愛が重めの年下ワンコに懐かれました

ミヅハ

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満ちて溢れる

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 瑠璃ちゃんが足を止めたのは、駅を抜けた先にある人気の少ない裏の公園だった。
 近付くなと言われた柊也は律儀に大回りでブランコまで行き、腰を下ろして揺らし始めたけど遠目に見ても寂しそうで「くーん」て鳴き声が聞こえてきそうだ。

「私、本当は柚琉さんの事、振り回すだけ振り回してやっぱりやだって言うつもりでした」
「⋯うん」
「柊くんから恋人が出来て、相手が男の人だって聞いた時信じられないって思って⋯全力で否定してやろうと思ったんです。だって、私にとって柊くんは全てと言っても過言じゃないくらい大きな存在で、柊くんだけが私の家族だからそんなぽっと出の人になんて取られたくないって⋯⋯」
「うん」

 そりゃそうだ。
 この世でたった1人の兄であり、瑠璃ちゃんにとっては唯一の拠り所である柊也に恋人が出来ただけじゃなく、それが男だってなったら受け入れ難いよな。
 瑠璃ちゃんの気持ちは良く分かる。

「でも、柚琉さん思った以上にいい人だから⋯私の無茶振りにも応えてくれて、話とかもちゃんと聞いてくれるし⋯⋯何より、柊くんのあんな笑顔、久し振りに見た」
「⋯⋯⋯」
「柚琉さんがもっと嫌な人なら良かったのに」
「えーっと⋯⋯何かごめん」
「謝っちゃうんだもんなぁ⋯」

 大好きな兄ちゃんを奪った時点で嫌な人だと思うんだけど⋯瑠璃ちゃん的にはそういうんじゃないのかな。
 何て言ったらいいか分からなくて黙ってたら、俯いてしばらく黙り込んだ瑠璃ちゃんは大きく息を吐くと俺を見上げてはにかんだ。

「仕方ないから認めてあげます。私だって柊くんには幸せになって欲しいもん。その代わり、また私のお姉ちゃんになってお買い物付き合って下さいね」
「⋯マジか⋯」

 てっきり女装は認めて貰うまでの試練で今回限りだと思ってたのに⋯はっ、もしかして瑠璃ちゃんがねだるたびにお姉ちゃんをしなきゃいけないとか?
 顔を引き攣らせる俺にクスクスと笑う瑠璃ちゃんにはもう壁は感じなくて、俺はホッとして表情を緩める。まだ中学生なんだもんな、甘えてくれるならそれに応えてあげたいよ。

「お兄ちゃんの事、宜しくお願いしますね。柚琉さん」
「任せとけ」

 兄思いのこの子に心配をかけないようにしないとな。
 そのあと1人寂しく遊んでいた柊也を呼んだら、一気に笑顔になって尻尾を振りながらこっちへ来るなり俺へと抱き着いてきた。
 それから駅へと向かい、母親のいる家へと帰る瑠璃ちゃんに何かあったら絶対連絡するよう2人で念押して見送ったけど、あの子のこの先が幸せである事を願うしか出来ないのがもどかしい。
 ちなみに俺が身に着けていた一式は友達のお姉さんからのお礼らしく、今だに女装は解除されていなかった。

「柚琉さん」
「うん?」
「夕飯、テイクアウトでもいいですか?」
「それは別に構わないけど⋯」

 急に何を言うんだと目を瞬いたら腰が抱かれ、整った顔が近付いてきた。
 その表情がどこか拗ねている気がしてますますハテナが浮かぶ。

「その格好もめちゃくちゃ可愛いんですけど、早くうちに帰って本来の柚琉さんに戻って欲しいです」
「そりゃもちろんだけど⋯」
「お風呂、一緒に入りましょうね」

 その言葉に含まれているものを知りジト目になった俺は、溜め息をつくと柊也の手を外して1人歩き出した。正直なのは嫌いじゃないけど、いいとも思うけど、ちょっとはこう雰囲気みたいなのも大事にして欲しい。
 俺が夢見過ぎてんのかな。

「ゆ、柚琉さん⋯?」

 スタスタと歩く俺の後ろを慌てて追ってきた柊也が困惑した声で名前を呼ぶ。
 すぐに返事をするのも癪だし足を進めてたら、俺と距離が出来たからか女の人に声をかけられてるのが耳に入ってきて、内心で「あーもー!」って叫びながら振り向くと首を振ってる柊也の姿が目に入ってきた。
 歩いた道を戻り柊也の腕を掴んで引っ張る。

「柚琉さん⋯」
「お前はすぐ声かけられすぎ」
「ふ、不可抗力ですよ⋯」

 確かに声かけられたくてかけられてる訳じゃない事は分かってるけど、俺が隣にいる時だって逆ナンされるのはただ腹立たしい。そりゃ傍から見れば友達としか思われないんだろうけど⋯⋯もどかしい。
 っつか今は女装してんだけどな。
 人がまばらな道まできて足を止め、横目で見ながら指を絡めるように手を握り直すと柊也がピクリと反応した。
 でも何を言えばいいか分からなくて口を噤んでいたら、頬に柊也の手が触れて影がかかり額に口付けられる。

「大好きですよ、柚琉さん。俺は柚琉さんしか見ていないので、それだけでも信じて下さい」
「⋯⋯信じてるよ。もう疑ってないし、疑わない」

 これだけ真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれてるんだから、疑う方が失礼だ。
 柊也の優しい声に肩の力が抜けて、腕を伸ばして抱き着くと俺よりも男らしい腕が背中に回された。人の往来が少ないとはいえ、まったくいないって訳じゃないから見られてるけど気にしない。
 女の格好してるから変な目をされる事もないだろうし。

「⋯⋯あんま、他の人に優しくすんな」
「はい」

 俺の身勝手な言葉にも素直に頷く柊也にいいのかよと息を吐き、頬を肩に擦り寄せてたら不意に腰を押し付けられた。
 何だって言う前に腹に当たる硬いものに気付いて目を見瞠る。

「お、おま⋯っ」
「柚琉さんが可愛いのが悪いです」
「意味分からん!」

 今の流れのどこに可愛い要素があったんだ。
 何に反応してなってんのか、呆れて溜め息をつく俺の顔を覗き込んできた柊也は、スイッチが入ったのか意地悪く微笑むと俺の顎に指をかけくいっと上げてきた。

「柚琉さんこそ、他の人にそんな可愛い顔を見せちゃ駄目ですからね?」
「俺を可愛いって言うのはお前くらいだ」
「もちろん。柚琉さんに可愛いって言っていいのも俺だけなので」

 そう言って整った顔が近付いてきて、思わず目を瞑った俺の目蓋に柊也の唇が触れる。薄く開けると今度はこめかみから頬に触れて、そんな甘ったるいキスに慣れてない俺の心臓は痛いくらいドキドキしてた。
 自分からいくのは大丈夫なのに、好きな人からされるのはホント照れ臭い。

「ずっと、俺だけの柚琉さんでいて下さいね」
「当たり前⋯」

 言葉途中で唇が塞がれ、外なのにとかこんな場所でとか人がいるのにとか、一気に頭を駆け巡ったけど押し返す事はしなかった。
 全部が幸せで溢れるくらい満たされてる。
 もっと欲しくて、より深くなるよう踵を上げた俺は広い背中にしっかりと腕を回して身体を密着させた。
 どれだけ見られたって知るもんか。
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