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第26話_祐香の擬装策
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王宮宝物庫からの脱出は、まるで火花の中を泳ぐようだった。
緊急警報が鳴り響く中、暖大たちは狭い回廊を駆けていた。封蝋を解かれた直後の大帳簿――国家の根幹を揺るがすその証拠を鞄に収め、彼らは王宮の地下層から地上へと向かう。
「このままじゃ全員捕まる!」と、一成が歯を食いしばって言った。
「だから私が囮になる。帳簿の複製を残してね」
祐香が、先頭を走る暖大の背に叫んだ。
彼女の声には、揺るぎない計算があった。焦りも、迷いも、すでにその目からは消えていた。
「複製? あれはまだ不完全なはず……」
「でも、十分に時間を稼げる」
祐香は足を止め、別通路へ飛び込む。その手には、先ほど途中まで記入していた“模写帳簿”があった。
彼女が仕掛けたのは三重の擬装策だった。
一つは――情報撹乱。模写帳簿には、虚数精算の核心部分と見せかけたダミー関数を配置。その数式は一見本物に見えるが、解析すると誤差誘導が埋め込まれている。
二つ目は――印象操作。封蝋の痕跡を模倣した樹脂細工を用い、偽の「開封済み印」を書庫の別棚に設置。まるでそこに真の大帳簿があったかのように仕立てる。
そして三つ目――逃走誘導。
「この通路を通れば、王宮の“官吏専用口”に出られるわ」
地図と文庫設計図を照合し、祐香は仲間に別動ルートを示した。白帳派は本物の帳簿を追って地下階段からの出口を封鎖するだろう。ならば、官吏口の目をすり抜ける方が確実だった。
途中、近衛兵が一人、祐香に気づいた。
「そこの女、止まれ!」
「ふふ……遅かったわね」
祐香は自らの鞄を故意に落とし、その中から模写帳簿が滑り出る。近衛兵はすぐにそれを拾い上げた。
「これは……!」
彼の目に映るのは、あたかも“本物”に見える帳簿。
「回収したぞ! 本帳簿確保!」
歓声が上がり、彼女は静かに退いた。
この一手で、敵の追跡線が分断された。暖大たちは官吏通路を経て外郭門近くの廃倉庫まで脱出する。
「……今の声、祐香か?」
一成が振り返る。
「ああ、囮になってくれたんだ。俺たちは先に行くしかない」
暖大の手は、しっかりと鞄の錠を握っていた。その中には確かに“本物”がある。
そして、数刻後。
追手を完全に巻いた彼らは、王宮裏門の影に身をひそめながら、再合流の合図を待った。
薄暗い路地に、ひとりの影が現れる。
祐香だった。制服を脱ぎ捨て、下着姿で巻物を腕に巻き、紙くずを頭に乗せていた。
「……祐香、なんだその姿は?」
「だって……回収部隊の目を欺くには、倉庫の掃除婦に化けるしかなかったのよ」
冷静な表情のまま、彼女は毛布を被る。
「ダミー帳簿は、白帳派の副監査長の手に渡ったわ。本物は、当然そちら」
祐香が顎で暖大の鞄を指す。
「さすが祐香だ……完璧な擬装だったな」
一成が小さく呟くと、萌衣が苦笑した。
「完璧すぎて、近衛兵が号泣してたわ。“ついに国家の秘密を暴いた”って」
静かな夜の王都に、笑いがこぼれた。
戦いの中でも、仲間たちは冗談を交わせる。それは、信頼の証でもあった。
そしてその頃、王宮地下では――
「この帳簿……開かない……なぜだ……暗号化?」
白帳派の監査官が、何度も模写帳簿を開こうとしていた。
だが、そこに記されていたのは――祐香の手による、こんな一文だった。
《本物は、もっと美しい数式をしているわ》
緊急警報が鳴り響く中、暖大たちは狭い回廊を駆けていた。封蝋を解かれた直後の大帳簿――国家の根幹を揺るがすその証拠を鞄に収め、彼らは王宮の地下層から地上へと向かう。
「このままじゃ全員捕まる!」と、一成が歯を食いしばって言った。
「だから私が囮になる。帳簿の複製を残してね」
祐香が、先頭を走る暖大の背に叫んだ。
彼女の声には、揺るぎない計算があった。焦りも、迷いも、すでにその目からは消えていた。
「複製? あれはまだ不完全なはず……」
「でも、十分に時間を稼げる」
祐香は足を止め、別通路へ飛び込む。その手には、先ほど途中まで記入していた“模写帳簿”があった。
彼女が仕掛けたのは三重の擬装策だった。
一つは――情報撹乱。模写帳簿には、虚数精算の核心部分と見せかけたダミー関数を配置。その数式は一見本物に見えるが、解析すると誤差誘導が埋め込まれている。
二つ目は――印象操作。封蝋の痕跡を模倣した樹脂細工を用い、偽の「開封済み印」を書庫の別棚に設置。まるでそこに真の大帳簿があったかのように仕立てる。
そして三つ目――逃走誘導。
「この通路を通れば、王宮の“官吏専用口”に出られるわ」
地図と文庫設計図を照合し、祐香は仲間に別動ルートを示した。白帳派は本物の帳簿を追って地下階段からの出口を封鎖するだろう。ならば、官吏口の目をすり抜ける方が確実だった。
途中、近衛兵が一人、祐香に気づいた。
「そこの女、止まれ!」
「ふふ……遅かったわね」
祐香は自らの鞄を故意に落とし、その中から模写帳簿が滑り出る。近衛兵はすぐにそれを拾い上げた。
「これは……!」
彼の目に映るのは、あたかも“本物”に見える帳簿。
「回収したぞ! 本帳簿確保!」
歓声が上がり、彼女は静かに退いた。
この一手で、敵の追跡線が分断された。暖大たちは官吏通路を経て外郭門近くの廃倉庫まで脱出する。
「……今の声、祐香か?」
一成が振り返る。
「ああ、囮になってくれたんだ。俺たちは先に行くしかない」
暖大の手は、しっかりと鞄の錠を握っていた。その中には確かに“本物”がある。
そして、数刻後。
追手を完全に巻いた彼らは、王宮裏門の影に身をひそめながら、再合流の合図を待った。
薄暗い路地に、ひとりの影が現れる。
祐香だった。制服を脱ぎ捨て、下着姿で巻物を腕に巻き、紙くずを頭に乗せていた。
「……祐香、なんだその姿は?」
「だって……回収部隊の目を欺くには、倉庫の掃除婦に化けるしかなかったのよ」
冷静な表情のまま、彼女は毛布を被る。
「ダミー帳簿は、白帳派の副監査長の手に渡ったわ。本物は、当然そちら」
祐香が顎で暖大の鞄を指す。
「さすが祐香だ……完璧な擬装だったな」
一成が小さく呟くと、萌衣が苦笑した。
「完璧すぎて、近衛兵が号泣してたわ。“ついに国家の秘密を暴いた”って」
静かな夜の王都に、笑いがこぼれた。
戦いの中でも、仲間たちは冗談を交わせる。それは、信頼の証でもあった。
そしてその頃、王宮地下では――
「この帳簿……開かない……なぜだ……暗号化?」
白帳派の監査官が、何度も模写帳簿を開こうとしていた。
だが、そこに記されていたのは――祐香の手による、こんな一文だった。
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