魔王と結婚したい勇者の話

餅月

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魔界へようこそ

これが魔王?!

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今回は、のっけから剣呑な様子を呈しております。

「お前が、イリヤ・クルールだな?」

二人の目の前にいるのは、先程の竜人と理知的な男でした。

イリヤは、密かに『奇跡の物質ミラクル・マター』を構え、不敵に笑います。

「...だとしたら、どうする?」

三白眼の男も、長剣を構えます。

「無論、ここで始末する!」

突然、男が斬りかかってきました。

「!!!危ないじゃないか!」

勇者は、なんとか手にした物体でこれを防ぎます。

ぎぃん、という鈍い音が辺りに響きました。

「おい!俺の『フェルミニオン』が傷つくだろうが!」

「貴様がそれで防いだのだろう!!」

男は追撃の手を止めてくれません。

勇者は仕方なく『フェルミニオン』で防ぎ続けますが、男の一撃一撃はとても重く、防ぐたびにじぃんとした痺れが襲います。さしもの勇者の手も既に限界でした。

「どうした!人間よ!それで終わりか!」

男が勝ち誇ったように高らかに笑います。

「うるせぇ!」

勇者は痺れる腕をなんとか動かして、剣撃を防ぎ続けます。

「って、いうかよ!お前ら何なんだ!いきなり襲ってきやがって!」

「ふん!理由が知りたければ、私を倒してみろ!」

「お前まで脳筋キャラだった!!」

哀れ、勇者のメタな悲鳴は誰にも理解されませんでした。

ところで、あの竜人はどうしているかと言いますと、男の背後で乙女を護るように立っていました。

そして、カラルはどうかと言いますと、こっちはこっちで、じっと立っているだけです。

「おいこら!カラル!仲間が襲われてんだ!助けろ!」

その言葉にカラルはちょいと顔を上げ、曖昧な笑みを返してきました。

「あはは...頑張れぇー」

「てめぇこのやろう!笑ってないで助けろよ!」

「ゴメンねー、私の魔法じゃ彼に適わないのよ」

「暢気そうな声でいうなぁ!!」

「じゃ、真剣に言えばいい?」

「ふざっけんな!そういう問題じゃねえ!」

そんな問答を続けながらも、男は追撃の手を止めません。

「ハッハッハ!女に助けを求めるとは、勇者とはかくも愚かな存在なのか!」

「んだと、こらぁ!」

とはいえ、防戦一方なのは事実です。如何にして活路を見出すか、勇者は必死に考えました。
ふと、勇者は、『フェルミニオン』に紅い模様がともっているのに気がつきました。

これだ!

勇者はすぐさま叫びました。

「こ...の、やろぉ!『吹き飛べ』!」

その言葉に反応し、『フェルミニオン』が小さく振動し、小さく光ります。そして、次の瞬間、あの酒場の時のような衝撃と、耳をつんざく破壊音が男を襲いました。

「なに!?」

男は謎の衝撃波に為す術なく吹き飛ばされ、もんどりうって苦しんでいます。

「ぐ、がぁぁ!なんだこれは!」

起き上がろうとする男の目の前にイリヤは立ち塞がり、フェルミニオンを構えます。そして、脅すように、こう言いました。

「今ので31だ。次は容赦しない。全力でいくぞ」

「ふん、この私に対して手加減をするとは、舐められたものだ」

しかし、男の四肢はったように痺れて、思うように動きません。

「嘯くんじゃない。指先さえ動かせないくせに」

その言葉通り男は、指すらピクリとも動かせませんでした。

「ほら、勝負あったぜ。俺を襲った理由を聞かせろ」

「ねえ、私も襲われたんだけど?」

水を差すようにカラルが横槍を入れてきますので、イリヤは嫌味っぽく返しました。

「お前は高みの見物を決め込んでたじゃないか」

「ひどいなぁ、せっかく応援したのに」

イリヤはカラルを無視し、男に視線を戻します。

「さて、改めて話を戻すが、どうして俺を襲う?」

イリヤの問いに、男は不貞腐れたように答えます。

「ふん、姫様の命令だからさ。そうじゃなきゃ、貴様のような青二才なぞ歯牙にもかけん」

「姫様?」

それは誰だと、イリヤが問おうとしたときです。例の可憐な乙女が竜人の静止をやんわりと止めて、こちらに近づいてきました。

「私の事よ。イリヤ」

その乙女は、幼馴染に接する少女のような笑顔をしています。

この乙女の背の丈はカラルとそう変わりありませんが、二人には決定的な違いがあります。

カラルは陶器のようにスラリとしており、幼気いたいけな花のようにたおやかな体躯をしています。そして、ローブから伸びる手足は金魚のようにしなやかで、流水のように鮮やかです。

それに対しこの乙女は、(どこがとは言いませんが)ふんわりとしており、抱擁力のある柔らかな体躯をしています。しかし、スカートから伸びる足や腕は品のある白みをおびており、蝸牛類のような艶かしい肌で、スラリとしております。

「今、絶対胸の話してたでしょ!!」

カラルの突然の叫びに皆は一様にビックリします。

「な、なんだよカラル。どうしたんだ?急に叫んだりして」

「なんか、誰かに貧乳って言われた気がするぅ」

情緒不安定なのでしょうか。カラルは、誰も何も言ってないのに落ち込みます。

「お、俺は貧乳でも気にしないぞ?」

イリヤが慌てて取り繕います。

その言葉は結構カラルに効いたようです。

「ほんと!?」

と、飴玉を貰った子供みたいに喜びました。

少しはしゃぎすぎです。

「あ、あの~、そろそろいいかしら?」

と、さっきから放置されている系乙女がおずおずと手を挙げます。

その後ろには、実は脳筋系男子と竜人系男子が控えています。

「ん? ああ、そうだったな。どうした?マグノリア」

勇者は、さも当然のように乙女に問い返します。

「別に、大した用じゃないの。こんなところで会うなんて珍しいから、どうしたのかな?って思ってね」

乙女も、友達以上恋人未満の男友達に声をかけるような気安さで、勇者に話しています。

「ああ、そうそう、ちょっとお前に用事があってな」

「私に? 珍しいじゃない。いったいどうしたの?」

そんな二人のやりとりをはたから聞いていたカラルは、何が何だか分かりません。

(...あれ? 私たち魔王に会いに来たんだよね? それに、イリヤはこんな女の子に用があるなんて一言も言ってないし...どうして? まさか、隠し事?...をする間柄でもないし。でも、なにかあるんなら一言いってくれてもいいのに、とにかく、これはイリヤを問い詰めないと!)

「ちょっと、イリヤ、その子は誰?」

「ん? あれ? お前は会うの初めてか?」

イリヤは、悪ぃ悪ぃと軽く謝ります。

「悪ぃ悪ぃ、じゃないから」

カラルは軽く諌めます。

勇者は、へへっと笑ってから居住まいを正して言います。

「じゃ、改めて紹介するよ。こいつはマグノリア。まあ、幼馴染みたいなもんだな」

「幼馴染? こんなところに?」

「ああ、まあ、最近はあってなかったんだけどな」

「はあ...」

ますます怪しいな...とカラルは疑いを強めます。

何への疑いかは本人も分かっていません。

「初めて会ったのは、あのときだな。王都が襲われたときだ。あのとき、マグノリアが俺たちの村に迷い込んだんだよな」

懐かしそうに勇者は言います。

マグノリアは恥ずかしそうに勇者を諌めました。

「ち、ちょっと、そこまで言わなくてもいいでしょ?」

「あはは、すまんすまん」

「もう...イリヤったら...」

「まあ、二人の馴れ初めは分かったけど、それで、どうしてあなたの目的が彼女なの? 私たちは魔王に会いに来たのよ?」

「あれ? お前知らないの?」

「何が?」

「こいつが魔王だぜ?」

「ファッ?!」

カラルは、イリヤの突然のカミングアウトに驚きます。

『魔王』と紹介された乙女は、ちょっと微笑んでから、カラルに礼儀正しくお辞儀をしました。

「あなたはカラルちゃんね? 私はマグノリア。魔王をやってます。彼らは姫様って呼ぶわ」

よろしくね。と魔王は朗らかな笑でカラルに握手を求めます。

イリヤの言葉が、ようやく脳に達したカラルは仰天して叫びます。

「これが魔王?!」

魔王は、とても可憐で可愛らしい女の子でした。
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