家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩

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リバースストーリー

6

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「へ、陛下!わ、私は殿下には私こそふさわしいというものと会ったのです。その者は…その者は名前は分かりませんが、姿や格好は覚えております!」

「お待ちください陛下。このような戯言を申す娘などに耳を貸す必要はありません。即刻、国外追放とし後の調査は我ら王都警ら隊の管轄におかれますよう。必ず犯人を見つけ出して見せましょう!」

「ほう、ギュシュテン伯爵か。どうだ、クレヒルト。伯はこう言っておるが、今回はお前の婚約者に関わることでもある。それで満足か?」

「恐れながらい父上…いえ陛下。いかなる手段にて犯人を捜索するに至っても、ギュシュテン伯爵には任せられません!」

「殿下。な、何を…」

「何か理由があるのか?伯はこれまでもこの王都を守って来たのだ。理由なくば無礼であるぞ?」

父上は口の端をわずかに上げて私に向き合う。

「はっ!私が独自に調べ上げましたところ、ギュシュテン伯爵こそ今回の『魔力病』治療薬における一連の騒動の実行犯です。また、それだけに飽き足らず国家転覆の計画まで立てていた様子。まずはこちらをご覧ください」

私は用意していた傀儡政権を作る計画書をテーブルに広げる。

「ふむ、確かにここには伯のサインもありレスターを亡き者にした後、病み上がりのお前を王に据えて傀儡政権を作るとの事柄が書いてあるな」

ざわざわ

余りの出来事に会場は騒がしくなる。これまで功を積み上げてきた伯爵の突然のスキャンダルに皆驚いているのだろう。

「へ、陛下それは何かの間違いです。それに、私にはそれだけの権力もございません。レスター王子亡き後、傀儡政権を作ろうとして、どのように私がそれだけの地位に上り詰めることが出来ましょうか?」

「それなら問題ありません。私はそのことで殿下より相談を受け徹底的に調べ上げました。そこでこちらの新たな体制図を発見いたしました」

宰相閣下が次に新体制図を皆に見せる。そこには宰相位にアルター侯爵の名が書かれており、ギュシュテン伯爵はそのもとについている。

「確かに、あなたが役職を決めるだけの権力はないでしょう。しかし、アルター侯爵殿であれば長きにわたる内務の経験を活かし、そこに入り込むことが可能です」

「そ、そのようなことは可能性に過ぎないだろう!よしんばこの体制図が真実だとしても、我が家は関係ない!」

アルター侯爵はすかさずギュシュテン伯爵を切り捨てにかかる。彼の中ではすでに勝手に体制図を描き、勝手に行動しただけという筋道を作る算段だ。早まったのか私は?

「ほう?アルター侯爵の言い分も分かる。確かにギュシュテン伯爵家から流出した資料であり、関係性が疑われるかといえば確証はない」

「さ、さすがは陛下!このアルター、今後も変わらぬ忠節を誓いますぞ」

「ところでアルター侯爵よ。この文章に見覚えは無いか?宰相に言われ子飼いのものを送ったのだが?」

ぱらぱら

父上の手から数枚の紙が会場に落ちる。近くにいた貴族が拾い上げる。

「これは?何々…新体制図?いやだが、これはさっきのものとは違う。上位の役職がアルター家ゆかりのもので埋め尽くされている。しかも、ここにはギュシュテン伯の名がない!」

「閣下!まさか…」

「これをどこで!」

「王家を甘く見ぬことだ。貴様らの密書程度、少し力を見せればかように入手できる。つまらんことをしたな侯爵。処罰についてはトールマン子爵、ギュシュテン伯爵、アルター侯爵。また、それに関連する家についても後日発表する」

父上が手を上げると、会場にいた近衛たちが一斉に2人を取り押さえる。また、同様に来ていた夫人や息子娘など一族も取り押さえられた。突然のことに困惑するパーティー会場に音が鳴り響く。

コンコン

「静かに!先の件は愚かにも我が国に害をなそうとする賊を捕まえたにすぎん。貴族として誇りある態度を!」

その声に一斉に貴族たちは静まり返り、父上の方を向く。

「クレヒルトよここに」

「はっ!」

私は父上に呼ばれその前へと進む。途中でカノンの手を引いて。

「で、殿下これは?」

「良いから」

「うむ、来たな。皆の者!今日は栄えある我が国の第2王子の快復祝いだというのに、このようなことになってしまって大変残念である。しかし、これもここにいるクレヒルトが婚約者の不当な扱いに憤りを感じた故、あえて諸君らの集まるこの場を利用させてもらった。私はこれだけのことができるようになった息子を誇りに思う。そしてその機会を与えてくれたこの婚約者にもだ。そうは思わないか?」

「まことに、その通りでございます。陛下!」

「うむ、そなたはローデンブルグ男爵だな」

「はっ!実は我が息子も殿下同様に『魔力病』に伏しており、もはや余命いくばくもというところでございました。それが、今回の治験に娘を通じ参加させていただき、見事快復いたしました。これもお2人が通じ合ったからこそと考えます。我が家はこの恩を忘れず、これまで以上に王家に忠義をもってお仕えいたします」

「我が家も…」

「私もであります」

次々に貴族たちからも声が上がる。彼らは先ほどの侯爵家の証拠に戦々恐々としているのだ。侯爵家が隠したものをすぐに王家が見つけられるという事は、家にある書類の中で見られてはまずいものが存在する家もあるという事なのだろう。

「静粛に!諸君らの気持ちは分かった。では、その気持ちを汲み取りここにいるカノン伯爵令嬢に子爵位を授けたいと思うがどうか?これまで、いかなる国も成し遂げることのできなかったことをしたのだ。これでも、褒美としては少ない位だと思うが」

「…」

反対の声が上がらない。正確には上げようもないのだが。ここで反対したところで、では何がふさわしいかという事を見つけ出せないのが分かり切っているのだ。

「反対はないようだな。では、この時をもってカノン=エレステン伯爵令嬢はカノン=ドヴェルグ子爵となった。領地はこの度、王国に混乱をもたらしたトールマン子爵領とアルター侯爵家の一部を領地とし、しばらくは国から代官を派遣する。また、今回この件に関して多大な功績のある宰相には褒美として新たに侯爵家に陞爵する。これまで以上に王家のために励むように」

「はっ、謹んでお受けさせていただきます」

「おお、そうだ忘れておった。エレステン伯爵、素晴らしい功績を成し遂げた娘を婚約者にできてわしも幸せだ」

「はっ、陛下にそのように言われるとは光栄でございます」

「うむ。そこでだ、これまでの貴公の働きに感謝して褒美を与えよう」

「ははっ、ありがたき幸せ…」

「では伝える。エレステン伯爵は息子に即時爵位を譲り、今後は領内の邸から出ることを禁ずる」

「はっ、は?へ、陛下どうしてでございますか!」

「バカ者が!貴様がカノン子爵にどれだけ無理を強いていたかクレヒルトが調べておるわ!聞けば病を治す研究の為、ダンス・マナーはおろか一般教養すら身に付けさせてはおらぬではないか!」

「しかし、それは…」

「言い訳は無用だ!貴様は王族の婚約者が他国の人間に無知だと辱められても良いというのか!」

「も、申し訳ございません」

エレステン伯爵からすれば予想外のことだが、父上は幼少に2人の兄をなくして大層悲しんだらしい。それゆえに私達子供には甘いのだという事だ。それは何も自分の子だけに限ったことではない。貴族・王族には珍しい子煩悩な人物なのだ。薬学研究所の責任者を蹴落としながら維持してきた伯爵には理解できないだろうが。

こうして一連の病を巡る騒動と、国家を揺るがすクーデターは未然に防がれたのだった。
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