隠した想いのその先に

ミヅハ

文字の大きさ
86 / 90

愛おしさで溢れる(啓介視点)

「啓介、あれ見てあれ! 象!」

 少し離れた場所にある敷地の中を、のろのろと歩く象を見つけた千晃が指を差して走り出す。さっきから見るもの全部にああして反応し、そのたびにキラキラした顔で俺を見る千晃の可愛さにノックアウト寸前だ。
 お兄さんから四人で遊びに行こうと誘われ、どこに行くか悩んでた時にちょうど動物園のポスターを見た千晃がここがいいって言ってくれたから決めたけど、動物園どころかテーマパークに行った事がない千晃は何を見ても楽しそうにしてる。
 遊園地とか水族館とか、これからは色んなとこ連れて行ってあげたいな。

「千晃ー、こっち向いてー」

 園内にあるお店でインスタントカメラを買ったお兄さんはひたすら千晃を撮ってて、滅多にないくらいテンションの高い千晃はそれに手を振ったりして応えてる。
 その光景が兄弟って感じで実に微笑ましい。

「千紘さん、水」
「あ、ありがとう。ほら千晃も、水分補給しないと」
「まだ平気なのに」
「だーめ」

 夢中になり過ぎて、いつもならちゃんとしてる部分が疎かになるのも新鮮だし、ちょっとむくれたように返してるのも弟みがあって可愛い。
 お兄さんといる時の千晃ってこんな感じなんだ。
 さっき買っておいたペットボトルを差し出すと、千晃は受け取って素直に口を付けた。

「千晃、お腹は空いてない?」
「俺はまだ大丈夫だけど、啓介は?」
「俺も大丈夫」

 千晃はすぐに食べる事を忘れたり面倒がったりするから、せめて一緒にいる時はなるべくこうして声をかけるようにしてた。回数は増えても少食には変わりないし、放っておいたらせっかく増えた体重もすぐ減らすから。
 形のいい頭を撫で、少し減ったペットボトルを受け取りリュックにしまうと、千晃が園内マップを広げてある写真を指差した。

「でも、このアイスは食べたい」

 千晃が示したのは、動物がプリントされた大きめのクッキーとウエハースが添えられたカップタイプのソフトクリームで、この動物園でイチオシされてるものらしい。
 ご飯ではないけど、自主的に食べてくれるなら何でもいいんだ、俺は。

「うん、みんなで食べようね」

 千晃が望む事は出来るだけ叶えてあげたい。どんなに小さな事でも、どれほど大きな事でも、千晃の笑顔が見られるならそれだけで頑張ろうって気持ちになるから。
 きっと、お兄さんもそうなんだろうな。
 千晃の手を握り次の動物がいる場所まで歩きながらお兄さんを見ると、高鷺の腕に身を寄せて楽しそうに会話をしている姿が目に入り笑みが零れる。
 お兄さんの幸せを願ってた千晃だから、あの表情は嬉しいだろうな。


 園内を周りきり、満足気な千晃は今はお兄さんと楽しそうにお土産を選んでる。
 あれはこれはって指差したりお互いに見せたりしながら何を買うか悩んでて、その様子を少し離れたところから見てる俺と高鷺は人知れず和んでた。

「⋯なぁ、ちーの彼氏」
「高鷺はいつになったら俺を名前で呼ぶの?」
「分かりやすくていいだろ」
「分かりやすいのかな⋯⋯まぁいいや、何?」

 何度言っても変わらなさそうだと諦め呼んだ理由を聞くと、高鷺はお兄さんの方を向いたまま口を開いた。

「デートん時、トイレとかで離れる場合どうしてんだ?」
「待って貰ってるけど?」
「ナンパされねぇ?」
「あー⋯でも、千晃はフルシカトしてるから」
「千紘さんもそうなんだけど、人のもんにちょっかいかけられんのが腹立つんだよな」

 それは分かる。
 今だってチラチラ見てる人が数人いるけど、そういうのも俺はあんまり好きじゃないんだよね。特に下心の透けて見える人は。
 千晃は綺麗だし、お兄さんは可愛らしいから目がいくのも分かるけど、これみよがしに見るのはやめて欲しい。
 そんな事を思いながら仲睦まじい兄弟を見てたら、千晃がいくつかの箱を手に駆け寄ってきた。

「啓介、お父さんたちのお土産ってどれがいいと思う?」
「甘いのも好きだし、煎餅やお饅頭も好きだよ」
「んー⋯じゃあ、これとこれにする。和葉さんは?」
「姉さんはこういうクッキーが好きかな」
「オッケー。ありがとう、買ってくる」
「うん」

 変わらずバイトを続けてる千晃だけど、給料は学用品以外ではほとんど使わずに置いてるらしい。
 最初はお世話になるから食費だけでも入れるって言ってたんだけど、子供から取るつもりは毛頭ないってお母さんに突っぱねられてたから、それなら俺と住む為の貯金に回すって口座に入れっぱなしにしてるそうだ。
 学校のお金はお兄さんがご両親に上手く言ってずいぶん前から管理してたみたいだし、今は本当に自分が使いたい物の為に使えてる。
 でも、自分以外だと財布の紐が緩くなるのはちょっと直させないとかな。

「ねぇ遼くん、これお揃いで持つのってどうかな」
「いいじゃん。俺が払う」
「え、僕が言ったんだから自分で払うよ」
「いいから。他に欲しいもんねぇ?」
「な、ない」

 高鷺はスマートだ。
 それにしてもお揃いか⋯俺も千晃と何か揃いで持ちたいな。⋯⋯⋯指輪とか。気が早いって怒られるかもしれないけど。

「はい」
「え?」
「連れて来てくれたお礼」

 キーホルダーや置物とかを見ながら考えてると、支払いを済ませた千晃が戻ってきて小さな袋を差し出して来た。
 不思議に思いつつ受け取り、袋越しに感触を確かめるとどうやらキーホルダーのようで、目を瞬く俺から視線を逸らした千晃はどこか恥ずかしそうに襟足を弄る。

「⋯俺も兄さんたちみたいに⋯お揃いの欲しかった⋯から⋯」
「千晃⋯」

 同じ事を思ってくれていた事にも、照れ臭いのか頬を染める千晃にも堪らない気持ちになり、俺は思わず千晃を抱き締めた。驚いた千晃が反射的に押し返してきたけど、今は俺の顔を見て欲しくないから緩めもしない。
 どうしてこの子はこう、俺の深い部分を突いてくるのか。

「ちょ⋯っ」
「あんまり可愛い事言わないでよ⋯」
「え⋯」

 千晃が何したって可愛いとしか思わないけど、今のは正直めちゃくちゃ効いた。上目遣いだったらもっとヤバかったかもしれない。
 そのうち家以外でも箍が外れるかもって、少しだけ自分が怖くなった。
感想 11

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

【完結】優しい嘘と優しい涙

Lillyx48
BL
同期の仲良い3人。 ゆっくり進んでいく関係と壊れない関係。

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

私の弟なのに

あんど もあ
ファンタジー
パン屋の娘マリーゼの恋人は、自警団のリートさん。だけど、リートには超ブラコンの姉ミラがいる。ミラの妨害はエスカレートしてきて……。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース