底辺冒険者、連鎖視で王都を救う!逆境ブレイク成り上がり

乾為天女

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第5話_静寂を切り裂く鐘の鳴動

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 遺跡の調査を終え、誠人たちがギルドに戻ったのは夜半近くだった。報告を終えると、綾佳が書類を抱えたまま振り返り、静かに告げる。
 「あなたたちの対応、かなり高評価よ。とくに誠人、あのゴーレムの動きを封じたのは見事だったわ」
  睦が肩をすくめる。
 「見事っていうか、あれなかったら全員帰れなかったでしょ」
  樹も苦笑しながらうなずいた。
 「確かに……助かったよ、誠人」
 「いや、俺はただ見えた線をなぞっただけだ」
  誠人は謙遜したが、仲間たちの目は確かな信頼で満ちていた。
  そのとき、ギルドの外から鐘の音が響いた。深夜に鳴ることのない緊急信号――都市外縁で何かが起きたことを告げていた。
  ギルドの空気が一変する。職員たちが走り出し、各冒険者に応援要請がかかる。
 「魔獣だ!」誰かの叫びが響き、広場がざわついた。
  誠人も駆け出そうとしたが、美心がその腕を掴む。
 「待って、今はまだ仮合格者なんだよ!」
 「でも……」
 「行くなら自己責任よ」
  彼女の瞳は迷いと恐れ、そして信頼が混ざった色をしていた。
  誠人は一瞬だけためらい、だがすぐにうなずいた。
 「行くよ。……俺にしかできないことがある」
  外に出ると、夜風が冷たく頬を打つ。鐘の音が止み、代わりに遠くから獣の吠える声が聞こえてきた。
  誠人は杖を握り直し、北門へと全力で駆け出した。


 北門に着くと、すでに複数の冒険者と防衛兵が集まっていた。街灯に照らされた門外の平原には、黒い影がうごめいている。
 「……コルドレイヴンか」
  兵士の一人が名を呟いた。大型の鳥型魔獣、群れで行動し、獲物を襲う凶暴さで知られている。
  誠人は呼吸を整え、視線を集中させる。縫い目の感覚が働き、魔獣の動きがまるで糸で操られる人形のように見えた。
  兵士たちが前進をためらう中、誠人は一歩踏み出す。
 「俺が先に出る!」
  周囲がざわめくが、誠人は止まらない。
  最初の一羽が低空から突っ込んできた。鋭い嘴が月光を反射する。誠人は縫い目を読み、その動線に合わせて杖を振った。
  杖先から放たれた光の帯が空を裂き、魔獣の翼を貫いた。悲鳴とともに地面へと墜落する。
 「な、何だ今の……」
  背後で誰かが呟く。誠人自身も驚いていたが、止まるつもりはなかった。
  二羽目、三羽目――次々に襲い掛かる魔獣を、縫い目をなぞる動きでかわし、関節部を狙って撃ち抜く。
  やがて残りの群れは恐れを抱いたかのように鳴き声を上げ、夜空へと飛び去った。
  辺りに静寂が戻り、兵士たちの間から安堵の息がもれた。
 「……終わったのか?」
  誰かの声に誠人は杖を下ろし、息を整えた。
 「いや、まだだ」
  遠くに、より大きな影が浮かび上がっていた。群れの親玉――リーダー個体だ。


 闇を裂いて現れたのは、通常の三倍はあろうかという巨体のコルドレイヴンだった。鋭い嘴は槍のように長く、翼の一振りで風圧が生じる。
  兵士たちは思わず後退し、指揮官が声を張り上げる。
 「全員、後列に下がれ! 防衛陣形を組み直す!」
  誠人はその場から動かなかった。縫い目がくっきりと見える――まるで巨体を貫く弱点を指し示す道筋だ。
 「俺がやる!」
  その声に兵士たちが振り向く。
 「無茶だ! お前は仮合格者だろう!」
 「関係ない!」
  巨鳥が甲高い鳴き声を上げ、誠人目掛けて突進してきた。
  その瞬間、時間がゆっくりと流れるように感じられる。縫い目の光が翼から胸部へと繋がっているのが見えた。
 「そこだっ!」
  誠人は杖を突き出し、魔力を解き放つ。
  蒼い光が一直線に走り、巨鳥の胸部を貫いた。コルドレイヴンは苦悶の声を上げ、空中で大きくのけ反り、そのまま地面に激突した。
  静寂。
  兵士たちは息を呑み、やがて歓声が広がった。
 「勝った……あの少年がやったぞ!」
  誰かの叫びに、誠人は肩で息をしながら杖を握り締めた。
  そのとき、美心が駆け寄ってきた。
 「誠人、大丈夫!?」
 「……平気だ。もう終わった」
  彼女の瞳は潤み、安堵と驚きで揺れていた。
  鐘の音は止み、夜の空気が戻る。
  誠人は空を見上げ、心の中で静かに誓った。
 「これで終わりじゃない。……ここからだ」
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