53 / 73
独り立ち
冬が過ぎて春になり桜が咲く頃、瑠璃ちゃんは2年生へと進級した。それと同時に俺も大学3年生になり、少しだけ忙しくなりつつある。
来年には就職の事を考えなきゃいけないし、瑠璃ちゃんは大学か就職かの2択を迫られる学年になるから、そうなると本当にバタバタになるだろうな。
「私、そろそろ1人暮らししようと思うんだけど⋯」
ある日の夜、風呂から上がった瑠璃ちゃんが唐突にそんなことを口にしてきたから、俺と柊也は一瞬何を言われたのか分からなくて目が点になる。
先に理解したのは柊也で、真剣な表情になり自分の隣を指差した。
大人しく座った瑠璃ちゃんだったけどどこか所在なさげで、苦笑した俺は柊也の肩を叩きダイニングの方へと行く。
兄妹の話に割り込むような無粋な真似は出来ないからな。
「反対はしないけど、しっかりいろいろ考えた? 柚琉がしてくれてる事、全部じゃなくていいけど分かってる?」
「分かってるよ」
「自分でしない限り部屋は綺麗にならないし、洗濯だって増えてく。ご飯も自分で用意しないと食べられないし、お金だってちゃんと計算もしないと足りなくなる。就職するまでは援助するけど、1人暮らしするなら自分が欲しい物は自分で買わないといけないよ?」
「うん」
柊也は訳あって先に1人暮らしを経験してるから、自分で何をしなきゃいけないか良く分かってる。諸々はご両親が払ってくれてたとはいえバイトしてたし、俺にはそれでプレゼント買ってくれたりしてたからな。
バイトするのも楽じゃないし、そんな中で家事をするのも大変だ。
瑠璃ちゃんには苦労をして欲しくない柊也だからこそ、いつもより厳しく言ってるんだろうな。
「場合によってはしたい事ややりたい事も出来ないし」
「我慢する」
「俺が保護者である以上は約束事を作るけど⋯それを飲める?」
「飲みます」
「そっか⋯」
それほど強い意志があるのか、瑠璃ちゃんは真っ直ぐに柊也の目を見て全部にしっかりと頷いてる。
そこまで言われたら柊也も何も言えないのか、息を吐いたあと少しだけ黙り込み人差し指を立てた。
「まずは1つめ。家に異性は呼ばない事。彼氏でも男友達でも、玄関でも入れるのは駄目」
「はい」
「2つめ。困った事があったら、どれだけ小さな事でもいいから俺か柚琉に相談する事。1人で抱え込むのはなし」
「分かった」
「それから3つめ。俺か柚琉に定期連絡をする事。この期間は瑠璃が決めていいよ」
「じゃあ、2人とも心配性だし毎週日曜日にする」
俺は黙って聞いてたんだけど、思わぬ反撃を受けて目を瞬いたら柊也がこっちを向いて苦笑した。そりゃこんだけ可愛かったら心配性にもなるだろ。
柊也は立てていた指を下ろして瑠璃ちゃんの頭に乗せるとぐりぐりと撫でる。
「俺も柚琉も、何があっても瑠璃の味方だから。いつだってここに帰ってきていいし、何かあったら夜中だって駆け付ける。羽目だけは外さないで」
「うん、約束する」
「近いうちに、物件探しに行こうか」
「ありがとう、柊くん!」
ずーっと我慢の生活をしてきた瑠璃ちゃんは決して我儘な子じゃない。だからこそ瑠璃ちゃんがしたい事はなるべくならさせてあげたい柊也としては、複雑ではあるけど受け入れてあげたいんだろうな。
仲の良い2人に微笑んでると、立ち上がった瑠璃ちゃんが俺の方へと近付いてきた。
「柚くんも、いろいろありがとう」
「俺は何も⋯」
「家の事、メインでしてくれてたのは柚くんでしょ? いろいろ教えてくれたし、すっごく感謝してるんだよ」
「それを言うなら、俺だって瑠璃ちゃんの明るさに何回も救われてるよ。ありがとう」
柊也が出張でいなくても瑠璃ちゃんがいてくれたからかなりマシだったしな。
そう言って笑えば瑠璃ちゃんは目を瞬いたあと、勢い良く柊也を振り向いた。
「柊くん、柚くんみたいな人もう絶対現れないからね。離しちゃダメだよ?」
「離さないよ」
「嫌われないように頑張りなね?」
「分かってる」
「何言ってんだ、2人とも」
そもそも、柊也に嫌われる要素なんてないだろうに。
頬杖をついて溜め息を零す俺に「もー」なんて不満を垂れた瑠璃ちゃんだったけど、スマホが鳴って確認するなり嬉しそうな顔になって自室へと引っ込んでいった。
あの反応は彼氏だな。
「柚琉、俺たちも寝る支度して部屋に行こうか」
「おー」
「いつかは来るって思ってたけど、いざその時になると寂しいね」
「そうだな。瑠璃ちゃんの明るい声が聞こえなくなるのは寂しいな」
この1年、当たり前のように家の中を照らしてくれていた瑠璃ちゃんがいなくなるのは正直嫌だなって思う。でもそんなのは俺の我儘だからな、絶対口には出さない。
立ち上がり、腕を伸ばして柊也の髪を撫でた俺は腕を絡めて洗面所へと向かう。
そんなすぐじゃないし、それまでいろいろ一緒に出来るといいな。
それからおよそ2ヶ月後、瑠璃ちゃんはここより3駅先のより高校に近い場所へと引っ越した。もろもろを一から揃えるのは大変だだったけど、瑠璃ちゃんの満足いく内装になって良かったよ。
それにしても、可愛い家具って意外に値段すんだな。
「今日から2人だね」
「うん。あ、でも明日は朝イチ必修だから、今日は抜き合いもなしで」
「え」
瑠璃ちゃんの引っ越し作業を終え俺と柊也だけになった家に帰宅して早々、柊也がそう言って肩を抱いてきた。
このまま誘われるかもしれないから先手を打ってそう言えば驚いた顔をする。
手を上げ柊也の頬を摘んでニッと笑うと、ポカンとしたあと残念そうに肩を落として洗面所へと消えて行った。
そんなにヤりたかったのか⋯仕方ない、また猫耳着けて誘ってやるか。
来年には就職の事を考えなきゃいけないし、瑠璃ちゃんは大学か就職かの2択を迫られる学年になるから、そうなると本当にバタバタになるだろうな。
「私、そろそろ1人暮らししようと思うんだけど⋯」
ある日の夜、風呂から上がった瑠璃ちゃんが唐突にそんなことを口にしてきたから、俺と柊也は一瞬何を言われたのか分からなくて目が点になる。
先に理解したのは柊也で、真剣な表情になり自分の隣を指差した。
大人しく座った瑠璃ちゃんだったけどどこか所在なさげで、苦笑した俺は柊也の肩を叩きダイニングの方へと行く。
兄妹の話に割り込むような無粋な真似は出来ないからな。
「反対はしないけど、しっかりいろいろ考えた? 柚琉がしてくれてる事、全部じゃなくていいけど分かってる?」
「分かってるよ」
「自分でしない限り部屋は綺麗にならないし、洗濯だって増えてく。ご飯も自分で用意しないと食べられないし、お金だってちゃんと計算もしないと足りなくなる。就職するまでは援助するけど、1人暮らしするなら自分が欲しい物は自分で買わないといけないよ?」
「うん」
柊也は訳あって先に1人暮らしを経験してるから、自分で何をしなきゃいけないか良く分かってる。諸々はご両親が払ってくれてたとはいえバイトしてたし、俺にはそれでプレゼント買ってくれたりしてたからな。
バイトするのも楽じゃないし、そんな中で家事をするのも大変だ。
瑠璃ちゃんには苦労をして欲しくない柊也だからこそ、いつもより厳しく言ってるんだろうな。
「場合によってはしたい事ややりたい事も出来ないし」
「我慢する」
「俺が保護者である以上は約束事を作るけど⋯それを飲める?」
「飲みます」
「そっか⋯」
それほど強い意志があるのか、瑠璃ちゃんは真っ直ぐに柊也の目を見て全部にしっかりと頷いてる。
そこまで言われたら柊也も何も言えないのか、息を吐いたあと少しだけ黙り込み人差し指を立てた。
「まずは1つめ。家に異性は呼ばない事。彼氏でも男友達でも、玄関でも入れるのは駄目」
「はい」
「2つめ。困った事があったら、どれだけ小さな事でもいいから俺か柚琉に相談する事。1人で抱え込むのはなし」
「分かった」
「それから3つめ。俺か柚琉に定期連絡をする事。この期間は瑠璃が決めていいよ」
「じゃあ、2人とも心配性だし毎週日曜日にする」
俺は黙って聞いてたんだけど、思わぬ反撃を受けて目を瞬いたら柊也がこっちを向いて苦笑した。そりゃこんだけ可愛かったら心配性にもなるだろ。
柊也は立てていた指を下ろして瑠璃ちゃんの頭に乗せるとぐりぐりと撫でる。
「俺も柚琉も、何があっても瑠璃の味方だから。いつだってここに帰ってきていいし、何かあったら夜中だって駆け付ける。羽目だけは外さないで」
「うん、約束する」
「近いうちに、物件探しに行こうか」
「ありがとう、柊くん!」
ずーっと我慢の生活をしてきた瑠璃ちゃんは決して我儘な子じゃない。だからこそ瑠璃ちゃんがしたい事はなるべくならさせてあげたい柊也としては、複雑ではあるけど受け入れてあげたいんだろうな。
仲の良い2人に微笑んでると、立ち上がった瑠璃ちゃんが俺の方へと近付いてきた。
「柚くんも、いろいろありがとう」
「俺は何も⋯」
「家の事、メインでしてくれてたのは柚くんでしょ? いろいろ教えてくれたし、すっごく感謝してるんだよ」
「それを言うなら、俺だって瑠璃ちゃんの明るさに何回も救われてるよ。ありがとう」
柊也が出張でいなくても瑠璃ちゃんがいてくれたからかなりマシだったしな。
そう言って笑えば瑠璃ちゃんは目を瞬いたあと、勢い良く柊也を振り向いた。
「柊くん、柚くんみたいな人もう絶対現れないからね。離しちゃダメだよ?」
「離さないよ」
「嫌われないように頑張りなね?」
「分かってる」
「何言ってんだ、2人とも」
そもそも、柊也に嫌われる要素なんてないだろうに。
頬杖をついて溜め息を零す俺に「もー」なんて不満を垂れた瑠璃ちゃんだったけど、スマホが鳴って確認するなり嬉しそうな顔になって自室へと引っ込んでいった。
あの反応は彼氏だな。
「柚琉、俺たちも寝る支度して部屋に行こうか」
「おー」
「いつかは来るって思ってたけど、いざその時になると寂しいね」
「そうだな。瑠璃ちゃんの明るい声が聞こえなくなるのは寂しいな」
この1年、当たり前のように家の中を照らしてくれていた瑠璃ちゃんがいなくなるのは正直嫌だなって思う。でもそんなのは俺の我儘だからな、絶対口には出さない。
立ち上がり、腕を伸ばして柊也の髪を撫でた俺は腕を絡めて洗面所へと向かう。
そんなすぐじゃないし、それまでいろいろ一緒に出来るといいな。
それからおよそ2ヶ月後、瑠璃ちゃんはここより3駅先のより高校に近い場所へと引っ越した。もろもろを一から揃えるのは大変だだったけど、瑠璃ちゃんの満足いく内装になって良かったよ。
それにしても、可愛い家具って意外に値段すんだな。
「今日から2人だね」
「うん。あ、でも明日は朝イチ必修だから、今日は抜き合いもなしで」
「え」
瑠璃ちゃんの引っ越し作業を終え俺と柊也だけになった家に帰宅して早々、柊也がそう言って肩を抱いてきた。
このまま誘われるかもしれないから先手を打ってそう言えば驚いた顔をする。
手を上げ柊也の頬を摘んでニッと笑うと、ポカンとしたあと残念そうに肩を落として洗面所へと消えて行った。
そんなにヤりたかったのか⋯仕方ない、また猫耳着けて誘ってやるか。
あなたにおすすめの小説
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜
鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。
そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。
あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。
そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。
「お前がずっと、好きだ」
甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。
※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています