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第7話「鼓動する樹海」
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8月2日、午後5時ちょうど。
朽網島の中央に広がる深い森――通称“樹海”と呼ばれる未踏地帯。
駈たち一行は、方角確認と避難経路の再探索のため、再び山中に足を踏み入れていた。数時間前の誠人の“感染”を受けて、これ以上の停滞は危険と判断されたためだ。
空はまだ青みを帯びているが、森の中はすでに夕暮れのような薄闇が広がっていた。枝葉が密に茂り、空が見えない。虫の声すら遠のき、代わりに、どこか低く――
「ドク……ドク……」という音が、地面の奥から響いている。
「……この音、聞こえる?」
春花が足を止めて、そっと耳をすます。
「風の音じゃないな」
悠がうなずく。「……鼓動のような……いや、森全体が脈打ってるような……」
「GPS、また狂ってる」
乙葉が端末を見つめながら顔をしかめた。「方角がめちゃくちゃ。進んでも進んでも、同じ場所をぐるぐる回ってるって……これ、ジャミング?」
「違うな……森の磁場が、おかしい」
駈が地面に手をついて感触を確かめる。「踏みしめるたびに、地面の下で何かが揺れてる」
その言葉に、誰もが黙り込んだ。
「ほんとに、これ“地面”なのかな……」
瑛美が口を開いた。「“島”の上に、別の何かが覆い被さってるだけだったりして。ほら、蔓とか根とかで、ぜんぶ」
「やめてよ……冗談に聞こえない」
春花が唇を噛む。
「……いや、それ、あながち冗談じゃないかも」
誠人が、ふらふらとしながら言った。「俺……“脈動”のリズムが、自分の体の中とリンクしてる気がする。さっきから、同じタイミングで胸が締めつけられるんだ」
悠が誠人の脈を測った。「……不整脈、じゃない。一定の周期。これは……“同期”してる?」
「植物と……人間の生体リズムが、共鳴してるってこと?」
乙葉の声が震える。
「……まるで、島そのものが“心臓”を持ってるみたい」
その瞬間――地面が、ごくわずかに“跳ねた”。
全員が身体を固めた。風がないのに、木の葉がざわざわと揺れている。枝がこすれる音、幹がきしむ音。耳を澄ませば澄ますほど、森が――“生きている”ように思えてくる。
「駈、もう進めない。道がない」
悠が声をかけた。
目の前に、ぶ厚い蔓が幾重にも絡まった“壁”のように立ちはだかっていた。
「斧かナイフで切れるか?」
駈が言うと、瑛美がすぐ前に出て刃を立てる。だが――
「うわ、これ……固い。木じゃない。ゴム? 金属?」
刃が通らない。蔓はまるで生きているように微かにうねり、音もなく再生していた。
「このままだと埒が明かない」
乙葉がバックパックから赤い布を取り出した。「目印、残して戻ろう。森が生きてるなら、変化の痕跡で動きが読めるかもしれない」
「私もリボン結ぶ」
春花がそっと言って、小枝に青い布を巻きつけた。「……迷っても、これをたどって帰ってこれるように。私、あんまり役に立ててないけど……これくらいなら」
「控えめでいい。正確な目印って、一番ありがたいよ」
悠がやさしく応じた。
全員で静かに引き返す中、駈は再びGPSを確認した。だが――
座標は一度として同じ場所に留まっていなかった。
“地図の中で、島そのものが動いている”
そんな感覚が、彼の背筋を凍らせた。
朽網島の中央に広がる深い森――通称“樹海”と呼ばれる未踏地帯。
駈たち一行は、方角確認と避難経路の再探索のため、再び山中に足を踏み入れていた。数時間前の誠人の“感染”を受けて、これ以上の停滞は危険と判断されたためだ。
空はまだ青みを帯びているが、森の中はすでに夕暮れのような薄闇が広がっていた。枝葉が密に茂り、空が見えない。虫の声すら遠のき、代わりに、どこか低く――
「ドク……ドク……」という音が、地面の奥から響いている。
「……この音、聞こえる?」
春花が足を止めて、そっと耳をすます。
「風の音じゃないな」
悠がうなずく。「……鼓動のような……いや、森全体が脈打ってるような……」
「GPS、また狂ってる」
乙葉が端末を見つめながら顔をしかめた。「方角がめちゃくちゃ。進んでも進んでも、同じ場所をぐるぐる回ってるって……これ、ジャミング?」
「違うな……森の磁場が、おかしい」
駈が地面に手をついて感触を確かめる。「踏みしめるたびに、地面の下で何かが揺れてる」
その言葉に、誰もが黙り込んだ。
「ほんとに、これ“地面”なのかな……」
瑛美が口を開いた。「“島”の上に、別の何かが覆い被さってるだけだったりして。ほら、蔓とか根とかで、ぜんぶ」
「やめてよ……冗談に聞こえない」
春花が唇を噛む。
「……いや、それ、あながち冗談じゃないかも」
誠人が、ふらふらとしながら言った。「俺……“脈動”のリズムが、自分の体の中とリンクしてる気がする。さっきから、同じタイミングで胸が締めつけられるんだ」
悠が誠人の脈を測った。「……不整脈、じゃない。一定の周期。これは……“同期”してる?」
「植物と……人間の生体リズムが、共鳴してるってこと?」
乙葉の声が震える。
「……まるで、島そのものが“心臓”を持ってるみたい」
その瞬間――地面が、ごくわずかに“跳ねた”。
全員が身体を固めた。風がないのに、木の葉がざわざわと揺れている。枝がこすれる音、幹がきしむ音。耳を澄ませば澄ますほど、森が――“生きている”ように思えてくる。
「駈、もう進めない。道がない」
悠が声をかけた。
目の前に、ぶ厚い蔓が幾重にも絡まった“壁”のように立ちはだかっていた。
「斧かナイフで切れるか?」
駈が言うと、瑛美がすぐ前に出て刃を立てる。だが――
「うわ、これ……固い。木じゃない。ゴム? 金属?」
刃が通らない。蔓はまるで生きているように微かにうねり、音もなく再生していた。
「このままだと埒が明かない」
乙葉がバックパックから赤い布を取り出した。「目印、残して戻ろう。森が生きてるなら、変化の痕跡で動きが読めるかもしれない」
「私もリボン結ぶ」
春花がそっと言って、小枝に青い布を巻きつけた。「……迷っても、これをたどって帰ってこれるように。私、あんまり役に立ててないけど……これくらいなら」
「控えめでいい。正確な目印って、一番ありがたいよ」
悠がやさしく応じた。
全員で静かに引き返す中、駈は再びGPSを確認した。だが――
座標は一度として同じ場所に留まっていなかった。
“地図の中で、島そのものが動いている”
そんな感覚が、彼の背筋を凍らせた。
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