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まるで姉妹(柊也視点)
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俺の目の前で、可愛い妹と愛しい恋人があれもいいこれもいいと話してる。
その光景自体は微笑ましいし、瑠璃も多少なりとも柚琉さんに心を許してくれているようで嬉しくはなるけど、俺が一番問題視しているのは柚琉さんの格好だ。
ライトブラウンでミディアムヘアーのストレートウィッグ、アイボリーの七分袖シャツに透け感のある膝丈の花柄チュールスカート。足元にヒールの低いパンプスを合わせた柚琉さんは、ナチュラルメイクと合わさって完全に女性になってた。
それもとんでもなく美人な。
もともとが美人なんだから、プロの手にかかれば破壊力が増すのは分かりきってるとはいえ⋯瑠璃の友達のお姉さんとやらが物凄く興奮してた。
「柚琉さんならどっちの匂いが好きですか?」
「んー⋯こっちかな。甘いのより爽やかな方が好きだし」
「あ、それ分かります」
「夏場とかは特にな」
「色んな匂い混じりますしね」
かれこれ三十分、香水のテスターを嗅いでは話してるけど鼻がおかしくならないんだろうか。というか、柚琉さんは何も付けなくてもいい匂いがするんだから香水なんていらない。
それに、あそこにいたら柚琉さんの匂いが消えそうで嫌なんだけど。
「あのー、お一人ですか?」
「え?」
「良かったらお茶でも⋯」
店には入らず入口近くで二人を見ていた俺は不意に声をかけられ目を瞬く。振り向くと恐らくは年上の女性がいて、控えめに笑いながらそう聞いてきたけど⋯生憎と一人ではないし知らない人とお茶を飲むつもりはない。
断ろうと口を開きかけた時、右腕に誰かが抱き着いてきた。
「コイツ、俺のなんで」
「え⋯」
「他当たってくれ」
そう言って呆けてる女性を置いて瑠璃のところへ戻った柚琉さんは、俺を見上げると怒った顔をして人差し指を立てる。
そんな顔さえいつもよりも何割増しで可愛い。
「お前な、一人でいたら声かけられんの当然なんだから、なるべく近くにいろよ」
「そうだよ。柊くんカッコいいんだから気を付けないと」
「そんな事ないけど⋯」
「何で自分の事になると無頓着になるんだ」
その言葉、そっくりそのまま柚琉さんに返したいけど「何言ってんだ」って返されるのがオチだから苦笑だけに留めておき、柚琉さんの唇に当たりそうな髪を耳にかける。
小ぶりなイヤリングが揺れてチラリと光った。
こういうの、慣れてないと違和感凄いだろうに、瑠璃の為に耐えてくれてるんだよな。
本当、優しい人だ。
というか、よくよく考えれば、俺が傍にいないとこの二人がナンパされるかもしれないのか。それは良くない。
「服見てもいいですか?」
「もちろん」
「柚琉さんにも選んであげますね」
「⋯⋯男物だよな?」
「やだ、何言ってるの。お姉ちゃん」
「あ⋯ですよね」
あくまで今は〝瑠璃の姉〟でいて欲しいんだろうけど、あんまり柚琉さんを困らせないで欲しい。
でもこれは柚琉さんが決めた事だから俺は口を出せないし、瑠璃に独り占めされてるモヤモヤを抱きながら服屋に向かう二人を追い掛けた。
俺のバイト代は基本的には自分の欲しい物を買う事にでも使いなさいと言われていて、結果的に一人暮らしをせざるを得なくなった俺の食費や家賃、水道光熱費は申し訳なく思った親が払ってくれていた。
だからバイトしてる理由はまぁ自分の為にってより友達の誕生日プレゼントとか、将来瑠璃が自立する時に少しでもカンパ出来るようになんだけど、柚琉さんと付き合えた今はデート代としても使うようになってる。
とはいえ月に使う金額もそんなにないから現状貯金は出来ていて、柚琉さんに服を買ってあげるくらいは余裕だった。
「お前、バカ、それ戻せ」
「でも瑠璃が似合うって」
「女装は今回限りに決まってるだろ」
「え?」
「え? じゃない!」
瑠璃が手に取った服を柚琉さんに宛て、可愛いと言うたびにそれを持ってたんだけど、うっかり柚琉さんに気付かれて取り上げられ戻されてしまう。
家でも着て貰おうと思ってたのに。
それにしても、最初はツンケンしてた瑠璃がいつの間にか打ち解けて笑顔まで見せるようになってる。これも柚琉さんの力かと思ってたら、不意に目の前に色違いのワンピースが差し出された。
「?」
「柚琉さんとお揃いにしたいから、これ買って」
「いいんですか?」
「お姉ちゃんになるはずだった人とお揃いの服が着たかったって言われたら断れないだろ」
お人好しだなと苦笑しつつワンピースを受け取ると、瑠璃はすぐに柚琉さんの腕に抱き着き別の場所へ向かう。
本人が受け入れてるから仕方ないとは思いつつも、ずっと柚琉さんの隣を陣取っている瑠璃には正直妬いていた。俺の柚琉さんなのに、あんなに可愛くなってるのに、手も繋げないなんで悲しすぎる。
瑠璃が帰ったら絶対うちに連れて帰るって決めた。
絶対抱く。
「ありがとうございましたー」
ワンピースの代金を払い二人を探すけどもう店内にはいないようで、俺はやれやれと息を吐く。
どうしてこう、俺の目が届かない場所に行くんだか。
足早に店から出ると、瑠璃の「しつこい!」って声が聞こえてきた。ハッとして慌てて声のした方へ向かうと、靴屋の前で男三人に囲まれてる二人の姿が見え眉根が寄る。
柚琉さんは瑠璃を庇うように前に立ってるけど、見た目がアレだからあの男たちもただニヤニヤしてるだけで引こうともしていない。
真ん中にいる男が一歩踏み出し柚琉さんの腕を掴んだ瞬間、俺の中でザワっと黒い感情が渦を巻いた。
大股で近付き男の腕を掴んだ俺は、睨み付けるように見下ろす。
「気安くその人に触るな」
俺だって今日はまだ触れていないのに。
その光景自体は微笑ましいし、瑠璃も多少なりとも柚琉さんに心を許してくれているようで嬉しくはなるけど、俺が一番問題視しているのは柚琉さんの格好だ。
ライトブラウンでミディアムヘアーのストレートウィッグ、アイボリーの七分袖シャツに透け感のある膝丈の花柄チュールスカート。足元にヒールの低いパンプスを合わせた柚琉さんは、ナチュラルメイクと合わさって完全に女性になってた。
それもとんでもなく美人な。
もともとが美人なんだから、プロの手にかかれば破壊力が増すのは分かりきってるとはいえ⋯瑠璃の友達のお姉さんとやらが物凄く興奮してた。
「柚琉さんならどっちの匂いが好きですか?」
「んー⋯こっちかな。甘いのより爽やかな方が好きだし」
「あ、それ分かります」
「夏場とかは特にな」
「色んな匂い混じりますしね」
かれこれ三十分、香水のテスターを嗅いでは話してるけど鼻がおかしくならないんだろうか。というか、柚琉さんは何も付けなくてもいい匂いがするんだから香水なんていらない。
それに、あそこにいたら柚琉さんの匂いが消えそうで嫌なんだけど。
「あのー、お一人ですか?」
「え?」
「良かったらお茶でも⋯」
店には入らず入口近くで二人を見ていた俺は不意に声をかけられ目を瞬く。振り向くと恐らくは年上の女性がいて、控えめに笑いながらそう聞いてきたけど⋯生憎と一人ではないし知らない人とお茶を飲むつもりはない。
断ろうと口を開きかけた時、右腕に誰かが抱き着いてきた。
「コイツ、俺のなんで」
「え⋯」
「他当たってくれ」
そう言って呆けてる女性を置いて瑠璃のところへ戻った柚琉さんは、俺を見上げると怒った顔をして人差し指を立てる。
そんな顔さえいつもよりも何割増しで可愛い。
「お前な、一人でいたら声かけられんの当然なんだから、なるべく近くにいろよ」
「そうだよ。柊くんカッコいいんだから気を付けないと」
「そんな事ないけど⋯」
「何で自分の事になると無頓着になるんだ」
その言葉、そっくりそのまま柚琉さんに返したいけど「何言ってんだ」って返されるのがオチだから苦笑だけに留めておき、柚琉さんの唇に当たりそうな髪を耳にかける。
小ぶりなイヤリングが揺れてチラリと光った。
こういうの、慣れてないと違和感凄いだろうに、瑠璃の為に耐えてくれてるんだよな。
本当、優しい人だ。
というか、よくよく考えれば、俺が傍にいないとこの二人がナンパされるかもしれないのか。それは良くない。
「服見てもいいですか?」
「もちろん」
「柚琉さんにも選んであげますね」
「⋯⋯男物だよな?」
「やだ、何言ってるの。お姉ちゃん」
「あ⋯ですよね」
あくまで今は〝瑠璃の姉〟でいて欲しいんだろうけど、あんまり柚琉さんを困らせないで欲しい。
でもこれは柚琉さんが決めた事だから俺は口を出せないし、瑠璃に独り占めされてるモヤモヤを抱きながら服屋に向かう二人を追い掛けた。
俺のバイト代は基本的には自分の欲しい物を買う事にでも使いなさいと言われていて、結果的に一人暮らしをせざるを得なくなった俺の食費や家賃、水道光熱費は申し訳なく思った親が払ってくれていた。
だからバイトしてる理由はまぁ自分の為にってより友達の誕生日プレゼントとか、将来瑠璃が自立する時に少しでもカンパ出来るようになんだけど、柚琉さんと付き合えた今はデート代としても使うようになってる。
とはいえ月に使う金額もそんなにないから現状貯金は出来ていて、柚琉さんに服を買ってあげるくらいは余裕だった。
「お前、バカ、それ戻せ」
「でも瑠璃が似合うって」
「女装は今回限りに決まってるだろ」
「え?」
「え? じゃない!」
瑠璃が手に取った服を柚琉さんに宛て、可愛いと言うたびにそれを持ってたんだけど、うっかり柚琉さんに気付かれて取り上げられ戻されてしまう。
家でも着て貰おうと思ってたのに。
それにしても、最初はツンケンしてた瑠璃がいつの間にか打ち解けて笑顔まで見せるようになってる。これも柚琉さんの力かと思ってたら、不意に目の前に色違いのワンピースが差し出された。
「?」
「柚琉さんとお揃いにしたいから、これ買って」
「いいんですか?」
「お姉ちゃんになるはずだった人とお揃いの服が着たかったって言われたら断れないだろ」
お人好しだなと苦笑しつつワンピースを受け取ると、瑠璃はすぐに柚琉さんの腕に抱き着き別の場所へ向かう。
本人が受け入れてるから仕方ないとは思いつつも、ずっと柚琉さんの隣を陣取っている瑠璃には正直妬いていた。俺の柚琉さんなのに、あんなに可愛くなってるのに、手も繋げないなんで悲しすぎる。
瑠璃が帰ったら絶対うちに連れて帰るって決めた。
絶対抱く。
「ありがとうございましたー」
ワンピースの代金を払い二人を探すけどもう店内にはいないようで、俺はやれやれと息を吐く。
どうしてこう、俺の目が届かない場所に行くんだか。
足早に店から出ると、瑠璃の「しつこい!」って声が聞こえてきた。ハッとして慌てて声のした方へ向かうと、靴屋の前で男三人に囲まれてる二人の姿が見え眉根が寄る。
柚琉さんは瑠璃を庇うように前に立ってるけど、見た目がアレだからあの男たちもただニヤニヤしてるだけで引こうともしていない。
真ん中にいる男が一歩踏み出し柚琉さんの腕を掴んだ瞬間、俺の中でザワっと黒い感情が渦を巻いた。
大股で近付き男の腕を掴んだ俺は、睨み付けるように見下ろす。
「気安くその人に触るな」
俺だって今日はまだ触れていないのに。
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