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「ケイト、テレサ! 休憩はおしまいよ。用は済んだから帰るわ」
「はい! それでは皆さん、私はこれで……」
「お嬢様もお元気で」
ふぅん。邸にいる連中にはケイトって慕われているみたいね。これだったら計画も簡単に進むかもしれないわ。
「お嬢様、一緒に街へ行けず申し訳ございません」
「いいわ。成果はどう?」
「みっちりきっちりとはいきませんでしたが、さわりの方は教えられましたので……」
「あれがさわり……」
後ろでガヤガヤ言っているんだけど本当に大丈夫でしょうね。まあ、もう終わったことを気にしても仕方ないし良しとしましょう。
「ではアレン。私は書類をもらって陛下に建設の許可をもらってくるから、今日の疑問点をきちんと確認しておいて」
「分かったよ。よろしくイリス」
「んん。兄さま随分イリス様と親しげですね?」
「え、ああ。街に行っている時にイリスに言われてな。カイルと話しているみたいだろう?」
「そうなのですが……」
ケイトは何か納得がいかない感じだったが、時間もないしその話を打ち切る。そうこうしていると、執事らしき人がこちらに向かってきた。
「ああ、執事さん。書類の方は?」
「こちらです」
執事から書類を受け取る。この執事もこの環境で何もしないぐらいだし、この先は不要だから名前も覚える必要もないわね。さっと書類を取って中身を確認する。問題なし、これで一旦ここには用事はなくなった。
「じゃあ、帰りましょうか」
「お、お待ちを。もうお帰りでしょうか?」
「当り前よ。主人との会話をきちんと聞いていなかったの? 私は陛下にお目通りをするために色々と忙しいのよ? ここで無駄な時間を使う訳にはいかないわ。ああそうだ! ケイト、あなたの世話をするメイドがいないから、お兄様が困ってらしたわ。誰か連れていきなさい」
「ええと、それじゃあ。エマを」
エマと言われた若い女性が一歩前に出る。
「きゅ、急に当家の使用人を……」
「使用人ったって、すぐに集まるでしょう? それとも、侯爵家夫人になる子女にメイドの一人も連れずに送り出したと言われたいのかしら?」
「ぐぐっ。分かりました。旦那様には私より話をしておきますので、くれぐれも! この話を成功してくださいませ」
「分かりましたわ」
私はケイトたちと一緒に馬車に乗り込み、レイバン家に向かって来た道を戻っていく。
「ああ~、本当にあの執事何なのかしら! 私に使用人のことで意見したり、子爵家の当主の言葉を繰り返したり。まるで実権を持っているかのように……」
「それが、あの執事は家のことだけではなく、領都の政務も行っているんです。代官を派遣しているのも彼ですし、お父様たちもかなり信用しています」
「そう言えばあんたの母親は?」
「一切政務には興味がないので……」
「嫁いだとはいえ顔見せぐらいしないと失礼でしょうが!」
「それが嫌でお父様と結婚したらしいのです。元は伯爵家の出身だったみたいで、今みたいなわがままも昔からずっと言っていたって、兄さまから聞きました」
「それは大変ですわね。我が領はお嬢様がわがままといっても、無駄な支出はなさいませんし、領地が傾くこともありませんので」
「テレサ、褒めてるの? 大体うちの領地でそんな無駄があったら、すぐさま家計が火の車よ」
「それでも私欲に走る領主はおりますよ」
「まあ、侯爵様の私的な支出の大半は女性への贈り物だもんね」
「それも、手ごろな価格で価値あるものを贈られるので、貴族としては摂生されていて、そういう方は少ないのですよ」
「そうなんですか?」
「あれだけは褒められるかもね。『自分の服が綺麗であるより君が綺麗な方が私は嬉しいよ』だって! ああ~震える~」
「ちょ、ちょっとかっこいいかも……」
「あんた、やっぱ変わってるわ」
「お嬢様も普通ではありませんよ」
「私は普通よ。ちょっと縁が結べないだけよ!」
まったく失礼なメイドだ。ビビりな癖に態度がでかいときはでかいんだから。
それから私たちは領地に戻ると、すぐに動いた。まずは陛下にお手紙を書いて、お会いすることが可能なら失礼ですが、王都の貴族用の宿に送ってもらえるように手配をしてと。
「テレサ、人の調査と宿の手配を。後は馬車の手配ね。それと明日は久々に孤児院へ行くからその辺りも抜かりなく」
「はい。しかし、そんなに予定を詰め込んで大丈夫ですか?」
「今詰め込んだら後で遊べるのよ! 当り前じゃない」
私は先の幸せのためにちょっとした苦労を惜しまない女なのだ。
「ケイトもぼーっとするんじゃないわよ?」
「わ、私もですか?」
「侯爵令嬢の私が、ポンと陛下にお会いするなんて失礼なの! 一応二代遡れば王家の人間といっても、そんな貴族はどこにでもいるの。あなたが行けば新しい侯爵夫人の顔見せとなって、他の貴族もあからさまには言いにくいわ」
「わ、分かりました」
「くれぐれも! 自分の感性で服を選ばないようにね。陛下にお会いするドレスなんてミスしたら、大変よ!」
「はい!」
よしよし。これで一旦準備は完了ね。今日のところは寝て過ごしましょう。ここ数日は馬車に乗ってばかりでおしりも痛いし、体を休めないとね。
「イリス帰ったか?」
「お兄様、引継ぎはどうですか?」
「ああ、問題なく進んでいる。そもそも父上も最近は政務から離れているぐらいだしな。今はもう確認ぐらいだ。それよりもお前の方はどうだったんだ?」
「それが聞いてよ、お兄様。領民たちもかわいそうって思ってたんだけど、あいつらったらアレンのことをね~」
「アレン? 確か、子爵家の後継ぎだったか?」
「そうそう、そのアレンよ。まあ、アレンというかケイトもなんだろうけど……」
そして私はエルマン子爵領で起きていたことを話す。
「確かにそれはひどいな。領主が原因とは言え、あまりにも領民は次代のものを蔑ろにしすぎているな。人が人なら領軍を動員して争いになるところだ」
「そこまで好戦的な人がいるかしら。それにアレンはそんなことはしないわよ?」
「ふむ……。私はそいつを知らんし、あの領地に関わりたくないというのは変わらんが、中々いいところのようだな」
「当り前よ。元々は伯爵家相当の土地だもの。きっと、手に入れて見せるわ」
「まあ、今は土地だろうがな……」
「ん、何か言ったお兄様?」
「頑張れよと思ってな」
「ええ、陛下にもご協力いただくのだから当たり前よ!」
ガッとこぶしを握り締め席を立って宣言する。こういうのは姿勢が大事だって思うの私は!
「はい! それでは皆さん、私はこれで……」
「お嬢様もお元気で」
ふぅん。邸にいる連中にはケイトって慕われているみたいね。これだったら計画も簡単に進むかもしれないわ。
「お嬢様、一緒に街へ行けず申し訳ございません」
「いいわ。成果はどう?」
「みっちりきっちりとはいきませんでしたが、さわりの方は教えられましたので……」
「あれがさわり……」
後ろでガヤガヤ言っているんだけど本当に大丈夫でしょうね。まあ、もう終わったことを気にしても仕方ないし良しとしましょう。
「ではアレン。私は書類をもらって陛下に建設の許可をもらってくるから、今日の疑問点をきちんと確認しておいて」
「分かったよ。よろしくイリス」
「んん。兄さま随分イリス様と親しげですね?」
「え、ああ。街に行っている時にイリスに言われてな。カイルと話しているみたいだろう?」
「そうなのですが……」
ケイトは何か納得がいかない感じだったが、時間もないしその話を打ち切る。そうこうしていると、執事らしき人がこちらに向かってきた。
「ああ、執事さん。書類の方は?」
「こちらです」
執事から書類を受け取る。この執事もこの環境で何もしないぐらいだし、この先は不要だから名前も覚える必要もないわね。さっと書類を取って中身を確認する。問題なし、これで一旦ここには用事はなくなった。
「じゃあ、帰りましょうか」
「お、お待ちを。もうお帰りでしょうか?」
「当り前よ。主人との会話をきちんと聞いていなかったの? 私は陛下にお目通りをするために色々と忙しいのよ? ここで無駄な時間を使う訳にはいかないわ。ああそうだ! ケイト、あなたの世話をするメイドがいないから、お兄様が困ってらしたわ。誰か連れていきなさい」
「ええと、それじゃあ。エマを」
エマと言われた若い女性が一歩前に出る。
「きゅ、急に当家の使用人を……」
「使用人ったって、すぐに集まるでしょう? それとも、侯爵家夫人になる子女にメイドの一人も連れずに送り出したと言われたいのかしら?」
「ぐぐっ。分かりました。旦那様には私より話をしておきますので、くれぐれも! この話を成功してくださいませ」
「分かりましたわ」
私はケイトたちと一緒に馬車に乗り込み、レイバン家に向かって来た道を戻っていく。
「ああ~、本当にあの執事何なのかしら! 私に使用人のことで意見したり、子爵家の当主の言葉を繰り返したり。まるで実権を持っているかのように……」
「それが、あの執事は家のことだけではなく、領都の政務も行っているんです。代官を派遣しているのも彼ですし、お父様たちもかなり信用しています」
「そう言えばあんたの母親は?」
「一切政務には興味がないので……」
「嫁いだとはいえ顔見せぐらいしないと失礼でしょうが!」
「それが嫌でお父様と結婚したらしいのです。元は伯爵家の出身だったみたいで、今みたいなわがままも昔からずっと言っていたって、兄さまから聞きました」
「それは大変ですわね。我が領はお嬢様がわがままといっても、無駄な支出はなさいませんし、領地が傾くこともありませんので」
「テレサ、褒めてるの? 大体うちの領地でそんな無駄があったら、すぐさま家計が火の車よ」
「それでも私欲に走る領主はおりますよ」
「まあ、侯爵様の私的な支出の大半は女性への贈り物だもんね」
「それも、手ごろな価格で価値あるものを贈られるので、貴族としては摂生されていて、そういう方は少ないのですよ」
「そうなんですか?」
「あれだけは褒められるかもね。『自分の服が綺麗であるより君が綺麗な方が私は嬉しいよ』だって! ああ~震える~」
「ちょ、ちょっとかっこいいかも……」
「あんた、やっぱ変わってるわ」
「お嬢様も普通ではありませんよ」
「私は普通よ。ちょっと縁が結べないだけよ!」
まったく失礼なメイドだ。ビビりな癖に態度がでかいときはでかいんだから。
それから私たちは領地に戻ると、すぐに動いた。まずは陛下にお手紙を書いて、お会いすることが可能なら失礼ですが、王都の貴族用の宿に送ってもらえるように手配をしてと。
「テレサ、人の調査と宿の手配を。後は馬車の手配ね。それと明日は久々に孤児院へ行くからその辺りも抜かりなく」
「はい。しかし、そんなに予定を詰め込んで大丈夫ですか?」
「今詰め込んだら後で遊べるのよ! 当り前じゃない」
私は先の幸せのためにちょっとした苦労を惜しまない女なのだ。
「ケイトもぼーっとするんじゃないわよ?」
「わ、私もですか?」
「侯爵令嬢の私が、ポンと陛下にお会いするなんて失礼なの! 一応二代遡れば王家の人間といっても、そんな貴族はどこにでもいるの。あなたが行けば新しい侯爵夫人の顔見せとなって、他の貴族もあからさまには言いにくいわ」
「わ、分かりました」
「くれぐれも! 自分の感性で服を選ばないようにね。陛下にお会いするドレスなんてミスしたら、大変よ!」
「はい!」
よしよし。これで一旦準備は完了ね。今日のところは寝て過ごしましょう。ここ数日は馬車に乗ってばかりでおしりも痛いし、体を休めないとね。
「イリス帰ったか?」
「お兄様、引継ぎはどうですか?」
「ああ、問題なく進んでいる。そもそも父上も最近は政務から離れているぐらいだしな。今はもう確認ぐらいだ。それよりもお前の方はどうだったんだ?」
「それが聞いてよ、お兄様。領民たちもかわいそうって思ってたんだけど、あいつらったらアレンのことをね~」
「アレン? 確か、子爵家の後継ぎだったか?」
「そうそう、そのアレンよ。まあ、アレンというかケイトもなんだろうけど……」
そして私はエルマン子爵領で起きていたことを話す。
「確かにそれはひどいな。領主が原因とは言え、あまりにも領民は次代のものを蔑ろにしすぎているな。人が人なら領軍を動員して争いになるところだ」
「そこまで好戦的な人がいるかしら。それにアレンはそんなことはしないわよ?」
「ふむ……。私はそいつを知らんし、あの領地に関わりたくないというのは変わらんが、中々いいところのようだな」
「当り前よ。元々は伯爵家相当の土地だもの。きっと、手に入れて見せるわ」
「まあ、今は土地だろうがな……」
「ん、何か言ったお兄様?」
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