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ドレス選び
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「ルカくんが結婚式で着る衣装は私が決めるわ」
ある日の昼食時、先に食事を終えて食後のお茶を飲んでいたシルヴィアが不意に思い出したかのようにそんな事を言ってきた。
レイフォードの膝の上で食べさせて貰っていたルカは目を瞬き、口の中の物を咀嚼しながら彼を見上げると苦笑して口端を拭われる。
「それは構いませんが、宝飾品は私に任せて下さいね」
「もちろんよ。華奢だから、腰まではボディラインが出る方がスカートのボリュームも出て良さそうね」
「シルヴィアが着たドレスもいいんじゃないか?」
「スレンダータイプ? あれもいいけど、ルカくんの場合はミニドレスも可愛いと思うのよね。でもレイフォードの事だから、足を出す事は許可しないんでしょう?」
「当然です」
「絶対似合うのに」
ちゃんと噛み砕いて嚥下したあと水に口を付けながら、もう公の場で自分が着る服はドレスが当たり前なんだなとルカは思う。
元々着ている服も男性向けかと言われれば分からないが、ズボンがあるのとないとでは違うと思うのは自分だけだろうか。
「肩を出すデザインも却下ですからね」
「貴方、イルヴァン様以上にうるさいわね」
「ルカの肌を他人に見せるなど言語道断です」
キッパリと言い放ち、残りの肉を小さくカットしたレイフォードがグラスを置いたルカの口元へ運んでくる。
食べさせられるタイミングが良すぎてルカは一言も発していないが、口いっぱいに頬張り黙々と食べる姿にこの場にいる全員が癒されているなど知る由もない。
「ルカくんも大変ねぇ…」
「?」
「嫌な事は嫌って言った方が、レイフォードの為よ?」
そう言われてレイフォードを見上げると優しく微笑まれ、ルカはごくんと飲み込みようやっと口を開いた。
「俺、レイにされて嫌な事ないです」
「あらあら」
「それに、レイは俺が嫌がる事は絶対しないから」
「これは見事に惚気られてしまったな」
頬に手を当て驚きながらも笑うシルヴィアと快活に笑うイルヴァンに場が明るくなるが、どうして笑われたのか分からないルカは目を瞬いて首を傾げる。
その様子を見て再びフォークに刺した肉を寄せたレイフォードは、それでも素直に口を開けるルカの頭頂部に口付けると、そろそろ腹も膨れるだろうと手を上げ使用人に合図を送った。
結婚式というものがどれほどめでたくどれほど大仰な事かを知らないルカは、まずデザイン画から準備された事に驚き、それから素材選び、試着、調整と一月以上かけて行われると知り気が遠くなった。
唯一助かったのは、採寸をお披露目式のドレス選びの際に終わらせていた事くらいで、試着からまた大変そうだと息を吐く。
「結婚式なんだから、やっぱり金色か紫は入れないと駄目よね。でもあの子の事だから、宝石は紫にしそうだし…それなら白地に金糸で刺繍したりレースを差し込んだ方が無難かしら」
「ベールには宝石を縫い付けられますか?」
「ええ。せっかくだし、小さな宝石を色々散りばめてみましょうか」
「とてもキラキラしたドレスになりそうですね」
シルヴィアと仕立て屋がデザイン画を見ながらあーでもないこーでもないと話している。
その様子を、応接室のソファに座って眺めていたルカは自分がここにいる意味を考えていた。
(何を話してるのかさっぱりだ…)
何度ドレスを選んで着ようとそれについては何一つ分からないし覚えられない。元々身に着けられれば何でも良かったのだから今更ではあるが、覚えていたら二人の話に入れたのだろうか。
だがそれよりも素直に本音を言うなら、理解出来なくて右耳から左耳に抜けて行く話を聞くよりはレイフォードの傍にいたかった。
「レイフォードの方は形が決まっているからいいとして、黒地をメインにルカくんの瞳の色を入れたいわね」
「そうですね…でしたらこの辺りにお二方の瞳の色を、お揃いの形にして飾るというのは如何でしょう?」
「いいわね、そうしましょう」
楽しそうな二人にこのままいなくなってもバレないのではと思いつつ、ルカはクッションを抱き締めてころんと横になった。
城の中は温度が快適過ぎて、する事がないとすぐに眠くなってしまう。
シルヴィアの言葉に合わせてデザイン画を新しくしていく仕立て屋と、それを見てたくさん考えてくれるシルヴィアを眺めていたルカは本人も気付かぬうちに静かな寝息を立てていた。
「ねぇ、ルカくん。ブーケの事なんだけど……あら」
「……まぁ」
主役が持つ花なのだから希望があるならとルカが座っているはずのソファを振り向いたシルヴィアは、クッションを抱き背中を丸めて眠る姿を見て目を瞬いた。
近付き頬に掛かる髪を避けるとあどけない寝顔が現れる。
「ふふ、可愛いわねぇ」
「普段はハッとするほどお綺麗な方ですのに、寝顔はこんなにも幼くなるのですね」
目が覚めるような美人、という言葉がぴったりなくらいルカは美人だ。人間の中でもここまで顔立ちが整った子はシルヴィアも初めてで、数日前に顔合わせをした時は本当に驚いた。
竜族は見目麗しい者揃いだが、そんな中でも人間であるルカに一目惚れしたレイフォードは間違いなく面食いと言えるだろう。
「本当に、こんなに可愛い子があの子のお嫁さんになってくれるなんて、夢みたいだわ」
「シルヴィア様、とてもお幸せそうです」
「もちろん幸せよ。何より息子が幸せそうなんだもの、嬉しくない訳がないのよ」
アザ持ちの竜妃を捜す為に下界に降りて南の辺境まで足を運び、そこでルカと出会えたというのだからレイフォードの執念には感服せざるを得ない。
シルヴィアは笑みを深くすると起こさないようそっとルカの髪を撫で、仕立て屋へと向き直った。
「さぁ、可愛い子供たちの為に、私たちも頑張りましょうか」
「はい」
ここ数日で知った二人の仲睦まじさを思い浮かべシルヴィアと仕立て屋は共に意気込む。
とびきり素敵な結婚式にしてあげなければ。
ある日の昼食時、先に食事を終えて食後のお茶を飲んでいたシルヴィアが不意に思い出したかのようにそんな事を言ってきた。
レイフォードの膝の上で食べさせて貰っていたルカは目を瞬き、口の中の物を咀嚼しながら彼を見上げると苦笑して口端を拭われる。
「それは構いませんが、宝飾品は私に任せて下さいね」
「もちろんよ。華奢だから、腰まではボディラインが出る方がスカートのボリュームも出て良さそうね」
「シルヴィアが着たドレスもいいんじゃないか?」
「スレンダータイプ? あれもいいけど、ルカくんの場合はミニドレスも可愛いと思うのよね。でもレイフォードの事だから、足を出す事は許可しないんでしょう?」
「当然です」
「絶対似合うのに」
ちゃんと噛み砕いて嚥下したあと水に口を付けながら、もう公の場で自分が着る服はドレスが当たり前なんだなとルカは思う。
元々着ている服も男性向けかと言われれば分からないが、ズボンがあるのとないとでは違うと思うのは自分だけだろうか。
「肩を出すデザインも却下ですからね」
「貴方、イルヴァン様以上にうるさいわね」
「ルカの肌を他人に見せるなど言語道断です」
キッパリと言い放ち、残りの肉を小さくカットしたレイフォードがグラスを置いたルカの口元へ運んでくる。
食べさせられるタイミングが良すぎてルカは一言も発していないが、口いっぱいに頬張り黙々と食べる姿にこの場にいる全員が癒されているなど知る由もない。
「ルカくんも大変ねぇ…」
「?」
「嫌な事は嫌って言った方が、レイフォードの為よ?」
そう言われてレイフォードを見上げると優しく微笑まれ、ルカはごくんと飲み込みようやっと口を開いた。
「俺、レイにされて嫌な事ないです」
「あらあら」
「それに、レイは俺が嫌がる事は絶対しないから」
「これは見事に惚気られてしまったな」
頬に手を当て驚きながらも笑うシルヴィアと快活に笑うイルヴァンに場が明るくなるが、どうして笑われたのか分からないルカは目を瞬いて首を傾げる。
その様子を見て再びフォークに刺した肉を寄せたレイフォードは、それでも素直に口を開けるルカの頭頂部に口付けると、そろそろ腹も膨れるだろうと手を上げ使用人に合図を送った。
結婚式というものがどれほどめでたくどれほど大仰な事かを知らないルカは、まずデザイン画から準備された事に驚き、それから素材選び、試着、調整と一月以上かけて行われると知り気が遠くなった。
唯一助かったのは、採寸をお披露目式のドレス選びの際に終わらせていた事くらいで、試着からまた大変そうだと息を吐く。
「結婚式なんだから、やっぱり金色か紫は入れないと駄目よね。でもあの子の事だから、宝石は紫にしそうだし…それなら白地に金糸で刺繍したりレースを差し込んだ方が無難かしら」
「ベールには宝石を縫い付けられますか?」
「ええ。せっかくだし、小さな宝石を色々散りばめてみましょうか」
「とてもキラキラしたドレスになりそうですね」
シルヴィアと仕立て屋がデザイン画を見ながらあーでもないこーでもないと話している。
その様子を、応接室のソファに座って眺めていたルカは自分がここにいる意味を考えていた。
(何を話してるのかさっぱりだ…)
何度ドレスを選んで着ようとそれについては何一つ分からないし覚えられない。元々身に着けられれば何でも良かったのだから今更ではあるが、覚えていたら二人の話に入れたのだろうか。
だがそれよりも素直に本音を言うなら、理解出来なくて右耳から左耳に抜けて行く話を聞くよりはレイフォードの傍にいたかった。
「レイフォードの方は形が決まっているからいいとして、黒地をメインにルカくんの瞳の色を入れたいわね」
「そうですね…でしたらこの辺りにお二方の瞳の色を、お揃いの形にして飾るというのは如何でしょう?」
「いいわね、そうしましょう」
楽しそうな二人にこのままいなくなってもバレないのではと思いつつ、ルカはクッションを抱き締めてころんと横になった。
城の中は温度が快適過ぎて、する事がないとすぐに眠くなってしまう。
シルヴィアの言葉に合わせてデザイン画を新しくしていく仕立て屋と、それを見てたくさん考えてくれるシルヴィアを眺めていたルカは本人も気付かぬうちに静かな寝息を立てていた。
「ねぇ、ルカくん。ブーケの事なんだけど……あら」
「……まぁ」
主役が持つ花なのだから希望があるならとルカが座っているはずのソファを振り向いたシルヴィアは、クッションを抱き背中を丸めて眠る姿を見て目を瞬いた。
近付き頬に掛かる髪を避けるとあどけない寝顔が現れる。
「ふふ、可愛いわねぇ」
「普段はハッとするほどお綺麗な方ですのに、寝顔はこんなにも幼くなるのですね」
目が覚めるような美人、という言葉がぴったりなくらいルカは美人だ。人間の中でもここまで顔立ちが整った子はシルヴィアも初めてで、数日前に顔合わせをした時は本当に驚いた。
竜族は見目麗しい者揃いだが、そんな中でも人間であるルカに一目惚れしたレイフォードは間違いなく面食いと言えるだろう。
「本当に、こんなに可愛い子があの子のお嫁さんになってくれるなんて、夢みたいだわ」
「シルヴィア様、とてもお幸せそうです」
「もちろん幸せよ。何より息子が幸せそうなんだもの、嬉しくない訳がないのよ」
アザ持ちの竜妃を捜す為に下界に降りて南の辺境まで足を運び、そこでルカと出会えたというのだからレイフォードの執念には感服せざるを得ない。
シルヴィアは笑みを深くすると起こさないようそっとルカの髪を撫で、仕立て屋へと向き直った。
「さぁ、可愛い子供たちの為に、私たちも頑張りましょうか」
「はい」
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