魔王と結婚したい勇者の話

餅月

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目指すは魔界

Prolog

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サアサアそこなる皆々様、ぜひご笑覧あれ!

これよりお目にかけますは、魔王に恋した勇者の織り成す冒険活劇ラヴロマンス

かつて村を襲った諸悪の根源にして、世界を睥睨へいげいする可憐な魔王『マグノリア』

これも世のため人のためと、魔物をバッタバッタと薙ぎ倒すもその実は魔王に会いたいだけの勇者『イリヤ』

愚かなる男の恋路は如何にして開かれるのか?!

まもなく、幕が上がります。

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「魔王軍が攻めてきたぞー!」
「急げ!逃げるんだよ!!」
「誰かー!助けてー!」

王都を囲む堅牢な城壁を易々と破り、次々と侵入してくるあれは魔王軍にございます。

ごうごうと燃え盛る炎に包まれた都は、瞬く間に屍のしとねと化し、阿鼻叫喚の地獄絵図と彩られたこの世界に救世主など現れず、人々はされるがままでございました。

国の軍隊をして止めることのできぬ死の行進曲。
フィナーレを飾るのは、魔物どもの咆哮であれ!

これに恐れをなした、面の皮ばかり厚い小肥りの王様はすぐさま降伏。
瞬く間に王都は陥落してしまいました。

王都でさえ免れえなかった未曾有の災厄。
他の国が抵抗しうるはずがありません。

こうして、わずか三日にして世界は魔王のものとなったのでした。

さて、空前絶後の悲劇から十年が経ちました。

都は絹を、村は作物を、それが出来ねば労働力を税として、思いのほか良心的な魔王へ献上します。
税の見返りとして、人々は見掛けだおしの平和を享受し、魔物の影に怯えることもなく、安定した暮らしを楽しんでおります。

ここで視点を移して、とある辺鄙な村に注目することにしましょう。

決して裕福ではないが貧しくもない、そこそこの暮らしをおくる人々の住むこの村こそが、冒険の始まりの舞台であります。

この村には、ある男が住んでいます。

名を『イリヤ・クルール』といい、この冒険活劇の主人公であります。

金髪碧眼の端正な顔立ちをした男で、引き締まった体躯は、人々の心の内に安心感を抱かせる好男子でした。

ところが彼には人には言えない悩みがあるようです。

金髪をかき乱し、碧眼を苦悩に閉じる彼の脳裡に宿る悩みとはいったい?

さあ!これで準備は整いました。

これより、イリヤとマグノリアをめぐる稀有な冒険活劇の幕が開けようとしています。

彼らの行先に何が待ち受けているのか。

皆様には、ぜひ、見届けていただきたく思います。

それでは、いざ、開幕。
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