愛が重めの年下ワンコに懐かれました

ミヅハ

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理由

 莉央、優里と約束した土曜日。
 奢らされない為にも15分ほど早く待ち合わせ場所に着いた俺は現在どうするべきか悩んでいた。

『柚琉、悪い。莉央が熱出したから今日行けねぇ』

 そう連絡が来たのは待ち合わせ5分前。いや、もっと早く教えろよって言いたかったけど、たぶん優里も焦ってたんだろうから許す事にして、「気にすんな、お大事に」と送っておいた。
 どこに行くとも言ってなかったし、予約も取ってた訳じゃなさそうだし帰ろうかな。でもせっかくここまで来たんだしブラブラするのもいいかもと考え冒頭に至る。
 帰っても何かある訳でもないし、かと言って行きたい場所もない。

「どうしよっかなー⋯」

 目の前の看板を見上げて一人呟く。
 甘い物の口ではあったからカフェとかでもいいんだけど、店に入るより買って帰った方が安いって思うのはバイトもしてないお小遣い制の高校生の性だよなぁ。もろもろの気が紛れそうだからするのもありだけど、何せ俺は受験生。
 出来るとしたら大学行ってからだな。

「宮脇先輩?」
「ん? ⋯⋯あ」

 もう頭は来年バイトするならって考えで埋まってたから看板もちゃんとは見てなかったんだけど、後ろから声をかけられて何気なく振り向いた俺は思わず声を上げた。
 何か最近こういうの多いんだよなぁ。
 大体呼ばれて反応すると戸守がいて、その隣には絶対女の子がいる。今はたぶん年上の綺麗な女の人が戸守の腕に細い腕を絡めていて、見るからにデートしてんだなってのが分かった。
 自分で言うのもアレだけど、コイツ俺に告ってなかったっけ?

「何してるんですか?」
「お前には関係ないだろ」
「一人なんですか?」
「だから関係ないって」

 やっぱり禄でもない奴かと思い、質問をあしらいながらさっさとここから立ち去ろうとしたら腕を掴まれる。まさかそう来られるとは思ってなかったからギョッとして足を止めたら、戸守は女の人を見るなり「じゃ」と言って腕を解いた。

「え?」
「あとは自分で探してよ」
「あ、アレは口実で⋯」
「そうなの?    まぁもう何でもいいけど、俺この人といたいから」
「は?」

 断片的だけど、女の人的には逆ナンだったのに戸守としては本当に探し物を手伝ってたって感じか? 別れるのは勝手だけど、俺を巻き込むのはやめて欲しい。

「おい、戸守⋯」
「行きましょうか、先輩」
「いやいや、おかしいだろ!」
「何もおかしくないですよ」

 誰がどう見てもおかしい。見ろ、女の人ポカンってしてる。
 だけど力の差か掴まれた腕を引き剥がせないまま前に立って歩かれるとどうしようもなくて、俺は嬉しそうな戸守に引っ張られるままに足を動かすハメになった。



 何で俺はコイツとカフェにいるんだろうな。

「先輩、これ美味しいですよ」
「良かったな」
「一口どうですか?」
「や、大丈夫。ありがとう」

 テーブルには生クリームとフルーツの乗ったパンケーキ、チョコレートパフェ、ショートケーキ、プリンアラモード⋯甘い物が苦手な人が見たら胸焼けするくらいデザート並べられていて、向かいに座ってる戸守はにこにこしながら食べてる。
 あんなに甘い物が食べたかった俺は一つも頼んでなくて頬杖ついて外を眺めてるんだけど、女の子からの視線がすーごいわ。
 イケメンは甘い物食べてても様になるんだな。

「それで、先輩はどうしてあそこに1人でいたんですか?」
「⋯⋯友達と遊ぶ予定だったけど、片方が熱出したから中止になっただけ」
「俺なら熱が出ても先輩と遊ぶけどな」
「それは周りにも迷惑だからやめとけ」
「確かに」

 声を上げて笑う戸守に、優里が言ってた〝大型犬〟の片鱗が見えた気がした。
 好き云々はともかく、懐いてくれるのはまぁ単純に嬉しい。

「あのさ」
「はい?」
「告られた時にも言ったけど、今は本当に誰とも付き合う気ないから」
「はい。だから、好きになって貰えるよう頑張るんです」
「好きになっても付き合わない」
「え!?」
「バカ、声がデカい」

 何の為に俺が声を潜めて話してると思ってるんだ。
 眉を吊り上げて窘めると慌てたように口を押さえて謝ってきたけど、納得してないのか不満気な顔で身を乗り出してきた。

「何でですか? 両想いなら恋人になるものじゃないんですか?」
「それが当たり前じゃない奴もいるんだよ。とにかく、俺の事は諦めろ」
「嫌です」

 バカみたいな過去の恋愛話とかしたくないし、恋人になれないなら諦めるだろうと思ったのに戸守はすぐに拒否してきた。
 何なんだコイツは。

「お前、転校してきたばっかのくせに、俺の何を知って言ってるんだよ」
「先輩が優しくてお人好しなのは知ってます」
「そんな訳ないだろ。だいたい、上辺だけ見て何が分かんだ。いい奴に見られたいからって作ってたらどうするんだよ」
「⋯覚えてないんですか?」
「何を?」

 覚えてないも何も、こんなイケメン見たら忘れないと思うんだけど。
 目を瞬いて首を傾げると、戸守はフォークを置いて少し考えたあと柔らかく微笑んだ。それを見た周りの子がザワついたけど、俺はその笑顔の意味が分からなくて眉を顰める。

「ヒントは中学の入学式です」
「入学式⋯?」
「俺、中2まではこっちにいたんですよ。親が転勤になって3年に上がる前に転校になったんですけど、今年こっちに戻ってきたんです」
「それが俺と何の関係が⋯」
「どうしても思い出せなかったら言って下さい」

 つまり、今は教える気はないと。
 もう面倒臭くなった俺は「あっそ」とだけ言うと、温くなったミルクティーに口をつけた。
 わざわざ俺が思い出す事もないだろうし、言わないなら知らない。
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