愛が重めの年下ワンコに懐かれました

ミヅハ

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人は見かけによらない

 大学が忙しくて休みを貰ってたバイトに久々に入ったんだけど、俺の左手薬指に指輪がある事を目敏く見付けた桜庭さんが笑顔のまま固まった。

「おはようございます」
「おはよう、宮脇くん。落ち着いた?」
「はい。お休み頂いてすみませんでした」
「いいのいいの。卒論大変でしょ?」
「はい、文章を纏めるのとか得意じゃないので、頭パンクしそうです」
「内定、無事に貰えるよう応援してるからね」
「ありがとうございます」

 朗らかで優しい店長さんには早めに辞める時期を伝えていて、一応夏休み明けとは決めている。店の状況次第では伸ばそうかとも思ってたんだけど、今のところ大丈夫そうだから予定通りいきそうだ。

「⋯柚琉くん」
「はい?」

 着替えの為にスタッフルームに入りロッカーに荷物を入れていたら、まだ仕事中にも関わらず桜庭さんが入って来た。
 エプロンを身に着けて、後ろでクロスさせた紐を前で結びながら振り向くと思いの外近くにいて驚く。

「あの⋯」
「その指輪⋯」
「これですか? 恋人に貰いました」
「いや、うん、そうなんだろうけど⋯⋯マジかぁ⋯」
「自分で聞くのもなんですけど⋯桜庭さん、本気なんですか?」

 前から不思議だったんだよな。
 俺の反応なんてわざわざ見るほど面白いものでもないし、柊也以外にこういう気持ちは湧かないからどれだけ迫られても応える事は絶対にないのに。
 だから、ここで働くのもあと少しだし、もし本気なんだとしたらちゃんと向き合おうと思ってるんだけど。
 桜庭さんは目を伏せると、次には真剣な顔で俺を見たきた。

「本気だよ」
「ならごめんなさい」
「早いって」

 最初から答えが決まっているから、引き伸ばすよりもハッキリ言った方がいいからそう頭を下げたら、桜庭さんは苦笑して今度は俺の顔の横に手をついてきた。
 しまった、ロッカーを背にしたのは失敗だったか。

「こんな気持ちになったのは初めてなんだ。本当に本気なんだよ」
「桜庭さん⋯」
「俺は本気で」

 そんなに想ってくれてるのか⋯でも、どんなにたくさんの好きを貰っても柊也には敵わないから何か申し訳なくなってくる。
 傷付けたくはないけど、どう言ったら引いてくれるんだろう。

「あの⋯」
「本気で君を、俺のセフレにしたいと思ってる」
「⋯⋯は?」

 この人今なんつった?
 理解出来なくて眉を顰めてたら、桜庭さんは目を細めて俺に顔を近付けてきた。

「俺はね、今まで誰かを本気で愛した事がないんだ。でも男だから溜まるものは溜まるだろう? だからセフレを作るんだけど⋯柚琉くんは今まで見た子たちの中で1番心惹かれるんだ。抱きたいって、本能が叫んでる。こんなにも身体が欲しているのは初めてだ」

 ⋯⋯桜庭さんってこういう人だったのか。
 口説いてはくるけど、いつも穏やかだしスマートに仕事をこなす大人だと思ってたのに、こんな頭おかしい人だったとは。
 ってか、また男運の悪さ復活してないか、これ。

「どうかな。一度だけでも俺に抱かれてみる気は⋯」
「ありません」

 信じられん。真剣に向き合おうとしたこっちの身にもなれっつーんだ。
 一気に副店長としての敬意も何もなくなった俺は、真顔で桜庭さんの壁ドンから抜けるとさっさと出勤登録をしホールへと出る。
 申し訳ないと思った気持ちを返せ。


 桜庭さんのせいでイライラが収まらなくて、それでもどうにか仕事を終えて18時過ぎに店を出た俺は、甘い物を買って帰ろうと帰路の途中にあるスーパーに立ち寄った。
 気持ちが落ち着かない時は甘味に限る。

「ゆーずーる」
「わっ」

 自動ドアをくぐってカゴを持とうとしたら、名前を呼ばれて後ろから抱き締められた。ふわりと香った匂いに柊也だって分かったけど、さすがに驚いたからジロリと見上げたら「ごめんね」と言って頬擦りしてくる。

「違う人だったらどうするんだ」
「俺が柚琉を見間違えると思う?」
「この世には自分と同じ顔をした奴が3人はいるって⋯」
「俺の柚琉は1人だけだよ」

 柔らかく笑って照れもなく言い切る柊也に、さっきまでのイライラがすーっと消えていく。やっぱり、どんなイケメンに言い寄られても柊也以上に安心出来る奴はいないな。
 スーパーの出入口でくっついてる俺たちを他のお客さんがチラチラと見てくる事に気付き、柊也の腕を離したあとそのまま掴んで外に出て人のいない方へ行く。植木多いから、ここなら周りから見えなさそう。
 念の為人がいないかを確認した俺は、不思議そうな顔をしている柊也に抱き着いた。

「ゆ、柚琉?」
「⋯ちょっと屈んでくんない?」
「?」

 背伸びをしても届かないからそう言えば、柊也は首を傾げながらも腰を曲げてくれる。近くなった顔を両手で挟み唇を軽く触れ合わせるとピクリと反応した。
 それに気分を良くした俺は柊也の首に腕を回して今度は深めに口付ける。
 舌は入れないものの、舐めて、食んで、満足してから離したら柊也は顔を赤くして何かを耐えるように眉根を寄せていた。

「⋯⋯生殺しだ」
「はは、可愛い奴」
「帰ったらすぐベッド連れてくから」
「元気だな」
「誰のせい?」

 ジト目で見られ肩を竦める俺に柊也は「もー」と言いながら息を吐いた。
 それから先に植木から抜けて辺りを見回して俺を振り返ると、手を差し出して微笑んでくれる柊也が堪らなく愛おしい。どこが好きとか、どれくらい好きとか、そんなの表せられないくらい好きだ。
 桜庭さんの事なんてもうすっかり頭から抜けた俺は柊也の手を取ると、耳元になるべく近付けるよう背伸びをして囁いた。

「柊也の好きにしていいよ」

 今はお前に抱き潰されたい気分だから。
 驚いてまた赤くなった柊也が無言で歩き出したけど、それが自分を抑えてるからだって分かる俺は笑いながら引かれるままに足を動かし2人で自宅に向かう。
 甘い物なんてなくても、柊也がいれば俺の機嫌はいつだって上々なんだろうな。
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