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突拍子もない提案
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あのあと柊也と妹さんが何度か話をして日時を決めてくれたらしく、ついに今日その日がやってきた。
妹さんの住んでる県に俺たちが行っても良かったんだけど、万が一母親に見付かったら大変だからとこっちに来てくれる事になったそうだ。もちろん、交通費やら何やらは俺たち持ちで。
前日は柊也の家に泊まり、一緒に待ち合わせ場所で待ってるんだけど、俺は今めちゃくちゃ緊張してる。
「柚琉さん、大丈夫ですか?」
「⋯⋯たぶん」
「悪い子ではないと思うので⋯」
「それはまぁ⋯うん」
悪い子云々ではなくて、恋人の身内に会う事自体が初めてだからこうなってる訳で⋯俺、ちゃんと話せるかな。
口から心臓が出そうで柊也の手を握って耐えてると、遠くの方から「柊くん」という可愛らしい声が聞こえてきた。見ると確かにあの時に見た女の子が笑顔で手を振りながら走って来てて、柊也の傍に来るなり抱き着く。
妹さんって分かってるけど、モヤっとする。
「こら、抱き着いたら駄目だって言っただろ?」
「どうして? 今までそんな事言わなかったのに」
「恋人が出来たからだよ」
それを聞いた瞬間、妹さんはこっちを向き可愛い顔を思いっきり顰めた。
俺の前に立ち、俺の頭のてっぺんからつま先までをじっくりと見て唇を尖らせる。
「綺麗な人だけど、どうして男の人なの?」
「瑠璃」
「私、お姉ちゃんが出来るの楽しみにしてたのに!」
あー⋯それはめちゃくちゃ申し訳ない。そうだよな、女の子ならお姉ちゃん欲しいって思うよな。
でも謝るのも何か違う気がするし、性別はどうにもならないからとりあえず1歩前に出た俺はにこっと笑いかけた。
「初めまして。お兄さんとお付き合いをさせて頂いてます、宮脇柚琉です」
「⋯⋯⋯」
「瑠璃?」
「⋯⋯畠中 瑠璃⋯です⋯」
「瑠璃ちゃんでいいかな?」
「⋯どうぞ」
「ありがとう、宜しくな」
警戒心バッチバチだけど、この子の気持ちも分かるから何も言えない。
だけどどうやって心を開いて貰うか、難しいなと悩んでたらまた俺の顔を見てきた瑠璃ちゃんが不意にニヤリと笑った。
「いい事思い付いちゃった」
「え?」
「私の友達のお姉ちゃんスタイリストさんなんだけど、最近新しい事にも挑戦したいって言ってたんですよね。宮脇さん打って付けかも」
「柚琉でいいんだけど⋯何の話だ?」
「今日一日、私のお姉ちゃんとして過ごして貰います」
「「はい?」」
予想もしていなかった言葉に思わず柊也とハモる。
〝今日一日お姉ちゃんとして過ごす〟? それが指すものってつまりアレだよな⋯女装⋯。
え、俺、女装させられんの? つまりはそれが試練って事?
「瑠璃、何言って⋯」
「だって柊くんも柚琉さんも、私には認めて欲しいんでしょ? だったらこれくらいこなしてくれなきゃ。私はお姉ちゃんが欲しいって夢を諦める事になるんだから」
「それはそうだけど⋯」
「出来ないなら、私は認めない」
そうだよな、瑠璃ちゃんの言う事は最もだ。大好きで唯一の兄である柊也が俺と付き合ってる以上、異性と結婚なんてしないしお姉ちゃんは難しいよな。
もっと先を見れば、瑠璃ちゃんの結婚相手に姉がいる可能性も無きにしも非ずだけど⋯まぁそれはもしもの話だし、俺の本気と大事な兄を任せられるかどうかを試すって事なら応えるべきだろう。
「瑠璃、我儘は⋯」
「いいよ、やる」
「柚琉さん」
「俺、瑠璃ちゃんと仲良くなりたいし」
「⋯⋯⋯」
柊也の恋人としてじゃなくても、せめて友人くらいに思って貰えたら嬉しい。
思春期の女の子だしなかなか難しいかもしれないけど、そう言って笑えば少しの間黙り込んだ瑠璃ちゃんがくるりと背中を向けて歩き出した。
「その人に電話してくる」
「見えるところでね」
「分かってる」
お兄ちゃんっぷりを発揮する柊也に眉尻を下げ、離れた場所で立ち止まった瑠璃ちゃんがスマホを取り出して電話をかけ始める。
それを見るともなしに見てたら、隣に立った柊也が溜め息をついた。
「すみません、柚琉さん」
「全然いいって、むしろ可愛い方だろ。ってか、瑠璃ちゃん優しいよ。本当は複雑だし嫌だって言いたいだろうに、お前の為に自分の気持ちに区切り付けようとしてる」
「でも女装なんて⋯」
「まぁ確かにそれはな⋯俺が女装したところで化け物にしかならないだろうし、その点では瑠璃ちゃんに申し訳ないかも」
どこにでもいる平々凡々な男が化粧して女の子の格好したところで男だし、瑠璃ちゃんのように可愛い子の姉としてはハズレもいいところだ。
それこそ莉央みたいな華奢な子だったら似合うんだろう。
最悪、女装した瞬間不合格になるかもしれないし。
「柚琉さんは綺麗です」
「恋人の欲目⋯」
「言っときますけど、そう思ってるのは俺だけじゃないですからね。俺のクラスの子たちも、柚琉さんは綺麗だって言ってます」
「まさか」
「本当です。そんな柚琉さんの女装姿なんて誰にも見せたくないのに⋯そもそも何で女装? 世の中にはユニセックスというものが存在するのに何で敢えて女装?」
凄いぶつぶつ言ってるな。
瑠璃ちゃんの思うお姉ちゃん像がたぶんいかにも女の人ーって感じなんだろうが、俺の女装に引っ張られてる柊也には分からないのかも。
俺はもうやるって決めたから覚悟してるけど、せめて露出は少なくあれ。
贅沢言うならパンツスタイルでと願ってたら、電話を終えたらしい瑠璃ちゃんが戻ってきて柊也の腕に腕を絡めた。
「今から行っても大丈夫だそうだから移動しよ」
「ちょ、瑠璃」
「電車だから、切符宜しくね」
引っ張られるままに俺の方を向く柊也に好きにさせてやれと頷きつつ、いつも繋いでいる右手の寂しさも感じながら俺は二人のあとを追う。
少しでも、俺に心を開いてくれるといいんだけどなぁ。
妹さんの住んでる県に俺たちが行っても良かったんだけど、万が一母親に見付かったら大変だからとこっちに来てくれる事になったそうだ。もちろん、交通費やら何やらは俺たち持ちで。
前日は柊也の家に泊まり、一緒に待ち合わせ場所で待ってるんだけど、俺は今めちゃくちゃ緊張してる。
「柚琉さん、大丈夫ですか?」
「⋯⋯たぶん」
「悪い子ではないと思うので⋯」
「それはまぁ⋯うん」
悪い子云々ではなくて、恋人の身内に会う事自体が初めてだからこうなってる訳で⋯俺、ちゃんと話せるかな。
口から心臓が出そうで柊也の手を握って耐えてると、遠くの方から「柊くん」という可愛らしい声が聞こえてきた。見ると確かにあの時に見た女の子が笑顔で手を振りながら走って来てて、柊也の傍に来るなり抱き着く。
妹さんって分かってるけど、モヤっとする。
「こら、抱き着いたら駄目だって言っただろ?」
「どうして? 今までそんな事言わなかったのに」
「恋人が出来たからだよ」
それを聞いた瞬間、妹さんはこっちを向き可愛い顔を思いっきり顰めた。
俺の前に立ち、俺の頭のてっぺんからつま先までをじっくりと見て唇を尖らせる。
「綺麗な人だけど、どうして男の人なの?」
「瑠璃」
「私、お姉ちゃんが出来るの楽しみにしてたのに!」
あー⋯それはめちゃくちゃ申し訳ない。そうだよな、女の子ならお姉ちゃん欲しいって思うよな。
でも謝るのも何か違う気がするし、性別はどうにもならないからとりあえず1歩前に出た俺はにこっと笑いかけた。
「初めまして。お兄さんとお付き合いをさせて頂いてます、宮脇柚琉です」
「⋯⋯⋯」
「瑠璃?」
「⋯⋯畠中 瑠璃⋯です⋯」
「瑠璃ちゃんでいいかな?」
「⋯どうぞ」
「ありがとう、宜しくな」
警戒心バッチバチだけど、この子の気持ちも分かるから何も言えない。
だけどどうやって心を開いて貰うか、難しいなと悩んでたらまた俺の顔を見てきた瑠璃ちゃんが不意にニヤリと笑った。
「いい事思い付いちゃった」
「え?」
「私の友達のお姉ちゃんスタイリストさんなんだけど、最近新しい事にも挑戦したいって言ってたんですよね。宮脇さん打って付けかも」
「柚琉でいいんだけど⋯何の話だ?」
「今日一日、私のお姉ちゃんとして過ごして貰います」
「「はい?」」
予想もしていなかった言葉に思わず柊也とハモる。
〝今日一日お姉ちゃんとして過ごす〟? それが指すものってつまりアレだよな⋯女装⋯。
え、俺、女装させられんの? つまりはそれが試練って事?
「瑠璃、何言って⋯」
「だって柊くんも柚琉さんも、私には認めて欲しいんでしょ? だったらこれくらいこなしてくれなきゃ。私はお姉ちゃんが欲しいって夢を諦める事になるんだから」
「それはそうだけど⋯」
「出来ないなら、私は認めない」
そうだよな、瑠璃ちゃんの言う事は最もだ。大好きで唯一の兄である柊也が俺と付き合ってる以上、異性と結婚なんてしないしお姉ちゃんは難しいよな。
もっと先を見れば、瑠璃ちゃんの結婚相手に姉がいる可能性も無きにしも非ずだけど⋯まぁそれはもしもの話だし、俺の本気と大事な兄を任せられるかどうかを試すって事なら応えるべきだろう。
「瑠璃、我儘は⋯」
「いいよ、やる」
「柚琉さん」
「俺、瑠璃ちゃんと仲良くなりたいし」
「⋯⋯⋯」
柊也の恋人としてじゃなくても、せめて友人くらいに思って貰えたら嬉しい。
思春期の女の子だしなかなか難しいかもしれないけど、そう言って笑えば少しの間黙り込んだ瑠璃ちゃんがくるりと背中を向けて歩き出した。
「その人に電話してくる」
「見えるところでね」
「分かってる」
お兄ちゃんっぷりを発揮する柊也に眉尻を下げ、離れた場所で立ち止まった瑠璃ちゃんがスマホを取り出して電話をかけ始める。
それを見るともなしに見てたら、隣に立った柊也が溜め息をついた。
「すみません、柚琉さん」
「全然いいって、むしろ可愛い方だろ。ってか、瑠璃ちゃん優しいよ。本当は複雑だし嫌だって言いたいだろうに、お前の為に自分の気持ちに区切り付けようとしてる」
「でも女装なんて⋯」
「まぁ確かにそれはな⋯俺が女装したところで化け物にしかならないだろうし、その点では瑠璃ちゃんに申し訳ないかも」
どこにでもいる平々凡々な男が化粧して女の子の格好したところで男だし、瑠璃ちゃんのように可愛い子の姉としてはハズレもいいところだ。
それこそ莉央みたいな華奢な子だったら似合うんだろう。
最悪、女装した瞬間不合格になるかもしれないし。
「柚琉さんは綺麗です」
「恋人の欲目⋯」
「言っときますけど、そう思ってるのは俺だけじゃないですからね。俺のクラスの子たちも、柚琉さんは綺麗だって言ってます」
「まさか」
「本当です。そんな柚琉さんの女装姿なんて誰にも見せたくないのに⋯そもそも何で女装? 世の中にはユニセックスというものが存在するのに何で敢えて女装?」
凄いぶつぶつ言ってるな。
瑠璃ちゃんの思うお姉ちゃん像がたぶんいかにも女の人ーって感じなんだろうが、俺の女装に引っ張られてる柊也には分からないのかも。
俺はもうやるって決めたから覚悟してるけど、せめて露出は少なくあれ。
贅沢言うならパンツスタイルでと願ってたら、電話を終えたらしい瑠璃ちゃんが戻ってきて柊也の腕に腕を絡めた。
「今から行っても大丈夫だそうだから移動しよ」
「ちょ、瑠璃」
「電車だから、切符宜しくね」
引っ張られるままに俺の方を向く柊也に好きにさせてやれと頷きつつ、いつも繋いでいる右手の寂しさも感じながら俺は二人のあとを追う。
少しでも、俺に心を開いてくれるといいんだけどなぁ。
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