光の鍵、影の試練-有美と渉-

乾為天女

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第10章: 遺跡の呼び声

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 有美と渉は、老婆から渡された地図を頼りに、村の南へと向かっていた。道は平坦ではなく、足元にはゴツゴツとした岩が散らばり、時折ぬかるんだ場所もあった。周囲には濃い緑が広がり、鳥の声が響く。だが、その自然の美しさの中に、不安をかき立てる空気が混じっているように感じた。
「本当にこの先に遺跡があるのかな?」
 渉が地図を確認しながら呟く。彼の声は冷静だったが、その目は微かに疲労と警戒を帯びていた。
「あるはずよ。村のおばあさんが言ってたんだから」
 有美はそう答えながらも、心の奥底に一抹の不安を抱えていた。この旅の終わりがどこにあるのか、そしてそれが何を意味するのか――まだ何も見えていなかった。

 数時間歩き続けると、周囲の景色が徐々に変化していった。木々が減り、代わりに石の柱や崩れた壁が見え始める。地面には細かい模様が彫られた石畳が埋まっており、それが古代の建造物の一部であることを示していた。
「ここが遺跡…なのかな?」
 有美は立ち止まり、目の前の光景に息を飲んだ。崩れた石柱の間には苔が生い茂り、風化した壁には奇妙な文様が刻まれている。その全てが、ここがただの遺跡ではないことを物語っていた。
「気をつけよう。この雰囲気、森の中と似ている」
 渉が低い声で言う。その言葉に有美も同意した。この遺跡は、何か特別な力を宿している――そう感じざるを得なかった。

 二人が遺跡の奥へ進むと、中央に巨大な石碑が立っているのが見えた。その石碑には、森の中で見たものと同じような模様が刻まれていた。渉が拾った指輪の模様とも一致している。
「これ…何かの鍵じゃない?」
 有美が石碑を指差すと、渉がその模様を慎重に観察する。
「間違いない。指輪と同じ模様だ。森で見た扉や道化師も、この模様に関連していた…」
 渉が言葉を続けようとしたその時、石碑が低い音を立てて振動した。二人は驚き、後ずさる。石碑の模様が光り始め、その中央に文字が浮かび上がる。

「試練はまだ終わっていない」

 その言葉に、有美と渉の心臓が強く鼓動する。森を抜けたはずなのに、試練が続いているという現実を突きつけられた。
「まだ終わってない…ってどういうこと?」
 有美が震える声で呟く。だが、答えを知る者はいない。ただ石碑の光が徐々に強まり、その場全体を包み込むように輝いていく。

「遺跡の内部へ」
 次の瞬間、二人の足元が崩れた。渉がとっさに有美の手を掴もうとするが、二人とも支えを失い、闇の中へと飲み込まれていく。
 有美は落下する感覚の中で目を閉じた。耳元を風が駆け抜け、何か硬いものにぶつかる寸前で、全てが静止したように感じられる。

 目を開けると、そこは広大な地下空間だった。壁一面にびっしりと古代文字が刻まれ、その中央には大きな円形の台座があった。台座の上には、透明なガラスのような球体が浮かんでいる。それは微かに光を放ち、まるで二人を招いているかのようだった。
「これが…遺跡の核?」
 渉が呟く。二人は慎重に台座へと近づいていった。

「気をつけて、有美。何が起きるか分からない」
 渉の言葉に有美は頷く。台座の前で立ち止まり、光る球体を見上げる。その輝きは美しく、同時にどこか不気味な魅力を持っていた。
 有美がそっと手を伸ばそうとした瞬間、背後から低い声が響いた。

「お前たちがここまで来るとは思わなかった」

 振り返ると、そこにはまたしても道化師が立っていた。彼の白い仮面は今までと同じだが、その姿にはこれまで以上に威圧感が漂っている。
「またあんたか…!」
 渉が身構える。だが道化師は攻撃の意思を見せるわけでもなく、静かに二人を見つめている。

「この球体には、この土地の全ての記憶が封じられている。そして、それを解放するには、お前たちの最後の選択が必要だ」

「選択って、また何をしろって言うの?」
 有美が声を荒げて問いかける。道化師は静かに指を差し、その先には二つの小さな台座が現れた。

「片方の台座に鍵を置け。それが真実を解き放つ鍵となる。だが、その代償は計り知れない」

 その言葉に、有美と渉は顔を見合わせた。二人とも、これが最後の試練であることを理解した。同時に、それがどれほど困難な選択であるかも。
「鍵を置いたら…どうなるんだ?」
 渉が冷静さを保とうとしながら尋ねる。
「それは置いた者自身が知るだろう。だが、お前たちがこの地を変えたいと思うならば、その覚悟を示せ」
 道化師の声は冷たく、全てを悟ったかのようだった。

 有美は手の中の鍵を見つめた。それは冷たく、今までの試練の全てを象徴するような重みを持っていた。
「私が…やる」
 有美は静かに言った。その言葉に渉は驚き、声を荒げる。
「ダメだ!今までお前が全部背負ってきたじゃないか。俺がやる。これ以上、お前に犠牲を強いるわけにはいかない」
「でも、これは私が選ぶべきことなの…」
 二人の間に沈黙が流れる。だがその沈黙は短く、有美は意を決して鍵を台座の上に置いた。

 その瞬間、光が溢れ、遺跡全体が震えた。有美の体は浮き上がり、光に包まれる。その中で彼女は、全ての記憶を受け取った――この土地の歴史、森の呪い、そして道化師の正体までも。

「終わりと始まり」
 光が消えると、有美は再び渉とともに遺跡の外に立っていた。周囲の景色は穏やかで、森の呪いは完全に消え去っているようだった。
「全て終わったの?」
 渉が問いかける。有美は小さく頷き、手のひらに残る冷たい感触を握りしめた。
「うん、でも…これが本当に正しかったのかどうかは分からない」
 二人は静かに歩き出した。呪いが消えた森と遺跡を後にしながら、彼らは新たな希望を胸に刻んでいた。
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