魔王と結婚したい勇者の話

餅月

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目指すは魔界

噴水広場の男の託宣

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レモンの後引く酸っぱさに顔をしかめながらも勇者は執念のごとく王都を徘徊します。

「......!............??............!!!」

噴水広場に差し掛かると、何やら人だかりが出来ています。

一体なんの騒ぎかと覗いて見ますと、人だかりの中心にましますは乞食のような薄汚い男でした。

その男が何やらのたまうところによりますと、曰く、近いうちに魔王が討たれるのだそうです。

「俺は確かに聞いたんだ!間違いねぇ!大魔道士カラル様が仰るんだ!あの方のご託宣が外れたことなんてありゃしねえからなぁ!」

「魔王様が...?」
「一体誰がそんな事を...?」
「いったいどうして...まさか内乱とかじゃあるめえな」
「魔王様に死なれたら...人間界はどうなるんだよ」

皆、一様に不安を口にします。
この世界において、魔王とはそれほどまでに人間界に深く根を張る存在となっていたのです。

「カラル様によると、魔王を殺すのはイリヤという名の『奇跡の使い手ミラクル・マター』らしいぞ!あのミラクル・マターが現れるんだ!」

勇者はギクリとしました。

(まさか...そのイリヤって俺の事じゃねぇよな...?)

勇者の願いは、あくまで魔王に会うことなのです。

「その、イリヤってのは何処の馬の骨だぁ?」

群衆の中の一人が乞食風の男に尋ねますと、その男は自信満々にこう答えました。

「カラル様が仰るに曰く、ミラクル・マターは流れるような金色の髪を持ち、大海よりも青い碧眼を持っておられるそうだ!そう!そこの坊主のように!」

その男の指さす先にはイリヤがおります。

「え、ええ...??」

イリヤは突然注目され、狼狽うろたえます。

「お前が、その、イリヤっちゅうガキかあ?」

目の下に古傷を残す、明らかに健全ではないお兄さんに詰め寄られたイリヤは「ははは、まさかァ、俺なわけがないでしょ?」と言ってそそくさと逃げさりました。

(あの男...なぜ俺の名前を知ってるんだ?   それに、ミラクル・マターって事まで...それに、俺が魔王を殺す...?   そんな事ありえないだろ)

これは、大魔道士に会う必要がありそうです。

そう決心した勇者は、とりあえず情報を収集するために大衆酒場へと足を向けました。
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