光の鍵、影の試練-有美と渉-

乾為天女

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第15章: 終わりと始まり

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 風が静かに草原を渡り、夜明けの光が空を染め始めた。試練を終えた有美と渉は、草原の真ん中で肩を並べ、ただ空を見上げていた。道化師が消え、影たちが跡形もなく消え去った後の静寂は、これまで感じたことのない解放感を二人にもたらしていた。
「これで、本当に終わったのかな…」
 有美がぽつりと呟く。その声には安堵と不安が入り混じっていた。渉は隣で小さく頷きながら、まだ遠くを見つめている。
「そうだな…少なくとも、あいつが言ってた試練は終わったんだろう。でも、それが全ての終わりなのかどうかは、これから分かることだ」
 渉の言葉は慎重だったが、その声には確かな決意がこもっていた。彼はこれまでの旅を通じて、いつでも真実や未知への恐れと向き合ってきた。その経験が彼の心に揺るぎない強さをもたらしている。

 二人は立ち上がり、草原を歩き始めた。遠くには新たな町が見え、その手前には川が流れているのが分かった。その光景は美しく、どこか現実感のない不思議な感覚を与えた。
「次の目的地、決めてないよね?」
 有美が笑みを浮かべて言う。その表情は、これまでの苦しみを乗り越えた者の安堵と希望を感じさせた。渉も微笑みを返しながら答えた。
「そうだな。でも、次はただ進むだけじゃなくて、俺たちが本当に望むものを探す旅にしよう」
 その言葉に、有美は心が温かくなるのを感じた。これまでの旅は、与えられた試練を解くためのものだった。だが、これからの旅は、彼ら自身の意志で進むものになるのだ。

 川にたどり着いた二人は、その澄んだ水に手を伸ばし、冷たい感触を楽しんだ。渉は水をすくって顔を洗い、有美もまたその清涼感に微笑みを浮かべた。
「この水、すごく綺麗だね。こんなに澄んだ川を見たのは初めてかもしれない」
 有美の言葉に、渉は頷きながら遠くを指さした。
「あの橋を渡れば、次の町に着くみたいだ。リーベルトより大きい町だって、旅人から聞いたよ」
 その町の名前は「ベルリス」。商業が栄え、多くの人々が行き交う賑やかな場所だという。二人はその町へ向けて歩き始めた。

 ベルリスの町に到着したのは昼過ぎだった。大きな石造りの門をくぐると、活気あふれる市場が目に飛び込んできた。色とりどりの果物や野菜、布地や工芸品が並び、人々の声が絶え間なく響いている。
「ここ、すごいね。まるでお祭りみたい」
 有美は目を輝かせながら、周囲を見渡した。これまで訪れた村や町とは比べ物にならないほどの活気がそこにはあった。
 渉もその賑やかな光景に圧倒されつつ、周囲の人々の様子を観察していた。彼の目に映ったのは、笑顔を浮かべる人々と、その裏で何かを隠しているような影だった。

 町の中心部に進むと、大きな広場に出た。その中央には噴水があり、その周囲には様々なパフォーマーが集まっていた。大道芸人が火を操り、楽器を奏でる人々が観客を惹きつけている。
「すごい!こんなにたくさんの人が一緒に楽しんでるなんて」
 有美はその光景に見入っていた。しかし、渉の視線は噴水の背後にある一軒の建物に向けられていた。それは大きな教会のような建物で、他の建物と比べても明らかに異質な雰囲気を持っていた。
「あそこ、ちょっと気になるな。何か特別な場所みたいだ」
 渉の言葉に、有美もその方向を見た。教会の尖塔が青空に伸び、その下には重厚な扉が静かに佇んでいる。その存在は周囲の賑やかさとは対照的で、どこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。

 二人が教会に近づこうとすると、突然、一人の老人が声をかけてきた。
「お前たち、あの教会に何をしに行くつもりだ?」
 その声に振り返ると、そこには古びたローブを羽織った老人が立っていた。彼の目は鋭く、有美と渉をじっと見つめている。
「あの教会は、ただの教会じゃない。あそこには、この町に隠された秘密が眠っている」
 老人の言葉に、有美の胸がざわついた。町に入った時から感じていた何か――それがこの教会と繋がっているのかもしれない。
「秘密って、どういうことですか?」
 渉が問いかけると、老人は静かに首を振った。
「それはお前たち自身で確かめることだ。だが、一つだけ言っておく。あの場所で見つけるものが、全ての答えではない。それでも、向き合う覚悟があるのなら、行くがいい」
 その言葉を残し、老人はゆっくりとその場を去っていった。

 二人はしばらく黙ったまま教会を見つめていた。その扉の向こうに何が待っているのか分からない。だが、有美と渉は互いに頷き合い、意を決して扉の前に立った。
 渉が重厚な扉を押すと、ギィ…という低い音を立てて開いた。中には、柔らかな光が差し込む広い空間が広がっていた。祭壇の上には古びた書物が置かれ、その周囲には奇妙な模様が刻まれた石板が並んでいる。
「また新しい試練が待っているのかな…?」
 有美が呟く。渉もその言葉に頷きながら、一歩ずつ慎重に進んでいった。
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