愛が重めの年下ワンコに懐かれました

ミヅハ

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副店長は敵(柊也視点)

 父さんとの話し合いを経て肩の荷が降りた俺は、瑠璃の結婚話をキッカケに朧気に考えていた事を進める事にした。
 今だに決めかねていたお揃いの物をペアリングにして、柚琉へとプロポーズする。絶対めちゃくちゃ驚くだろうけど、断られる事はないはずだ。
 ただちょっと、その事を考え過ぎてデートに誘うのもぎこちなくなってるから、最近は柚琉の眉間に皺が寄る事が増えた気がする。まぁそれは俺が悪いから仕方ないんだけど。
 そういえば、眉間の皺もそうだけど柚琉の溜め息も増えてると思う。
 特にバイトがある日は決まって憂鬱そうで⋯嫌な客でもいるなら俺が追い払ってやるのに、柚琉は何も言って来ない。1人でどうにかしようとか考えてなければいいけど。


 今日はおよそ1ヶ月ぶりのデートだ。
 俺の優柔不断さもあるけど、仕事が忙しくて連日残業だったから、こうして柚琉とゆっくり過ごせるのも久し振りだった。
 どこに行きたい? って聞いたら、観たい映画があるって答えてくれたから映画館に来てる。事前にカップルシートを取ってる事はギリギリまで内緒だ。

「柊也、ペアセットで足りるか?」
「大丈夫」

 映画鑑賞のお供といえばやっぱりポップコーン。
 2人とも最推しはキャラメル味だけど、柚琉はそんなに食べる方じゃないから普通サイズで充分だ。
 買い終わる頃には入場出来るようになってたから、スタッフさんにチケットを見せてシアターへと向かう。柚琉は席がカップルシートだと知って唖然としてたけど、俺が先に座ると苦笑しながらも隣に腰を下ろしてくれた。
 ドリンクだけ自分側のホルダーに挿し、柚琉の膝の上にポップコーンを置いて始まるのを待つ。柚琉と話していればあっという間に時間が来て館内が暗くなり予告が始まるけど、柚琉が好きそうだなって映画はすっかり分かるようになった。
 柚琉は意外にもホラーが好きで、恋愛物やアクション物には興味がない。あのビックリ演出にも驚かないのは素直に凄いと思うんだよね。
 あ、これも好きそうだから上映されたら観に来たいな。


「⋯や⋯⋯しゅ⋯や⋯」

 遠くで柚琉の声がして身体が軽く揺すられる。
 ゆっくりと目を開けると俺の顔を覗き込んでる柚琉がいて、一瞬状況が理解出来なかったものの周りの景色に把握した俺の頭が一気に冷めた。

「あ、起きたか? 終わったぞ」
「え⋯! あれ、俺もしかして⋯」
「よく寝てたな」

 柚琉が頭を撫でて笑ってくれるけど、とんでもない失態に青褪める。
 よりにもよって久し振りのデートで、映画の予告段階で寝てしまうなんて。

「ご、ごめん、柚琉! 俺⋯っ」
「仕事忙しかったもんな、そりゃ疲れてるよ。謝んなくていいから」
「でも⋯」
「気にするなって。ほら、出るぞ」

 立ち上がった柚琉に手を引かれて腰を上げるけど、俺は申し訳なさでいっぱいで柚琉が見れない。シアターからロビーへ出て常設されている椅子に座った柚琉は、手に持ったままだったポップコーンの容器を俺に見せてきた。

「?」
「まだ残ってるから、一緒に食べないか?」
「全部食べても良かったのに」
「金払ったの柊也なのに?」
「そういうとこ、ホント律儀だよね」

 柚琉の事だから、自分が払ったとしても一緒に食べたかったからって言って残してるだろうな。こういう時、俺と共有したいって思ってくれるその気持ちが嬉しい。
 無言で隣を叩く柚琉に微笑んで腰を下ろした俺は、こちらに向けて傾けられる容器からポップコーンを取って食べた。
 中身、半分も減ってない。

 話しながらだったから少し時間をかけて完食し、腹ごなしに店を覗いてみる事にした俺たちは今服屋に来ていた。

「柊也、このパーカー猫耳ついてる」
「あ、可愛い。柚琉に似合いそうだね」
「生地とかは好きなタイプだけど、外には着ていけないな」
「柚琉ならいけるよ」
「こういうのは、可愛い女の子が着るからいいんだぞ」
「メンズなのに?」

 どう考えても女の子が着るには大きくて、柚琉くらいなら少し緩めな感じで着れるのにと思って背中にあてると、丈がお尻の下まであってきゅんとした。
 これは彼シャツタイプの可愛さがある。

「これ買ってくる」
「着るのか?」
「柚琉がね」
「⋯うん?」

 俺の返事にキョトンとしてたけど、何かを言われる前にとレジへと向かいさっさと支払いを済ませる。渡したら今日にでも着てくれるかな。
 猫耳パーカーを着た柚琉の姿を思い浮かべウキウキで戻ると、柚琉が知らない男に絡まれていた。眉を顰めて駆け寄り割り込めば男が目を瞬く。

「俺のツレに何か用ですか?」
「⋯あー、なるほど。この子が柚琉くんの恋人かぁ⋯」

 柚琉の名前を気安く呼ぶからピキっとしたけど、どうも知り合いっぽくて柚琉を見たら困った顔をしてた。俺の服を摘んで背伸びする。
 耳を、寄せたらコソコソと教えてくれた。

「この人、俺のバイト先の副店長」
「え?」
「偶然会って、言い寄られてた」
「言い寄⋯」

 まさかの言葉に副店長とやらを睨みながら自分の背に柚琉を隠すと、彼は肩を竦めたあとまるで値踏みするかのように俺を見てきた。
 何だこの人、感じ悪いな。

「ふーん⋯⋯俺の方がいい男だと思うんだけどなぁ」
「他の人にはそうかもしれませんね」
「柚琉くんは思ってくれないか」
「当たり前でしょ。俺にとってはコイツが1番いい男なんで」

 俺を挟んで会話をする2人にムッとはするけど、柚琉の言葉は嬉しくて振り向いて抱き締めたい衝動に駆られる。でも今は我慢してジリジリと後ずさってたら、副店長がニヤリと笑って足早に俺の横を通り過ぎ柚琉の手を取った。
「あ」と思ってる間に指先に口付け、何とも甘い笑みを柚琉に向けたあとパッと手を離して両手を上げる。

「じゃあまたお店で」

 呆然とする柚琉だけにそう言って手を振り踵を返した副店長は立ち去って行く。
 ハッと我に返った俺は、自分の袖であの男がキスした柚琉の指を拭きながら小さくなった背中を睨んだ。
 今この瞬間、俺はあの人を敵認定した。
 俺の柚琉にそういう意味を持って近付くなんて許さない。
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