愛が重めの年下ワンコに懐かれました

ミヅハ

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しょんぼり犬

 日曜日、10時55分。
 どうしても待ち合わせ時間ピッタリに行くなんて落ち着かなくて、それでもいつもより遅めに家を出た俺は目の前の光景に溜め息を零した。

「1人? 遊ぼうよ」
「ちょっと、私たちが先に誘ってたんだけど?」
「選ぶ権利は彼にあるんだからいいじゃない」
「あっちでお茶でもどう?」

 背が高いからすぐに分かったけど、見事に女の子たちに囲まれた柊也は次々に飛んでくる言葉に割り込む事が出来ず困惑している。
 結局お前も早く来てるんかいなんてツッコミはこの際置いておいて、あれ、助けないと動けないよなぁ。優しいから、女の子に手荒な事は出来ないだろうし。

「⋯⋯仕方ない、行くか」

 女の子の集団は苦手なんだけど、まがりなりにも恋人の為だしと気合い入れて足を踏み出した瞬間、柊也と目が合いビクッとした。
 あからさまにホッとした柊也が、半ば無理やりに女の子の間から抜けて俺のところに歩いてくる。

「柚琉先輩、おはようございます」
「おはよう。お前、何時からいた?」
「2分くらい前からです」

 2分⋯俺があれを目撃してから1分は経過してるから、あの状態になるまで1分ほどしか掛からなかったという事か。モテるって、女の子って怖い。
 例え時間ぴったりに来てたとしても意味なかったのかも。

「あ、あのー⋯お友達ですか?」
「男の人だよね⋯?」
「めっちゃ綺麗な人⋯」

 顔を引き攣らせていると、さっきまで柊也を囲っていた女の子たちが遠慮がちに声をかけてきた。柊也が俺への視線を遮るように横にずれ手を繋いでくる。

「良かったらお友達も一緒に⋯」
「悪いけど、俺たちこれからデートだから」
「え?」

 そう言って繋いだ手を上げると見せ付けるように俺の手の甲に口付ける。俺も女の子たちも驚いてあんぐりと口を開けてる間に、爽やかな笑顔で「そういう事で」と言って歩き出した柊也に引かれて俺も足を動かした。
 コイツ、さっきまで困ってたくせに何てキザな事をするんだ。

「先輩、お腹空いてます?」
「空いてはないかな。でも柊也が空いてんならどっか入るか?」
「俺も大丈夫です。でも上映まで時間ありますよね」
「まぁ、余裕持って待ち合わせたし」

 何事にも猶予を作る事は大事だからな。
 混んでたら買いたい物も買えないし⋯と思ったけど、そういえばこういうのウザいって言われた事あった。映画観るだけなんだから始まるちょい前でもいいだろって。

「⋯⋯もしかして、上映時間に合わせた方が良かったか?」
「まさか。デートなんだからもっと早くてもいいですよ、俺は」
「⋯⋯⋯」

 そう、だよな。俺の思ってるデートもそんな感じだ。
 よくよく考えてみたら、デートらしいデートなんてした事ないかも。最後の奴だって、面倒臭いとか家でいいじゃんって考えだったし。
 ⋯⋯うわ、思い出したら腹が立ってきた。

「先輩? 何でそんな怖い顔してるんですか?」
「思い出しムカつき中」
「ぎゅうします?」
「⋯っぷ⋯あはは、何でだよ」

 眉間にシワが寄ってるのは分かってたけど、それを突っ込まれて更に思ってもいなかった返しをされ思わず笑ってしまった。
 ささくれ立っていた気持ちが落ち着いて息を吐いた俺は、繋がれた手に力を込めて柊也の腕に頭を寄せる。コイツのこういうとこ、ホントいいな。

「⋯甘えてくれてます?」
「んー? どっちだと思う?」
「くっ⋯弄ばれてる⋯」
「何、お前甘えられたいタイプなの?」

 犬っぽいしどっちかといえば甘えたいタイプに見えるんだけど、という言葉は飲み込んで見上げると、柊也は少し考えてから俺の顔をじっと見てきた。

「そこらへんはあんま分かんないですけど、先輩には甘えて欲しいって思いますね」
「ふーん。変わってんな」
「何でですか、もう」

 可愛い女の子ならまだしも、男に甘えられて嬉しいものか? ふざけ合うとかじゃれるとかは全然ありだと思うけど。
 そう思いながら柊也から少し離れた俺は、スマホで時間を確認して映画館のあるデパートの入口を指差した。

「とりあえず、先にチケット買いに行くか」
「はい」

 当たり前のように繋がれた手は離したくなくて、そのまま引っ張ってデパート内に入ると最上階にある映画館へと向かう。
 柊也がホラー耐性あるか分からないし、なるべく後ろの方の席がいいかな。


 それから少しデパート内をうろついて、時間が迫ってきたからポップコーンと飲み物を買って指定出来た後ろの席に並んで座ったんだけど、最初は楽しそうに見ていた柊也は次第にえぐくなる物語に青褪め始め、ホラー要素の強くなった後半になると頬を引き攣らせて固まってた。
 それを見て危うく吹き出しそうになったけど、少しでも気を紛らわしてやろうと肩に頭を預けたら俺の肩が抱かれてより密着させられる。
 額に唇が触れてるけど、縋りつくような仕草に押し返すのも可哀想で好きにさせてる間に映画は終わった。
 明るくなって腕を叩くと離れたけど、見るからにしょんぼりしてて苦笑する。

「やっぱ先に、軽めのホラー映画みるべきだったな」
「すいません⋯」
「気にしなくていいって。怖かったのに、最後まで一緒に見てくれてありがとな」

 シアターから出てロビーに戻りつつ、落ち込む柊也を宥める。
 もう耳が限界まで垂れてる姿が想像出来てしまう沈みっぷりだ。

「あーもー、情けなさすぎ⋯」
「そんな事ないから、元気出せ」
「俺、柚琉先輩の前ではカッコイイ男でいたいんです」
「いつもカッコイイって」

 ホラー映画は男でも女でも苦手な人は苦手なんだし、怯えたくらいでコイツのカッコ良さのレベルが落ちる訳がない。むしろ新しい表情が見られて嬉しかったのに。

「柊也⋯」
「あれ、知ってる顔はっけーん」

 甘い物でも食べたら気分も上がるかと近くのカフェに行くか提案しようとしたとき、もう二度と聞きたくなかった声が聞こえてきた。
 好きだと言った口で、俺を否定した男の声が。
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