1:細糸

四ツ橋ツミキ

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きっかけー1

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 C警察署、刑事課。出入り口から一番遠い場所にある、盗犯係の島に席を構えている安原やすはらは、パソコンの画面を睨みつけていた。そこに羅列する文字が語るのは、2年前に起きた窃盗事件の概要だ。

 31歳という若年で警部補の階級を手に入れることができた彼は、この盗犯係の係長として辣腕らつわんを振るってきた。それから5年、管轄内で起きた窃盗事件の犯人検挙率は、発生数に対していまも安定して高い水準を保っている。

 部下の信頼も厚く、人を統べる能力も高い。警部への昇進も近いだろうと囁かれており、実際に警部への昇任試験を受けろと上から声はかかってはいたが、安原はその話を既に2度ほど蹴っていた。書類作成や決済、企画仕事に追われる日々を送るつもりはない、というのは建前で、彼にはどうしても捕らえたい者がいたのだ。





「……何もないじゃないか」

 がらんとした部屋にたたずみ、安原は愕然としてそう呟いた。

 貴金属ばかりを狙い、組織的に空き巣を繰り返していた窃盗団を一斉検挙した安原は、彼らから聞き出した獲物の保管場所の一つであるマンションの一室に踏み込んでいた。

「おい、どういうことだ!」

 部下である野中のなかが、立ち会った被疑者の一人、水成みずなりに乱暴に詰め寄る。

「し、知らねえよ! つか俺だって今すげえショック受けてんですけど!」
「ショックだぁ? 白々しいこと言ってんじゃねーぞ。お前ら以外に誰がここのものを持ち出すんだ」
「だから知らねえって! 誰かに盗まれたんだ!」

 この部屋の鍵を管理していた水成は、野中に胸倉をつかまれながらも必死でそう弁明した。

「ふざけんな、盗んだのはお前らだろうが」
「いやまあ、そうなんだけどよ。でもあんだけがんばって集めた戦利品が丸ごと無くなっちまってるなんて……」

 ボスにどう言ったらいいんだ、と項垂れる水成の打ちひしがれた様子を見て、安原は彼が嘘をついてこちらを欺こうとしているわけではないと感じた。

「お前が最後にこの部屋に入ったのはいつだ」
「……確か、1週間ちょっと前だったと思うけど」
「何の用事でここに来たんだ? 新たなコレクションを並べるためか?」
「いや、今度のオークションに出すために商品の撮影を……あっ」

 安原の目つきが変わったのを受けて、水成が慌てて口をつぐんだ。

「面白そうな情報もってんじゃねーの、水成さん。で、そのオークションってのは誰が主催でいつどこで開かれる予定なんだ? ん?」

 野中に肩を組まれながら詰問され、水成の顔面が蒼白になっていく。

 これまで水成がやけに捜査に協力的だったのは、自分が警察に従順であるというアピールをするためだったらしい。盗品のありかについてを洗いざらい吐いておけば、その他の探られたくない腹は守れると踏んだのだろう。

「なあ安原さん、もう勘弁してくれよ……。下手うったのは俺らなんだ。他の組織にメーワクかけるマネしたら、マジで俺の命がヤベーことになっちまう」
「心配するな。今まで通りにこちらにきちんと協力すれば、お前には何の手出しもできないようにしてやる」
「そんなの信じられるか!」
「だったら別ルートで炙り出すだけだ。お前が口を割ったことを言いふらしながらの捜査になるが、それでも構わないんだな?」

 安原の脅しに、水成は半泣きになりながらがっくりと頭を垂れ、その場に座り込んだ。

「すぐ署に戻って吐かせますか」
「いや、後でいい。まだ確認してもらわなきゃいけないことがあるかもしれないからな」

 安原はそう言うと、数名の鑑識係員が作業をする中、改めて辺りをじっくり見回した。





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