愛が重めの年下ワンコに懐かれました

ミヅハ

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会わなきゃいけない人

 夏休みが明け、残暑も厳しい中また学校が始まり俺と莉央は時間を合わせて一緒に受験勉強をするようになった。莉央はあの雰囲気のまま、優しく分かりやすく教えてくれるから先生として最高なんだ。
 ちなみに優里は今バイトとして雇って貰ってる服屋に就職するらしく、莉央が無事大学に合格した暁には同棲するらしい。
 正直羨ましいけど、俺が大学入れたとしても柊也はまだ高校生だからなぁ。おまけに今度は柊也が受験生だし、一緒に住めるにしたって一年か二年は先になるだろう。
 それにしたって中学の時も思ったけど、受験勉強ってホント嫌だ。

「頭がパンクしそう⋯」
「頑張って、柚琉。もう少しで休憩だよ」
「⋯莉央さんや、ここを教えてくれぬかね」
「うむ、よかろう」
「ありがたや~」
「勉強じゃなくてコントしてんのか」

 放課後、俺は莉央と優里と一緒に図書館に来ていた。
 かれこれ1時間は勉強してるけど、脳みそがショートしそうで少しでも楽しもうとふざけながら話してみたら、ノリのいい莉央は神妙に頷きながら俺が指差す場所を覗き込む。そこに優里のツッコミが入ったけど、見てるだけの人は無視だ。
 莉央の穏やかなでゆったりとした声に教えて貰いながらノートに記していたら、扉が引かれる音がして別の席にいた女の子たちがザワついた。
 顔を上げると柊也がこっちに歩いて来てるのが見えて首を傾げる。

「あれ、柊也。用事終わったのか?」
「はい。告白だったのでお断りしてきました」
「そっか」

 まぁそんな気はしてたけど、あの妹さんの件以来柊也はどんな事でも報告してくれるようになった。何か私生活を管理してるみたいで嫌なんだけど、柊也本人が率先して教えてくれるから止めるに止められなくて⋯ああ、優里の視線が痛い。
 柊也は俺の隣に腰を下ろすと、カバンからカフェオレのペットボトルを取り出し俺の前に置いた。

「休憩の時に飲んで下さいね」
「サンキュー」
「白河先輩と黒峰先輩もどうぞ」
「ん」
「ありがとう」

 これが可愛がられるところなんだろうな。
 とりあえず柊也を待たせるのも悪いし決めたところまでさっさとやってしまうか。
 改めてノートと向き直り問題を解き始めた俺を見て莉央がクスリと笑う。

「彼氏が来たらやる気増したね」
「⋯からかうなよ⋯」
「照れてるー。可愛いね、柚琉」
「あのさぁ⋯⋯」

 俺が真っ当な人と付き合えてる事が嬉しいのか知らないけど、最近の莉央はこうしてからかってくる事が増えた。そりゃ今までが腫れ物みたいな感じだったのかもしれないけどさ、これはこれで恥ずかしいというか。
 いい加減文句を言ってやろうかと莉央の方を向いたら、肩に腕が回ってきて後ろに引かれた。

「柚琉さんに可愛いって言っていいのは俺だけです」

 ムッとした声でそんな事を言う柊也にキョトンとした莉央は、優里と顔を見合わせたあとにこっと笑って手を合わせる。

「そうだよね、ごめんね。もう言わないから」
「約束ですよ」
「うん、約束」
「俺の意思は無視か」

 そもそも莉央ならともかく、男に対して可愛いは褒め言葉じゃない。なのにコイツらは当人そっちのけで約束してるし、何なんだ。
 柊也の腕を解き、姿勢を戻したら莉央が顔を寄せてきた。

「愛されてるね」
「だから⋯」
「からかってるんじゃないよ。柚琉が幸せで、僕も嬉しいんだから」
「莉央⋯」
「今度こそ、タブルデート出来るね」

 友達カップルとのダブルデートに憧れがあった俺は、初めて彼氏が出来た時に莉央にその話をしてじゃあしよっかって約束した事がある。結局すぐ別れたから叶わなかったんだけど、言われてみれば柊也となら出来るのか。
 柊也のおかげで、俺、色んな事が叶ってるな。

「行きたい場所は柚琉に任せるから、日程とか早めに決めちゃおっか」
「でも勉強⋯」
「気晴らしも大事だよ? 根詰め過ぎて、体調崩したら元も子もないんだから」
「そ、それもそっか」
「さっきから2人で何の話をしてるんですか?」

 勉強を進めるはずがコソコソと話しているからか、柊也が不満げな声でそう聞いてきた。
 莉央に目配せされ、せっかくだし聞いてみるかと柊也の方を向けばあからさまに拗ねた顔をしてる。それを見て苦笑し、柊也の手を握った俺は骨張った指を弄りながら問い掛けた。

「なぁ、柊也はダブルデートとかどう思う?」
「ダブルデートですか? 俺と柚琉さん、白河先輩と黒峰先輩?」
「う、うん」
「いいですね、楽しそうです」

 その返事と笑顔にホッとし、じゃあ日程を決めるかとまた莉央へと向き直ろうとしたら、握った手が引かれて柊也の胸元に寄り掛かる形になった。
 何だと見上げたらどこかバツの悪そうな柊也がいて眉を顰める。

「ただその前に、柚琉さんに会って欲しい子がいるんですけど⋯」
「会って欲しい子?」
「はい。⋯実は少し前、今後の事も考えて妹に柚琉さんの事を話したんです。そしたら会いたいって言われてしまって⋯」
「⋯あー⋯⋯」

 まぁそりゃそうだ。大好きな兄ちゃんに男の恋人が出来たなんて知ったら、さすがにじっとはしていられないだろう。
 しかもちょっとブラコンだって言ってたし⋯どうしよう、相応しくないって言われたら。
 俺が難しい顔をしてるからか、柊也は俺の頭にポンっと手を乗せると「気にしないで下さい」と言ってきた。

「妹には俺から言っておくんで大丈夫ですよ」
「あ、違う。会いたくないとかじゃなくて⋯」
「無理しなくてもいいですよ?」
「無理じゃない。柊也の大事な妹さんだろ? 会うよ、俺。⋯ただ、嫌われないかが不安だな」
「嫌われるなんて有り得ませんよ。柚琉さんならきっと気に入られます」

 だといいんだけどと思いつつもそれは口に出さず、手を離して柊也の背中に回すと頭頂部にキスされる。
 妹さんにとってははたぶん敵になるだろうから、なるべく粗相のないように頑張ろう。そう決めてしばらくくっついてたら視線を感じ、そこでようやくここが図書室だった事を思い出した俺は慌てて離れた。
 莉央の生温かい目や他の人の視線に、穴があったら入りたい状態になったのは言うまでもない。
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