竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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ベッタリな息子

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 今日のルーウェンは、どうしてか朝からレイフォードにベッタリで少しも離れようとしなかった。

「ルーウェン、父様はお仕事に行かなきゃいけないから、そろそろ母様のところにおいで?」
「や!」
「邪魔になるだろ?」
「やー!」
「何なんだ⋯」

 一年が過ぎ、自由に翼を出し入れ出来るようになったルーウェンは、相変わらず好きに飛び回るし歩き回るしで落ち着く暇がない。それでも抱っこされるのは好きらしく、特に背の高いレイフォードには毎日のようにねだっていた。
 おかげで現時点での株はレイフォードの方が相当高い。
 朝食後、何がなんでも離れないと言わんばかりにしがみつくルーウェンにどうする事も出来ずにいたら、苦笑を漏らしたレイフォードがそのまま立ち上がる。

「仕方ない、今日はこのまま仕事をするしかないな」
「絶対邪魔しちゃダメだからな?」
「あい」

 珍しく意固地な息子に釘を刺し、眉尻を下げてレイフォードを見上げるとふっと笑って髪に口付けられる。

「せっかくだから、ルカはゆっくり過ごすといい」
「うん」
「いつもルーウェンを追って走り回っているからな。たまには休息日があってもいいだろう」

 額が合わさり優しい声が労ってくれるが、ルーウェンを追い掛ける事自体はルカにとっては全くと言っていいほど苦ではない。
 それでもでもレイフォードの気遣いを無下にはしたくないから素直に頷くと頭を撫でられた。

「もし仕事にならなかったら教えて。泣いても連れてくから」
「分かった。また後でな」
「うん」

 唇を重ねるだけのキスをしたあと、ルーウェンを抱いたままレイフォードは食堂から出て行き執務室へと向かった。
 あっさりとバイバイするルーウェンには切なくなる。
 残されたルカは何となくモヤっとする胸を軽く撫で、リックスと共に自分の部屋へと戻るのだった。

 だが戻ったはいいものの、ルカは何をすればいいか分からず暇も時間も持て余していた。ベッドに腰を下ろしてもソファに座ってお茶を飲んでもどうにも落ち着かない。

「ソフィア、俺って一人の時何してた?」
「仕掛け絵本を読んだり、お散歩したり、図書館に行ったりしてましたよ」
「⋯⋯どうしよう、どれもやりたいと思わない」

 何せルーウェンが飛べるようになってからは毎日慌ただしくて、こんな事を悩む暇さえなかったのだ。
 大変だけど楽しくて、無邪気に笑うルーウェンを見れば疲れなんて吹き飛んでいくらでも追い掛けっこが出来るのに、一人になった途端手持ち無沙汰になるなんて思わなかった。
 だが、このまま過ごしていても時間の経過が遅いだけで一向に日が落ちないから、ルカは立ち上がるとソフィアを振り向いて窓の外を指差す。

「ばあちゃんたちと兄さんのとこに行ってくる」

 こういう時こそみんなに会いに行くに限ると部屋を出たルカは、リックスに声をかけて墓参りへと向かった。



 時間が経つにつれ、ルカのモヤモヤは大きくなっている。
 昼食時も夕食時もルーウェンはレイフォードから離れず、今日は膝に座るどころか食べさせても貰えなくて食事をした気になれなかった。
 入浴も終えてベッドの端で座って待っていると、眠そうなルーウェンを抱えたレイフォードが戻ってきてまたモヤる。

「おかえり」
「ただいま。先にルーウェンを寝かせるから、少し待っていてくれ」
「うん」

 小さな手で目を擦るルーウェンは今にも寝そうだが、いつもみたいにルカのところには来てくれなさそうだ。
 ルカの髪に口付けてからロッキングチェアへと座った彼は、揺らしながら一定のリズムで背中を優しく叩き蒼い髪に頬を寄せる。その姿に羨ましいと思ってしまった。

(俺もヤキモチ妬いてる)

 レイフォードが嫉妬していた時は突っ込んでしまったのに、いざ自分が我が子相手に狡いとか取られたとか思ってしまうのは情けなくて恥ずかしい。
 俯いていたら足音がして、髪が撫でられたから顔を上げると部屋の外で待機していたソフィアにルーウェンを預けるレイフォードの背中が見えた。少し考えてから立ち上がり、扉が閉まる前にソフィアへと声をかけたルカは彼女に耳打ちする。

「ソフィア、明日の朝のお世話、任せてもいい?」
「はい、もちろんです。ごゆっくりお休み下さい」

 頭を下げ去って行くソフィアを手を振って見送り扉を閉めて振り向くと、レイフォードがベッドに上がりヘッドボードに寄り掛かるのが見えた。追い掛けて乗り上げ、彼の太腿に跨るように座ったら肩から落ちてきた髪が背中側に流される。

「ソフィアと何を話していたんだ?」
「えっと、明日の朝の事をお願いしてた」
「朝?」
「うん⋯」

 目を伏せどう言おうか口をもごもごさせていたら、腰が抱き寄せられ互いの距離がより近くなる。目蓋に薄い唇が触れ、反射的に目を閉じたらふっと笑った気配がした。
 先ほどまでルーウェンを抱っこしていた腕が自分にだけ触れている。
 それだけで胸のモヤモヤが消えていき、複雑な気持ちになったルカはレイフォードに凭れ掛かるように抱き着いた。

「⋯俺、お母さん失格だ」
「どうしてそう思う?」
「だって⋯ルーウェンにヤキモチ妬いた。俺のレイなのに、ずーっと独り占めしててズルいって⋯⋯ご飯の時だって、本当なら俺がいる場所だったのに⋯」

 一日中レイフォードの腕の中にいられた日なんて、ルカでも数えられるくらいしかない。
 張り合うものでない事は分かっているのに、どうしようもなく寂しかった。

「でも、こんな事思うのがやだ⋯ルーウェンはまだ赤ちゃんだから当たり前なのに⋯自分が恥ずかしい」

 いくら成長が早いとはいえこの世に生まれ出ててまだ一年。親として譲歩するのは当然と分かっていながら、嫌な気持ちを抱いてしまった。
 それを後悔しているのに、どうしてかレイフォードはクスクスと笑う。

「⋯⋯何で笑うんだ」
「いや、似た者夫夫だなと。⋯私もずっとあの子に妬いてるよ。私が仕事で離れている間、ルーウェンはルカと一緒だろう? 私のルカなのに、独り占めするのは狡いなと」
「へ⋯」
「私にとってルーウェンは愛する息子だが、一番愛しく思っているのはルカだからな。例えルーウェンでも渡したくない」

 ルカ以上にハッキリというレイフォードに目を瞬いていると、悪戯っぽく微笑んだ彼が頬に口付けてきて力が抜けた。
 二人揃って我が子に嫉妬するなんて本当にどうかしてる。

「俺たち、ダメダメな親だな」
「両親の仲が良いのはいい事だと思うが」
「⋯⋯レイ」
「ん?」
「俺にもいっぱい触って。全部、レイでいっぱいになりたい」

 身体を起こし緩く回されていたレイフォードの手を持ち上げて頬に当て、上目遣いでそう言いながら反対の手で腹の下を撫でると、目の前の喉がこくりと上下したのが分かった。

「⋯どこでそういう事を学んでくるんだか」
「俺の本心だし⋯んっ」
「手加減出来ないかもしれないが、それでもいいか?」
「分かんないけどいいよ。レイになら何されてもいい」
「⋯⋯最高の殺し文句だな」

 今はただ触れて欲しくて堪らない。
 頬に当てていた手が項に移動する感触にさえゾクリとしたルカは、両腕をレイフォードの首に回すと近付いてくる顔に目を閉じた。
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