愛が重めの年下ワンコに懐かれました

ミヅハ

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幸せへの約束

 今日は柊也からの提案で水族館に来ていた。
 何か、いろいろプランを考えてくれてたらしく、今日のデートは柊也主体で進められるそうだ。

「水族館とか久し振りだけど、巨大水槽迫力あるなぁ」
「ね。大人になってから見ても凄いって思う」
「でも、この水槽がもし割れたら⋯とか考えた事ないか?」
「あ、ある。サメに襲われるかもとか」
「万に一つもないんだろうけどさ、つい思うよな」

 水族館の水槽ガラスってかなり分厚く見えるし割れるなんて事ないんだろうけど、誰しも1度は考える気がする。
 しばらく巨大水槽を眺めたあと次のコーナーに向かうんだけど、カニとかエビとか見てると鍋食べたくなるな。でもタカアシガニって身なさそう。

「柚琉」
「ん?」
「あの魚、1匹をずっと追い掛けてる」
「⋯ほんとだ」
「好きなのかな」

 魚にそういう気持ちがあるのかどうかは分からないけど、確かに魚が他の仲間には見向きもせずにたった1匹のあとをついて行ってた。
 じっと見てたら、後ろから挟むように柊也の手が伸びてガラスに触れ頭に口付けられる。
 いくら薄暗いとはいえ見られたらどうすんだと眉を顰めると、ガラス越しに見えたのかクスリと笑われた。

「あの子、俺みたい」
「え?」
「ずっと柚琉を追い掛けてた俺みたいだなって」
「⋯⋯⋯」

 そういえば、4年ずっと想ってくれてたんだよな。離れても好きでいてくれて、今も変わらず愛してくれて⋯ホント一途というかなんというか。

「でも追い掛けてたから今があるって考えると、あの子にも頑張って欲しいって思うな」
「振り向いて貰えるかどうかは頑張り方次第だけどな」
「俺みたいに?」
「お前は遠慮知らずだっただけだろ?」
「えー?」

 触ったり抱き着いたり、俺がやめろって言ってもやめてくれない事あったしな。
 納得がいっていない反応に笑い腕を外して囲いから抜け、手を繋ぎ直して先へ進む。この先は進む毎に暗さが増していって深海魚ゾーンに入るんだけど、その前にクリオネの水槽があるからそれがちょっと楽しみだった。
 一度でいいからリアルでバッカルコーンを見てみたい。

「柚琉」
「うん?」
「楽しい?」
「お前と一緒なんだから、楽しいに決まってるだろ」

 何を当たり前の事をと答えれば、柊也は目を瞬いたあとふわりと微笑んだ。
 それから俺の頭に頬を寄せ「そうだね」と頷く。その声が嬉しそうだったのは、俺の気のせいじゃないだろうな。


 ゆっくりと水族館を堪能し、会社や家族、友人へのお土産を買った俺たちは、今は静かな海沿いを歩いていた。
 まだ海開きには早いけど、それなりに気温は高めだからか裸足の子供たちが砂で何かを作って楽しそうに遊んでる。

「⋯⋯⋯」

 水族館を出てから柊也の口数が少なくなってて、話を振れば答えてはくれるんだけどそれ以外は無言状態だ。
 もしかして水族館が思ったよりも楽しくなかった⋯とか? それとも気付かないうちに俺が失敗したのか。まさか、クリオネの水槽を長く見過ぎたから?
 柊也が何かを考えてるのは分かるのに、それがどんな内容なのか見当も付かない。
 もやもやするから足を止めたけど、繋いだ手がピーンと伸び切るまで柊也は気付かなくて更にもやもやが溜まる。

「柚琉?」
「⋯何で喋んないんだ?」
「え」
「俺、何かした? 楽しかったの俺だけ?」

 何がダメだったのか、思い当たる節だらけで顔が見れないから目を伏せてそう言えば、柊也が息を飲んだ音がして肩を掴まれた。

「ち、違うよ。柚琉は何もしてないし、俺も凄く楽しかった」
「じゃあ何で⋯」
「⋯⋯俺、今めちゃくちゃ緊張してて⋯」
「緊張?」

 ここにきて何を緊張する事があるのか。
 辺りを見たけど、子供の笑い声が聞こえるくらいの長閑な風景にそんな要素は一切なくて俺は困惑する。
 ますます分からなくて首を傾げてたら、視線を彷徨わせた柊也が肩から手を滑らせて手を握ってきた。

「⋯本当はもっと、ムードのあるところで言いたかったんだけど⋯」
「?」

 今度はムード? 柊也は一体何を言ってるんだ?
 だけど、次に見た柊也の顔は真剣なものに変わってて、俺は射抜かれたように固まり何も言えなくなってしまった。

「こういう時何をどう言えばいいのか分からないけど、俺の素直な気持ちだけ伝えるね」
「う、うん」
「柚琉が好きだよ。誰よりも何よりも大切、一生傍にいたい。俺こんなだから頼りないかもしれないけど、柚琉を想う気持ちは誰にも負けないから」

 そう言いながらポケットを漁って何かを取り出した柊也が俺の左手を取る。
 夕焼けに反射してキラリと光の走ったそれを見て、俺は信じられない気持ちでいっぱいだった。
 そんな俺の思いなんて知らない柊也が薬指を通し根元まで押し込む。

「だから、俺と結婚して下さい」
「⋯⋯⋯」
「絶対幸せにする」

 左手の薬指に銀色の細い指輪が嵌ってる。
 まさかプロポーズされるなんて思わなくて、結婚式するのかとか男同士って受理されたっけとか、これからの事が一気に頭の中を駆け抜けた。
 好きな人のたった1人になれただけじゃなく、その人にこんな風に言って貰えるなんて⋯夢じゃないよな。

「柚琉⋯? えっと⋯返事は⋯」

 指輪を見つめたまま一言も話さない俺に痺れを切らしたのか、柊也が遠慮がちに聞いてくる。じわじわと現実味を帯びて、胸がじんわりと暖かくなってきた俺はぎゅっと手を握り込むと柊也の胸へと飛び込んだ。

「する。俺も、お前とずっと一緒にいたい」
「!」
「⋯ありがとう⋯」

 本当にコイツは俺を喜ばせる天才だ。
 思いがけないサプライズだったけど、自分がいかに柊也から愛されているかを改めて知る事が出来た。
 俺はそれ以上の気持ちを返していけたらいいな。
 抱き返してくれる腕に既に幸せを感じながら目を閉じた俺は、道行く人に生温かい目で見られている事にも気付かないまま日が沈むまで柊也の腕の中にいた。
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