愛が重めの年下ワンコに懐かれました

ミヅハ

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2度目の話し合い

 俺の茶飲み友達であるご夫婦が柊也のご両親だと判明して早1週間。改めてお父さんに呼ばれた俺と柊也は休みを合わせ、再び家へと訪れていた。
 リビングに通され、前と同じようにダイニングテーブルを挟んで向かい合わせに座る。心なしかお父さんの顔は穏やかだ。

「柚琉くん、カステラは好き?」
「あ、はい。好きです」
「そう、良かったわ」

 お母さんは相変わらず朗らかで、人数分のカステラとお茶を用意して運んでくれた。手伝おうかとも思ったんだけど、腰を上げたら「座ってて」って言われたから俺は置物状態だ。
 柊也は無言でお父さんを見てるし、お父さんは腕を組んで目を伏せているしで微妙な空気が流れてるけど。
 お母さんが椅子に触った頃、ようやくお父さんが話し始めた。

「あれからいろいろな事を考えたが、やはり俺は同性愛には寛容になれない。どれだけ愛し合っていても、多かれ少なかれ奇妙な目で見てくる者はいるからな」
「そうだね。でも、それは俺たちが気にしなければいいだけじゃないかな。別に悪い事をしている訳じゃないんだから」
「確かに悪い事ではない。だが、頭では分かっていてもどうしても無理な事はあるだろう? 同性愛が俺にとってのそれだ」

 お互い1歩も引かないのは譲れないからだろうけど、これじゃあ認めて貰うのは無理かもしれないな。
 俺との関係値とお父さんの考えは比例しないし、仕方ないとはいえ切ない。

「ただ誤解しないで欲しいのは、俺はお前の幸せは願っているんだよ。大切な息子だ、世間から後ろ指を差されるような道は歩んで欲しくないと思っている」
「俺が、柚琉といる事が幸せだって言ってるのに?」
「男同士という事が問題なだけで、相手が誰というのは関係ない」

 男同士だから⋯俺が男だから、お父さんには認めて貰えないし柊也を困らせてる。
 何で俺、男なんだろう。
 俺を受け入れて貰えないなら、俺たちは別れる事になる?

(そんなの嫌だ⋯)

 俺の傍から柊也がいなくなる。あの笑顔も、温もりも、全部なくなる。⋯⋯あ、ヤバい、涙が出そう。
 こんなに俺を想って大事にしてくれる奴、もう絶対現れないのに。
 唇を噛んで堪えていたら頭が抱き寄せられ、目元に柊也の唇が触れた。

「俺にとって、柚琉以外はその他大勢でいてもいなくても同じだよ。ぶっちゃけて言えば、父さんや義母さん、瑠璃よりも大切。だから、本気で柚琉との付き合いを認めてくれないなら、俺は親子の縁を切ってもいいって思ってる」
「⋯! 柊也⋯っ」
「それだけの覚悟があるって事だよ」

 そんな覚悟いらないしする必要もないのに、そう言ってくれる柊也に俺はどうしようもない嬉しさを感じて胸がぎゅっとなる。
 ダメだって言わなきゃいけないのに、柊也を失いたくないから止める言葉さえ出てこない。こんなんじゃ、認めて貰うどころか息子を誑かしやがってって怒鳴られたって仕方ないのに。
 柊也の服を強く掴み緩く首を振ってたら、お父さんが深い溜め息をついた。

「お前は昔から頑固だな。瑠璃の事もそうだが、柚琉くんに対しての気持ちが重過ぎないか?」
「父さんが反対するからでしょ」
「反対はしていないが?」
「え?」

 反対はしていない? え? 今までの発言って反対してるからこそ口にしてたんじゃいのか? ⋯⋯ハッ、そういえば、付き合いをやめろとか、今すぐ別れろとかは一言も言われてない気が。
 柊也もポカンとしてるし、でもお母さんはにこにこしてる。

「俺は寛容にはなれない、男同士が問題だと言っただけだ。それは俺の価値観で、お前が必ずしも受け入れなければいけない事ではない」
「⋯えっと⋯つまり?」
「相手が柚琉くんでなければ、話など聞かずに問答無用で別れろと言っている」

 頭が追い付かなくて、目を瞬いて柊也を見ると同じように間抜けな顔とかち合う。少しして、一足先に事態を飲み込めた柊也が泣きそうな顔に変わって俺を抱き締めてきた。
 その温もりと耳元で呼ばれる名前に俺も理解して、強張ってた身体から力を抜く。

「まったく、情けない」
「あなたも意地悪な言い方をしていたけどね」
「あれくらい言ったってバチは当たらん」

 お父さんは根本的には男同士は受け入れたくないんだもんな。まぁ俺も言葉の意味を上手く捉えられてなかったから仕方ないけど、もう無理なのかって不安だったから本当に良かった。
 今だに俺をぎゅうぎゅうと抱き締める柊也の背中を軽く叩いて離して貰い、改めてお父さんに向き合った俺はテーブルに額が着きそうなくらい頭を下げる。

「柊也にこの道を選ばせてしまって申し訳ございませんでした。でも、俺も離れたくなかったから⋯⋯ありがとうございます」
「柚琉くん、顔を上げてくれ」

 まだまだ謝らなきゃいけない事はたくさんあるけど、ひとまず1番大切な事を言えばお父さんの柔らかな声が耳に入ってきた。
 おずおずと上げると優しく微笑んでる。こうして見ると柊也によく似てるな。何で気付かなかったんだろう。

「まぁ俺の考えは変わらないけど、柚琉くんならというのは本当だよ。君だからこそ、俺は自分の気持ちを抑えてでもいいと思ったんだ」
「⋯おじさん⋯」
「柊也の事、よろしく頼むよ」
「はい」
「あと、以前のようにたまには遊びに来てくれ」

 何だかんだで茶飲み友達としての俺を気に入ってはくれてたのか。
 不可抗力とはいえしっかり関係値が出来てた事が嬉しくてホッとしてたらそう言われ、一瞬ポカンとしたあと声を上げて笑うとどうしてか柊也に視界を遮られた。

「何だよ」
「そんな可愛い顔で笑わないで」 
「何言ってるんだ?」
「何でこの人、こんなに無自覚なの⋯」
「柊也は柊也で大変だな」
「ヤキモチなんて、可愛いわねぇ」

 何か、家族で盛り上がってるけど無自覚だの大変だの何を言ってるんだ?
 俺が眉を顰めている事に気付いた柊也がぐりぐりと頭に頭を擦り付けてきて、鬱陶しくて押し返したら今度はホールドされて頬擦りされる。
 何なんだ、この犬は。
 しばらくされるがままだったけど、ご両親の前だしいい加減暑苦しくなってきた俺は無理やり腕を引き剥がして距離を取った。
 ちょっと躾ないといけないかもしれない。
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