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愛おしさで溢れる(啓介視点)
「啓介、あれ見てあれ! 象!」
少し離れた場所にある敷地の中を、のろのろと歩く象を見つけた千晃が指を差して走り出す。さっきから見るもの全部にああして反応し、そのたびにキラキラした顔で俺を見る千晃の可愛さにノックアウト寸前だ。
お兄さんから四人で遊びに行こうと誘われ、どこに行くか悩んでた時にちょうど動物園のポスターを見た千晃がここがいいって言ってくれたから決めたけど、動物園どころかテーマパークに行った事がない千晃は何を見ても楽しそうにしてる。
遊園地とか水族館とか、これからは色んなとこ連れて行ってあげたいな。
「千晃ー、こっち向いてー」
園内にあるお店でインスタントカメラを買ったお兄さんはひたすら千晃を撮ってて、滅多にないくらいテンションの高い千晃はそれに手を振ったりして応えてる。
その光景が兄弟って感じで実に微笑ましい。
「千紘さん、水」
「あ、ありがとう。ほら千晃も、水分補給しないと」
「まだ平気なのに」
「だーめ」
夢中になり過ぎて、いつもならちゃんとしてる部分が疎かになるのも新鮮だし、ちょっとむくれたように返してるのも弟みがあって可愛い。
お兄さんといる時の千晃ってこんな感じなんだ。
さっき買っておいたペットボトルを差し出すと、千晃は受け取って素直に口を付けた。
「千晃、お腹は空いてない?」
「俺はまだ大丈夫だけど、啓介は?」
「俺も大丈夫」
千晃はすぐに食べる事を忘れたり面倒がったりするから、せめて一緒にいる時はなるべくこうして声をかけるようにしてた。回数は増えても少食には変わりないし、放っておいたらせっかく増えた体重もすぐ減らすから。
形のいい頭を撫で、少し減ったペットボトルを受け取りリュックにしまうと、千晃が園内マップを広げてある写真を指差した。
「でも、このアイスは食べたい」
千晃が示したのは、動物がプリントされた大きめのクッキーとウエハースが添えられたカップタイプのソフトクリームで、この動物園でイチオシされてるものらしい。
ご飯ではないけど、自主的に食べてくれるなら何でもいいんだ、俺は。
「うん、みんなで食べようね」
千晃が望む事は出来るだけ叶えてあげたい。どんなに小さな事でも、どれほど大きな事でも、千晃の笑顔が見られるならそれだけで頑張ろうって気持ちになるから。
きっと、お兄さんもそうなんだろうな。
千晃の手を握り次の動物がいる場所まで歩きながらお兄さんを見ると、高鷺の腕に身を寄せて楽しそうに会話をしている姿が目に入り笑みが零れる。
お兄さんの幸せを願ってた千晃だから、あの表情は嬉しいだろうな。
園内を周りきり、満足気な千晃は今はお兄さんと楽しそうにお土産を選んでる。
あれはこれはって指差したりお互いに見せたりしながら何を買うか悩んでて、その様子を少し離れたところから見てる俺と高鷺は人知れず和んでた。
「⋯なぁ、ちーの彼氏」
「高鷺はいつになったら俺を名前で呼ぶの?」
「分かりやすくていいだろ」
「分かりやすいのかな⋯⋯まぁいいや、何?」
何度言っても変わらなさそうだと諦め呼んだ理由を聞くと、高鷺はお兄さんの方を向いたまま口を開いた。
「デートん時、トイレとかで離れる場合どうしてんだ?」
「待って貰ってるけど?」
「ナンパされねぇ?」
「あー⋯でも、千晃はフルシカトしてるから」
「千紘さんもそうなんだけど、人のもんにちょっかいかけられんのが腹立つんだよな」
それは分かる。
今だってチラチラ見てる人が数人いるけど、そういうのも俺はあんまり好きじゃないんだよね。特に下心の透けて見える人は。
千晃は綺麗だし、お兄さんは可愛らしいから目がいくのも分かるけど、これみよがしに見るのはやめて欲しい。
そんな事を思いながら仲睦まじい兄弟を見てたら、千晃がいくつかの箱を手に駆け寄ってきた。
「啓介、お父さんたちのお土産ってどれがいいと思う?」
「甘いのも好きだし、煎餅やお饅頭も好きだよ」
「んー⋯じゃあ、これとこれにする。和葉さんは?」
「姉さんはこういうクッキーが好きかな」
「オッケー。ありがとう、買ってくる」
「うん」
変わらずバイトを続けてる千晃だけど、給料は学用品以外ではほとんど使わずに置いてるらしい。
最初はお世話になるから食費だけでも入れるって言ってたんだけど、子供から取るつもりは毛頭ないってお母さんに突っぱねられてたから、それなら俺と住む為の貯金に回すって口座に入れっぱなしにしてるそうだ。
学校のお金はお兄さんがご両親に上手く言ってずいぶん前から管理してたみたいだし、今は本当に自分が使いたい物の為に使えてる。
でも、自分以外だと財布の紐が緩くなるのはちょっと直させないとかな。
「ねぇ遼くん、これお揃いで持つのってどうかな」
「いいじゃん。俺が払う」
「え、僕が言ったんだから自分で払うよ」
「いいから。他に欲しいもんねぇ?」
「な、ない」
高鷺はスマートだ。
それにしてもお揃いか⋯俺も千晃と何か揃いで持ちたいな。⋯⋯⋯指輪とか。気が早いって怒られるかもしれないけど。
「はい」
「え?」
「連れて来てくれたお礼」
キーホルダーや置物とかを見ながら考えてると、支払いを済ませた千晃が戻ってきて小さな袋を差し出して来た。
不思議に思いつつ受け取り、袋越しに感触を確かめるとどうやらキーホルダーのようで、目を瞬く俺から視線を逸らした千晃はどこか恥ずかしそうに襟足を弄る。
「⋯俺も兄さんたちみたいに⋯お揃いの欲しかった⋯から⋯」
「千晃⋯」
同じ事を思ってくれていた事にも、照れ臭いのか頬を染める千晃にも堪らない気持ちになり、俺は思わず千晃を抱き締めた。驚いた千晃が反射的に押し返してきたけど、今は俺の顔を見て欲しくないから緩めもしない。
どうしてこの子はこう、俺の深い部分を突いてくるのか。
「ちょ⋯っ」
「あんまり可愛い事言わないでよ⋯」
「え⋯」
千晃が何したって可愛いとしか思わないけど、今のは正直めちゃくちゃ効いた。上目遣いだったらもっとヤバかったかもしれない。
そのうち家以外でも箍が外れるかもって、少しだけ自分が怖くなった。
少し離れた場所にある敷地の中を、のろのろと歩く象を見つけた千晃が指を差して走り出す。さっきから見るもの全部にああして反応し、そのたびにキラキラした顔で俺を見る千晃の可愛さにノックアウト寸前だ。
お兄さんから四人で遊びに行こうと誘われ、どこに行くか悩んでた時にちょうど動物園のポスターを見た千晃がここがいいって言ってくれたから決めたけど、動物園どころかテーマパークに行った事がない千晃は何を見ても楽しそうにしてる。
遊園地とか水族館とか、これからは色んなとこ連れて行ってあげたいな。
「千晃ー、こっち向いてー」
園内にあるお店でインスタントカメラを買ったお兄さんはひたすら千晃を撮ってて、滅多にないくらいテンションの高い千晃はそれに手を振ったりして応えてる。
その光景が兄弟って感じで実に微笑ましい。
「千紘さん、水」
「あ、ありがとう。ほら千晃も、水分補給しないと」
「まだ平気なのに」
「だーめ」
夢中になり過ぎて、いつもならちゃんとしてる部分が疎かになるのも新鮮だし、ちょっとむくれたように返してるのも弟みがあって可愛い。
お兄さんといる時の千晃ってこんな感じなんだ。
さっき買っておいたペットボトルを差し出すと、千晃は受け取って素直に口を付けた。
「千晃、お腹は空いてない?」
「俺はまだ大丈夫だけど、啓介は?」
「俺も大丈夫」
千晃はすぐに食べる事を忘れたり面倒がったりするから、せめて一緒にいる時はなるべくこうして声をかけるようにしてた。回数は増えても少食には変わりないし、放っておいたらせっかく増えた体重もすぐ減らすから。
形のいい頭を撫で、少し減ったペットボトルを受け取りリュックにしまうと、千晃が園内マップを広げてある写真を指差した。
「でも、このアイスは食べたい」
千晃が示したのは、動物がプリントされた大きめのクッキーとウエハースが添えられたカップタイプのソフトクリームで、この動物園でイチオシされてるものらしい。
ご飯ではないけど、自主的に食べてくれるなら何でもいいんだ、俺は。
「うん、みんなで食べようね」
千晃が望む事は出来るだけ叶えてあげたい。どんなに小さな事でも、どれほど大きな事でも、千晃の笑顔が見られるならそれだけで頑張ろうって気持ちになるから。
きっと、お兄さんもそうなんだろうな。
千晃の手を握り次の動物がいる場所まで歩きながらお兄さんを見ると、高鷺の腕に身を寄せて楽しそうに会話をしている姿が目に入り笑みが零れる。
お兄さんの幸せを願ってた千晃だから、あの表情は嬉しいだろうな。
園内を周りきり、満足気な千晃は今はお兄さんと楽しそうにお土産を選んでる。
あれはこれはって指差したりお互いに見せたりしながら何を買うか悩んでて、その様子を少し離れたところから見てる俺と高鷺は人知れず和んでた。
「⋯なぁ、ちーの彼氏」
「高鷺はいつになったら俺を名前で呼ぶの?」
「分かりやすくていいだろ」
「分かりやすいのかな⋯⋯まぁいいや、何?」
何度言っても変わらなさそうだと諦め呼んだ理由を聞くと、高鷺はお兄さんの方を向いたまま口を開いた。
「デートん時、トイレとかで離れる場合どうしてんだ?」
「待って貰ってるけど?」
「ナンパされねぇ?」
「あー⋯でも、千晃はフルシカトしてるから」
「千紘さんもそうなんだけど、人のもんにちょっかいかけられんのが腹立つんだよな」
それは分かる。
今だってチラチラ見てる人が数人いるけど、そういうのも俺はあんまり好きじゃないんだよね。特に下心の透けて見える人は。
千晃は綺麗だし、お兄さんは可愛らしいから目がいくのも分かるけど、これみよがしに見るのはやめて欲しい。
そんな事を思いながら仲睦まじい兄弟を見てたら、千晃がいくつかの箱を手に駆け寄ってきた。
「啓介、お父さんたちのお土産ってどれがいいと思う?」
「甘いのも好きだし、煎餅やお饅頭も好きだよ」
「んー⋯じゃあ、これとこれにする。和葉さんは?」
「姉さんはこういうクッキーが好きかな」
「オッケー。ありがとう、買ってくる」
「うん」
変わらずバイトを続けてる千晃だけど、給料は学用品以外ではほとんど使わずに置いてるらしい。
最初はお世話になるから食費だけでも入れるって言ってたんだけど、子供から取るつもりは毛頭ないってお母さんに突っぱねられてたから、それなら俺と住む為の貯金に回すって口座に入れっぱなしにしてるそうだ。
学校のお金はお兄さんがご両親に上手く言ってずいぶん前から管理してたみたいだし、今は本当に自分が使いたい物の為に使えてる。
でも、自分以外だと財布の紐が緩くなるのはちょっと直させないとかな。
「ねぇ遼くん、これお揃いで持つのってどうかな」
「いいじゃん。俺が払う」
「え、僕が言ったんだから自分で払うよ」
「いいから。他に欲しいもんねぇ?」
「な、ない」
高鷺はスマートだ。
それにしてもお揃いか⋯俺も千晃と何か揃いで持ちたいな。⋯⋯⋯指輪とか。気が早いって怒られるかもしれないけど。
「はい」
「え?」
「連れて来てくれたお礼」
キーホルダーや置物とかを見ながら考えてると、支払いを済ませた千晃が戻ってきて小さな袋を差し出して来た。
不思議に思いつつ受け取り、袋越しに感触を確かめるとどうやらキーホルダーのようで、目を瞬く俺から視線を逸らした千晃はどこか恥ずかしそうに襟足を弄る。
「⋯俺も兄さんたちみたいに⋯お揃いの欲しかった⋯から⋯」
「千晃⋯」
同じ事を思ってくれていた事にも、照れ臭いのか頬を染める千晃にも堪らない気持ちになり、俺は思わず千晃を抱き締めた。驚いた千晃が反射的に押し返してきたけど、今は俺の顔を見て欲しくないから緩めもしない。
どうしてこの子はこう、俺の深い部分を突いてくるのか。
「ちょ⋯っ」
「あんまり可愛い事言わないでよ⋯」
「え⋯」
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