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第21話「最後の食糧」
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8月4日 午後7時10分。
朽網島・西部斜面下、旧コンテナ倉庫跡地。
薄闇に沈む森の中、最後の食糧コンテナが静かに開かれた。
「……ない。缶詰、レトルト、乾パン……全部、消えてる」
乙葉の声が冷たく響く。
倉庫内の鉄ラックは空だった。すでに物資は、誰かによって“運び出された後”だった。
「おい……まさか……」
一平が、額に汗をにじませて周囲を見渡す。
その瞬間、駈が一歩踏み出し、コンテナの奥――使われていない寝具の山に身を潜めていた人物を見つけた。
「……おまえ……」
「…………」
寝具の隙間から顔を出したのは、一平だった。
「なんで、おまえが……そこに……?」
「ご、ごめん……ちがうんだ……その……俺、ただ、みんなの分をちゃんと保管しようと思って……!」
「ウソをつくなよ」
瑛美が冷たく言った。口元には、いつもの“ニヤリ”がない。
「隠して食ってたろ? 口の端、カレーパンの匂いしてる」
一平の顔が引きつった。
駈が、ゆっくりと拳を握った。
「おまえが、みんなが半分ずつ分けてたあの非常食を……勝手に、全部、独り占めしたってのか……?」
「ちが……ちがう! そんなつもりじゃなかったんだよ!」
「じゃあ、どういうつもりだったんだよ!」
怒声が、コンテナ内に響いた。
「死ぬかもしれないと思ったんだよ!」
一平の叫びが返ってきた。
「みんな強くてさ、冷静で、判断も早くて……でも俺は、何もできなかった! 虫を見ただけで叫ぶし、役に立たないし……だからせめて、“食べて元気出して”残った時間を頑張ろうと思っただけなんだよ!」
その瞬間――駈の拳が振り抜かれた。
ごつん、という乾いた音とともに、一平が床に崩れた。
「……駈ッ!」
悠が制止に入る。乙葉もすぐに駆け寄った。
「やりすぎだ!」
「……わかってる」駈が低く言う。「でも、これは――信頼を裏切るってことが、どういうことか教えなきゃならない」
一平は床に手をつき、鼻血を拭った。
「ごめん……俺、もう、何をどうすればいいのか、わかんなくて……」
「……誠人がさ、今も必死で“人間”であろうとしてるんだよ」
悠の声が、静かに響いた。
「そんな中で、“生き残るためなら何してもいい”って姿を見せたら、全部が崩れる」
「ルールってのは、“非常時”だからこそ大事なんだよ」
瑛美が続けた。
沈黙が降りた。
やがて、春花がそっと一平に近づき、湿ったハンカチを差し出した。
「……それでも、わたしは……嫌いになりたくないな」
「春花……」
「ちゃんと、謝れるなら……やり直せると思いたい」
誰も言葉を返さなかったが、誰も否定しなかった。
空腹は、飢えだけでなく、心も蝕んでいく。
それでも、この夜が終わる前に、もう一度“人の輪”が繋ぎ直されることを――誰もが願っていた。
朽網島・西部斜面下、旧コンテナ倉庫跡地。
薄闇に沈む森の中、最後の食糧コンテナが静かに開かれた。
「……ない。缶詰、レトルト、乾パン……全部、消えてる」
乙葉の声が冷たく響く。
倉庫内の鉄ラックは空だった。すでに物資は、誰かによって“運び出された後”だった。
「おい……まさか……」
一平が、額に汗をにじませて周囲を見渡す。
その瞬間、駈が一歩踏み出し、コンテナの奥――使われていない寝具の山に身を潜めていた人物を見つけた。
「……おまえ……」
「…………」
寝具の隙間から顔を出したのは、一平だった。
「なんで、おまえが……そこに……?」
「ご、ごめん……ちがうんだ……その……俺、ただ、みんなの分をちゃんと保管しようと思って……!」
「ウソをつくなよ」
瑛美が冷たく言った。口元には、いつもの“ニヤリ”がない。
「隠して食ってたろ? 口の端、カレーパンの匂いしてる」
一平の顔が引きつった。
駈が、ゆっくりと拳を握った。
「おまえが、みんなが半分ずつ分けてたあの非常食を……勝手に、全部、独り占めしたってのか……?」
「ちが……ちがう! そんなつもりじゃなかったんだよ!」
「じゃあ、どういうつもりだったんだよ!」
怒声が、コンテナ内に響いた。
「死ぬかもしれないと思ったんだよ!」
一平の叫びが返ってきた。
「みんな強くてさ、冷静で、判断も早くて……でも俺は、何もできなかった! 虫を見ただけで叫ぶし、役に立たないし……だからせめて、“食べて元気出して”残った時間を頑張ろうと思っただけなんだよ!」
その瞬間――駈の拳が振り抜かれた。
ごつん、という乾いた音とともに、一平が床に崩れた。
「……駈ッ!」
悠が制止に入る。乙葉もすぐに駆け寄った。
「やりすぎだ!」
「……わかってる」駈が低く言う。「でも、これは――信頼を裏切るってことが、どういうことか教えなきゃならない」
一平は床に手をつき、鼻血を拭った。
「ごめん……俺、もう、何をどうすればいいのか、わかんなくて……」
「……誠人がさ、今も必死で“人間”であろうとしてるんだよ」
悠の声が、静かに響いた。
「そんな中で、“生き残るためなら何してもいい”って姿を見せたら、全部が崩れる」
「ルールってのは、“非常時”だからこそ大事なんだよ」
瑛美が続けた。
沈黙が降りた。
やがて、春花がそっと一平に近づき、湿ったハンカチを差し出した。
「……それでも、わたしは……嫌いになりたくないな」
「春花……」
「ちゃんと、謝れるなら……やり直せると思いたい」
誰も言葉を返さなかったが、誰も否定しなかった。
空腹は、飢えだけでなく、心も蝕んでいく。
それでも、この夜が終わる前に、もう一度“人の輪”が繋ぎ直されることを――誰もが願っていた。
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