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バッタリ(柊也視点)
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最近、柚琉が可愛くて仕方ない。
立てていた予定とは違ったものの無事にプロポーズを受けて貰えて、今は2人の左手薬指にはお揃いのシルバーリングが嵌ってるんだけど、何かをしている時にふと目に入るのか柚琉が指輪に視線を落とすようになった。
じっと見ているとどこか嬉しそうな顔をするから堪らなくて⋯こんなに喜んでくれるならもっと早くあげれば良かったな。
「戸守の彼女ってどんな子?」
外気温がすっかり30度を超えるようになった暑い中、出社するなり同僚である高邑にそう問い掛けられた。
元々お弁当の事で突っ込まれてはいたんだけど、俺が指輪を着けて会社に来るようになってから更に後輩や先輩からも聞かれてるようになったし、女の子たちなんかは写真ないんですかって聞いてくるから慣れてるけど俺が言えるのはただ一言だ。
「綺麗な人だよ」
それに尽きる。
柚琉の良さは俺だけが分かっていればいいし、男とか女とかも知らなくていいし写真を見せるなんて以ての外だ。
それなのに高邑は納得いかないのか、俺のデスクまで身を乗り出すようにして質問を重ねてくる。
「いやいや、綺麗だけじゃ分からん」
「そう言われても⋯」
「性格とかは?」
「優しい」
「ざっくりだなぁ」
そう言われてもあの人は優しさで出来てるみたいなものだから、1番上手く表してる言葉なんだけど。
「写真とかない?」
「絶対見せない」
「何で。同期のよしみだろ」
「どんだけ仲良くても、その人の顔を知らない人には見せない」
不可抗力で知られるならまだ許せるけど、俺からは絶対に見せない。そもそも男同士に偏見があったら傷付くのは柚琉だから、やっぱり本心から信じられる人じゃないとっていう気持ちもあるし。
しばらく「見せろ」「見せない」の押し問答をやってたんだけど、課長から「時間だぞ」と言われて話を切り上げ立ち上がる。
今日は高邑と営業回りだ。面倒だけど、これも仕事だから頑張らないと。
2人して「暑い暑い」と言いながらもどうにかリストを達成した俺たちは、木陰に入って冷たい飲み物を浴びるように飲んでた。
この炎天下の中での外回りって本当に地獄だ。
「⋯⋯お、美人さん発見」
隣で同じように茹だっていた高邑が不意にそう言葉を漏らした。
高邑は面食いらしく、男でも女でも綺麗な人を見ると無意識なのか口に出すんだけど、柚琉以外をそう思わない俺にしてみればみんな同じレベルだ。
失礼だとは思うけど、今高邑が言った女の人だって柚琉には劣る。
「おお、あっちは極上美人⋯」
今日は高邑のお眼鏡に適う人多めかな。
そう思って何気なく高邑が見ている方へ視線を向けると、見知った横顔がおばあさんと話してた。
「⋯⋯え」
「あの子すっごい可愛いいなぁ⋯⋯あれ? 戸守?」
おばあさんと笑い合う姿に釣られるように立ち上がる俺に高邑が不思議そうな顔をするけど、それには答えず2人に近付いて俺と同じ指輪が嵌っている左手を握れば驚いて俺を見上げ目を瞬く。
「柊也」
「柚琉、何でここにいるの?」
「こっちの図書館デカいから、卒論の資料探しに」
「そうなんだ」
そういえばもう就活始めてるんだっけ。柚琉の事だから俺からは敢えて言わないようにしてるけど、もう決まってたりするのかな。
汗で濡れた前髪を避けると眩しそうに目を細める。
「あ、おばあちゃん。あのバスで行けるよ」
「おや、本当かい? 年寄りの話に付き合ってくれて、ありがとうねぇ」
「ううん、俺も楽しかったから。気を付けてな」
「暑いから、ちゃんと水分摂るんだよ」
「うん」
何か、柚琉の口調かいつもよりも柔らかくて幼く感じる。
並んでおばあちゃんを見送っていると、いきなり背中を小突かれビクッとなった。
「戸守。この子と知り合い?」
「⋯⋯忘れてた」
振り向くと高邑がいて、そういえば一緒にいたんだったと顔を押さえて息を吐く。柚琉に意識がいってうっかりしていた。
「会社の人か?」
「うん。俺の同僚の高邑くん」
「どうもー。戸守の友人、高邑でーす」
「そうなのか。いつもうちの柊也がお世話になっています」
「うちの⋯?」
ぺこりと頭を下げる柚琉に首を傾げた高邑だったけど、俺と柚琉が手を繋いでいるのを見て「なるほど」と呟きニンマリする。
それから俺の腕を叩き何度も頷いてきた。
「そっかそっか。これは確かに見せたくないな」
「⋯⋯⋯」
「?」
「まぁ戸守がイケメンだから、そのお相手さんもさぞかし美人さんだろうなとは思ったけど、いい意味で予想外だった」
「うるさいな。ってか、じろじろ見過ぎ」
高邑にだけは見せたくなかったのに、結果として本物を見せてしまって自己嫌悪に陥る。
せめてと背中に柚琉を隠せば高邑は軽快に笑い、ポケットからスマホを取り出すと何かを操作して俺に見せてきた。そこには高邑と大学生くらいの男の子が仲良く写ってて、見せられた意味の分からない俺は眉を顰める。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だって。ほら」
「?」
「俺のハニーちゃん。可愛いだろ?」
「え?」
ハニーちゃん⋯って事は、高邑はこの男の子と恋人って事だよね。
まさか同僚も同性と付き合ってるなんて思わなくてあんぐりと口を開けてたら、スマホを自分の方に向けた高邑が画面を見て優しく微笑む。
その表情を見て本当にその子が好きなんだなって思った。
「お互いびっくりだけど、この子含めて仲良くして貰えると有り難いな」
「えー⋯」
「こら」
「戸守の言いたい事は分かるけど、別に彼氏くん取ったりしないから」
苦笑する高邑に何で分かったと思いながらも、恋人がいるならまぁ大丈夫かと納得して柚琉を見ると、ぎゅって手を握ってくれてて嬉しくなる。抱き締めたいけど、高邑の前だから嫌がられそうだ。
「あ、やば! そろそろ戻らないと課長にドヤされる!」
「⋯じゃあ柚琉、またあとでね」
「ん。頑張れ」
名残惜しいけど、仕事はちゃんとやるって決めてるから手を離して頬に口付け、怒られる前にと高邑を促して歩き出す。
振り向くと険しい顔をしてたけど、手を振れば振り返してくれたから大丈夫そうだ。
早く帰って、柚琉にたくさん構って貰おう。
立てていた予定とは違ったものの無事にプロポーズを受けて貰えて、今は2人の左手薬指にはお揃いのシルバーリングが嵌ってるんだけど、何かをしている時にふと目に入るのか柚琉が指輪に視線を落とすようになった。
じっと見ているとどこか嬉しそうな顔をするから堪らなくて⋯こんなに喜んでくれるならもっと早くあげれば良かったな。
「戸守の彼女ってどんな子?」
外気温がすっかり30度を超えるようになった暑い中、出社するなり同僚である高邑にそう問い掛けられた。
元々お弁当の事で突っ込まれてはいたんだけど、俺が指輪を着けて会社に来るようになってから更に後輩や先輩からも聞かれてるようになったし、女の子たちなんかは写真ないんですかって聞いてくるから慣れてるけど俺が言えるのはただ一言だ。
「綺麗な人だよ」
それに尽きる。
柚琉の良さは俺だけが分かっていればいいし、男とか女とかも知らなくていいし写真を見せるなんて以ての外だ。
それなのに高邑は納得いかないのか、俺のデスクまで身を乗り出すようにして質問を重ねてくる。
「いやいや、綺麗だけじゃ分からん」
「そう言われても⋯」
「性格とかは?」
「優しい」
「ざっくりだなぁ」
そう言われてもあの人は優しさで出来てるみたいなものだから、1番上手く表してる言葉なんだけど。
「写真とかない?」
「絶対見せない」
「何で。同期のよしみだろ」
「どんだけ仲良くても、その人の顔を知らない人には見せない」
不可抗力で知られるならまだ許せるけど、俺からは絶対に見せない。そもそも男同士に偏見があったら傷付くのは柚琉だから、やっぱり本心から信じられる人じゃないとっていう気持ちもあるし。
しばらく「見せろ」「見せない」の押し問答をやってたんだけど、課長から「時間だぞ」と言われて話を切り上げ立ち上がる。
今日は高邑と営業回りだ。面倒だけど、これも仕事だから頑張らないと。
2人して「暑い暑い」と言いながらもどうにかリストを達成した俺たちは、木陰に入って冷たい飲み物を浴びるように飲んでた。
この炎天下の中での外回りって本当に地獄だ。
「⋯⋯お、美人さん発見」
隣で同じように茹だっていた高邑が不意にそう言葉を漏らした。
高邑は面食いらしく、男でも女でも綺麗な人を見ると無意識なのか口に出すんだけど、柚琉以外をそう思わない俺にしてみればみんな同じレベルだ。
失礼だとは思うけど、今高邑が言った女の人だって柚琉には劣る。
「おお、あっちは極上美人⋯」
今日は高邑のお眼鏡に適う人多めかな。
そう思って何気なく高邑が見ている方へ視線を向けると、見知った横顔がおばあさんと話してた。
「⋯⋯え」
「あの子すっごい可愛いいなぁ⋯⋯あれ? 戸守?」
おばあさんと笑い合う姿に釣られるように立ち上がる俺に高邑が不思議そうな顔をするけど、それには答えず2人に近付いて俺と同じ指輪が嵌っている左手を握れば驚いて俺を見上げ目を瞬く。
「柊也」
「柚琉、何でここにいるの?」
「こっちの図書館デカいから、卒論の資料探しに」
「そうなんだ」
そういえばもう就活始めてるんだっけ。柚琉の事だから俺からは敢えて言わないようにしてるけど、もう決まってたりするのかな。
汗で濡れた前髪を避けると眩しそうに目を細める。
「あ、おばあちゃん。あのバスで行けるよ」
「おや、本当かい? 年寄りの話に付き合ってくれて、ありがとうねぇ」
「ううん、俺も楽しかったから。気を付けてな」
「暑いから、ちゃんと水分摂るんだよ」
「うん」
何か、柚琉の口調かいつもよりも柔らかくて幼く感じる。
並んでおばあちゃんを見送っていると、いきなり背中を小突かれビクッとなった。
「戸守。この子と知り合い?」
「⋯⋯忘れてた」
振り向くと高邑がいて、そういえば一緒にいたんだったと顔を押さえて息を吐く。柚琉に意識がいってうっかりしていた。
「会社の人か?」
「うん。俺の同僚の高邑くん」
「どうもー。戸守の友人、高邑でーす」
「そうなのか。いつもうちの柊也がお世話になっています」
「うちの⋯?」
ぺこりと頭を下げる柚琉に首を傾げた高邑だったけど、俺と柚琉が手を繋いでいるのを見て「なるほど」と呟きニンマリする。
それから俺の腕を叩き何度も頷いてきた。
「そっかそっか。これは確かに見せたくないな」
「⋯⋯⋯」
「?」
「まぁ戸守がイケメンだから、そのお相手さんもさぞかし美人さんだろうなとは思ったけど、いい意味で予想外だった」
「うるさいな。ってか、じろじろ見過ぎ」
高邑にだけは見せたくなかったのに、結果として本物を見せてしまって自己嫌悪に陥る。
せめてと背中に柚琉を隠せば高邑は軽快に笑い、ポケットからスマホを取り出すと何かを操作して俺に見せてきた。そこには高邑と大学生くらいの男の子が仲良く写ってて、見せられた意味の分からない俺は眉を顰める。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だって。ほら」
「?」
「俺のハニーちゃん。可愛いだろ?」
「え?」
ハニーちゃん⋯って事は、高邑はこの男の子と恋人って事だよね。
まさか同僚も同性と付き合ってるなんて思わなくてあんぐりと口を開けてたら、スマホを自分の方に向けた高邑が画面を見て優しく微笑む。
その表情を見て本当にその子が好きなんだなって思った。
「お互いびっくりだけど、この子含めて仲良くして貰えると有り難いな」
「えー⋯」
「こら」
「戸守の言いたい事は分かるけど、別に彼氏くん取ったりしないから」
苦笑する高邑に何で分かったと思いながらも、恋人がいるならまぁ大丈夫かと納得して柚琉を見ると、ぎゅって手を握ってくれてて嬉しくなる。抱き締めたいけど、高邑の前だから嫌がられそうだ。
「あ、やば! そろそろ戻らないと課長にドヤされる!」
「⋯じゃあ柚琉、またあとでね」
「ん。頑張れ」
名残惜しいけど、仕事はちゃんとやるって決めてるから手を離して頬に口付け、怒られる前にと高邑を促して歩き出す。
振り向くと険しい顔をしてたけど、手を振れば振り返してくれたから大丈夫そうだ。
早く帰って、柚琉にたくさん構って貰おう。
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