愛が重めの年下ワンコに懐かれました

ミヅハ

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可愛いおねだり

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 まさか、ここまで本格的に女装させられるとは思わなかった。
 長めの髪も裾から風が入ってくるスカートも低くても踵のある靴も、全部慣れなさ過ぎて落ち着かない。特にイヤリングと付け睫毛が本当に違和感。
 でも瑠璃ちゃんが笑ってくれてるから、もうそれだけでいいかもって思ってる。こんな事くらいで柊也との交際を認めて貰えるなら安いものだ。
 それにしたって見目のいい柊也の妹さんなだけあって、瑠璃ちゃんは紛う事なき美少女だ。男共がハッとして目元を染め振り返るけど、本人は気付いていないのか敢えての無視なのか気にも止めない。
 でも、そんな中でも声をかけて来る奴はいるもので、ニヤニヤと気持ちの笑い笑みを浮かべた男が三人、馴れ馴れしく近付いてきた。

「君たちめーっちゃ可愛いね。二人で遊んでんの?」
「危ないよー? お兄さんたちと一緒にいた方が安心じゃない?」
「そうそう、ここらへん治安悪いしー」

 お前らのがよっぽと治安悪いわって言いたいけど、瑠璃ちゃんがいるから反応さえしないでいたらあろう事か瑠璃ちゃんに触ろうとしてきた。
 慌てて腕を引いて背中に隠し、男を睨み付けると下卑た笑いを浮かべる。

「この美人さん気ぃつよー。オレのタイプだわ」
「俺こっちの子がいいな」
「ナンパはお断り。あっち行って」
「おお、この子も気が強そう」

 話したら男だとバレるし、そうなった時に瑠璃ちゃんだけ連れて行かれるのも困るから黙ってたんだけど、無視しても睨んでも引かないとかどんなメンタルしてんだ。

「いいじゃん。オレたちいい遊び場知ってるからさ、一緒に行こうよ」
「行かない」
「楽しんで貰える自信あるからさ」
「行かないってば」
「えー、行こうよ。五人で楽しい事しようよ」
「しつこい!」

 おっと、瑠璃ちゃんのイライラメーターが限界だ。
 どうにかこの子だけでも柊也のところに行かせられないかなと思ってたら、真ん中でじっと俺を見てた男が寄って来て俺の腕を掴む。瞬間ゾワッと総毛立ち、反射的に引き離そうと拳を握ると誰かが俺の前に立った。
 顔を上げると柊也がいて、怒った顔をして男を見てる。

「この人に気安く触るな」

 いつもより低い声が、そう言って男の腕を強く掴んでる。痛いのか顔を顰めた男が手を離し、柊也を振り払って眉を吊り上げた。

「いってぇな! 何だよお前!」
「この人の彼氏で、この子の兄だけど?」

 うん、何一つ間違ってないな。
 間に入る正当性を持つ柊也にぐうの音も出ないのか、男は歯噛みしながら後ろに下がると、結局何も言えないまま舌打ちだけして立ち去って行った。
 あんだけグイグイ来てたんだから、せめて捨て台詞くらいは欲しかったよ。
 人並みの向こうに消えて行く三人を眺めてたら、こっちを振り向いた柊也に抱き締められた。

「遅くなってすみません⋯」
「いや、別に大丈夫だけど⋯ってか、お前はまず瑠璃ちゃんの心配をしろ」

 俺は男だから、同じ男にナンパされたところで何とも思わないけど瑠璃ちゃんは違う。強気でも内心は怖かったかもしれないんだから、俺よりも妹を先に心配してやるべきだ。
 そう言うと柊也はしょんぼりした顔をしながらも腕を離し、瑠璃ちゃんへと向き合うと頭を撫でて顔を覗き込む。

「瑠璃、大丈夫?」
「私は別に⋯柚琉さんが庇ってくれたから」
「あんなの庇ったうちに入らないよ」
「⋯⋯⋯」
「瑠璃?」
「⋯私、ちょっとお手洗い行ってくる」
「あ、うん」

 さっきの今で危ないよとは思うけど、俺たちどっちも男だからついては行けないんだよな。幸い近くにあるコンビニを選んでるし、店の中なら店員さんもいるし大丈夫だろう。
 ちょっと休憩したいと思って辺りを見回してたら、不意に手が握られ引き寄せられた。

「ちょ⋯」
「こんなに近くにいるのに、手も繋げなくて寂しかったです」
「あ、ごめん」
「柚琉さんのせいじゃないですけど⋯あ」
「え、何?」

 不意に何かに気付いた柊也に繋いだままの手を引かれ、近くの雑貨屋の入口まで連れて行かれる。何か欲しい物でもあったのかと首を傾げてたら、ジグソーパズル型のキーホルダーを二つ手に取って見せてきた。
 それぞれに〝S〟と〝Y〟ってアルファベットが入ってて、目を瞬いてると柊也が嬉しそうに揺らす。

「これ、俺と柚琉さんのイニシャルなんで、お揃いで持ちませんか?」
「え?」
「ちなみに俺は〝Y〟の方を貰います」

 って事は俺は〝S〟で、のを持つって事か。何だその可愛い発想。
 思わず吹き出した俺に柊也が眉尻を下げる。

「だ、駄目ですか?」
「あはは、いいよ。お揃いで持つか」
「やった。買って来ます!」
「あ、待った。俺のは俺が買う」
「え?」
「そっちの方が交換してる感じしないか?」
「⋯確かに」

〝交換〟なんだから、買って貰ったやつじゃ意味ないからな。
 そう言って手を出すと〝Y〟のキーホルダーが渡され、瑠璃ちゃんが戻って来た時の事を考えて順番にレジで支払いを済ませる。
 それから交換したんだけど、その時の柊也が本当に嬉しそうで俺は思わず手を伸ばして頭を撫で回してた。いちいち反応が可愛いんだよな。

「柊くん」

 持ち歩いてる柊也の部屋の鍵にキーホルダーを着けてたら瑠璃ちゃんが戻ってきて、同じようにスマホに着けてた柊也へと声をかけてきた。
 その表情は複雑そうで、まだ認めて貰えないかと肩を落としてたら瑠璃ちゃんに手を掴まれる。

「私、もう帰ろうと思ってるんだけど、その前に少し柚琉さんとお話したいです」
「あ、うん。いいよ」
「柊くんは離れたところにいて」
「え!」
「絶対近くに来ないでよ」

 可愛い妹に釘まで刺されてしゅんとなる柊也には同情してしまうけど、果たして何の話をされるんだろう。もしかして、やっぱり別れてとか言われるのかな。
 そうなったらどうしようかと思いつつ、俺は瑠璃ちゃんに手を引かれるまま歩き出した。
 その後ろを、距離を保ってついてくる柊也に苦笑しながら。
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