14 / 26
第14話「罠と火薬」
しおりを挟む
8月4日、午前2時30分。
島の南側――かつての旧弾薬庫跡地。
鬱蒼としたヤブをかき分けてたどり着いた先に、それはあった。
地面の窪みに、半ば崩れた煉瓦と鋼材。そこに埋もれるようにして、朽ちた木箱が並んでいる。
瑛美が膝をつき、手袋越しに木箱を開けた。
「……黒色火薬、あった。湿ってない。使えるわ」
彼女は口元をわずかに持ち上げて笑った。
その笑みを背後で見ていた一平が、思わず声を上げる。
「な、なんでニヤニヤしてんの……」
「怖い時ってさ、笑うしかないじゃん」
瑛美は淡々と答える。「心の準備、できてないって顔してる」
「そりゃ……こんな時間に、火薬掘り出すとか、頭おかしいだろ。っていうか、これマジで爆発すんの?」
「火薬ってのはね、保存状態さえ良ければ100年経っても爆発するよ。だから“火薬庫”っていう隔離建物が必要だったの」
横で見ていた悠が口を挟んだ。「扱いは慎重に。湿気のある空気でも反応が不安定になる。熱源を近づけるのは絶対に禁止」
「それくらい分かってるって」瑛美が鼻で笑う。
黒色火薬の詰まった小瓶を、慎重にクッション材で包みながら、彼女はリュックの底に収納していく。
その作業の最中、背後でガサリと音がした。
「うわっ――!」
叫んだのは一平だった。立ち上がろうとして、足元の木箱に蹴つまずき、ガタンと大きな音を立てて転倒した。
瑛美が凍りつく。
「一平、今、何蹴った?」
「いや、あの……木箱?」
「その木箱、何色だった?」
「え? 緑?」
瑛美の目が見開かれた。
「それ、照明信号弾。衝撃で――」
その瞬間。
パンッ!
小規模ながら、火花とともに一瞬の閃光。
爆発というよりは“点火”のような感覚。しかし、その音は十分に夜の静寂を破った。
「バカッ!!」瑛美が叫ぶ。「発火音、周囲に響いた! 蔓が反応する!」
駈の無線が鳴った。
『音、聞こえた! 大丈夫か!?』
「一平が……! でも火薬は無事! とにかく戻る!」
「……ご、ごめん……」
うつむく一平に、瑛美はしばらく視線を向けていたが、やがてフッと笑った。
「今のでやっと、私より目立ったね。……まぁ、半分死ぬかと思ったけど」
「ほめてんのか、怒ってんのか分かんねぇよ……」
「どっちでもいい。使える火薬が手に入ったんだから、それがすべて」
戻りながら、悠がぽつりと言った。
「これを使って、“島を封じる罠”を張る……そのために、まず場所の選定が必要だ」
駈の声が返る。
「蔓の中枢を焼き払える地点……“心臓部”がどこか、絞り込まないといけない」
そしてもう一つ、誰も言葉にはしなかったが、全員が心の中で感じていたこと――
“火薬の使用は、最終手段になるかもしれない”
つまりそれは――命を賭ける準備、ということだった。
島の南側――かつての旧弾薬庫跡地。
鬱蒼としたヤブをかき分けてたどり着いた先に、それはあった。
地面の窪みに、半ば崩れた煉瓦と鋼材。そこに埋もれるようにして、朽ちた木箱が並んでいる。
瑛美が膝をつき、手袋越しに木箱を開けた。
「……黒色火薬、あった。湿ってない。使えるわ」
彼女は口元をわずかに持ち上げて笑った。
その笑みを背後で見ていた一平が、思わず声を上げる。
「な、なんでニヤニヤしてんの……」
「怖い時ってさ、笑うしかないじゃん」
瑛美は淡々と答える。「心の準備、できてないって顔してる」
「そりゃ……こんな時間に、火薬掘り出すとか、頭おかしいだろ。っていうか、これマジで爆発すんの?」
「火薬ってのはね、保存状態さえ良ければ100年経っても爆発するよ。だから“火薬庫”っていう隔離建物が必要だったの」
横で見ていた悠が口を挟んだ。「扱いは慎重に。湿気のある空気でも反応が不安定になる。熱源を近づけるのは絶対に禁止」
「それくらい分かってるって」瑛美が鼻で笑う。
黒色火薬の詰まった小瓶を、慎重にクッション材で包みながら、彼女はリュックの底に収納していく。
その作業の最中、背後でガサリと音がした。
「うわっ――!」
叫んだのは一平だった。立ち上がろうとして、足元の木箱に蹴つまずき、ガタンと大きな音を立てて転倒した。
瑛美が凍りつく。
「一平、今、何蹴った?」
「いや、あの……木箱?」
「その木箱、何色だった?」
「え? 緑?」
瑛美の目が見開かれた。
「それ、照明信号弾。衝撃で――」
その瞬間。
パンッ!
小規模ながら、火花とともに一瞬の閃光。
爆発というよりは“点火”のような感覚。しかし、その音は十分に夜の静寂を破った。
「バカッ!!」瑛美が叫ぶ。「発火音、周囲に響いた! 蔓が反応する!」
駈の無線が鳴った。
『音、聞こえた! 大丈夫か!?』
「一平が……! でも火薬は無事! とにかく戻る!」
「……ご、ごめん……」
うつむく一平に、瑛美はしばらく視線を向けていたが、やがてフッと笑った。
「今のでやっと、私より目立ったね。……まぁ、半分死ぬかと思ったけど」
「ほめてんのか、怒ってんのか分かんねぇよ……」
「どっちでもいい。使える火薬が手に入ったんだから、それがすべて」
戻りながら、悠がぽつりと言った。
「これを使って、“島を封じる罠”を張る……そのために、まず場所の選定が必要だ」
駈の声が返る。
「蔓の中枢を焼き払える地点……“心臓部”がどこか、絞り込まないといけない」
そしてもう一つ、誰も言葉にはしなかったが、全員が心の中で感じていたこと――
“火薬の使用は、最終手段になるかもしれない”
つまりそれは――命を賭ける準備、ということだった。
0
あなたにおすすめの小説
未来スコープ ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―
米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」
平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。
恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題──
彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。
未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。
誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。
夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。
この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。
感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。
読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
未来スコープ ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―
米田悠由
児童書・童話
「やばっ!これ、やっぱ未来見れるんだ!」
平凡な女子高生・白石藍が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“触れたものの行く末を映す”装置だった。
好奇心旺盛な藍は、未来スコープを通して、学園に潜む都市伝説や不可解な出来事の真相に迫っていく。
旧校舎の謎、転校生・蓮の正体、そして学園の奥深くに潜む秘密。
見えた未来が、藍たちの運命を大きく揺るがしていく。
未来スコープが映し出すのは、甘く切ないだけではない未来。
誰かを信じる気持ち、誰かを疑う勇気、そして真実を暴く覚悟。
藍は「信じるとはどういうことか」を問われていく。
この物語は、好奇心と正義感、友情と疑念の狭間で揺れながら、自分の軸を見つけていく少女の記録です。
感情の揺らぎと、未来への探究心が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第3作。
読後、きっと「誰かを信じるとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
カリンカの子メルヴェ
田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。
かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。
彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」
十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。
幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。
年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。
そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。
※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。
【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。
しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。
そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。
そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる