隠した想いのその先に

ミヅハ

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兄からの提案

 お互いにいろいろあって、あの日以来で兄さんと会う事が出来たのは月末だった。
 土曜日、兄さんと待ち合わせた場所に行くと高鷺もいて、目を瞬く俺の前で兄さんにキスをした高鷺は「あとでな」って手をヒラリと振って立ち去って行ったけど⋯もしかして。

「もう⋯」
「兄さん、今の⋯」
「あ、うん。何だかんだで付き合う事になりました」
「え、おめでとう!」
「ありがとう⋯でいいのかな」

 どこか照れ臭そうな兄さんだけど、その表情は前よりも明るくて幸せそうで俺はホッとした。あのあとは顔の見えないメッセージでのやり取りしか出来なかったから、兄さんの精神面とか心配だったんだよな。
 でも、高鷺が傍にいてくれたなら安心だ。⋯っつか、あいつも教えとけよ。
 黙ってた事にはムッとしつつ、目の前のカフェに入った俺と兄さんは向かい合わせに座り、それぞれ注文する。
 今日は、あれから父さんと母さんがどうなったかを兄さんが教えてくれる事になってた。

「戸崎くんは?」
「近くのファーストフード店で待ってる」
「そっか」
「⋯兄さん」
「うん?」
「あのあとの事、兄さんに全部任せてごめん」

 殺されそうになったから、実の母親だろうと例え面会出来たとしても行かない方がいいって言われてて、諸々は兄さんがやってくれたんだよな。
 結局また兄さんに背負わせる事になって申し訳なく思い顔を伏せてたら、兄さんはクスリと笑って俺の頭をつついてきた。

「何言ってるの。弟を守るのが兄の役目なんだから、気にしなくていいんだよ。千晃が毎日を笑顔で、平穏無事に過ごせてるならそれで充分」
「⋯⋯⋯」
「お待たせ致しました」
「あ、ありがとうございます」

 年の差三つってそんなに大きいのかってくらい兄さんはしっかりしてる。
 注文したものを運んでくれた店員さんに笑顔でお礼を言う兄さんには、もうあの頃の無邪気な姿は重ならない。
 でも、人を惹き付ける魅力は変わらないんだよなぁ。現に店員さん、赤くなってるし。

「それで、本題に入る前にまず僕が出した結論から言うんだけど⋯あの人たちとは縁を切る事にした」
「え?」
「戸籍を分けるのも面倒だから法的には親と子のままだけど、もう二度と会わないし関わらない。それに、父さんはともかく母さんは保釈金も払えないし刑務所に入るだろうから」

 母さんはやった事を全部自白してるから、恐らく控訴もしないだろうって兄さんは淡々と言ってるけど⋯縁を切るって本当に大丈夫なのかな。
 眉尻を下げる俺ににこっと笑い、アイスティーを一口飲んだ兄さんは頬杖をついて窓の外へと視線を移した。

「この間、二人に面会してきたんだ。でもやっぱり千晃だけを悪者にするから、予め用意してた絶縁状を叩き付けてきた。何か喚いてたけど、もうどうでもいいなって」
「ぜ、絶縁状⋯」
「あの人たち、どこかで〝マトモ〟っていうネジが落ちてそのまま狂っちゃったんだろうね。そのきっかけは僕だけど、あそこまでおかしくなるのは理解出来ないよ」

 兄さんはいつも自分のせいだって言うけど、最近になって、悪化させたのは望まれた事を出来なかった俺なんじゃないかって思うようになってきた。
 そのせいで父さんも母さんも、〝マトモ〟でいられなくなったんじゃないかって。
 だから兄さんだけが悪い訳じゃないけど⋯これを言っても兄さんが聞いてくれないのは分かってるし、結局堂々巡りになるだろうから口にするのはやめておこう。

「まぁ、父さんが釈放された場合と母さんが出所した時の事を考えて弁護士には相談するつもり。接近禁止令とか出せるのかな」
「守ると思う?」
「守らなかったら捕まるだけだからいいんじゃない?」

 命を奪われそうになった俺は今だにあの二人にどういう感情を向けたらいいのか分からないけど、兄さんは俺よりもかなりドライに考えてるみたいだ。
 まぁ⋯絶縁状叩き付けるくらいだし、とっくに愛情はなかったんだろうな。
 本当に、俺の為だけにあの家にいてくれたんだ。


 それから一時間ほど話したあと、お互いの恋人が待ちくたびれる前にと店を出た俺たちはそれぞれに連絡して、入れ違いにならないよう店の前で待つ事にした。
 
「あのさ、純粋な興味心なんだけど、恋人の高鷺ってどんな感じなんだ?」
「どんな⋯⋯えっと、甘い?」
「甘⋯?」
「何かね、とにかくくっついてくる」
「高鷺が甘えん坊って事か?」
「というか、僕が甘やかされてる?」

 甘えたな高鷺は想像出来ないし何となくしたくなくて首を傾げると、兄さんが苦笑混じりに肩を竦めた。なるほど、それなら納得だ。
 高鷺は兄さんを大事にしてくれてるみたいでホッとする。
 そろそろ啓介も来るかなと思いながら他愛ない話をしてたら、不意に影がかかり誰かが目の前に立った。啓介か高鷺のどっちかかと顔を上げると知らない男二人で拍子抜けしてしまう。

「待たせてごめーん」
「他の奴に声かけられなかった?」
「⋯⋯え?」

 誰って聞く前にそう言われて、もしかして兄さんの知り合いかと横を向いたら眉を顰めてて違うんだって分かった。じゃあやっぱり誰だ。
 二人が一歩近付くと同時に兄さんが俺の前に立ったんだけど、更に兄さんの前に人が立ち俺の視界からは完全に見えなくなった。

「気安く話しかけてんじゃねぇよ」
「見る目はあるけどね」

 今度は聞き知った声で、俺は無意識に肩に入っていた力を抜く。
 手を伸ばして服を掴むとすぐに振り向いてくれて、その腕越しに慌ただしく去って行く二人が見えた。どうやら高鷺の一睨みで怖気付いたらしい。
 そんな高鷺も息を吐いて兄さんの方を向くと、見た事ないくらい優しい顔で兄さんの頬へと触れた。

「悪い、遅くなった」
「ううん。戸崎くんと一緒だったんだ」
「ここに来る途中で会ったんだよ。⋯二人でいるとよけい目立つな」
「千晃が人目を引くからね」
「あんたもだろ」

 おお、声も優しい。ってか雰囲気が甘いな。兄さんが言ってたのってこういう事か。
 不思議な気持ちになりながら二人を見てたら、背中が抱き寄せられシトラスの香りに包まれた。

「話せた?」
「うん。待たせてごめんな」
「気にしないで。俺が勝手に待ってただけだから」

 頭のてっぺんに頬擦りされぽんぽんと啓介の背中を軽く叩いてたら、兄さんが「あ」と声を上げ笑顔でこっちを見てきた。

「ねぇ、せっかくだしこのまま四人で遊びに行かない?」
「へ?」

 いい事思い付いたと言わんばかりの兄さんに俺は目を瞬く。
 四人でって⋯一体どこに行くつもりなんだ?
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