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前編
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「アルマナの様子はどうだ、ハンナ」
「目覚められて1週間経ちますが、静かに暮らしておられます。本日も本を読まれております」
「あの子が街に行かないなんておかしいわね」
「それと、これは良いことなのですが、とても穏やかになられました」
「そういえば、物の壊れないな。これなら第2王子との婚約も続けてもいいかもしれん」
「そうね。これ以上は王家にも迷惑になると思っていたけれど、ハンナが言うなら問題ないわね」
「ただ、ひとつ気になることが…」
「何かあるのか?」
「ドレスや第2王子のことに全く触れられないのです。お嬢様の興味がなくなったとは思えないのですが…」
「しかし、報告を受けた感じでは今のあの子は倒れる前と全く違うのだろう?」
「そうですね。私にも丁寧に対応してくださいますし、よもやとは思うのですが…」
「目が覚めてしばらく経つことだし、殿下にも話をして見舞ってもらうとするか。直接顔を合わせた方が早いだろう」
「そうね。でも、殿下もびっくりするのではないかしら?私も何度か会ったけれど、本当に別人だもの。私は前のあの子も嫌いではないけれど。ねぇ、ハンナ」
「まあ、あれはあれでお世話の甲斐はありましたし、今は戸惑うばかりです」
「年が近いからよく懐いていたものね。これからもよろしくね」
「はっ」
そんな大人たちの会話が行われていることも知らず、私はのんきに本を読み進めていた。
「うん。文法とか単語や熟語で主要なものは押さえたわね。というか、アルマナって天才肌なのかしら?スイスイと頭に入ってきたわ」
実際には普段から勉強していないためおかしな癖がつかず、体系的に一気に学べただけなのだが、得たものが多かったためアルマナにはそう感じられた。
「そろそろ、外に出ていいか聞くべきよね?ハンナが来たら早速話をしなくちゃ」
「外…ですか?」
「ええ。何も街に行きたい訳じゃないの。ちょっと、裏庭でも散策してみたいなって思って…」
「裏庭ですか?どうしてまた」
「ほら、目覚めてから外に出てないでしょう?ちょっと出たくなったの。体調も良くなってきたし」
「…分かりました。私が付き添いますので許可が出るかどうか聞いてまいります。しかし、1日だけお待ちください」
「1日待つ…どうして?」
「明日、アーデルハイト殿下が来られる予定ですので」
「そんな。わざわざ殿下に来てもらうなんて悪いわ。お断りできないの?」
「殿下としても婚約者の一大事ですし、お断りできません」
そう言われれば仕方ないわね。アルマナは王子のことが好きみたいだったけど、迷惑しかかけていない。王子の肩書が好きなだけだったから、いい機会だし婚約破棄でもしてもらおうかしら?
「殿下が来られるなら、明日はちょっとおめかししないといけないわね」
「無理はいけませんと言いたいところですが、立場もございますし仕方ありません」
明日の簡単な打ち合わせをして、再び一人になったので残りの本を読み進める。
「それにしても体調が悪いと言って食事も部屋で取ってるし、これじゃダメ人間よね。明日からはしっかりしないと!」
とはいえ今は知識を付けないとね。向こうと同じものが存在してるか調べないと。
「どうだった?」
「やはり、お嬢様はあまり殿下のことを意識されていないようです。それに近いうちに外に出たいと」
「街には行きたいということかしら?」
「それが…裏庭に行きたいとのことでして」
「裏庭?あんなところに何があるのだ?」
「それは私にも。ですが、何だかお嬢様を遠くに感じてしまって…」
「あなたは本当にあの子を可愛がっていたものね。でも、いいことではなくって?」
「そうなのですが、お嬢様がもう無理難題を言って下さらないと思うと落ち着かないのです」
「そ、そうか?だが、いいことじゃないか?明日には殿下も来てくださるし、婚姻まで行けば殿下がこの家を継ぐことになる。その後は肩の荷も下りるだろう」
「ですが、私はその時どうすればよいのでしょうか?やることがなくなってしまいます」
「まああれだよ。そうだ!人間、誰しも休みが必要だ。アルマナも休んだらまた元に戻るさ」
「そうでしょうか?」
「そうだとも!まあ、程々であって欲しいがね」
そして翌日、殿下がやってこられた。
「はぁ、全く面倒なことだ。アルマナ嬢の見舞いとは。私も暇ではないのだがな」
「ですが、殿下も将来は公爵家に婿入りする身。ここはこらえてください」
「しかし、本当に婚約を続ける気なのか?あのままでは公爵家の存続も危ういと思うのだが…」
アルマナのわがままぶりは王家の方でも把握しており、近々婚約破棄もあり得るとの話だった。公爵家にも一人娘とはいえ、わがまま三昧のアルマナより一族から養子を迎え、後継者とすべきではないかとの打診をするつもりであった。
「何より、俺もアルマナは好かん。あいつは殿下殿下というが、その実は俺の肩書しか見ぬからな。顔すらまともに合わせたことがないのだ」
「まあまあ、殿下も諦めてお見舞いに行ってくださいよ」
「分かっている」
こうして訪問すると客間に通されると思っていたら、アルマナの部屋に通された。珍しいこともあるものだ。
「ようこそお越しくださいました、アーデルハイト殿下」
「ああ、体調は大丈夫なのか?」
「はい。ご心配をおかけいたしました」
な、なんだこいつは本当にアルマナなのか?いつもなら見舞いに何を持って来たか聞いたはずだが…。
「さっきから頭に手が行っている様だがまだ痛むのか?」
「い、いえ、久しぶりにお会いするのでどこかおかしくないかと…。特にこぶは小さいとはいえ目立ってないかと思いまして…」
「別におかしなところはない。そういえば目が覚めて1週間ほど経つと聞いた。じっとしていて、暇ではなかったのか?」
「いえ、ハンナに言って本を持ってきてもらったので、充実しておりました。明日はようやく外に出られます」
「街に繰り出すのか?」
「いえ、まだ本調子ではありませんし裏庭に行こうかと」
「裏庭?何か見る物があるのか」
「殿下が興味のありそうなものは特に。温室用の苗ぐらいしかないですから」
「ではなぜ?」
「これまで人のいるところしか見て来ませんでしたから、一度自然を見てみたくなったのです」
手紙にもあったが確かに別人のような静かさだな。だが、さっきから目もよく合うし、何を考えているのか。
「そうか。明日は予定がないから俺も同行しよう」
「えっ!?殿下も来られるのですか?」
「ああ、まだ本調子ではないのだろう?」
「それはそうですけれど…」
「なら、決まりだな。昼過ぎに来るようにする」
「で、ではお待ちしております」
長時間の滞在はアルマナに負担をかけるのでここで俺は退室した。
「娘の様子はどうでしたかな?」
「ああ、おかし…いや普通だった。そうだ、明日も来るのでよろしく頼む」
「明日もですか?」
「悪いが気になることが出来たのでな」
公爵に挨拶をして馬車に乗り込む。
「どうでしたか?」
「今までとは違っていた。明日も行くから予定を組み直せ」
「は!?何でですか?」
「あの態度がどうにも気になる。婚約破棄の噂を聞き、周りを騙そうとしているのかもしれん」
「分かりました。でも、その後忙しいですからね」
「分かっている」
あのアルマナの態度の変化を俺は王子として、婚約者として確かめなければならんのだ。
「目覚められて1週間経ちますが、静かに暮らしておられます。本日も本を読まれております」
「あの子が街に行かないなんておかしいわね」
「それと、これは良いことなのですが、とても穏やかになられました」
「そういえば、物の壊れないな。これなら第2王子との婚約も続けてもいいかもしれん」
「そうね。これ以上は王家にも迷惑になると思っていたけれど、ハンナが言うなら問題ないわね」
「ただ、ひとつ気になることが…」
「何かあるのか?」
「ドレスや第2王子のことに全く触れられないのです。お嬢様の興味がなくなったとは思えないのですが…」
「しかし、報告を受けた感じでは今のあの子は倒れる前と全く違うのだろう?」
「そうですね。私にも丁寧に対応してくださいますし、よもやとは思うのですが…」
「目が覚めてしばらく経つことだし、殿下にも話をして見舞ってもらうとするか。直接顔を合わせた方が早いだろう」
「そうね。でも、殿下もびっくりするのではないかしら?私も何度か会ったけれど、本当に別人だもの。私は前のあの子も嫌いではないけれど。ねぇ、ハンナ」
「まあ、あれはあれでお世話の甲斐はありましたし、今は戸惑うばかりです」
「年が近いからよく懐いていたものね。これからもよろしくね」
「はっ」
そんな大人たちの会話が行われていることも知らず、私はのんきに本を読み進めていた。
「うん。文法とか単語や熟語で主要なものは押さえたわね。というか、アルマナって天才肌なのかしら?スイスイと頭に入ってきたわ」
実際には普段から勉強していないためおかしな癖がつかず、体系的に一気に学べただけなのだが、得たものが多かったためアルマナにはそう感じられた。
「そろそろ、外に出ていいか聞くべきよね?ハンナが来たら早速話をしなくちゃ」
「外…ですか?」
「ええ。何も街に行きたい訳じゃないの。ちょっと、裏庭でも散策してみたいなって思って…」
「裏庭ですか?どうしてまた」
「ほら、目覚めてから外に出てないでしょう?ちょっと出たくなったの。体調も良くなってきたし」
「…分かりました。私が付き添いますので許可が出るかどうか聞いてまいります。しかし、1日だけお待ちください」
「1日待つ…どうして?」
「明日、アーデルハイト殿下が来られる予定ですので」
「そんな。わざわざ殿下に来てもらうなんて悪いわ。お断りできないの?」
「殿下としても婚約者の一大事ですし、お断りできません」
そう言われれば仕方ないわね。アルマナは王子のことが好きみたいだったけど、迷惑しかかけていない。王子の肩書が好きなだけだったから、いい機会だし婚約破棄でもしてもらおうかしら?
「殿下が来られるなら、明日はちょっとおめかししないといけないわね」
「無理はいけませんと言いたいところですが、立場もございますし仕方ありません」
明日の簡単な打ち合わせをして、再び一人になったので残りの本を読み進める。
「それにしても体調が悪いと言って食事も部屋で取ってるし、これじゃダメ人間よね。明日からはしっかりしないと!」
とはいえ今は知識を付けないとね。向こうと同じものが存在してるか調べないと。
「どうだった?」
「やはり、お嬢様はあまり殿下のことを意識されていないようです。それに近いうちに外に出たいと」
「街には行きたいということかしら?」
「それが…裏庭に行きたいとのことでして」
「裏庭?あんなところに何があるのだ?」
「それは私にも。ですが、何だかお嬢様を遠くに感じてしまって…」
「あなたは本当にあの子を可愛がっていたものね。でも、いいことではなくって?」
「そうなのですが、お嬢様がもう無理難題を言って下さらないと思うと落ち着かないのです」
「そ、そうか?だが、いいことじゃないか?明日には殿下も来てくださるし、婚姻まで行けば殿下がこの家を継ぐことになる。その後は肩の荷も下りるだろう」
「ですが、私はその時どうすればよいのでしょうか?やることがなくなってしまいます」
「まああれだよ。そうだ!人間、誰しも休みが必要だ。アルマナも休んだらまた元に戻るさ」
「そうでしょうか?」
「そうだとも!まあ、程々であって欲しいがね」
そして翌日、殿下がやってこられた。
「はぁ、全く面倒なことだ。アルマナ嬢の見舞いとは。私も暇ではないのだがな」
「ですが、殿下も将来は公爵家に婿入りする身。ここはこらえてください」
「しかし、本当に婚約を続ける気なのか?あのままでは公爵家の存続も危ういと思うのだが…」
アルマナのわがままぶりは王家の方でも把握しており、近々婚約破棄もあり得るとの話だった。公爵家にも一人娘とはいえ、わがまま三昧のアルマナより一族から養子を迎え、後継者とすべきではないかとの打診をするつもりであった。
「何より、俺もアルマナは好かん。あいつは殿下殿下というが、その実は俺の肩書しか見ぬからな。顔すらまともに合わせたことがないのだ」
「まあまあ、殿下も諦めてお見舞いに行ってくださいよ」
「分かっている」
こうして訪問すると客間に通されると思っていたら、アルマナの部屋に通された。珍しいこともあるものだ。
「ようこそお越しくださいました、アーデルハイト殿下」
「ああ、体調は大丈夫なのか?」
「はい。ご心配をおかけいたしました」
な、なんだこいつは本当にアルマナなのか?いつもなら見舞いに何を持って来たか聞いたはずだが…。
「さっきから頭に手が行っている様だがまだ痛むのか?」
「い、いえ、久しぶりにお会いするのでどこかおかしくないかと…。特にこぶは小さいとはいえ目立ってないかと思いまして…」
「別におかしなところはない。そういえば目が覚めて1週間ほど経つと聞いた。じっとしていて、暇ではなかったのか?」
「いえ、ハンナに言って本を持ってきてもらったので、充実しておりました。明日はようやく外に出られます」
「街に繰り出すのか?」
「いえ、まだ本調子ではありませんし裏庭に行こうかと」
「裏庭?何か見る物があるのか」
「殿下が興味のありそうなものは特に。温室用の苗ぐらいしかないですから」
「ではなぜ?」
「これまで人のいるところしか見て来ませんでしたから、一度自然を見てみたくなったのです」
手紙にもあったが確かに別人のような静かさだな。だが、さっきから目もよく合うし、何を考えているのか。
「そうか。明日は予定がないから俺も同行しよう」
「えっ!?殿下も来られるのですか?」
「ああ、まだ本調子ではないのだろう?」
「それはそうですけれど…」
「なら、決まりだな。昼過ぎに来るようにする」
「で、ではお待ちしております」
長時間の滞在はアルマナに負担をかけるのでここで俺は退室した。
「娘の様子はどうでしたかな?」
「ああ、おかし…いや普通だった。そうだ、明日も来るのでよろしく頼む」
「明日もですか?」
「悪いが気になることが出来たのでな」
公爵に挨拶をして馬車に乗り込む。
「どうでしたか?」
「今までとは違っていた。明日も行くから予定を組み直せ」
「は!?何でですか?」
「あの態度がどうにも気になる。婚約破棄の噂を聞き、周りを騙そうとしているのかもしれん」
「分かりました。でも、その後忙しいですからね」
「分かっている」
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