後妻を迎えた家の侯爵令嬢【完結済】

弓立歩

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挿話 私の家とイリス様

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 私はケイト=エルマン子爵令嬢。今はレイバン侯爵様の後妻としてやっかいになっています。事の始まりは三か月前の王都でのパーティーの一席でした。

「いやあ、今日も素敵ですなレイバン侯爵様。いつまでもお若い」

「そうかなエルマン子爵。そう言ってもらえると私もまだまだ捨てたものではないな」

「そうですよ。もう奥方をなくして長いでしょうに。今でも輝いておられますよ」

「ああ、最近ようやく娘の縁談も決まってね。私もこれからどうしようかと思っているんだよ」

「それはそれは……。では、娘を紹介致しましょう」

「娘ですか?」

「ケイト!」

「あ、はい。」

「お嬢さん。お名前をお聞かせ願えないだろうか。私はデビウス=レイバン侯爵だ」

「わ、わたくしは……ケイト=エルマンです。よろしくお願いいたします」

「ほう? 中々、見どころのあるお嬢さんですな」

「ほ、本当ですか?」

 今まで私は王都の学園でも領地でも常に白い目で見られてきた。そんな私に価値なんてないと思っていたけど、本当に私にも価値があるのだろうか?

「そうですか! では、今度うちにいらして下さい。きっとケイトも喜びます」

「ああ、ちょうど近くの領に用事があってね。寄らせてもらうとしよう」

 それから、レイバン侯爵様は何度か家を訪ねてこられた。私は父の命令で、侯爵様の予定に合わせ領地に帰らされた。こんな家によく来てもらえるとありがたい気持ちと申しわけない気持ちでいっぱいだった。両親は気にしてないようだけど……。

「どうした、ケイト嬢?」

「あ、いえ、いつも来ていただいて悪いなと」

「そんなことか。男は女性を迎えるのが当然だよ。私も昔は色々言われていたが、女性に来てもらったことは一度としてないよ」

「そんな、私はただの子爵家の娘ですし……」

「ふふっ、そういう謙虚な姿勢が良いと言うんだよ。広間に戻れば君の両親はふんぞり返っているだろう?」

「す、すみません!」

 両親のあまりの無礼さに顔が真っ赤になる。私もマナー何てろくに出来ないけど、両親はもっとダメなのは知っている。

「君もこんなところにいては窮屈だろう? どうだろうか、私の領地で一緒に暮らしてみないか?」

「えっ!……そんなことができるのですか?」

「ああ、任せておきたまえ」

 そう言って侯爵様は広間へ入っていく。私はそんなうまい話があるのかと怖くなって、その日はそのまま部屋に戻ってしまった。後日、本当に私は両親から身一つで侯爵家に向かうよう指示された。


「は、初めまして、クレイ様、イリス様。わ、わたし、エルマン子爵の娘のケイト=エルマンと申します」

「あ、えっ!?」

 訳も分からず来たけれど、侯爵様にあいさつをすればいいと言われ、勇気を振り絞って挨拶する。だけど、侯爵様の二人のお子さんはとてもびっくりしている。お子さんといっても私より年上なんだけど。

「お、お、お父様! これは一体?」

「なんだ、説明しただろう? 再婚相手、つまり後妻だね」

 ご、後妻!? ええっ、聞いてないです! 私、メイドとして働くんじゃなかったの? だって私の家は……。


 

 私、ケイト=エルマンのエルマン子爵家は世間一般ではこう呼ばれている『飢え殺し』。話は八年前の私が八歳の時にさかのぼる。

 その年は不作続きで飢饉が王国全土を覆った。明日の食糧にも事欠く状態の中、我が領地は一大穀倉地帯を持っていた。生産の三割が領内消費、残りの七割を輸出するほどの規模だ。当然、周囲は国難に対して両親がその輸出用である七割の多くを国へ供与すると思っていた。ところが両親の取った行動は、『今ならどんな値段でも必ず売れる! まずは一.五倍で様子見だ』と言って販売価格を釣り上げたのだ。

 王家の使者の再三の求めにも各領の裁量の範囲内と追い返し、両親たちは高値で売り続けた。当然、国内の二十%近くの生産を誇っていた領地の値上げにより、全体の価格は押し上げられた。それでも、買わずには国民が飢えるため、最終的には王家と公爵家お抱えの商会が通常の二倍の料金で買取、国民に分け与えた。当り前のことだが、その年のエルマン子爵領の収入はとても多くなった。その代わりに供給が間に合わず、国内の多くの民が飢えて死んだ。

 その年からこの領地を人々は『悪魔の穀倉地帯』と呼んだ。そして、領主一家を『飢え殺し』と呼ぶようになった。兄も姉も私も王都の学園ではいじめられた。首謀者の伯爵家は領民が大量死していた。当然、私たちは受け入れざるを得ない状況だった。兄は未だに婚約者が決まらない。姉は候補も見つからずというところで、幼馴染の現男爵が助けて下さった。

「お前らが何を見に来てるんだ!」

 視察すらもはやまともに行えない領地だった。主食を作っている農家は買取価格が上昇したため、なんとか暮らすことができたが、そうでない農家は悲惨だった。作物を売れないし買えない。彼らは今でも、私たちの馬車が通ると罰則も恐れずに罵声を浴びせる。だけど、護衛たちも彼らを取り締まることはない。だって、彼らも領民なのだから。領地を去ったものも、絶対にエルマン領から来たとは言わない。

「奥様、新しいドレスは……」

「いいじゃない。我が領地にはまだまだ優良な穀物を出荷する土地があるでしょう?」

 現在、領地の生産は領内消費六割、輸出四割だ。出来高は以前の半分と少しまで下がり、原因の多くは耕作放棄なのだ。だけど、お母様もお父様も以前の収入やこれまでの蓄えで物事を考えている。そして、お兄様にもまだ家督を譲る気はないという。このままでは領地から人がいなくなってしまうのではないか。

 だから私は思うのだこれは夢じゃないかと……。

「ケイト! ケイト、あなた聞いているの?」

「はっ、はい!」

「どうして、この家に来る気になったの? 侯爵様がどう言われてるか知らないわけじゃないでしょう?」

「あっ、えっと、うちはその事情があって……社交とかはほとんど……」

「あなた学園に行ってたんでしょう? そこでも聞かなかったの?」

「はい、友達とかはその……いなくて」

「そういえば、その学園はどうしたの? 戻らないといけないでしょう」

「多分もう退学になってると思います。ここにも身一つで行けと言われたので」

「はぁ? あなた馬鹿なの! そんなこと言われてほんとに身一つで来るなんて! そういう時は家中の装飾品やら宝石を詰め込んで持ってくるのよ! 侯爵家に来たのなら、子爵家程度が手出しはできないわ」

 イリス様はすごい。話をされながら色々なことを、私には思いつかないことをすぐに言ってくれる。もちろん私のような若いだけの後妻など嫌いだろうけれど、私はとても尊敬している。そんなイリス様と話したくて私は頑張って話しかけるのだけれど。

「しつこいわね! あとをついて来ないでくれる!」

「は、はい……」

 いつか、打ち解ける日は来るのだろうか? その日を夢見て私は今日も話しかける。

「お、おいしいですね。イリス様」

「あなた! どういうテーブルマナーの授業を受けたの!? ナイフはこう持って、肉はこう切る。やってみなさい!」

「は、はいぃ……」


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