GANTLET-ガントレット-

荒木春彦

文字の大きさ
6 / 23
第二章:魔王と王女

第6話「魔王降臨」

しおりを挟む
「いててて……!」

「我慢して下さい。あんな無茶な戦いをしたあなたが悪いんです。……なんで私がこんな事……」

 リズはぶつぶつ文句を言いながらも己の力の一つである治癒能力で、レイの脇腹を貫通した傷を治療している。
 普通なら重症か、もしくは死に至るような傷を負いながらも戦い、逃げる怪鳥を捕まえ、トドメをさした。
 常人なら不可能だが、あの牢屋の扉を蹴り飛ばす超人の力、そして巨人となって魔獣と戦う力。
 リズは間違いなくレイは巨人族だと確信していた。
 だが本人は何も分からない覚えていないのだ。
 巨人族である事実は、リズ自身に不安を抱かせたが、それでもこの地の人間を守る正義感で動くレイ自身に対しては不安はなかった。多少独善的でマイペースで困惑する事は多いが。

「巨人族のくせに、何も出来ないなんて……。ほんと、弱いんですね……」

「弱いって言うな。未熟と言え」

「はいはい……」

 傷が塞がるのを確認して、リズは立ち上がる。

「傷が治ったらさっさとここから立ち去るべきです。今の戦い……私達以外の誰かが見ていても不思議でありません。あそこまで巨大だと、遠くの場所からでも目撃されているはずです。……きっと委員会もあなたの存在に気付いているはず。ですから、あの怪鳥が解き放たれたと思います」

「賛成だな。また魔獣が現れたらたまったもんじゃない。さっきの戦いで俺のエネルギーはほぼ無くなったし、今は巨人に変身する事が出来ない。逃げるしかないか」

 砦が建っている岩肌の高台から更に降りた草のお生い茂る丘で合流していた二人は、四方を確認する。
 一方にはレイが以前助けた村があり、どこかアテにするのならそこしか考えられなかった。
 
「どこでもいいです。委員会の連中が来ないうちに……。……っ!?」

「ど、どうした?」

 気配を感じたリズは直ぐに砦から見下ろせる平原へと視線を巡らせた。
 
 それは透明であった。
 だが、よくよく目を凝らせば、透明ではあっても、円盤のような形が回転しているのがわかる。
 その回る円盤が遙か遠くの空から、この平原へと異常な速度で近づいてきた。
 円盤は上空で浮かびながらも、透明から銀色の美しい姿を現す。
 その銀色はこの世のものとは思えない色で、ところどころが七色に光っている。
 円盤から眩い光が地面に照射されると、そこから一人の男と、異形の姿をした兵士らしき者が数人降りてくる。

 銀髪の丹精な顔立ちをした男はこの土地の人間とはかけ離れたような格好で、たとえ外見が人間のように見えても異形の者たちと同類なのだと推測出来る。
 その銀髪の男は脇に黒鉄の甲冑の兜を抱えて兵士達を行き連れ、レイとリズの目の前に立ちふさがる。
 異形の兵士は、黒光りする大筒のような武器を、両手で構え、二人に狙いを付けて、回り込む。

「おい、なんなんだお前達!?」

「そ……その兜……は……」

 リズが目の前の銀髪の男に、恐怖で震え上がっている。
 だが、目の前の男はそんな事を一向に気にしていなかった。

「あぁ……ここが、千年振りの『地球』か……。空気は――大して変わっていないな。人間も相変わらず変わってはいないようだ」

「い、『委員長』……!」

 リズが恐怖で震えながらも負けじと睨み、目の前の男の名を呼ぶ。

「おやおやおや? こんな所にいたのか、『反逆一族の王女』よ。命惜しさに逃げ出したのが、よりにもよって地球とは……。そんなにココに住みたかったのか?」

「それが……お父様……いえ、我が一族の悲願です!」

「それがあの結果か? 虚しいな……『委員会』の方針に従っていれば、その悲願とやらを達成出来ていたのになぁ?」

「今住んでいる人達を排除してまでの入植だなんて、非道すぎます! これでは、入植ではなくて、侵略です!」

「それはここの原始人も同じだろう……。さて、そんな無駄な話をしに来たんじゃない。千年振りの『友人』に会いに来ただけなんだがなぁ……?」

 銀髪の男――委員長はそう言って、レイの方を見る。それも全身を舐め回すような視線でだ。

「ふぅむ……その姿は人間に擬態したものか? 私のように? それともそれは新しい『依代』なのか? 昔の事は何も覚えてない?」

「なんだ、お前は……? 俺はお前の事など知らん!」

「ふ~む、覚えていないのなら、自己紹介が必要だな……?」

 委員長はそう言うと、脇に抱えていた兜――鉄仮面を被った。

「『変身』……」

 怪しく禍々しい甲冑の兜である鉄仮面をかぶると、黒鉄の鱗のようなプレートが展開し、全身を覆って甲冑のようになった。レイのように。

「お前も……巨人?」

「では、改めて自己紹介しよう。私の名前は『ギアス・ゼル』、『星団委員会』の委員長であり、この星の原住民どもが呼ぶ『魔王』とやらであり……お前と同じ、『巨人族』だ」

 身体のサイズこそ等身大ではあるが、その姿はまさに巨人になったレイと酷似している。
 そして自らが、ここの人々が恐れている「魔王」だとハッキリと名乗った。

「お前がッ……! 魔王ッ!」

 レイはエネルギーのほどんど残っていないにも関わらず、ガントレットの右手で魔王―ギアスに飛びかかって殴りかかった。
 が――右手はギアスの顔に届かず、身体全部を念動力でビタリと固定されてしまう。
 レイの攻撃を止める事は造作もない事であったが、その右手のガントレットから白金のプレートが展開し、右腕だけが甲冑に変化している事に気がついた。

「なるほど……。千年前の戦いで力を失ってはいるが、それを取り戻す片鱗ぐらいはある……か。面白い。わざわざ会いに来てやった甲斐があったというものだぞ、我が友よ?」

 ギアスの手が少しだけ動くと、レイの首は巨大な手に鷲掴みにされたかのように強く締め、吊り上げられる。
 喉や肺から空気が絞り出され、血の巡りは悪くなり、顔は赤く体中がむくむ。

「ぐっ……! あっ……! はっ……!」

「レイッ!」

 リズは自らの念動力で、固定され締め上げられているレイを引き戻そうとするが、不可能だと分かるとレイの身体を後ろから抱きかかえ、ひっぱりあげようとする。どちらも当然不可能なほど、ギアスの力は強すぎた。

「おやおやおや? どうした王女よ? その巨人を助けてどうするつもりだ?」

「彼はあなたを倒す為に必要なのです! あなたは……私の両親を!」

「あぁ……その事か。君は知らないんだったな、ご両親の末路を……」

「っ!?」

 ギアスは兵士から金属の板が何枚も不規則に重ねられたプレートを指で何回か撫でると、そのプレートから青い粒子が扇状に飛び出し、そこに灰色の大きな石のような十字架と一体化した彼女の父と母が映っていた。

「お父様っ! お母様っ!」

「安心しろ、王女よ。彼らはまだ生きている……が、このままでは死んでいるのと変わらない。ご両親を助けるには私を倒しに母船に行くしかない……。だが……君では……無理だよなぁ?」

 ギアスのあざ笑うような仕草に、リズは堪えきれない怒りを溢れる涙とともにギアスにぶつける。

「ギアス! 私はあなたを……絶対に許さない!」

「なら、私の古き友の力を借りるしかないなぁ? ……もっとも、奴は今、目覚めたばかりで、本来の力のほとんどを失っている……。私を倒すなど、不可能だ」

 そのレイは首を締め上げられながらも、喉から声を絞り出す。

「魔王……いや、ギアス……とか言ったな……? なんで……お前はここの人間を……滅ぼしたいんだ……? 入植するだけなら……そんな必要……ないはずだろ……?」

「……まるで千年前と同じ事を言うんだな、貴様は。……良いだろう、答えてやる。……だから何だ? それのどこが悪い?」

「っ!?」

「野生の畜生を駆除してからの開拓なんぞ、昔からここの人間共はやっているぞ? つい最近奴らが見つけたとかいう新しい大陸の原住民も、奴らは力で支配したそうじゃないか? それとどう違う? 力の強い者が弱い生き物を駆逐して支配する、ごく普通の事だ。 奴らがやっている事を我々が行って、何故非難されるんだ? 理不尽じゃぁないか?」

 ギアスは、本当に悪い事だとは思ってもいないようだ。だが、その芝居がかった馬鹿にするような態度は、本当は楽しくて仕方がないとも思える。

「それが……本当だとしたらっ……俺はソイツらが許せない……! だけどな……それでもお前らが……同じ事をして良いっていうっ……理由には……ならない!」

 その時、ガントレットの水晶が光り、白金のプレートが全身を包むと、ギアスの念動力による拘束が解かれた。
 ギアスと同じく、等身大のまま、全身甲冑姿になったのだ。
 レイはそのまま自身の怒りを込めた拳をギアスの顔面目掛けて叩きつけようとしたが、強力な防御壁によって弾かれてしまう。
 拳が届かない事を悟ると、レイはすぐにリズを庇うように守る。

「おやおやおや……! エネルギー切れのガス欠だと思ったら……まだそれだけの力が残ってたか!」

 レイは甲冑姿のままリズの肩を抱いて守るように寄せ、四方八方の異形の兵士達、そして魔王ギアスから逃げる方法を探していた。

「~~~~~~~~!!」

「~~~~~~~~!?」

 異形の兵士達は謎の言語を喋り、レイや人間たちが見たこともないような長物の武器を構えて威圧する。大筒のように、あの丸い穴から何かが飛び出すのだろう。

「おいおいおい、みんな止せ……。私の旧友だぞ? ここは見逃してやれ……。古き友よ……お前に二つの選択肢をやろう」

「選択肢……?」

「ひとつは、私の考えが正しいと理解して、私の仲間になる。お前はまだここの人間たちの愚かさを知らんから、奴らの味方をしようなどと思うのだ」

「そんな選択肢、俺はっ……!」

「もうひとつは、やっぱり私を倒す。だが、今の未熟で弱いお前にそれは無理だ。あんな雑魚二匹相手にしただけでその有様だからなぁ? だから強くなれ……。強くなったお前と戦いたい……。そして……私はお前を倒す。……さぁ、どうする!?」

 選択肢は決まっている。だが、本気を出していない今でさえ、レイはギアスに手も足も出せない。強くならなければ、ギアスに勝てない。

「せいぜい考えてから決めるんだな。だが、あまり待たせるなよ? 委員会の連中は、はやくこの星に住みたくて仕方がないんだ。勝手に侵略行為を行うかもしれんなぁ~?」

「クソッ! そんな事……俺がさせん!」

「ま、せいぜい頑張るが良い、古き友よ……」

 ギアスが軽く手を上げて合図を送ると、奴らが乗り付けてきた円盤の船が上空に現れ、光がギアス達を持ち上げ、そのまま円盤の中へと入っていった。
 円盤はまたたく間に透明になり遙か彼方に消え去っていった。
 
 警戒を解くと、ガントレットによって展開した甲冑がまた白金のプレートの鱗に戻り、ガントレットの中に戻っていった。

「ギアス……俺はお前を必ず倒す。ここの人々の為にも……!」

――お前はまだここの人間たちの愚かさを知らんから、奴らの味方をしようなどと思うのだ。

 俺は……人間の味方だ……。

「あ、あの……」

「え?」

「いつまでこうしているつもりですの?」

 気付くと、レイはリズの肩を抱き寄せたままであった。危険は去ったのに、いつまでもこうされるのは恥ずかしい。それはリズの赤く照れている表情からも分かる。
 事態に気付き、レイはさっと離した。

「あぁ、すまない」

 特に感情や表情を変える様子が無いレイに、リズは少しだけ寂しい気持ちになっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...