光の鍵、影の試練-有美と渉-

乾為天女

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第12章: 音楽が導く道

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 朝日が昇り始める頃、有美はゆっくりと目を開けた。宿の窓から差し込む光が部屋全体を柔らかく照らしている。外からは鳥のさえずりとともに、村の人々が一日の始まりを迎える気配が感じられた。静けさと穏やかな空気に包まれながら、有美は昨夜見た夢のことを思い出していた。
 夢の中で、有美は広い草原に立っていた。風が吹き抜ける中、遠くから微かな音楽が聞こえ、それに導かれるように歩き続けた。その旋律は優しく、懐かしいものでありながら、どこか不安を感じさせるものだった。音楽の先には白い光が広がり、その中心にあの道化師の姿がぼんやりと浮かんでいた。
「これは…何を意味しているの?」
 有美は夢の中で問いかけようとしたが、言葉は出なかった。ただ、その光景が目を覚ました今も胸に残り、何かを告げようとしているように思えた。

 渉は既に目を覚まし、窓際に立って外を眺めていた。彼の表情には、どこか考え込むような色が浮かんでいる。有美が起き上がる気配に気づき、彼は振り返った。
「おはよう。有美、昨日はよく眠れた?」
「うん、ありがとう。でも、ちょっと不思議な夢を見たの」
 有美が夢の内容を話すと、渉は少し考え込むように目を伏せた。
「音楽か…。俺には何も聞こえないけど、それがまた俺たちを導こうとしているのかもしれないな」
 渉の言葉に、有美は頷いた。これまでの旅路でも、音楽や旋律は何度も彼らを試練へと導いてきた。今回もそれが新たな旅の始まりを告げているのだと感じた。

 二人は支度を整え、村を出発することにした。村人たちは朝早くから二人を見送りに集まり、手作りの食べ物や旅の道具を持たせてくれた。
「本当にありがとう。この村を救ってくれて」
 老婆が手を握りながらそう言った。その言葉に、有美と渉は感謝の気持ちを伝え、再び旅立つ決意を新たにした。

 村を出てしばらく歩くと、目の前には広大な平原が広がった。その向こうには山々が連なり、道は遠くまで続いている。その景色を見ながら、有美は森を抜けた時の解放感を再び感じた。
「次はどこに向かうのかな?」
 有美が問いかけると、渉は地図を広げて答えた。
「この道を進めば、リーベルトっていう町にたどり着くはずだ。旅人が言ってた場所だよ」
 有美はその名前を聞いて胸がざわつくのを感じた。音楽の夢とどこか結びついているような気がしてならなかった。

 昼過ぎ、二人は小さな森を抜けてさらに平原を進んだ。途中で旅の商人に出会い、リーベルトの町についての話を聞いた。
「リーベルトかい?あそこは賑やかでいい町だよ。ただ、最近は夜になると変な音楽が聞こえるって噂があるね」
 商人の言葉に、有美は思わず立ち止まった。
「変な音楽って…どんな音楽なんですか?」
「よく分からないけど、人を引き寄せるような不思議な旋律だってさ。何かの呼び声みたいだって聞いたよ」
 商人の言葉に、有美と渉は顔を見合わせた。その音楽が彼らに関係しているのかどうかは分からなかったが、確かめる必要があると思った。

 夕方になる頃、二人はリーベルトの町に到着した。町の入り口には大きな門があり、石畳の道が中心部へと続いている。町の中は活気に満ちており、商人たちの声や人々の笑い声が響いていた。
「すごい町だね。村とは全然違う」
 有美は目を輝かせながら周囲を見渡した。市場には色とりどりの商品が並び、路地裏では芸人たちが大道芸を披露している。その賑やかな雰囲気に、二人は少し安心感を覚えた。
 だが、町を歩くうちに、音楽の話をする人々の表情には微かな不安の影が見えることに気づいた。
「最近、夜になるとどこからか音楽が聞こえるんだ。それがなんとも言えない不気味さを感じさせるんだよ」
「誰が演奏しているのかも分からないし、音楽が聞こえると妙な夢を見るんだって人もいるらしい」
 町の人々の話を聞くたびに、有美の胸はざわついた。その音楽が彼女たちの旅にどのように関係しているのか、確かめる必要があると感じた。

 夜が訪れると、町の灯りが石畳の道を照らし始めた。宿に戻った二人は食事を済ませ、これからの計画を立てようとしていた。
 その時、有美は耳を澄ませた。遠くから、あの音楽が聞こえてきたのだ。それは優しくも哀愁を帯びた旋律で、まるで彼女を呼び寄せるように響いている。
「渉…聞こえる?」
 有美が言うと、渉も耳を澄ませたが、首を振った。
「俺には何も聞こえない。でも、何か感じるのか?」
「うん。この音楽、森や遺跡で聞いたものと似てる気がする…」
 有美は立ち上がり、窓の外を見つめた。その音楽がどこから来ているのか確かめるため、二人は町の外に出ることを決めた。

 夜の町を歩く中、音楽は次第に大きくなり、彼らを町の中央広場へと導いた。広場の中央には、森の遺跡で見た石碑とよく似たものが立っていた。その前には、黒いフードを被った人物が佇んでいる。
「君たちが来るのを待っていた」
 その人物が振り返ると、顔にはあの道化師の仮面があった。有美と渉の心臓が跳ね上がる。
「試練はまだ終わっていない。お前たちが真実を求める限り、道は続いていく」
 道化師の言葉に、有美と渉は再び新たな試練が始まることを悟った。
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