愛が重めの年下ワンコに懐かれました

ミヅハ

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柊也が決めた道

 肌寒さを感じ始めたのも束の間、あっという間に冬が来た。
 あともう2ヶ月もすれば今年も終わりで、柊也や瑠璃ちゃんもいろいろ考え込む時期にはなってる。
 雪がチラつくようになり、防寒対策も必須になった今日この頃、柊也から卒業後の話がしたいと請われバイトを終えた俺は帰りがてら電話を掛けることにした。

『はい』
「お疲れー。今大丈夫か?」
『お疲れ様です。はい、大丈夫ですよ』

 電話越しに聞く柊也の声はいつもより低くて何気に好きだったりする。感情が声色に現れるから、今どんな表情をしてるかも察せて案外楽しい。
 崩れたマフラーを巻き直しつつ、俺は送られてきていたメッセージの内容を口にした。

「卒業したらどうするか決めたって?」
『はい。俺、やっぱりそっちで就職します』
「理由は?」
『俺のやりたい事はずっと変わらないんです。1つ目は瑠璃の支援で、2つ目は柚琉さんと再会する事。2つ目はもう恋人にまでなれたので叶ったとかそんな次元は超えてるんですけど⋯瑠璃の事は少し前に本人と話して、その上で俺の事も決定しました』
「どういう意味だ?」
『瑠璃、そっちの高校を受験するそうです』

 それは初耳だし、瑠璃ちゃんを援助したい柊也にとっては可能な限り身近にいる方が安心で⋯更にそこに俺がいるなら柊也にとっては渡りに船だろう。
 まぁ柊也はそんな〝あわよくば〟な気持ちは持ってないだろうけど、瑠璃ちゃんの件がなければやっぱり違ったのかって思うと複雑ではあった。

『瑠璃の状況と偏差値とやりたい事を加味した結果、瑠璃自身が選びました』
「で、お前は瑠璃ちゃんが本当の意味で自立したあとはどうするんだ? やりたい事なくなるだろ?」
『ありますよ。俺には、柚琉さんを幸せにするって目標があります。これは半端な覚悟じゃ出来ないし、それこそ一生かかると思ってますから』
「⋯⋯⋯」
『だから、傍にいさせて下さい。柚琉さんがいてくれるだけで、俺は頑張れるんです』

 俺が言ったやりたい事ってのは柊也の仕事とかに関わる事だったんだけど⋯何か、ここまで言われるとこれ以上は野暮に感じてしまう。
 柊也が本当に本気で決めた事なら、俺はそれを応援してやるだけだ。

「⋯そっか⋯うん。俺も柊也に傍にいて欲しいと思ってる。この先もずっと」
『嫌だって言われても離れません』
「それはちょっと重いかも」
『ええ!?』
「嘘だよ」

 俺的には愛は重い方が嬉しい。特にこの忠犬は憎ったらしいくらいにモテるからな、実感させてくれるならむしろウェルカムだ。
 話しているうちに家に着いたから、鍵を開けて玄関扉を引く。真っ暗な部屋の電気を点けて暖房を入れ、ようやっと暖まれると息を吐いた。
 スピーカーにし、手洗いと嗽を済ませた俺はキッチンに立ったところでふと思い出す。

「そういえば、瑠璃ちゃんの話は聞いたか? 1人暮らしの」
『あ、はい。聞きました』
「あくまで瑠璃ちゃんの気持ち優先でな。女の子なんだし、ちょっとでも不安な部分があるならお前と2人の方がいいから」
『むしろ、瑠璃の方が乗り気でしたよ』
「へ?」

 あの日、相談に乗った時に仲良くなれた気はしてるけど、言っても俺と瑠璃ちゃんの関係なんて浅いものだしと思ってたらまさかな事を言われて間抜けな声が出る。
 いくら兄貴の恋人でも身内じゃないし、女の子なら普通は嫌がるんじゃ⋯。

『知らないうちに仲良くなって〝柚くん〟なんて呼ばれてるし』
「それはほら、友達になったから」
『柚琉さんって人たらしですよね』
「お前が言うか」
『俺は優しくする人を選んでるんで』
「何だそれ」

 何が言いたいのか分からず、眉を顰めてホットのカフェオレを淹れた俺はそれに息を吹き掛けつつテーブルとベッドの間に腰を下ろす。
 スマホをスタンドに立てベッドに寄りかかった俺は、落ち着けたのと気が抜けたのとで欠伸を零した。
 それにしても、3人で暮らすとなると最低でも2部屋はいるな。

「2LDKか、贅沢言うなら3LDK⋯瑠璃ちゃんの部屋には鍵付けたいよな」
『俺と柚琉さんは同じ部屋でいいんじゃないですか?』
「それ、瑠璃ちゃんが気まずくないか?」
『聞いておきます。細かい事はまた3人で集まって決めましょうか』
「うん」

 瑠璃ちゃんが受験する学校と柊也が働く場所、それから俺の大学。三箇所の距離を考えなきゃいけないのはわりと大変そうだ。ちょうどいい場所が見つかればいいんだけど。
 頭の中でこんな間取りがいいなと考えていたら、少しして優しい声に名前を呼ばれた。

「ん?」
『瑠璃の事、いろいろ考えてくれてありがとうございます』
「? 礼を言われるような事はしてないけど⋯」
『してくれてますよ。だからこそ瑠璃だって心を開いたんだし。⋯⋯俺、柚琉さんを好きになって良かった。あの日出会えた人が貴方で、本当に良かった』

 しみじみとそう口にする柊也に胸が暖かくなる。
 少しでも時間が違えば、俺や柊也が違う道を選んでいたら、俺たちは今こうしていないんだよな。そう考えると、人と人との出会いってホント、奇跡みたいだ。
 テーブルに頬杖をつき、名前だけしか見えない画面を指先でつついて1人笑みを零した。

「俺の方こそ、好きになってくれてありがとう」
『⋯⋯⋯』
「何で黙ってるんだ?」

 ゲイではあるけど、誰彼構わず惚れる訳じゃないしそもそも1学年下だから、柊也から来てくれなければ関わる事もなかっただろうしこればかりは本当に柊也に感謝だ。
 だから素直にそう言ったのに、どうしてか柊也は黙り込んでしまった。
 訝しんで聞くと、深い深ーい溜め息をつかれる。

『今すぐ抱き締められないのに、そんな可愛い事言わないで下さいよ⋯』
「な、何言ってんだお前は⋯っ」
『早く会いたいです』

 声だけしか聞こえないけど、寂しそうなのは分かる。
 そんな風に言われると、俺だって会いたくなるし寂しくもなるのに⋯ズルいなぁ。

「あと1ヶ月もすれば冬休みだし、クリスマス前にそっち行くから」
『俺が行きますよ?』
「いや、俺が行く」
『そうですか? なら待ってますね』
「ん」

 柔らかく笑う声にきゅんとしつつ時間を確認した俺は、もう夕飯を食べて風呂に入らないとと思いスマホを手に取った。
 バイバイする時もそうだけど、電話を切る時もいつも名残惜しくなる。

「じゃ、する事あるからそろそろ切るな」
『あー⋯⋯もうそんな時間なんですね⋯。やだなぁ⋯』
「そんな事言うなよ、切りにくいだろ」
『明日も電話しましょうね』
「おう。そんじゃ、また明日な」
『はい。おやすみなさい、柚琉さん』
「おやすみ」

 いつもと変わらない挨拶を交わして通話を終えたあと、スマホを眺めて息を吐くのも癖みたいになってしまった。
 寂しさを振り払うように軽く頭を振って立ち上がった俺は、なにがあったかなと考えながら再びキッチンへと向かう。
 食べる気なくても、少しは腹に入れとかないとな。
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