愛が重めの年下ワンコに懐かれました

ミヅハ

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新生活

 柊也と瑠璃ちゃんが進路を決めて、何度か話し合いをしたりネットで住宅検索したり直接不動産屋に足を運んだりして諸々を考慮した結果、築30年で駅まで徒歩10分圏内にある2LDK南向きのマンションに決めた。
 スーパーやコンビニも歩いて行ける場所にあり、利便性抜群なのに家賃がリーズナブルで室内もわりと綺麗だ。しかも部屋は玄関側とリビング側に別れててプライバシーもバッチリ。
 瑠璃ちゃんの部屋に鍵を付ける案は、本人によりすげなく却下されたけど。
 荷物は俺と柊也とで持って行くものを決めてあとは処分する事にした。冷蔵庫とか洗濯機とか、二つあっても困るだけだしな。

 柊也は、卒業後すぐに瑠璃ちゃんを引き取る話をお母さんにしたそうだけどだいぶ苦労したみたいだ。埒が明かないって珍しく愚痴ってて、それでも懇々と説明しているうちにお母さんの方が面倒になったらしく、最後にはもうどうでもいいって切り捨てられたって聞いて胸が痛くなった。
 瑠璃ちゃんだって苦しくてもこんな風にお母さんと違えたくなかっただろうに。
 あっちもこっちも上手くいくなんてのは都合良過ぎるとはいえ悲しいよな。



「さて、無事に荷物を運び込みましたが⋯ここからが大事な話です」

 行けなかったけど、2人とも内定や合格を貰い無事に卒業式を終えた。
 荷物はちょこちょこ纏めてたから引っ越しもスムーズに終わり、とりあえず寝る場所だけを確保してリビングで3人膝を突き合わせる。
 神妙な顔でそう言うと、2人は同じように目を瞬いた。

「大事な話?」
「瑠璃ちゃんは思春期の女の子です」
「はい」
「なので、瑠璃ちゃんメインでいろいろ決めたいと思います」

 何と言ってもここには他人の俺がいる。万が一にも嫌な思いをさせない為に、全員で話し合う必要があった。

「掃除や料理は出来る人がして、トイレとお風呂は使用中の札を下げたり、ノックしたりって確認は必須にしようと思ってる。洗濯は瑠璃ちゃん自身にして貰う事になるんだけど、乾燥機付いてるからそれは雨の日と瑠璃ちゃんだけが使えるようにしようか」
「何か⋯申し訳ないです」
「それも加味して受け入れてるから気にすんな。他は何かある?」

 一応プライバシー関連の話はしてるし、線引きするならそこら辺だろうけど、女の子には女の子の思うところがあるかもだからそう聞いてみたら、瑠璃ちゃんは少し考えたあと気まずそうに口を開いた。

「私の前ではあんまりイチャイチャしないで欲しい、かも⋯」
「あ、それはもちろん。基本的にはしない」
「え!?」
「え? って⋯そりゃそうだろ」
「基本的にはって? ずっとイチャイチャなしですか?」
「いや⋯出掛けた時とかは⋯」
「せっかく一緒に住めるのに⋯」

 そんなにイチャイチャしないがショックだったのか柊也は床に両手をついて項垂れた。瑠璃ちゃんと顔を見合わせて苦笑した俺は、柊也の頭を撫でて顔を上げさせると目で洗面所の方を示して立ち上がる。
 荷物の間を抜けて洗面所に行くとすぐに柊也も入ってきて、俺は振り向いた瞬間抱き着いた。

「瑠璃ちゃんの前では出来ないけど、こうやって隠れてイチャイチャすんのってスリルあって興奮しないか?」
「⋯確かに」
「したくなったらラブホって手もあるんだし、絶対出来ないって訳じゃないからさ。それに、俺たちが今しなきゃいけないのは、瑠璃ちゃんが自立する為の手伝いだろ? 2人で支えてやんないと」
「そうですね」

 どれだけ時間が経ったっていつかは2人だけでの生活も始まる。それからだって充分したい事は出来るんだ。
 俺の背中に緩く左腕を回した柊也は、右手で顎に触れて上げさせると軽く唇を触れ合わせてきた。あんま深いのが出来ないのは残念だけど、数回啄んで離し肩に頭を預ける。

「今は瑠璃ちゃんの為に頑張ろうな」
「はい」
「よし、じゃあ戻るか」

 どうにか納得してくれた事に肩を撫で下ろしてリビングに戻った俺たちは、1人になった瑠璃ちゃんがダンボールを開いてキッチンを片付けてくれていた事に驚いて目を瞬く。
 俺たちがイチャついてる間に⋯申し訳ない。

「ごめん、ありがとう」
「ううん。私、片付けるの得意だから」
「瑠璃ちゃんはもう俺たちに言いたい事はないか?」
「うん、大丈夫」

 問題ないようだし、このまま荷解きを始めるかと別のダンボール箱に手をかけた俺は、1つだけ思い付いて柊也を振り返った。

「そうだ柊也、ちょっと前から言おうと思ってたんだけど」
「はい」
「もう俺に敬語使わなくていいよ。これから一緒に暮らすんだし、楽にして欲しい」

 瑠璃ちゃんには相談を受けた時に話してたから、たまに敬語混じりにはなってても慣れてないからだろうって気にはしてなかった。もう1人のお兄ちゃんって言ってくれたものの血は繋がってないし。
 ただ、柊也には何も言ってなかったから仕方なくはあるんだけど、やっぱりいつまでも敬語なのは壁があるみたいで切なく思ってたんだ。
 2人は兄妹だから俺より仲が良いのは当たり前とはいえ、俺とも同じくらいの気持ちで接して欲しいし。
 棚にしまう物を出しながら言うと、柊也は少し考えたあと苦笑して頷いた。

「少しずつなくしていけたらって感じでもいいですか?」
「あはは、それでもいいよ」

 ずっと敬語だったもんな、そりゃ、スイッチみたいに切り替えるのは難しいか。
 頬を掻く柊也に笑って頷き、いつ敬語が外れるか楽しみだと俺は軽い物を纏めて手にして立ち上がりキッチンへと向かう。
 そのうちに敬称も取っ払ってくれるようになるといいんだけどな。



「柚琉さんの笑顔⋯可愛い⋯」
「柊くん、どうしてもイチャイチャしたくなったら連絡して」
「え?」
「どこかで時間潰して来てあげるから」
「瑠璃⋯!」
「その代わり、貸し付くからね」
「あ、はい」
「何買って貰おうかなー」
「あんま高いのはナシな⋯?」
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