いて凄く喜んでくれたし美味しいって言ってくれたから一安心。
ちなみにプレゼントは、名前のイニシャルが入ったドッグタグのキーホルダーで、鍵とかも付けられるようにリングも三つ付けたんだ。
実はお揃いにしたんだって自分のイニシャルが入ったのを見せたら交換しよって言われたから、俺のリュックには周防くんの〝S〟が刻まれたキーホルダーがぶら下がってる。
周防くんがたくさん笑ってくれて、俺もすっごく幸せな一日だったなぁ。
猛暑に見舞われた夏休みは、周防くんのお家で勉強したり、うちでスイカ割りしたり、海やプールに行って日焼けしたり、浴衣を着て夏祭りにも行ったりしてたくさんの思い出を作った。
汗だくが嫌じゃないって思えたの初めてだし、人混みも少しだけマシに思えるようになった気がする。
でも海でもプールでもお祭りでも、周防くんが一人になるとすぐナンパされるから大変だった。俺の周防くんなのに、みんな近付きすぎだよ。
今日は付き合って一年目の記念日。少し前に周防くんと話して、記念日は俺が告白してちゃんと恋人になった日にしようって決めた。と言ってもほんの少しの差なんだけど。
記念日はタイミング良く土曜日と重なったのにどうしてか金曜日のお泊まりはなくて、当日の昼前に迎えに来てくれた周防くんと一緒に家に行った俺はびっくりした。
部屋の壁に〝ハッピーアニバーサリー〟のタペストリーと〝1とTとH〟の風船が飾られてて、床に水色と白とピンクの風船が転がってる。テーブルの中心には小さめのホールケーキが置いてあって、ピザとかナゲットとかポテトとかで囲われてた。
「凄い…もしかしてこれを準備する為に昨日はお泊まりなかったの?」
「そう。もうちょい上手く出来りゃ良かったんだけど、初めてやるから良く分かんなくてな」
「え、そんな事ないよ。凄く嬉しい。ありがとう、周防くん」
「喜んで貰えて良かった」
慣れない事をしてでもお祝いしたいって思ってくれた周防くんの優しさとか暖かさが嬉しくて抱き着いたら、ヒョイッて抱き上げられて距離が近くなり軽くキスされる。
首を傾げたらふって笑った周防くんの唇がまた触れ合って、だんだん深くなるから息が上がってきた。
「周防く…」
「ん、続きはあとでな」
「…うん…」
少しだけぼんやりする頭で頷いたらよしよしって撫でられる。
それから周防くんが用意してくれたご飯でお昼を済ませ、ケーキも食べてまったりしたあと、少し早めのお風呂から上がったら周防くんから部屋着を渡された。二人お揃いらしくて、それを着て明日の夕方まで何にもしないでダラダラして過ごすんだって。
洗濯も掃除もご飯を作る事もしないなんて、何だか悪い事してるみたいでドキドキする。
「周防くん、俺と付き合ってくれてありがとう」
「俺の方こそ好きになってくれてありがとう。これからもよろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
同じ柄の部屋着に身を包んでベッドの上で向かい合い、そう言って頭を下げた俺に周防くんは声を上げて笑う。
一年前の今日には想像も出来なかった幸せが、周防くんと出会ってからずーっと続いてる。たまにこんなに幸せでいいのかなって思う時もあるけど、周防くんの笑顔を見たらそんな気持ちも吹き飛んでくから凄い。
この先何年、何十年経ってもこうして二人で笑い合えてるといいな。
それから季節は巡って冬になり、また俺と薫の誕生日がやって来た。
当日は周防くんがご馳走を作ってくれて、ケーキも食べたあとに渡されたプレゼントはあのテディベアの少し大きいバージョンでもうびっくり。
ホワイトデーに言った事覚えててくれたんだって嬉しくなってずっと抱き締めてたら、取り上げられて今度は俺が周防くんに抱っこされる。お父さんクマにヤキモチ妬いたんだって、可愛いよね。
クリスマスも年末年始も周防くんのお家で過ごした。何だか半分一緒に住んでるくらいにお邪魔してて、もう手ぶらでお泊まりに来れるくらい俺のものが置かれてる。
早く卒業して、周防くんとちゃんと一緒に暮らしたい。
三学期は薫の成績が危うい事もあったけど、俺の親しい人は誰一人留年する事なく三年生になれた。今学期で卒業する俺たちは本格的に進路を決めなきゃいけなくて、俺は今だに大学か就職か悩んでる。
「周防くんは、進路どうするの?」
「俺は就職する。湊に苦労はかけたくないし」
「俺も働くよ?」
「助かるけど、家にいる時間の方を多くしてな」
つまりそれは、就職はしない方がいいって事なのかな。就職すると働く時間の方が多いだろうし、周防くんのお願いには沿ってないよね。
そうなると大学? でも大学とバイトだと結局同じな気が…。
「…我儘言ってもいい?」
「うん、何?」
「俺が出る時間と、帰る時間には家にいて欲しい」
「え?」
「見送りは無理な時あるだろうけど、出迎えはして欲しいんだよ」
周防くんからそんな事を言われるとは思ってなかった俺は目を瞬く。
それは、一緒に暮らすならみんなして欲しい事なんじゃないかな。俺だってそうして欲しいし、全然我儘とは思わない。
でもそうだよね。周防くんは一人暮らしだから、行ってきますにもただいまにも返事がなかったんだよね。これからは俺がいるんだから、寂しい気持ちになんて絶対させない。
周防くんは俺の頭を撫でると目を伏せて口を開いた。
「欲を言えば、どこにも行かないで家にいて欲しい」
どうやら周防くんは、俺に引きこもりになって欲しいみたいです。
嬉しい事に、周防くんと佐々木さんと大宮さんが同じクラスだったし、他にも違うクラスだったけど話すようになった人たちも何人かいて、初めて新しいクラスでも頑張れそうって気持ちになれた。
このまま三年生になっても、周防くんとは同じクラスがいいなぁ。
それから、周防くんのお母さんは冬頃には離婚が成立してたみたいなんだけど、途中で苗字が変わるのは可哀想だって思って黙ってたらしく、進級に合わせて変えるって話を周防くんとしてたんだって。
だから新学期から、周防くんの苗字はお父さんの〝神薙〟からお母さんの旧姓である〝御子柴〟に変わった。
御子柴周防。何だか凄い字面だ。
でもみんな、神薙で慣れてるから当分はそう呼んじゃいそうだよね。うちのお父さんとお母さんにも言わないとだけど、ヤキモチ妬かずに〝周防くん〟呼びいいよって言ってあげれば良かったかも。
トイレから戻って来ると、周防くんと友達二人が何かの話で盛り上がってた。
「うわ、御子柴、マジで言ってる?」
「何でコレに反応しねぇんだよ。それでも男か?」
「うるせぇ。興味ねぇもんはねぇんだよ」
「これだから恋人持ちは…」
「見ろよ、このナイスバディを!」
「あー、このおっぱいに挟まれてー」
「アホか」
どうやら雑誌を開いてそれを見ながら話してるみたいで、気になった俺は首を傾げつつ近付こうとしたんだけど、どうしてか佐々木さんに止められて大宮さんのいる席まで引っ張られた。
周防くんとの距離が空いてしまい眉尻を下げたら佐々木さんが苦笑して俺の頭を撫でてくる。
「あの空間は、湊くんにはまだ早いからね」
「?」
「ほんっと、男子ってバカだわ」
まだ早いってどういう意味だろ。
まだテンションの高い友達二人に対して周防くんは冷めた目で見てるけど、一体なんの雑誌を見たらあんなに盛り上がれるのかな。
気になってじっと見てたら周防くんが気付いてくれて、椅子から立ち上がってこっちまで来てくれた。
「湊、戻ってたのか」
「うん。ただいま」
「おかえり」
「何見てたの?」
「え? あー…いや、大したもんじゃないよ」
「?」
どうしてか一瞬ギクッてなってたけど、すぐに笑って首を振った周防くんは俺の頭を撫でたあとぎゅって抱き締めてくれる。そのまま肩に頭を寄り掛からせてしばらく他愛ない話をしてたら、廊下側の席から悲痛な叫びが聞こえてビクってなった。
何事かと思ってそっちに視線を移したら、一人がタイミング良くこっちを見て声を上げる。
「御子柴ー、ヘルプー!」
「あ? 何だよ、今湊といるんだっつの」
「頼む! マジ無理! クリア出来ん!」
「だから…」
「行ってあげて、周防くん」
「……分かった」
せっかく呼ばれてるんだからって言うと、周防くんは俺のこめかみにキスしてから友達の方に歩いて行った。教室でのハグには慣れたものの、こういうスキンシップはまだ恥ずかしい。
「湊くん、大人になって…」
「いや、でもわりかし最初からくっつきたがってたのは御子柴くんだと思うよ」
佐々木さんがしみじみとそう言うけど、正直俺にも離れ難い気持ちはある。でもみんなだって周防くんと遊びたいのに、俺が我儘言って独り占めする訳にはいかないもんね。
友達は一生の宝物だって言うし。
「違う、御子柴、こっちこっち!」
「あ? 早く言えよ」
「マジか、そこから立て直すのかよ」
周防くんがいる場所には二人のクラスメイトがいて、スマホのゲームをしてるらしく盛り上がってる。周防くん、ゲームやった事ないのにあっという間に操作とか覚えて、今ではなかなかな腕前を見せてるらしい。
みんなでワイワイプレイしてる光景は楽しそうでちょっとだけ羨ましくなる。俺がゲーム上手だったら、一緒にやりたいって言えたんだけどなぁ。
「突撃しちゃえ」
「邪魔は出来ないよ」
「御子柴くんは遠慮しないのに、湊くんは遠慮しいだよねぇ」
「…周防くんにも良く言われる」
「恋人なんだから気を遣わなくていいんじゃない? 湊くんは、もっと我儘であるべきだと思うよ」
もう充分我儘になってると思うんだけどな。
チラリと周防くんの方を見たら、一人と目が合ってにこやかに手を振られる。それに振り返してると、周防くんが気付いてその人の頭にチョップした。
仲良いなぁ。
「まるで子犬だね」
「垂れた耳が見える気がするわ」
何か言われるたびに眉を顰める周防くんをウズウズしながら眺めていた俺は、その姿を佐々木さんと大宮さんが生暖かい目で見ていた事には気付かなかった。
それから少しして、五月十日は周防くんの誕生日。学校帰りにケーキを買って周防くんのお家で二人だけでお祝いしたんだけど、俺はこの前の日に家で準備して仕上げは周防くんのお家でしようと思い持って来てたものがあった。
周防くんが一番好きだって言ってた筑前煮。
誕生日には絶対筑前煮を作るんだっていっぱい練習して、お母さんから無事合格を貰えたから、周防くんに絶対見に来ないでってお願いして最後まで一人で作ったんだ。
ちょっと味が濃くなっちゃった気がしなくもないけど、周防くんは驚いて凄く喜んでくれたし美味しいって言ってくれたから一安心。
ちなみにプレゼントは、名前のイニシャルが入ったドッグタグのキーホルダーで、鍵とかも付けられるようにリングも三つ付けたんだ。
実はお揃いにしたんだって自分のイニシャルが入ったのを見せたら交換しよって言われたから、俺のリュックには周防くんの〝S〟が刻まれたキーホルダーがぶら下がってる。
周防くんがたくさん笑ってくれて、俺もすっごく幸せな一日だったなぁ。
猛暑に見舞われた夏休みは、周防くんのお家で勉強したり、うちでスイカ割りしたり、海やプールに行って日焼けしたり、浴衣を着て夏祭りにも行ったりしてたくさんの思い出を作った。
汗だくが嫌じゃないって思えたの初めてだし、人混みも少しだけマシに思えるようになった気がする。
でも海でもプールでもお祭りでも、周防くんが一人になるとすぐナンパされるから大変だった。俺の周防くんなのに、みんな近付きすぎだよ。
今日は付き合って一年目の記念日。少し前に周防くんと話して、記念日は俺が告白してちゃんと恋人になった日にしようって決めた。と言ってもほんの少しの差なんだけど。
記念日はタイミング良く土曜日と重なったのにどうしてか金曜日のお泊まりはなくて、当日の昼前に迎えに来てくれた周防くんと一緒に家に行った俺はびっくりした。
部屋の壁に〝ハッピーアニバーサリー〟のタペストリーと〝1とTとH〟の風船が飾られてて、床に水色と白とピンクの風船が転がってる。テーブルの中心には小さめのホールケーキが置いてあって、ピザとかナゲットとかポテトとかで囲われてた。
「凄い…もしかしてこれを準備する為に昨日はお泊まりなかったの?」
「そう。もうちょい上手く出来りゃ良かったんだけど、初めてやるから良く分かんなくてな」
「え、そんな事ないよ。凄く嬉しい。ありがとう、周防くん」
「喜んで貰えて良かった」
慣れない事をしてでもお祝いしたいって思ってくれた周防くんの優しさとか暖かさが嬉しくて抱き着いたら、ヒョイッて抱き上げられて距離が近くなり軽くキスされる。
首を傾げたらふって笑った周防くんの唇がまた触れ合って、だんだん深くなるから息が上がってきた。
「周防く…」
「ん、続きはあとでな」
「…うん…」
少しだけぼんやりする頭で頷いたらよしよしって撫でられる。
それから周防くんが用意してくれたご飯でお昼を済ませ、ケーキも食べてまったりしたあと、少し早めのお風呂から上がったら周防くんから部屋着を渡された。二人お揃いらしくて、それを着て明日の夕方まで何にもしないでダラダラして過ごすんだって。
洗濯も掃除もご飯を作る事もしないなんて、何だか悪い事してるみたいでドキドキする。
「周防くん、俺と付き合ってくれてありがとう」
「俺の方こそ好きになってくれてありがとう。これからもよろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
同じ柄の部屋着に身を包んでベッドの上で向かい合い、そう言って頭を下げた俺に周防くんは声を上げて笑う。
一年前の今日には想像も出来なかった幸せが、周防くんと出会ってからずーっと続いてる。たまにこんなに幸せでいいのかなって思う時もあるけど、周防くんの笑顔を見たらそんな気持ちも吹き飛んでくから凄い。
この先何年、何十年経ってもこうして二人で笑い合えてるといいな。
それから季節は巡って冬になり、また俺と薫の誕生日がやって来た。
当日は周防くんがご馳走を作ってくれて、ケーキも食べたあとに渡されたプレゼントはあのテディベアの少し大きいバージョンでもうびっくり。
ホワイトデーに言った事覚えててくれたんだって嬉しくなってずっと抱き締めてたら、取り上げられて今度は俺が周防くんに抱っこされる。お父さんクマにヤキモチ妬いたんだって、可愛いよね。
クリスマスも年末年始も周防くんのお家で過ごした。何だか半分一緒に住んでるくらいにお邪魔してて、もう手ぶらでお泊まりに来れるくらい俺のものが置かれてる。
早く卒業して、周防くんとちゃんと一緒に暮らしたい。
三学期は薫の成績が危うい事もあったけど、俺の親しい人は誰一人留年する事なく三年生になれた。今学期で卒業する俺たちは本格的に進路を決めなきゃいけなくて、俺は今だに大学か就職か悩んでる。
「周防くんは、進路どうするの?」
「俺は就職する。湊に苦労はかけたくないし」
「俺も働くよ?」
「助かるけど、家にいる時間の方を多くしてな」
つまりそれは、就職はしない方がいいって事なのかな。就職すると働く時間の方が多いだろうし、周防くんのお願いには沿ってないよね。
そうなると大学? でも大学とバイトだと結局同じな気が…。
「…我儘言ってもいい?」
「うん、何?」
「俺が出る時間と、帰る時間には家にいて欲しい」
「え?」
「見送りは無理な時あるだろうけど、出迎えはして欲しいんだよ」
周防くんからそんな事を言われるとは思ってなかった俺は目を瞬く。
それは、一緒に暮らすならみんなして欲しい事なんじゃないかな。俺だってそうして欲しいし、全然我儘とは思わない。
でもそうだよね。周防くんは一人暮らしだから、行ってきますにもただいまにも返事がなかったんだよね。これからは俺がいるんだから、寂しい気持ちになんて絶対させない。
周防くんは俺の頭を撫でると目を伏せて口を開いた。
「欲を言えば、どこにも行かないで家にいて欲しい」
どうやら周防くんは、俺に引きこもりになって欲しいみたいです。
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