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とあるご夫婦
最近思う事がある。
瑠璃ちゃんの結婚話を聞いてから、俺たちって世間からは当たり前のようには祝福されなくて、大多数の人から見たら歪な関係だから身内でさえ受け入れて貰う事って難しいんだよなって。俺の両親は温情を見せてくれたけど、柊也のご両親はどう思ってるんだろう。
そもそも柊也が誰と付き合って誰と暮らしてるかを話してるかも分からなくて、もし話して反対された上でここにいるならどうにかしないといけない。
お父さんやお義母さんとは仲良いらしいし、出来れば円満であって欲しいからな。
「柚琉、大丈夫?」
柔らかなベッドの上で真上に両手を伸ばしていた俺に、水を持って戻ってきた柊也がそう聞いてきた。背中を支えられて身体を起こし、水を受け取って飲んでから頷く。
「まぁ大丈夫。⋯⋯なぁ」
「ん?」
「柊也は俺との事、ご両親に話してたり⋯するか⋯?」
少し怖いけど、俺たちがこの先も一緒にいる為には家族に理解して貰わないとのちのち辛くなるから思い切って聞けば、柊也は目を見瞠ったあとすっと視線を逸らして頭を掻く。
その反応に喉の奥がぎゅっとなった。
「⋯あー⋯⋯えっと⋯」
ハッキリとした返事のない、珍しく歯切れ悪い言い方をする柊也に一瞬にして悟る。
そっか、言えてないんだ。
普通はそうだよな、男と付き合ってるなんて言える訳ない。
「変な事聞いてごめんな。気にしなくていいから」
「柚⋯」
「もう時間も遅いし、明日も仕事なんだから寝るぞ」
そう言って横になり、いつも柊也が寝転ぶ側に背中を向けた俺は鼻の下まで布団を被り目を閉じる。
分かってる、柊也は何も悪くない。親にも言えない相手である俺が悪いんだ。
もともと柊也はノンケだし、俺と出会わなければ今頃可愛い女の子と付き合って結婚の話だってしてたかもしれない。ご両親にだってすぐに紹介出来て、トントン拍子に話が進むんだ。
「柚琉、もう少し話を⋯」
「⋯⋯⋯ごめん⋯今は⋯」
「⋯⋯分かった。でも、近いうちにちゃんと話そうね」
「ん⋯」
〝言ってない〟のと〝言えない〟では全然違う。
それに思った以上にダメージを受けてて、今は何を言われても頭に入って来ない。
こんなにも自分が男である事を嫌に思ったのは初めてだ。
「はぁ⋯」
大学の帰り、夕飯の買い物に行く道中に俺は1人溜め息を零す。
昨日あんな事を言ったせいで朝もぎくしゃくして、いつもみたいに話も挨拶も出来なかった。目も合わせなかったから、柊也の奴落ち込んでるだろうな。
気持ちを切り替えて話さないと。いつまでも気まずいのは嫌だし。
「ちょっと高めの甘い物でも食べて気分上げるか⋯⋯ん?」
たまには贅沢したってバチは当たらないだろうと伏せていた顔を上げると、少し先で塀に手をついて蹲ってる男の人が見えた。周りに人はいなくて、よく見ると震えてたから急いで駆け寄ると眉間に皺を寄せて苦しそうにしてる。
「大丈夫ですか!?」
「⋯っ、うぅ⋯⋯」
「苦しいんですか? どこか痛みます?」
「⋯こ⋯」
「〝こ〟?」
「腰が⋯」
「腰⋯?」
ふと足元を見ると荷物が置いてあって、失礼ながら中身を覗いたら2Lのペットボトルが2本、5キロの米、醤油とかの調味料類が入ってて、見事に重い物ばかりでそりゃ腰もやるわと思ってしまった。
これはこんな風に一気に買う物じゃないのに。
緊急性は特になさそうだと判断した俺は、とりあえず男の人が動けるようになるのを待って一緒に荷物を運ぶ事にした。
ってか、タクシーという手はなかったんだろうか。
買い物前で良かったと思う量を持って連れて来られた場所はファミリー向けのマンションだった。
1人暮らしじゃなさそうで良かったと思いつつお邪魔してダイニングテーブルに荷物を下ろしたら、玄関が慌ただしく開いて青褪めた顔の女性が入ってくる。男の人を見てホッと息を吐き、俺の前へと来るなり頭を下げてきた。
もしかして捜しに出てたのかな。
「主人を助けて頂いてありがとうございます!」
「え? い、いえ、助けたとかそんな⋯」
「動けなくなったこの人の傍にいて下さっただけじゃなく、水分補給までさせてここまで荷物を運んで下さったんですもの。恩人です」
「それは大袈裟です」
「そんな事ありませんよ。そうだ、良かったらお茶でもいかがです? 美味しいケーキがあるんです」
「いえいえ、そこまでして頂かなくても⋯っ」
「遠慮なさらずに。ねぇ、あなた」
俺は俺に出来る事をしただけでそこまで感謝されるような事じゃないのに、奥さんグイグイくる。そこへ腰痛ベルトを巻きに別の部屋に行ってた男の人⋯旦那さんが戻ってきて朗らかに頷いた。
「そうですよ。ぜひ召し上がって行って下さい」
「⋯⋯⋯」
ただ声をかけて荷物を運んだだけなのに、本当にご馳走になっていいのかなぁ。
まぁまだ柊也が帰ってくる時間まであるし、夕飯は家にある物を駆使して作ればなんとかなるだろう。
こんなににこにこして勧められるとさすがに断り辛いし。
「でしたら、お言葉に甘えて」
「紅茶は平気?」
「はい。あ、片付けるなら手伝いますよ」
「何から何までありがとうございます」
「いいえ」
米とか調味料とか、力のある奴が一気に運んだ方が早く終わるし、ただ座って待ってるのも申し訳ないからな。
優しい奥さんと他愛ない話をしながら教えて貰った場所にしまい、3人でケーキに舌鼓を打つ。本当に美味しくてどこの店か聞いたら、ちょっとお高めのカフェのテイクアウト用のケーキだと教えてくれた。
完全に頑張ったご褒美の時に食べるやつだ。
甘い物が好きな柊也にも食べさせてやりたいな。
結局なかなかお暇出来なくて時間ギリギリになってしまった俺は、何故かまた来る約束をし2人の家をあとにした。
それにしても、40代後半とは思えないほど見目の良い夫婦だったな。
瑠璃ちゃんの結婚話を聞いてから、俺たちって世間からは当たり前のようには祝福されなくて、大多数の人から見たら歪な関係だから身内でさえ受け入れて貰う事って難しいんだよなって。俺の両親は温情を見せてくれたけど、柊也のご両親はどう思ってるんだろう。
そもそも柊也が誰と付き合って誰と暮らしてるかを話してるかも分からなくて、もし話して反対された上でここにいるならどうにかしないといけない。
お父さんやお義母さんとは仲良いらしいし、出来れば円満であって欲しいからな。
「柚琉、大丈夫?」
柔らかなベッドの上で真上に両手を伸ばしていた俺に、水を持って戻ってきた柊也がそう聞いてきた。背中を支えられて身体を起こし、水を受け取って飲んでから頷く。
「まぁ大丈夫。⋯⋯なぁ」
「ん?」
「柊也は俺との事、ご両親に話してたり⋯するか⋯?」
少し怖いけど、俺たちがこの先も一緒にいる為には家族に理解して貰わないとのちのち辛くなるから思い切って聞けば、柊也は目を見瞠ったあとすっと視線を逸らして頭を掻く。
その反応に喉の奥がぎゅっとなった。
「⋯あー⋯⋯えっと⋯」
ハッキリとした返事のない、珍しく歯切れ悪い言い方をする柊也に一瞬にして悟る。
そっか、言えてないんだ。
普通はそうだよな、男と付き合ってるなんて言える訳ない。
「変な事聞いてごめんな。気にしなくていいから」
「柚⋯」
「もう時間も遅いし、明日も仕事なんだから寝るぞ」
そう言って横になり、いつも柊也が寝転ぶ側に背中を向けた俺は鼻の下まで布団を被り目を閉じる。
分かってる、柊也は何も悪くない。親にも言えない相手である俺が悪いんだ。
もともと柊也はノンケだし、俺と出会わなければ今頃可愛い女の子と付き合って結婚の話だってしてたかもしれない。ご両親にだってすぐに紹介出来て、トントン拍子に話が進むんだ。
「柚琉、もう少し話を⋯」
「⋯⋯⋯ごめん⋯今は⋯」
「⋯⋯分かった。でも、近いうちにちゃんと話そうね」
「ん⋯」
〝言ってない〟のと〝言えない〟では全然違う。
それに思った以上にダメージを受けてて、今は何を言われても頭に入って来ない。
こんなにも自分が男である事を嫌に思ったのは初めてだ。
「はぁ⋯」
大学の帰り、夕飯の買い物に行く道中に俺は1人溜め息を零す。
昨日あんな事を言ったせいで朝もぎくしゃくして、いつもみたいに話も挨拶も出来なかった。目も合わせなかったから、柊也の奴落ち込んでるだろうな。
気持ちを切り替えて話さないと。いつまでも気まずいのは嫌だし。
「ちょっと高めの甘い物でも食べて気分上げるか⋯⋯ん?」
たまには贅沢したってバチは当たらないだろうと伏せていた顔を上げると、少し先で塀に手をついて蹲ってる男の人が見えた。周りに人はいなくて、よく見ると震えてたから急いで駆け寄ると眉間に皺を寄せて苦しそうにしてる。
「大丈夫ですか!?」
「⋯っ、うぅ⋯⋯」
「苦しいんですか? どこか痛みます?」
「⋯こ⋯」
「〝こ〟?」
「腰が⋯」
「腰⋯?」
ふと足元を見ると荷物が置いてあって、失礼ながら中身を覗いたら2Lのペットボトルが2本、5キロの米、醤油とかの調味料類が入ってて、見事に重い物ばかりでそりゃ腰もやるわと思ってしまった。
これはこんな風に一気に買う物じゃないのに。
緊急性は特になさそうだと判断した俺は、とりあえず男の人が動けるようになるのを待って一緒に荷物を運ぶ事にした。
ってか、タクシーという手はなかったんだろうか。
買い物前で良かったと思う量を持って連れて来られた場所はファミリー向けのマンションだった。
1人暮らしじゃなさそうで良かったと思いつつお邪魔してダイニングテーブルに荷物を下ろしたら、玄関が慌ただしく開いて青褪めた顔の女性が入ってくる。男の人を見てホッと息を吐き、俺の前へと来るなり頭を下げてきた。
もしかして捜しに出てたのかな。
「主人を助けて頂いてありがとうございます!」
「え? い、いえ、助けたとかそんな⋯」
「動けなくなったこの人の傍にいて下さっただけじゃなく、水分補給までさせてここまで荷物を運んで下さったんですもの。恩人です」
「それは大袈裟です」
「そんな事ありませんよ。そうだ、良かったらお茶でもいかがです? 美味しいケーキがあるんです」
「いえいえ、そこまでして頂かなくても⋯っ」
「遠慮なさらずに。ねぇ、あなた」
俺は俺に出来る事をしただけでそこまで感謝されるような事じゃないのに、奥さんグイグイくる。そこへ腰痛ベルトを巻きに別の部屋に行ってた男の人⋯旦那さんが戻ってきて朗らかに頷いた。
「そうですよ。ぜひ召し上がって行って下さい」
「⋯⋯⋯」
ただ声をかけて荷物を運んだだけなのに、本当にご馳走になっていいのかなぁ。
まぁまだ柊也が帰ってくる時間まであるし、夕飯は家にある物を駆使して作ればなんとかなるだろう。
こんなににこにこして勧められるとさすがに断り辛いし。
「でしたら、お言葉に甘えて」
「紅茶は平気?」
「はい。あ、片付けるなら手伝いますよ」
「何から何までありがとうございます」
「いいえ」
米とか調味料とか、力のある奴が一気に運んだ方が早く終わるし、ただ座って待ってるのも申し訳ないからな。
優しい奥さんと他愛ない話をしながら教えて貰った場所にしまい、3人でケーキに舌鼓を打つ。本当に美味しくてどこの店か聞いたら、ちょっとお高めのカフェのテイクアウト用のケーキだと教えてくれた。
完全に頑張ったご褒美の時に食べるやつだ。
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