38 / 73
本編
37
しおりを挟む
「う、ん?」
目が覚めた。
「今は何時だろう?」
キョロキョロあたりを見回す。朝の6時のようだ。
「ん?ここ宿よね。昨日、私は部屋に戻ったかしら」
何があったか順番に思い出す。昨日はエミリーの防具を作るために、魔力を込めて終わったら…終わったら?
「ご飯を食べて、それから?」
ご飯を食べたのだろうか。でも、記憶では食べた記憶がある。
「ただ、誰かに食べさせてもらったような…」
だんだん頭が冴えてくる。お昼ご飯は遅くなってエミリーに食べさせてもらったんだった。その後は体がだるくてカークスに送ってもらってから…その先の記憶がない。寝てしまったのだろうか?
「じゃあ、一回も起きずに今まで眠り続けてたってこと?」
「ん~。おはようティア」
「おはようエミリー。起こしちゃった?」
「ううん、大体これぐらいに何時も起きてるから。それよりぐっすり寝てたけどもう大丈夫?」
「ええ、体もちょっとだるいけど、もういいみたい」
そう言って腕をくるくる回してみる。動かすのに一切支障はないし、ちょっとけだるさがあるだけだ。
「無理しちゃダメ。今日は1日ゆっくりしなさい」
「この位大丈夫よ」
「だめだよ。昨日はあの後大変だったんだから」
「昨日はカークスが私を送ってくれただけよね?」
「その後も大変だったんだよ。宿に帰ってきた2人を見てみんな大慌てだったんだから。リアさんはケガでもしたんじゃって言うし、おかみさんたちは変なこと言いだすし…」
「変なこと?」
「とにかく今日は外出禁止だからね!」
朝からエミリーに怒られてしまった。しかし、肝心な部分を覚えていない私が強く言うこともできず、今日ぐらいは言うことを聞こうと思い布団をかぶりなおす。
「そうそう、今日はゆっくりやすみなよ」
「わかったわ」
「魔法も使うの禁止だからね。朝ごはんは持ってきてあげるから」
「はいはい。エミリー様の仰せのままに」
答えてはみたものの、すぐに眠気が襲ってきてまた眠ってしまう。
「ティア?あらら、また寝ちゃったのか、しょうがないなあもう」
わたしはティアに布団をかけなおしてあげる。でも、昨日あれだけ寝たというのに寝足りないのだろうか?魔力を消耗するとそういうこともあると聞いたけど、1日中ずっとなんてすごく疲れたんだろうな。
「おやすみ」
その後、私が起きたのは3時間後の9時頃だった。
「さすがにこれ以上は眠くならないわね」
頭もはっきりしてだるさもとれた。昨日からだと半日以上寝続けていたことになる。
「ここまで疲れるとは思わなかったわ。今度やるときはもっとうまくやらないとね」
対象をとらえることに集中しすぎてこうなってしまったんだと思う。全体をとらえられれば問題ないような感覚があった。確かに付与魔法使いがやっていたように、1枚1枚きちんと認識しなくても個々に行き渡るように今ならできる気がする。
「やっぱりいきなり大きなものに挑戦しすぎたかしら。飛竜の討伐で、ちょっと自分を過大評価していたのかもしれない。今後は気をつけなくちゃ」
今後といえば日記を昨日は書いていないことに気が付いた。
「こういうことは日々の積み重ねなんだから、ちゃんと書かないとね。って何これ?」
日記帳を開くと昨日のところはすでに書かれていた。一応読んでみると、無茶しないで自重するようにと締めくくられていた。
「エミリーね。エミリー!いる~?」
「どうしたのティア?お腹減ったの」
ぱたぱたとエミリーが駆けてくる。カークスたちの部屋にいたみたいだ。
「これよこれ!あなた昨日勝手に日記書いたわね」
「え~、だってティア書ける状態じゃなかったし、無理して倒れたことしっかり書いといてあげようと思って」
「思ってじゃないわ。きちんと思い出して書くから大丈夫よ。それにこの最後のは何?」
「だって、さっきも言ったけど昨日は大変だったんだから。それぐらいは書かせてもらわないと」
「はあ~。わかったわ。この件は私も悪かったし。でも、勝手に日記帳を開けちゃダメよ」
「もちろん!」
「本当に分かったのかしら」
まだ、言いたいことはあるが、どうしても昨日の今日だといい淀んでしまう。これ以上は次の機会に取っておこう。
「あ、そうだティア。お腹すいてるよね?ごはん持ってくるから」
答えを聞かずにエミリーは下に降りていく。
「逃げられたか…」
3分後にトレイをもって上がってくる。パンと卵と飲み物が乗っている。どれもいつも通りだが美味しそうに見える。
「どう?ひとりで食べられる」
「大丈夫よ、もう」
私はパンをちぎって食べる。おいしい、昨日あれから何も食べていないせいか、とてもおいしく感じる。卵もパンもすぐになくなってしまった。
「ご馳走様エミリー。ありがとう」
「どういたしまして」
エミリーが朝食を下げてくれる。今日は1日、エミリーと一緒に話をして過ごした。お昼も夕食も部屋まで運んできてくれて、一緒に食べる。まるで、学校にいたときに戻ったみたいでとても楽しかった。
「今日はゆっくりできた?」
「ありがとうエミリー。でも、あなたの時間使っちゃったわね」
「別にいいよ。予定もなかったし。明日はどうするの?」
「ひとまず、出来上がったものを見に行くわ。あなたも来るエミリー?」
「そうだねティアがあれだけ一生懸命に作ったものが、どうなったかとっても気になるよ」
「なら、一緒に行きましょう。カークスたちも行ければ連れていきましょう」
「カークスは明日用事があるって言ってたよ」
「そうなの?」
「うん、夕食の時にそんなことを言ってた」
「なら、フォルトに聞いてみて行けたら一緒に行きましょうか」
「そうだね」
「それじゃあ今日はもう休みましょう」
「おやすみ~」
「お休みエミリー」
私は忘れずに日記を書いてベッドにもぐりこむ。あれだけ寝たというのにすぐに眠気が来るなんて。
「ちょっと寝すぎかしらね」
そんなことをつぶやいて私は眠りについた。
「おはよ~ティア」
「ん、おはよエミリー」
珍しくエミリーが声をかけてくる。普段は私が寝てても絶対起こさないのに。
「ほら早く起きて、もう10時だよ」
「へっ?」
慌てて時計を見る。確かに10時をさしている。
「ほらほら、今日は出来上がったかどうか見に行くんでしょ。フォルトもう待ってるよ」
そうだった。今日は出来を確認するのに3人で行く予定だった。
「ごめんなさい。すぐ用意するわ」
急いで準備をして食堂に降りる。
「おはようティア~」
「おはよう」
下ではキルドとフォルトが待っていた。食事もおそらく私の分だろう。すでに用意してある。
「おはよう。待たせてごめんなさい、すぐ食べるわね」
「そんなに焦らなくても、逃げるわけじゃない」
「そうそう。ゆっくり食べなよ」
「でも…」
何か言おうとしたが、変にこの間のことを言われてもあれなので、何も言わずにちょっとだけ急いで食べる。
「ご馳走様。さあ、行きましょう」
私は朝食を食べ終えるとすぐに立ち上がって準備をする。
「ゆっくり食べても良かったのに…」
エミリーの言葉を背中に受けながら、私はバッグを背負って宿を出る準備をする。みんなもその動きに合わせて席を立ち準備をした。
「じゃあ、その工房へお邪魔しようか」
なぜかこの中で1人だけ行ったことのないキルドに音頭を取られ、私たちはヴォルさんの工房へと向かう。
「へぇ~。ここがその工房なんだね。規模も大きくてしっかりしてるね」
「キルドって鍛冶とかに詳しいの?」
「まさか。色んな所を回ってると偶にこういうとこにも縁ができてね。何か所か見たことあるけど、一番いい作りだよ」
「そいつぁどうも」
「ヴォルさん!防具はできました?」
「おお、ティア大丈夫だったか?あまりに普段と違う様子だったんで呼びに行かせたんだが」
「すみませんでした。あの後は送ってもらって、この通り元気になりました。付与の方もちょっとコツをつかんだと思います」
「そうか、そりゃよかったが、無理はするんじゃねえぞ」
「はい」
わたしが返事をすると、ヴォルさんはみんなも一緒に迎え入れてくれる。工房の受付に入ると大きな布に包まれたものが1つだけ置いてあった。
「これなに~」
「おう、これがついさっき出来上がった依頼品よ」
「見せてもらってもいいの?」
「なに、とぼけてやがんだ。まだ調子戻ってねえのか?お前が頑張って作った素材を使ったやつだよ」
そういうとヴォルさんは布を外す。そこには輝くうろこの軽鎧が現れた。
「すごい!きれ~」
「そりゃそうよ。ティアが一生懸命魔力を込めたもんが、薄汚れてちゃ笑われちまうからな」
「ねね、ティア!つけてみていい?」
「もうあなたのだからいいわよ」
「おっと、待ちな」
ヴォルさんが私たちに割って入る。どうしたんだろう?
「いいところだが、まだ依頼料もらってないぜ。先に払ってもらわんとな、ほれ小金貨10枚だ」
一瞬あっけにとられたが、確かに依頼している以上は先にお金を払わないといけない。それにこれだけの仕事をしてくれて小金貨10枚程度なんて本来あり得ないのだ。
「はい、小金貨10枚ね」
「確かに受けとった。じゃあ、嬢ちゃんつけてみな」
「うん」
ご馳走を前に待てをしていた犬のように一転して鎧へと走っていく。
「うんと、ここをこうして、あーなって…」
初めて身に着ける鎧に四苦八苦しながらもエミリーは鎧をつけ終わる。
「ねぇみんな、どうかな?」
「似合ってるよ、エミリー」
「そうだな。もう完全に冒険者だ」
「ティアは?」
「とっても似合ってる。すてきよエミリー」
「えへへ~、照れますなぁ~」
エミリーは照れながらも、鎧の付け心地を確認するように腕を回したり、くるくる回ってみたり大忙しだ。
「どう?変なところとかない?」
「ううん。思ったより軽いしそんなにいっぱいついてないから動きやすいよ」
「それならよかったわ」
「そう言えばこの鎧って、魔法付与されてるんだよね?」
「ええそうよ。初めてだから心配だけど大丈夫なはずよ」
「そういや、俺たちも聞いてなかったが結局何の魔法がかかってるんだ?」
「コホン。エミリーといえば特に運動面は苦手で空を飛ぶ魔法とかも、相性が悪い。それを考慮して、瞬発力や跳躍などの速さなどに分類されるものを除きました。そして残ったのが…」
「残ったのが?」
「バリアです」
説明口調で私が鎧に掛ける魔法の選定理由と実際に掛けた魔法を紹介する。そこで隠し持っていた小石をエミリーのお腹めがけて飛ばす。私の動作にびっくりしたエミリーが慌てて身を守ろうとすると―。
パァン
すごい勢いで小石が弾かれて飛んでいく。
「へっ?」
みんなも今のは何だと目をぱちくりさせている。
「これが付与したバリアの魔法です。敵意やエミリー自身が危険と思った場合に発動して、自動的に身を守るバリアを張ります」
「すっごい!そんなのできるの?」
「まあ、要するに敵から身を守る守護の魔法なんだけどね。違うところはかけたときから術者が解くまでかかり続けるかどうかね。こっちは守って安全と判断したら、その瞬間に消えちゃうから。強度を保ったまま簡単に使えるわ。半面、危険を認知できないと発生しないけどね」
「要するに敵がいて見えてるか、何かが来るって思ってないとだめってこと?」
「キルドの言う通りよ。その代わりバリアは何度も使えるし、毎日周りのマナを取り込んで回数も回復するから便利よ。それに例えば誰かと一緒にいるときはその人も一緒に入ることができるわ。当然、手をつなぐとか密着してないといけないけど」
「それはいいな。護衛対象と同行すれば、常に身を守れるしエミリーが自身を守る必要もない」
「まあ、そういうことね。その代わり術式が複雑で、結構苦労するんだけど…」
ちょっと遠い目になる。魔力を込めるときもそうだったが、この術式を作り出すのにも時間がかかっている。ある意味、これまでの集大成の塊なのだ。
「すごいもん作りやがったな。こいつを作る手伝いができてうれしいぜ」
「ヴォルさんもありがとう。あと、ガイウスさんにもお礼を言っておいて」
「おう!そいつの付与の内容を聞けば、あいつも今まで以上にやる気を出すってもんよ」
気のいい返事をしてヴォルさんが答える。
「そうだ、お前らせっかく来てんだから、フォルトとか言ったな。お前の武器のデザイン見てくれ。大丈夫だったらこのまま取り掛かるからよ。鎧の付与は後でもいいとは言ったが、どうせ同時には作れねえしな」
「いいんですか?」
「おう、こいつを見たら負けちゃいらんねぇ。すぐにでもとっかかりてぇ気分よ」
「では、見せてもらっていいですか?」
「おう、待ってな」
ヴォルさんが奥から紙を持ってくる。そこには、フォルトの武器と鎧のデザインが書かれていた。
「鎧の方はティアの状態もあっから後だな。武器の方は既存の材料を使うからすぐ取り掛かれる。締めて小金貨25枚だな」
「やっぱり、既存の素材を使うだけあってするわね」
「大丈夫だ。これまでにちょっとづつ貯めたものもある」
「そうそう、フォルトは酒とかも控えちゃって、割とため込んでるから大丈夫だよ」
「そうなのね」
「いずれこういう日が来ると思っていたからな。無駄にならずに済んでむしろ安心している」
そう言いながらフォルトは袋から小金貨を取りだす。
「確かに。じゃあ、デザインで気になったところがないかだけ最後に見てくれ」
「前も言った通り、2つともこれで大丈夫だ。ただし、前にも言った通り、槍の重量バランスだけは気を付けてくれ」
「おう、その辺は弟子どもにもきっちり言っておく。じゃあ、決まりだな。悪いがこれからすぐにでも作業に入りたいから、今日はこれまでだ。じゃあな」
いうが早いが、すぐにヴォルさんは私たちを追い出して、作業に取り掛かってしまった。
「嵐のような人だったね。結局、自己紹介もできなかったよ」
「そう言えばそうね」
「次やればいいよ」
エミリーが元気に答える。鎧が気に入ったのかさっきから終始笑顔だ。
「そんなに動き回ると危ないわよ」
「これがあるから大丈夫だよ~」
そう言ってはしゃいでいたエミリーだったが、次の瞬間こけた。否、正確にはこけかかった。こけようとしたところで、危ないと思った瞬間に魔法が発動し、地面をすこしえぐるようにバリアが発生した。
「あ~あ、どうするのよこれ。ちょっとえぐれてるわよ」
「え~。こんなになるなんて聞いてないよ~」
「無防備に暴れまわるとどうなるか、分かってよかったな」
「フォルト。そんな~」
何からでも簡単に身を守れると思っていたエミリーが、がっくりとうなだれる。残念ながらそんなに便利だったなら倒れるどころの騒ぎじゃない位に疲れ果てたはずである。
「悪用したりはできないってことよ。ちゃんと使い方覚えないとね」
「うえ~」
返事こそ嫌そうな感じだが、顔はにやけっぱなしだ。実際には鎧を身に着けて舞い上がっているのだろう。
「今日ぐらいは好きにさせておきましょうか」
そう言いながら、3人で笑いあいながら宿に戻った。
目が覚めた。
「今は何時だろう?」
キョロキョロあたりを見回す。朝の6時のようだ。
「ん?ここ宿よね。昨日、私は部屋に戻ったかしら」
何があったか順番に思い出す。昨日はエミリーの防具を作るために、魔力を込めて終わったら…終わったら?
「ご飯を食べて、それから?」
ご飯を食べたのだろうか。でも、記憶では食べた記憶がある。
「ただ、誰かに食べさせてもらったような…」
だんだん頭が冴えてくる。お昼ご飯は遅くなってエミリーに食べさせてもらったんだった。その後は体がだるくてカークスに送ってもらってから…その先の記憶がない。寝てしまったのだろうか?
「じゃあ、一回も起きずに今まで眠り続けてたってこと?」
「ん~。おはようティア」
「おはようエミリー。起こしちゃった?」
「ううん、大体これぐらいに何時も起きてるから。それよりぐっすり寝てたけどもう大丈夫?」
「ええ、体もちょっとだるいけど、もういいみたい」
そう言って腕をくるくる回してみる。動かすのに一切支障はないし、ちょっとけだるさがあるだけだ。
「無理しちゃダメ。今日は1日ゆっくりしなさい」
「この位大丈夫よ」
「だめだよ。昨日はあの後大変だったんだから」
「昨日はカークスが私を送ってくれただけよね?」
「その後も大変だったんだよ。宿に帰ってきた2人を見てみんな大慌てだったんだから。リアさんはケガでもしたんじゃって言うし、おかみさんたちは変なこと言いだすし…」
「変なこと?」
「とにかく今日は外出禁止だからね!」
朝からエミリーに怒られてしまった。しかし、肝心な部分を覚えていない私が強く言うこともできず、今日ぐらいは言うことを聞こうと思い布団をかぶりなおす。
「そうそう、今日はゆっくりやすみなよ」
「わかったわ」
「魔法も使うの禁止だからね。朝ごはんは持ってきてあげるから」
「はいはい。エミリー様の仰せのままに」
答えてはみたものの、すぐに眠気が襲ってきてまた眠ってしまう。
「ティア?あらら、また寝ちゃったのか、しょうがないなあもう」
わたしはティアに布団をかけなおしてあげる。でも、昨日あれだけ寝たというのに寝足りないのだろうか?魔力を消耗するとそういうこともあると聞いたけど、1日中ずっとなんてすごく疲れたんだろうな。
「おやすみ」
その後、私が起きたのは3時間後の9時頃だった。
「さすがにこれ以上は眠くならないわね」
頭もはっきりしてだるさもとれた。昨日からだと半日以上寝続けていたことになる。
「ここまで疲れるとは思わなかったわ。今度やるときはもっとうまくやらないとね」
対象をとらえることに集中しすぎてこうなってしまったんだと思う。全体をとらえられれば問題ないような感覚があった。確かに付与魔法使いがやっていたように、1枚1枚きちんと認識しなくても個々に行き渡るように今ならできる気がする。
「やっぱりいきなり大きなものに挑戦しすぎたかしら。飛竜の討伐で、ちょっと自分を過大評価していたのかもしれない。今後は気をつけなくちゃ」
今後といえば日記を昨日は書いていないことに気が付いた。
「こういうことは日々の積み重ねなんだから、ちゃんと書かないとね。って何これ?」
日記帳を開くと昨日のところはすでに書かれていた。一応読んでみると、無茶しないで自重するようにと締めくくられていた。
「エミリーね。エミリー!いる~?」
「どうしたのティア?お腹減ったの」
ぱたぱたとエミリーが駆けてくる。カークスたちの部屋にいたみたいだ。
「これよこれ!あなた昨日勝手に日記書いたわね」
「え~、だってティア書ける状態じゃなかったし、無理して倒れたことしっかり書いといてあげようと思って」
「思ってじゃないわ。きちんと思い出して書くから大丈夫よ。それにこの最後のは何?」
「だって、さっきも言ったけど昨日は大変だったんだから。それぐらいは書かせてもらわないと」
「はあ~。わかったわ。この件は私も悪かったし。でも、勝手に日記帳を開けちゃダメよ」
「もちろん!」
「本当に分かったのかしら」
まだ、言いたいことはあるが、どうしても昨日の今日だといい淀んでしまう。これ以上は次の機会に取っておこう。
「あ、そうだティア。お腹すいてるよね?ごはん持ってくるから」
答えを聞かずにエミリーは下に降りていく。
「逃げられたか…」
3分後にトレイをもって上がってくる。パンと卵と飲み物が乗っている。どれもいつも通りだが美味しそうに見える。
「どう?ひとりで食べられる」
「大丈夫よ、もう」
私はパンをちぎって食べる。おいしい、昨日あれから何も食べていないせいか、とてもおいしく感じる。卵もパンもすぐになくなってしまった。
「ご馳走様エミリー。ありがとう」
「どういたしまして」
エミリーが朝食を下げてくれる。今日は1日、エミリーと一緒に話をして過ごした。お昼も夕食も部屋まで運んできてくれて、一緒に食べる。まるで、学校にいたときに戻ったみたいでとても楽しかった。
「今日はゆっくりできた?」
「ありがとうエミリー。でも、あなたの時間使っちゃったわね」
「別にいいよ。予定もなかったし。明日はどうするの?」
「ひとまず、出来上がったものを見に行くわ。あなたも来るエミリー?」
「そうだねティアがあれだけ一生懸命に作ったものが、どうなったかとっても気になるよ」
「なら、一緒に行きましょう。カークスたちも行ければ連れていきましょう」
「カークスは明日用事があるって言ってたよ」
「そうなの?」
「うん、夕食の時にそんなことを言ってた」
「なら、フォルトに聞いてみて行けたら一緒に行きましょうか」
「そうだね」
「それじゃあ今日はもう休みましょう」
「おやすみ~」
「お休みエミリー」
私は忘れずに日記を書いてベッドにもぐりこむ。あれだけ寝たというのにすぐに眠気が来るなんて。
「ちょっと寝すぎかしらね」
そんなことをつぶやいて私は眠りについた。
「おはよ~ティア」
「ん、おはよエミリー」
珍しくエミリーが声をかけてくる。普段は私が寝てても絶対起こさないのに。
「ほら早く起きて、もう10時だよ」
「へっ?」
慌てて時計を見る。確かに10時をさしている。
「ほらほら、今日は出来上がったかどうか見に行くんでしょ。フォルトもう待ってるよ」
そうだった。今日は出来を確認するのに3人で行く予定だった。
「ごめんなさい。すぐ用意するわ」
急いで準備をして食堂に降りる。
「おはようティア~」
「おはよう」
下ではキルドとフォルトが待っていた。食事もおそらく私の分だろう。すでに用意してある。
「おはよう。待たせてごめんなさい、すぐ食べるわね」
「そんなに焦らなくても、逃げるわけじゃない」
「そうそう。ゆっくり食べなよ」
「でも…」
何か言おうとしたが、変にこの間のことを言われてもあれなので、何も言わずにちょっとだけ急いで食べる。
「ご馳走様。さあ、行きましょう」
私は朝食を食べ終えるとすぐに立ち上がって準備をする。
「ゆっくり食べても良かったのに…」
エミリーの言葉を背中に受けながら、私はバッグを背負って宿を出る準備をする。みんなもその動きに合わせて席を立ち準備をした。
「じゃあ、その工房へお邪魔しようか」
なぜかこの中で1人だけ行ったことのないキルドに音頭を取られ、私たちはヴォルさんの工房へと向かう。
「へぇ~。ここがその工房なんだね。規模も大きくてしっかりしてるね」
「キルドって鍛冶とかに詳しいの?」
「まさか。色んな所を回ってると偶にこういうとこにも縁ができてね。何か所か見たことあるけど、一番いい作りだよ」
「そいつぁどうも」
「ヴォルさん!防具はできました?」
「おお、ティア大丈夫だったか?あまりに普段と違う様子だったんで呼びに行かせたんだが」
「すみませんでした。あの後は送ってもらって、この通り元気になりました。付与の方もちょっとコツをつかんだと思います」
「そうか、そりゃよかったが、無理はするんじゃねえぞ」
「はい」
わたしが返事をすると、ヴォルさんはみんなも一緒に迎え入れてくれる。工房の受付に入ると大きな布に包まれたものが1つだけ置いてあった。
「これなに~」
「おう、これがついさっき出来上がった依頼品よ」
「見せてもらってもいいの?」
「なに、とぼけてやがんだ。まだ調子戻ってねえのか?お前が頑張って作った素材を使ったやつだよ」
そういうとヴォルさんは布を外す。そこには輝くうろこの軽鎧が現れた。
「すごい!きれ~」
「そりゃそうよ。ティアが一生懸命魔力を込めたもんが、薄汚れてちゃ笑われちまうからな」
「ねね、ティア!つけてみていい?」
「もうあなたのだからいいわよ」
「おっと、待ちな」
ヴォルさんが私たちに割って入る。どうしたんだろう?
「いいところだが、まだ依頼料もらってないぜ。先に払ってもらわんとな、ほれ小金貨10枚だ」
一瞬あっけにとられたが、確かに依頼している以上は先にお金を払わないといけない。それにこれだけの仕事をしてくれて小金貨10枚程度なんて本来あり得ないのだ。
「はい、小金貨10枚ね」
「確かに受けとった。じゃあ、嬢ちゃんつけてみな」
「うん」
ご馳走を前に待てをしていた犬のように一転して鎧へと走っていく。
「うんと、ここをこうして、あーなって…」
初めて身に着ける鎧に四苦八苦しながらもエミリーは鎧をつけ終わる。
「ねぇみんな、どうかな?」
「似合ってるよ、エミリー」
「そうだな。もう完全に冒険者だ」
「ティアは?」
「とっても似合ってる。すてきよエミリー」
「えへへ~、照れますなぁ~」
エミリーは照れながらも、鎧の付け心地を確認するように腕を回したり、くるくる回ってみたり大忙しだ。
「どう?変なところとかない?」
「ううん。思ったより軽いしそんなにいっぱいついてないから動きやすいよ」
「それならよかったわ」
「そう言えばこの鎧って、魔法付与されてるんだよね?」
「ええそうよ。初めてだから心配だけど大丈夫なはずよ」
「そういや、俺たちも聞いてなかったが結局何の魔法がかかってるんだ?」
「コホン。エミリーといえば特に運動面は苦手で空を飛ぶ魔法とかも、相性が悪い。それを考慮して、瞬発力や跳躍などの速さなどに分類されるものを除きました。そして残ったのが…」
「残ったのが?」
「バリアです」
説明口調で私が鎧に掛ける魔法の選定理由と実際に掛けた魔法を紹介する。そこで隠し持っていた小石をエミリーのお腹めがけて飛ばす。私の動作にびっくりしたエミリーが慌てて身を守ろうとすると―。
パァン
すごい勢いで小石が弾かれて飛んでいく。
「へっ?」
みんなも今のは何だと目をぱちくりさせている。
「これが付与したバリアの魔法です。敵意やエミリー自身が危険と思った場合に発動して、自動的に身を守るバリアを張ります」
「すっごい!そんなのできるの?」
「まあ、要するに敵から身を守る守護の魔法なんだけどね。違うところはかけたときから術者が解くまでかかり続けるかどうかね。こっちは守って安全と判断したら、その瞬間に消えちゃうから。強度を保ったまま簡単に使えるわ。半面、危険を認知できないと発生しないけどね」
「要するに敵がいて見えてるか、何かが来るって思ってないとだめってこと?」
「キルドの言う通りよ。その代わりバリアは何度も使えるし、毎日周りのマナを取り込んで回数も回復するから便利よ。それに例えば誰かと一緒にいるときはその人も一緒に入ることができるわ。当然、手をつなぐとか密着してないといけないけど」
「それはいいな。護衛対象と同行すれば、常に身を守れるしエミリーが自身を守る必要もない」
「まあ、そういうことね。その代わり術式が複雑で、結構苦労するんだけど…」
ちょっと遠い目になる。魔力を込めるときもそうだったが、この術式を作り出すのにも時間がかかっている。ある意味、これまでの集大成の塊なのだ。
「すごいもん作りやがったな。こいつを作る手伝いができてうれしいぜ」
「ヴォルさんもありがとう。あと、ガイウスさんにもお礼を言っておいて」
「おう!そいつの付与の内容を聞けば、あいつも今まで以上にやる気を出すってもんよ」
気のいい返事をしてヴォルさんが答える。
「そうだ、お前らせっかく来てんだから、フォルトとか言ったな。お前の武器のデザイン見てくれ。大丈夫だったらこのまま取り掛かるからよ。鎧の付与は後でもいいとは言ったが、どうせ同時には作れねえしな」
「いいんですか?」
「おう、こいつを見たら負けちゃいらんねぇ。すぐにでもとっかかりてぇ気分よ」
「では、見せてもらっていいですか?」
「おう、待ってな」
ヴォルさんが奥から紙を持ってくる。そこには、フォルトの武器と鎧のデザインが書かれていた。
「鎧の方はティアの状態もあっから後だな。武器の方は既存の材料を使うからすぐ取り掛かれる。締めて小金貨25枚だな」
「やっぱり、既存の素材を使うだけあってするわね」
「大丈夫だ。これまでにちょっとづつ貯めたものもある」
「そうそう、フォルトは酒とかも控えちゃって、割とため込んでるから大丈夫だよ」
「そうなのね」
「いずれこういう日が来ると思っていたからな。無駄にならずに済んでむしろ安心している」
そう言いながらフォルトは袋から小金貨を取りだす。
「確かに。じゃあ、デザインで気になったところがないかだけ最後に見てくれ」
「前も言った通り、2つともこれで大丈夫だ。ただし、前にも言った通り、槍の重量バランスだけは気を付けてくれ」
「おう、その辺は弟子どもにもきっちり言っておく。じゃあ、決まりだな。悪いがこれからすぐにでも作業に入りたいから、今日はこれまでだ。じゃあな」
いうが早いが、すぐにヴォルさんは私たちを追い出して、作業に取り掛かってしまった。
「嵐のような人だったね。結局、自己紹介もできなかったよ」
「そう言えばそうね」
「次やればいいよ」
エミリーが元気に答える。鎧が気に入ったのかさっきから終始笑顔だ。
「そんなに動き回ると危ないわよ」
「これがあるから大丈夫だよ~」
そう言ってはしゃいでいたエミリーだったが、次の瞬間こけた。否、正確にはこけかかった。こけようとしたところで、危ないと思った瞬間に魔法が発動し、地面をすこしえぐるようにバリアが発生した。
「あ~あ、どうするのよこれ。ちょっとえぐれてるわよ」
「え~。こんなになるなんて聞いてないよ~」
「無防備に暴れまわるとどうなるか、分かってよかったな」
「フォルト。そんな~」
何からでも簡単に身を守れると思っていたエミリーが、がっくりとうなだれる。残念ながらそんなに便利だったなら倒れるどころの騒ぎじゃない位に疲れ果てたはずである。
「悪用したりはできないってことよ。ちゃんと使い方覚えないとね」
「うえ~」
返事こそ嫌そうな感じだが、顔はにやけっぱなしだ。実際には鎧を身に着けて舞い上がっているのだろう。
「今日ぐらいは好きにさせておきましょうか」
そう言いながら、3人で笑いあいながら宿に戻った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
103
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる