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サイドストーリーズ
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時間は少し巻き戻り、ここは隣国のローラント侯爵家。
今日は朝食時に大きな変化が訪れた。このまま一生独身かと思われたお嬢様が、フィスト様を誘ったのだ。裏事情は研究所の前所長様のお声がけで、たまには仕事ばかりの2人で遊びに行かれては?ということだった。これでお嬢様に平穏な日々が訪れるのかと思うと嬉しい限りだ。側で仕えて早2年。日記にも書き留めておかなければ。
「アーニャ、服装はどれが良いかな?」
「お嬢様が着るなら何でもと言いたいですが、あくまでお忍びです」
「じゃあ、研究所に行ってた格好にしようかな?」
いや、あの飾り気の欠片もないのは流石に困る。折角、お嬢様が好意を持たれているというのに、フィスト様が落ち込むだろう。
「で、では、この辺でいかがでしょう?」
お嬢様にそう言いながら裏でリーナ様たちとも打ち合わせをする。目立たず、フィスト様の気も引くことのできる服を探さなければ。
「うん、これが良いかな?」
服を隠したり、目立たないようにしながら選び終わる。この服ならきっと条件を満たせるだろう。
「服は決まりましたが後はデートコースですね。なにか良い案はありますか?」
「リーナ様、そこはフィスト様にお任せすべきでは?私たちが考えたものだと予想外の行動に出たときに、ぼろが出ませんか?」
「しかし、侯爵様付きのメイドにも聞きましたが、縁談をすべて断ってきた当主と婚約者に見向きもされなかった女性ですよ。どこに行けば良いのかとなりませんか?」
「フィスト様は度々、邸を抜け出したり隊の詰所から休憩時間に出て行ったりと、街に普段から出ているとのことです。ご心配は不要かと」
「それならお任せ致しましょう。後は警備ですね…」
「それについてはアルフレッド様と話を進めます。私とジェシカが後をつけ、アルフレッド様は特定の地点にて監視、後は数名の警備を通行人に紛れさせます」
「あ、相変わらず素早い手配ですね、アーニャ。では、当日までに私たちに出来ることがあれば言いなさい。手伝いますからね」
「はい」
それから邸のものも含めて警備計画を練る。警備といっても今回は3つの視点がある。1つ目はお嬢様たちの邪魔をせずに警護すること。2つ目はお嬢様たちがいい雰囲気になれるように住民をコントロールすること。3つ目が研究所及び邸の警備だ。これ以降もお2人で出かけるためには、邸や研究所にある研究成果を守らなくてはならない。ここについても手を抜くことはできない。
「では、配置ですが…研究所から2名が外出警護。うちの1名は住民の移動を担当。邸からはメイド2人と執事2人、こちらはどちらもコントロール側に回ってください。指示は私が行いますので、従ってください。くれぐれも正体がばれぬようお願いします。アーニャはジェシカと一緒にフィスト様とカノン様をお願いします」
「「はっ!」」
「メイド長はこちらの指揮をお任せします。邸は特定区画以外は覚えのあるものに作業をお願いします。研究所の方は念のため、資料を紛れさせるようにお願いします。以前からの練習の成果を示すときですね」
「はい!研究所員一丸となって対応します」
「では後は当日ですね」
「じゃあ、行ってきます!」
お嬢様がフィスト様とともに馬車に乗り街に行く。
「それではリーナ様、我々も行ってまいります」
「気を付けて」
「はい、ジェシカもばれないようにしますよ」
「でも、アーニャ様のその格好は…」
「僕はアーシュだよ」
変装というのは久しぶりだ、お嬢様は街に繰り出されなかったので、せいぜいが御者の臨時の付き人や研究所の配達員をする程度だった。とはいえ思ったよりも腕は鈍っていないらしい。
「僕たちも遅れないようにいくよ、ジェシー」
アルフレッド様の変装はさすがだった。あれなら老人としてしか捉えられないだろう。ジェシカはもう少し堂々とすればもっと見破られにくくなるでしょう。変装を見破る1つが態度だ。どうしても後ろ暗いという意識が残っているうちは変装自体のレベルが高くても分かり易い。
「はい…」
ジェシカもといジェシーとともに馬車を追いかけ街へ。途中でアルフレッド様は追い越して行かれた。向こうでの動きを指示するのだろう。
「この格好似合ってるよね。ジェシー?」
「そ、そうですね」
街について2人の姿を見ると、知ってはいたもののフィスト様はかなり街になれている様子だ。ただし、格好はそうは言っても貴族に近い。雰囲気から何となく街のものもある程度は察しているのがうかがえる。
「あっ、屋台。次は露店ですね」
「ジェシー何か買うかい?」
「で、でも、仕事中ですよ。アーニャ…アーシュ様」
「何も買わなくてウロウロするほうが変だよ。それと呼び捨てで」
「はい。じゃあ、あの巻き棒を」
2人で巻き棒を買いつつ後を付ける。これは薄目に焼いた生地にいろいろなソースをかけて食べる。ソースの種類も多くあり、男女問わず楽しめる人気の屋台だ。
「あっ、お昼を取るんですかね?レストランに入りましたよ」
「そうですね。では僕たちは街を歩いて時間をつぶしましょう」
「入らないんですか?」
「あそこのご老人が見えるだろう?」
レストランのカウンターでは制服を着た老人が手を上げている。あれがアルフレッド様だろう。前の客に飲み物を作って出している。
「普通の店員にしか見えませんね…。変装するのにはきちんとその相手の技能が必要です。音楽なら作詞や作曲を、画家なら絵を、メイドならメイドの技能を習得しなければいけません」
「へ~、アーシュはどれもできるの?」
「当然だよ。きちんと基礎からみっちりやったからね」
「おっ!そこのアベックさん。ここで食べてかないかい?」
「色々見たいからすぐに出れるならいいよ。ねっ、ジェシー?」
「そうね」
「あたりめぇよ。うちは火力もサービスも最高だぜ!」
注文も任せると確かに早く、2分程で出てきた。
「これがうちの名物、フィットパンだ!あんちゃんの分はサービスしといたぜ。彼女の分はピリッとしてるから注意してくれ!」
出されたフィットパンというものを見ると、ちょっと平たいパンにソーセージとこぼれにくいように野菜が入っていて上からソースがかかっている。ジェシーと比べるとどうやら彼女の分はピリッとしているからなのか、僕のより細いようだ。
「じゃあ食べようか。おじさん、ジュースも頂戴」
「おうよ!エールでなくていいのか?」
「それじゃあ、街を歩けなくなっちゃうよ」
こうして二人で一緒に昼食を食べた。
「おいしかったですね」
「うん。たまに来ようかな。時間も短いし味も良くて効率がいい」
「アーシュ…」
何か言いたげなジェシーをほっといて会計を済ませ、一緒に店を出る。店を出たところで少しだけ路地に入り、ジェシーに飲み物とスプレーを渡す。
「これは?」
「匂い消し。あれを食べた後じゃ周りにいたらすぐに気づかれるからね」
僕たちは素早く処理をして匂いを消す。こうして、あとをつけていても同一人物と悟られにくくするのだ。
「こんな便利なものがあったなんて…」
「これも我が家の努力と言いたいところけど、お嬢様の開発の流用品だよ。回復薬の味やにおいを改善するときに、においを消せないかと開発していたものを使ってるんだ」
「でも、そんなものリストにありましたっけ?」
「途中で味もにおいも良くなったものが完成したからね。お嬢様の中ではお蔵入りしているんだ。これはちょっと高級品だから僕らみたいなの専用だね。今度ジェシーにも教えてあげる」
「あ、ありがとう」
「でもそうだね。一般人でもにおいは気になるだろうし、これの安価なものをお嬢様に提案しようかな」
「それはいいかも。家にいるみんなも気に入ると思う」
「じゃあ、今度話をしようか…おっと、出てきたみたいだ。何か、お嬢様に言われてますね。情けない!おや?あの先は確か…ジェシー先回りだ!」
僕はジェシーを掴んで一気に別の道から駆ける。裏道を通り、おそらく来るであろうアクセサリーショップへ。
「いらっしゃいませ~」
「店主ですか?すみません。今からここにお忍びで去るお方が来られるのですが…」
「もしかして、フィストさんですか?宝石にも詳しくて、そう思ってたんです」
「なら話は早い。服を貸して奥にいてください」
「え、ええ!?」
「さあ、早く!」
「で、でも、あなたは男性では?」
時間がない、彼女を置くにつれていきさっさと服を脱ぐ。
「私は女です。服は?」
「あ、そこに…」
かかっていた服を取ってすぐに着替える。少し、大きいようだが問題はない。サイズを調整し髪型も変えて声も変える。今も邸も少し低めだから高めの声だ。
「では少しの間ここで待っていてください。ジェシカも」
「いらっしゃいませ。あら、恋人ですか?」
「あ、いや、あの…」
「ふふっ、初々しくていいですね。どのようなものがよろしいですか?」
くっ!お嬢様の前でこんな言葉を吐く日が訪れようとは…。
「彼女に似合うものを」
何だこの遊んでそうな発言は?誰か執事から教えてもらったのか?もうちょっとまともなやつに聞いてきなさい。ネックレス…どこでしょう。あそこですね。すぐにネックレスの場所を見つけ案内する。
「この緑色もきれい、こっちの銀色も…これにします!」
お嬢様の目が一点で止まり、欲しいものが決まったようだ。私の髪の色ではなくその色をやはりお選びになるのですね。悲しいけど、仕方のないことだと言い聞かせる。
「彼女さんに愛されてますね。恋人の瞳の色だなんて。また、お越しください」
「瞳の色…そっか、あのきれいな青はフィストの目の色だったんだ…」
お嬢様がフィスト様に惹かれていくのは寂しいことだ。でも、それが幸せならきっと守って見せよう。2人を見送るとすぐに奥に引っ込む。
「お騒がせしました。このお礼は必ず!」
「い、いえ。フィスト様と一緒にいたあの女性は?」
「また、伺った時にお教えします。ジェシー行くよ」
素早く元の姿に戻り、裏から出る。どうやら、お嬢様たちは噴水のベンチに座るところらしい。
「ここはチャンスだ」
さっと手を上げて、通行人に紛れさせているものを集める。
「いい?今から手段は問わないから、噴水に近づくものを制限して二人の邪魔にならないようにしてください。特に絡みそうな輩はこの際です、他の恋人たちの為にも排除してください!!」
「はっはい!」
「わしは奥の方をみとるよ」
横からアルフレッド様が出てこられた。相変わらずの隠密行動だ。すぐに姿を消して噴水の裏へ。
「ジェシー。あの奥のベンチに座るよ?」
「えっ!」
「こういう時の為の男女のペアだ」
さっさとジェシーの手を取ってベンチへ。少し前まで酔っ払いがいたけど今は裏の路地だ。
「お2人とも仲がよさそうですね」
「そうだね。でも、噴水の水を眺めてどうしたんだろうね?」
普通は噴水を眺めるものだと思うけど、まあ2人が楽しいならそれでいい。その後、気が済んだのか2人とも座り直す。それから少ししてまた街に繰り出して行った。
今日は朝食時に大きな変化が訪れた。このまま一生独身かと思われたお嬢様が、フィスト様を誘ったのだ。裏事情は研究所の前所長様のお声がけで、たまには仕事ばかりの2人で遊びに行かれては?ということだった。これでお嬢様に平穏な日々が訪れるのかと思うと嬉しい限りだ。側で仕えて早2年。日記にも書き留めておかなければ。
「アーニャ、服装はどれが良いかな?」
「お嬢様が着るなら何でもと言いたいですが、あくまでお忍びです」
「じゃあ、研究所に行ってた格好にしようかな?」
いや、あの飾り気の欠片もないのは流石に困る。折角、お嬢様が好意を持たれているというのに、フィスト様が落ち込むだろう。
「で、では、この辺でいかがでしょう?」
お嬢様にそう言いながら裏でリーナ様たちとも打ち合わせをする。目立たず、フィスト様の気も引くことのできる服を探さなければ。
「うん、これが良いかな?」
服を隠したり、目立たないようにしながら選び終わる。この服ならきっと条件を満たせるだろう。
「服は決まりましたが後はデートコースですね。なにか良い案はありますか?」
「リーナ様、そこはフィスト様にお任せすべきでは?私たちが考えたものだと予想外の行動に出たときに、ぼろが出ませんか?」
「しかし、侯爵様付きのメイドにも聞きましたが、縁談をすべて断ってきた当主と婚約者に見向きもされなかった女性ですよ。どこに行けば良いのかとなりませんか?」
「フィスト様は度々、邸を抜け出したり隊の詰所から休憩時間に出て行ったりと、街に普段から出ているとのことです。ご心配は不要かと」
「それならお任せ致しましょう。後は警備ですね…」
「それについてはアルフレッド様と話を進めます。私とジェシカが後をつけ、アルフレッド様は特定の地点にて監視、後は数名の警備を通行人に紛れさせます」
「あ、相変わらず素早い手配ですね、アーニャ。では、当日までに私たちに出来ることがあれば言いなさい。手伝いますからね」
「はい」
それから邸のものも含めて警備計画を練る。警備といっても今回は3つの視点がある。1つ目はお嬢様たちの邪魔をせずに警護すること。2つ目はお嬢様たちがいい雰囲気になれるように住民をコントロールすること。3つ目が研究所及び邸の警備だ。これ以降もお2人で出かけるためには、邸や研究所にある研究成果を守らなくてはならない。ここについても手を抜くことはできない。
「では、配置ですが…研究所から2名が外出警護。うちの1名は住民の移動を担当。邸からはメイド2人と執事2人、こちらはどちらもコントロール側に回ってください。指示は私が行いますので、従ってください。くれぐれも正体がばれぬようお願いします。アーニャはジェシカと一緒にフィスト様とカノン様をお願いします」
「「はっ!」」
「メイド長はこちらの指揮をお任せします。邸は特定区画以外は覚えのあるものに作業をお願いします。研究所の方は念のため、資料を紛れさせるようにお願いします。以前からの練習の成果を示すときですね」
「はい!研究所員一丸となって対応します」
「では後は当日ですね」
「じゃあ、行ってきます!」
お嬢様がフィスト様とともに馬車に乗り街に行く。
「それではリーナ様、我々も行ってまいります」
「気を付けて」
「はい、ジェシカもばれないようにしますよ」
「でも、アーニャ様のその格好は…」
「僕はアーシュだよ」
変装というのは久しぶりだ、お嬢様は街に繰り出されなかったので、せいぜいが御者の臨時の付き人や研究所の配達員をする程度だった。とはいえ思ったよりも腕は鈍っていないらしい。
「僕たちも遅れないようにいくよ、ジェシー」
アルフレッド様の変装はさすがだった。あれなら老人としてしか捉えられないだろう。ジェシカはもう少し堂々とすればもっと見破られにくくなるでしょう。変装を見破る1つが態度だ。どうしても後ろ暗いという意識が残っているうちは変装自体のレベルが高くても分かり易い。
「はい…」
ジェシカもといジェシーとともに馬車を追いかけ街へ。途中でアルフレッド様は追い越して行かれた。向こうでの動きを指示するのだろう。
「この格好似合ってるよね。ジェシー?」
「そ、そうですね」
街について2人の姿を見ると、知ってはいたもののフィスト様はかなり街になれている様子だ。ただし、格好はそうは言っても貴族に近い。雰囲気から何となく街のものもある程度は察しているのがうかがえる。
「あっ、屋台。次は露店ですね」
「ジェシー何か買うかい?」
「で、でも、仕事中ですよ。アーニャ…アーシュ様」
「何も買わなくてウロウロするほうが変だよ。それと呼び捨てで」
「はい。じゃあ、あの巻き棒を」
2人で巻き棒を買いつつ後を付ける。これは薄目に焼いた生地にいろいろなソースをかけて食べる。ソースの種類も多くあり、男女問わず楽しめる人気の屋台だ。
「あっ、お昼を取るんですかね?レストランに入りましたよ」
「そうですね。では僕たちは街を歩いて時間をつぶしましょう」
「入らないんですか?」
「あそこのご老人が見えるだろう?」
レストランのカウンターでは制服を着た老人が手を上げている。あれがアルフレッド様だろう。前の客に飲み物を作って出している。
「普通の店員にしか見えませんね…。変装するのにはきちんとその相手の技能が必要です。音楽なら作詞や作曲を、画家なら絵を、メイドならメイドの技能を習得しなければいけません」
「へ~、アーシュはどれもできるの?」
「当然だよ。きちんと基礎からみっちりやったからね」
「おっ!そこのアベックさん。ここで食べてかないかい?」
「色々見たいからすぐに出れるならいいよ。ねっ、ジェシー?」
「そうね」
「あたりめぇよ。うちは火力もサービスも最高だぜ!」
注文も任せると確かに早く、2分程で出てきた。
「これがうちの名物、フィットパンだ!あんちゃんの分はサービスしといたぜ。彼女の分はピリッとしてるから注意してくれ!」
出されたフィットパンというものを見ると、ちょっと平たいパンにソーセージとこぼれにくいように野菜が入っていて上からソースがかかっている。ジェシーと比べるとどうやら彼女の分はピリッとしているからなのか、僕のより細いようだ。
「じゃあ食べようか。おじさん、ジュースも頂戴」
「おうよ!エールでなくていいのか?」
「それじゃあ、街を歩けなくなっちゃうよ」
こうして二人で一緒に昼食を食べた。
「おいしかったですね」
「うん。たまに来ようかな。時間も短いし味も良くて効率がいい」
「アーシュ…」
何か言いたげなジェシーをほっといて会計を済ませ、一緒に店を出る。店を出たところで少しだけ路地に入り、ジェシーに飲み物とスプレーを渡す。
「これは?」
「匂い消し。あれを食べた後じゃ周りにいたらすぐに気づかれるからね」
僕たちは素早く処理をして匂いを消す。こうして、あとをつけていても同一人物と悟られにくくするのだ。
「こんな便利なものがあったなんて…」
「これも我が家の努力と言いたいところけど、お嬢様の開発の流用品だよ。回復薬の味やにおいを改善するときに、においを消せないかと開発していたものを使ってるんだ」
「でも、そんなものリストにありましたっけ?」
「途中で味もにおいも良くなったものが完成したからね。お嬢様の中ではお蔵入りしているんだ。これはちょっと高級品だから僕らみたいなの専用だね。今度ジェシーにも教えてあげる」
「あ、ありがとう」
「でもそうだね。一般人でもにおいは気になるだろうし、これの安価なものをお嬢様に提案しようかな」
「それはいいかも。家にいるみんなも気に入ると思う」
「じゃあ、今度話をしようか…おっと、出てきたみたいだ。何か、お嬢様に言われてますね。情けない!おや?あの先は確か…ジェシー先回りだ!」
僕はジェシーを掴んで一気に別の道から駆ける。裏道を通り、おそらく来るであろうアクセサリーショップへ。
「いらっしゃいませ~」
「店主ですか?すみません。今からここにお忍びで去るお方が来られるのですが…」
「もしかして、フィストさんですか?宝石にも詳しくて、そう思ってたんです」
「なら話は早い。服を貸して奥にいてください」
「え、ええ!?」
「さあ、早く!」
「で、でも、あなたは男性では?」
時間がない、彼女を置くにつれていきさっさと服を脱ぐ。
「私は女です。服は?」
「あ、そこに…」
かかっていた服を取ってすぐに着替える。少し、大きいようだが問題はない。サイズを調整し髪型も変えて声も変える。今も邸も少し低めだから高めの声だ。
「では少しの間ここで待っていてください。ジェシカも」
「いらっしゃいませ。あら、恋人ですか?」
「あ、いや、あの…」
「ふふっ、初々しくていいですね。どのようなものがよろしいですか?」
くっ!お嬢様の前でこんな言葉を吐く日が訪れようとは…。
「彼女に似合うものを」
何だこの遊んでそうな発言は?誰か執事から教えてもらったのか?もうちょっとまともなやつに聞いてきなさい。ネックレス…どこでしょう。あそこですね。すぐにネックレスの場所を見つけ案内する。
「この緑色もきれい、こっちの銀色も…これにします!」
お嬢様の目が一点で止まり、欲しいものが決まったようだ。私の髪の色ではなくその色をやはりお選びになるのですね。悲しいけど、仕方のないことだと言い聞かせる。
「彼女さんに愛されてますね。恋人の瞳の色だなんて。また、お越しください」
「瞳の色…そっか、あのきれいな青はフィストの目の色だったんだ…」
お嬢様がフィスト様に惹かれていくのは寂しいことだ。でも、それが幸せならきっと守って見せよう。2人を見送るとすぐに奥に引っ込む。
「お騒がせしました。このお礼は必ず!」
「い、いえ。フィスト様と一緒にいたあの女性は?」
「また、伺った時にお教えします。ジェシー行くよ」
素早く元の姿に戻り、裏から出る。どうやら、お嬢様たちは噴水のベンチに座るところらしい。
「ここはチャンスだ」
さっと手を上げて、通行人に紛れさせているものを集める。
「いい?今から手段は問わないから、噴水に近づくものを制限して二人の邪魔にならないようにしてください。特に絡みそうな輩はこの際です、他の恋人たちの為にも排除してください!!」
「はっはい!」
「わしは奥の方をみとるよ」
横からアルフレッド様が出てこられた。相変わらずの隠密行動だ。すぐに姿を消して噴水の裏へ。
「ジェシー。あの奥のベンチに座るよ?」
「えっ!」
「こういう時の為の男女のペアだ」
さっさとジェシーの手を取ってベンチへ。少し前まで酔っ払いがいたけど今は裏の路地だ。
「お2人とも仲がよさそうですね」
「そうだね。でも、噴水の水を眺めてどうしたんだろうね?」
普通は噴水を眺めるものだと思うけど、まあ2人が楽しいならそれでいい。その後、気が済んだのか2人とも座り直す。それから少ししてまた街に繰り出して行った。
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