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行きたい場所
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父親と話があるというレイフォードと別れ、シルヴィアに連れられて小広間へと訪れたルカは、初めて入る部屋に少しだけドキドキしていた。
なかなか道を覚えられないルカの為に、レイフォードもリックスもルカが通るだろう必要最低限の通路だけ教えてくれていたからここまでは来たことがないのだ。
お披露目パーティをした場所よりは小さめの部屋だがそれでも充分広くて、そこに続々と土産の箱が積み重なっていく。
「どれがいいかしら」
そう言いながら箱を開けて、鼻歌混じりに中身を出していくシルヴィアの背中を見ていたら茶器の乗ったワゴンを押してソフィアがやって来た。
「シルヴィア様、お久し振りで御座います」
「ソフィア! 久し振りね、元気そうで何よりだわ」
「シルヴィア様もお変わりないようで、安心致しました」
「下界に降りて百年ほどしか経ってないのだから、そう変わらないわよ」
主従関係がありつつも仲が良さそうな二人にルカは目を瞬く。
そういえば、赤ん坊のレイフォードの世話をしたのはソフィアだと言っていたからその繋がりでこんなに気さくな関係なのかもしれない。
じっと見ていたら、気付いたシルヴィアが手招きしてくれて箱から取り出した服を見せてくる。
「これに着替えましょうか」
「え?」
「お手伝いしますね、ルカ様」
何故かウキウキしたソフィアが、どこから出したのかブラシや化粧品、髪飾りなどを用意してにっこりと笑う。
もしかしなくても、また何着も着る事になるのだろうかと少し憂鬱な気分になるルカだった。
「ルカ様、大変可愛らしいですわ!」
「思った通り、似合うわね」
脱いで着せられて脱いで着せられてを五回ほど繰り返したルカは、現在バルーン袖の白いシャツと細身のサスペンダーが付いた黒いフレアスカートを身に着けていて、髪もセットされてハーフアップにされていた。
平民が着ていそうなシンプルな服だが、それよりもルカは今自分の腕の中にあるものに興味津々だ。
柔らかな毛並みは焦げ茶色で頭の上には丸い耳がついており、黒くくりっとした目とちょこんとした鼻が顔に縫い付けられている。
全体的に丸みを帯びていて、その何とも言えない愛らしさに目が釘付けになった。
「可愛い…」
シルヴィアから贈られた物は服だけでなく、ルカにとっては初めて目にする物がたくさんあって途中から疲れも吹き飛んでいた。
ネジを回して蓋を開けると心地良い音楽が鳴るオルゴール、家具付きの小さな家、絵柄と数字が書かれたカード。
それから、ルカが抱き上げているクマのぬいぐるみ。
他にも馬や羊などのぬいぐるみもあるのだが、ルカは真っ先にクマを手に取り見つめ合っていた。
その様子をシルヴィアもソフィアも微笑ましげに眺めている。
「ふわふわしてる……レイの髪みたいだ」
そう言って幸せそうな表情をしたルカが抱き締めて頬を寄せる姿が殊更に可愛らしい。
「このお姿を陛下がご覧になったら…卒倒するかもしれませんね」
「そうね、それはそれで面白そうだけど」
「ふふ、シルヴィア様ったら」
まさかこれほどまでにルカとぬいぐるみの親和性が高いとは。
笑顔のままの二人がルカには聞こえないようヒソヒソと話していると、小広間の扉がノックされレイフォードとイルヴァンが入って来た。
それに気付いたルカがクマを見てからレイフォードへと駆け寄る。
「レイ、ちょっと屈んで」
「?」
自分を見付けるなり走り寄ってきたルカを抱き留めようと腕を広げたレイフォードだったが、傍に来るなり乞われて腰を屈めればルカの手が髪に触れてくる。それからクマを撫でて笑顔になると、前屈みのままのレイフォードの肩に頭を寄り掛からせた。
「やっぱりおんなじだ」
「何の話だ?」
「このクマの毛と、レイの髪が同じくらいふわふわしてるって話」
「そうか」
ルカはサラツヤタイプの黒髪ストレートだが、レイフォードは襟足が長めの少し癖のある柔らかな髪質の金髪だ。
もしレイフォードが遅くまで仕事をしていても、クマを抱いていれば寂しさも紛れるかもしれないとルカは思ったが、すぐにそんな事はないなと自分で否定する。
レイフォードはレイフォードであってクマは代わりにはなれない。そう思ってレイフォードの服を掴んだらどうしてか笑われた。
「?」
「そういった格好も似合うな」
「いつもの服と全然違う」
「あれはルカが自由に動き回る為の服だから」
「思ってたんだけど、他に着てる人いないよな?」
「着ているとしたら……まぁ踊り子くらいか」
「おどりこ?」
柔らかな素材で、袖もズボンもヒラヒラしている服を着ているのは自分しかいないのではと割と早い段階から思っていたが、聞き慣れない言葉に首を傾げるとシルヴィアが教えてくれた。
「旅芸人一座の一人で、観客の前で音楽に合わせて踊りを披露する人の事を言うのよ。この街にもいずれは来ると思うから、その時はレイフォードに連れて行って貰うといいわ」
「そうだな。もし他に行きたい場所があるなら一緒に行こうか」
まず旅芸人という言葉が分からなかったが、音楽も踊りも理解は出来る為なるほどと頷く。確かにルカが着ているような服ならよっぽど激しくない限りは踊りやすそうだ。
その光景を頭に思い浮かべいるとまさかのお誘いをされ、ルカはパッと表情を輝かせた。
「ほんと? 俺、〝うみ〟っていうの見てみたい!」
「海? …そうか、ルカは辺境に住んでいたから見た事がないのか」
「うん。〝うみ〟って、〝かいがら〟とか〝さんご〟とかあるんだろ? あと、凄く大きくて広いって書いてあった。この城とどっちが大きいんだろうな」
今も時折開く仕掛け絵本に書かれている物はレイフォードのおかげで少しずつ実物を見る事が出来ている。だが、海だけは今だに未知の世界で、知ってからずっと気になっていたのだ。
世界が広い事は勉強の過程で知っているルカにとって比べられるくらい大きく思うものはこの城だから、果たしてどれだけの違いがあるのだろうかと考えるだけでワクワクが止まらない。
(実際に見たら驚くだろうな)
無邪気なルカにこの場にいる全員が和みほんわかした空気が流れ、愛しい恋人を抱き上げたレイフォードはまろみを帯びた頬に口付けた。
「せっかくだから入ってみるといい」
「入る?」
「外は暑いから、きっと気持ちがいいだろう」
「暑いから気持ちがいい?」
レイフォードは何を言っているのか、困惑するルカの頭が撫でられ端正な顔が悪戯っぽく笑う。どうやらこの意味は海に着くまで内緒という事らしい。
少しだけ狡いと思いながらも楽しみが増えるのは嬉しくてはにかんだルカは、片手でクマを抱き反対の腕でレイフォードの首に抱き着いた。
なかなか道を覚えられないルカの為に、レイフォードもリックスもルカが通るだろう必要最低限の通路だけ教えてくれていたからここまでは来たことがないのだ。
お披露目パーティをした場所よりは小さめの部屋だがそれでも充分広くて、そこに続々と土産の箱が積み重なっていく。
「どれがいいかしら」
そう言いながら箱を開けて、鼻歌混じりに中身を出していくシルヴィアの背中を見ていたら茶器の乗ったワゴンを押してソフィアがやって来た。
「シルヴィア様、お久し振りで御座います」
「ソフィア! 久し振りね、元気そうで何よりだわ」
「シルヴィア様もお変わりないようで、安心致しました」
「下界に降りて百年ほどしか経ってないのだから、そう変わらないわよ」
主従関係がありつつも仲が良さそうな二人にルカは目を瞬く。
そういえば、赤ん坊のレイフォードの世話をしたのはソフィアだと言っていたからその繋がりでこんなに気さくな関係なのかもしれない。
じっと見ていたら、気付いたシルヴィアが手招きしてくれて箱から取り出した服を見せてくる。
「これに着替えましょうか」
「え?」
「お手伝いしますね、ルカ様」
何故かウキウキしたソフィアが、どこから出したのかブラシや化粧品、髪飾りなどを用意してにっこりと笑う。
もしかしなくても、また何着も着る事になるのだろうかと少し憂鬱な気分になるルカだった。
「ルカ様、大変可愛らしいですわ!」
「思った通り、似合うわね」
脱いで着せられて脱いで着せられてを五回ほど繰り返したルカは、現在バルーン袖の白いシャツと細身のサスペンダーが付いた黒いフレアスカートを身に着けていて、髪もセットされてハーフアップにされていた。
平民が着ていそうなシンプルな服だが、それよりもルカは今自分の腕の中にあるものに興味津々だ。
柔らかな毛並みは焦げ茶色で頭の上には丸い耳がついており、黒くくりっとした目とちょこんとした鼻が顔に縫い付けられている。
全体的に丸みを帯びていて、その何とも言えない愛らしさに目が釘付けになった。
「可愛い…」
シルヴィアから贈られた物は服だけでなく、ルカにとっては初めて目にする物がたくさんあって途中から疲れも吹き飛んでいた。
ネジを回して蓋を開けると心地良い音楽が鳴るオルゴール、家具付きの小さな家、絵柄と数字が書かれたカード。
それから、ルカが抱き上げているクマのぬいぐるみ。
他にも馬や羊などのぬいぐるみもあるのだが、ルカは真っ先にクマを手に取り見つめ合っていた。
その様子をシルヴィアもソフィアも微笑ましげに眺めている。
「ふわふわしてる……レイの髪みたいだ」
そう言って幸せそうな表情をしたルカが抱き締めて頬を寄せる姿が殊更に可愛らしい。
「このお姿を陛下がご覧になったら…卒倒するかもしれませんね」
「そうね、それはそれで面白そうだけど」
「ふふ、シルヴィア様ったら」
まさかこれほどまでにルカとぬいぐるみの親和性が高いとは。
笑顔のままの二人がルカには聞こえないようヒソヒソと話していると、小広間の扉がノックされレイフォードとイルヴァンが入って来た。
それに気付いたルカがクマを見てからレイフォードへと駆け寄る。
「レイ、ちょっと屈んで」
「?」
自分を見付けるなり走り寄ってきたルカを抱き留めようと腕を広げたレイフォードだったが、傍に来るなり乞われて腰を屈めればルカの手が髪に触れてくる。それからクマを撫でて笑顔になると、前屈みのままのレイフォードの肩に頭を寄り掛からせた。
「やっぱりおんなじだ」
「何の話だ?」
「このクマの毛と、レイの髪が同じくらいふわふわしてるって話」
「そうか」
ルカはサラツヤタイプの黒髪ストレートだが、レイフォードは襟足が長めの少し癖のある柔らかな髪質の金髪だ。
もしレイフォードが遅くまで仕事をしていても、クマを抱いていれば寂しさも紛れるかもしれないとルカは思ったが、すぐにそんな事はないなと自分で否定する。
レイフォードはレイフォードであってクマは代わりにはなれない。そう思ってレイフォードの服を掴んだらどうしてか笑われた。
「?」
「そういった格好も似合うな」
「いつもの服と全然違う」
「あれはルカが自由に動き回る為の服だから」
「思ってたんだけど、他に着てる人いないよな?」
「着ているとしたら……まぁ踊り子くらいか」
「おどりこ?」
柔らかな素材で、袖もズボンもヒラヒラしている服を着ているのは自分しかいないのではと割と早い段階から思っていたが、聞き慣れない言葉に首を傾げるとシルヴィアが教えてくれた。
「旅芸人一座の一人で、観客の前で音楽に合わせて踊りを披露する人の事を言うのよ。この街にもいずれは来ると思うから、その時はレイフォードに連れて行って貰うといいわ」
「そうだな。もし他に行きたい場所があるなら一緒に行こうか」
まず旅芸人という言葉が分からなかったが、音楽も踊りも理解は出来る為なるほどと頷く。確かにルカが着ているような服ならよっぽど激しくない限りは踊りやすそうだ。
その光景を頭に思い浮かべいるとまさかのお誘いをされ、ルカはパッと表情を輝かせた。
「ほんと? 俺、〝うみ〟っていうの見てみたい!」
「海? …そうか、ルカは辺境に住んでいたから見た事がないのか」
「うん。〝うみ〟って、〝かいがら〟とか〝さんご〟とかあるんだろ? あと、凄く大きくて広いって書いてあった。この城とどっちが大きいんだろうな」
今も時折開く仕掛け絵本に書かれている物はレイフォードのおかげで少しずつ実物を見る事が出来ている。だが、海だけは今だに未知の世界で、知ってからずっと気になっていたのだ。
世界が広い事は勉強の過程で知っているルカにとって比べられるくらい大きく思うものはこの城だから、果たしてどれだけの違いがあるのだろうかと考えるだけでワクワクが止まらない。
(実際に見たら驚くだろうな)
無邪気なルカにこの場にいる全員が和みほんわかした空気が流れ、愛しい恋人を抱き上げたレイフォードはまろみを帯びた頬に口付けた。
「せっかくだから入ってみるといい」
「入る?」
「外は暑いから、きっと気持ちがいいだろう」
「暑いから気持ちがいい?」
レイフォードは何を言っているのか、困惑するルカの頭が撫でられ端正な顔が悪戯っぽく笑う。どうやらこの意味は海に着くまで内緒という事らしい。
少しだけ狡いと思いながらも楽しみが増えるのは嬉しくてはにかんだルカは、片手でクマを抱き反対の腕でレイフォードの首に抱き着いた。
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