愛が重めの年下ワンコに懐かれました

ミヅハ

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傍にいてあげたい

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 柊也と恋人になって早くも三ヶ月が経った。にも関わらず、アイツはやっぱりキスの一つもしてこないんだけど⋯いい加減俺の方が我慢の限界がきそうだ。

「俺ってもしかして魅力ない?」
「急にどうしたの?」
「アイツ、ぜんっぜん手ぇ出して来ない」

 それなりに雰囲気は出してると思うんだけどなぁ⋯それでも応えてくれないって事は、俺にアイツを興奮させるだけの魅力がないって結果になるんだけど。
 やさぐれる俺に、テーブルにグラスを置いた優里が呆れたように溜め息をつく。
 今日は莉央がパウンドケーキを作ったとやらで一人で暮らしてる優里の家にお邪魔しに来てて、あまりにも柊也が鈍感な事を愚痴ってた。

「裸になって迫るくらいしねぇと無理なんじゃね?」
「マジか⋯いや、別にヤりたいとかじゃなくて、せめてキスくらいはさー」
「ふふ」

 俺だって男なんだから性的欲求はあるし、好きな人と触れ合いたいって気持ちは少なからずある。いや、まだ未経験だけど普通に興味があるのっておかしくないよな?
 ちなみに元彼に服脱ぐのさえ嫌がるって言われたけど、別に嫌だった訳じゃなくて何か雰囲気が怖かったから脱ぎたくなかっただけだ。アイツの目、ギラギラしてたし。
 ⋯⋯あれ、そういやそもそもアイツってノンケだよな。男とそういう事出来んのか? もしかしなくてもそこまでの関係になるつもりはない、とか?
 なんて悶々と考えてたら可愛らしい笑い声が聞こえて眉根が寄る。

「え、莉央。笑うとかひどくない?」
「あ、ごめんね。でも、そういう事で柚琉が悩んでるのが珍しくて⋯しかもそれを僕たちに愚痴ってくれて嬉しいんだ」
「今までは別れてから言ってたっけ」
「そうそう。だから、いい方向にいってるんだなって思うよ」

 いい方向か⋯確かにあの男運のなさはなんだったってくらい柊也は優しい。まだ女の子との距離は近いけど、そこはもう年上の余裕として許容してやるべきかなとは思ってる。
 わざと胸を押し当ててる子には念を送ってるけど。

「でも、正直言うとまだ少しだけ怖い」
「⋯そうだよね」
「ま、柊也なら大丈夫なんじゃねぇの?」

 不思議と他人なんてどうでもいいってタイプのはずの優里は柊也への信頼度が高くて、よくアイツなら云々って言葉を口にする。いつの間にそんな仲良くなったんだって思うけど、人懐っこくて素直な柊也だからこそ毒気が抜かれるのかもしれないな。
 目の前に置かれた半分欠けたパウンドケーキにフォークを入れてちまちま食べてたら、不意にテーブルに置いていたスマホが震えた。
 何気なく確認して目を瞬く。

『先輩、すみません。明日のデート無理そうです』

 あの映画デート以降、柊也は日曜日にバイトを入れないようにしててその日を俺との時間に宛ててくれてた。明日は新しく出来たアパレルショップに行こうって約束してたんだけど⋯どうしたんだ?

『何かあったか?』
『昨日から風邪っぽかったんですけど、熱出ました』
『え、お前一人暮らしって言ってなかった?』
『はい。なので気合いで治します』
「何でだよ」

 そこで恋人を頼らないのって性格からなのか強がりなのか、ムッとした俺は残りのパウンドケーキを一口で食べ切るとカフェオレを飲み干して立ち上がった。

「柚琉?」
「アイツ、熱出したそうだからちょっと行ってくる」
「え!」
「パウンドケーキご馳走さま。めっちゃ美味かった」
「どういたしまして。気を付けてね」
「うん。じゃ、また! お邪魔しました!」

 若干駆け足になりながらも荷物を纏めて優里の部屋をあとにした俺は、柊也へメッセージを送りながらスーパーに駆け込む。何があって何がないのか分からないし、飲み物やゼリーとかはないよりマシだろうし。

『今から行く』
『嬉しいですけど、先輩にうつしたくないです』
『そんなヤワじゃないから』
『じゃあ、お言葉に甘えて待ってますね』

 文面からして元気がないように感じる。こういう時一人だと心細いし、動ける人がいるだけでも違うからどれだけ断られても行くつもりだ。
 ちなみに柊也は戻ってきて暫くは親御さんと住んでたらしいんだけど、父親が会社から長期の出張を言い渡されて母親も行くからと二ヶ月ほど前から一人暮らしを始めていた。まだ中に入った事はないものの、住所は知ってるし早々に合鍵も貰ったから問題ない。
 ついでに言えば、合鍵は柊也から「持ってて欲しいです」って言われて渡されてた。

 買い物を済ませ柊也が住むマンションの部屋前まで着いた俺は、取り出した鍵を挿そうとした瞬間嫌な記憶が蘇りビクリと身体が強張る。
 ここを開けて、もし誰かの声が聞こえたら⋯⋯そんな思いを払うように頭を振って鍵を挿し込み解錠した。そっと扉を開け、何の物音もしない静かな部屋にホッとする。
 初めて入った部屋だけど、柊也の匂いが満ちててドキドキしてきた。
 キッチンが備え付けられた短い廊下を抜け部屋に続く扉を開けると、すぐにこんもりと盛り上がったベッドが目に入る。そっと近付いたら赤い顔で苦しそうな寝息を立ててる柊也がいて息を吐いた。
 体温計が見当たらなくて、そっと額に触れてその熱さに眉を顰める。冷却シート買っといて正解だったな。
 箱から出してシートを剥がし、前髪を避けて額に貼り付けたら柊也の目蓋が震えてうっすら目が開いた。

「⋯⋯先輩⋯?」
「あ、ごめん。起こしたか?」
「⋯先輩がいる⋯」

 掠れた声に呼ばれ顔を覗き込みながら髪を撫でたらその手が弱々しく握られ、手の甲が口元に寄せられる。触れる唇も息も熱くて、これを一人で耐えようとしていたのかと胸が痛くなった。

「治るまでいるから、早く元気になれよ」

 デートなんていつでも出来るし、今は柊也の為にも傍にいてやりたい。
 泊まる覚悟をしてスマホを取り出した俺は、今は仕事中の母親へとその旨を認めたメッセージを送る。
 誰かの看病なんて初めてだけど、まぁ何とかなるだろう。
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