GANTLET-ガントレット-

荒木春彦

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第五章:火吹山の伝説

第22話「火吹山のドラゴン―火炎翼竜・レッドドラゴン」

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 火吹山に山頂に陣取るドラゴンを、遠くから空撮で様子を捉えているドローンが一基飛んでいた。
 星団委員会がレイを捕捉する為に飛ばしていた追尾型の遠隔自動操作型のドローンであった。
 そのドローンのカメラから映し出された映像は、委員会の会議室のモニターに映し出され、委員達はその様子を固唾を呑んで見ていた。

「『火炎翼竜レッドドラゴン』……誰が付けた名前かは知らんが、実にシンプルじゃあないか。私は好きだぞ……」

 委員長席で両足をテーブルに乗せてリラックスしながら、委員長ギアスは委員会が解き放った魔獣を眺めていた。

「千年前の生き残り……。よく生きていましたね」

 委員の一人が、当然すぎる疑問を口にした。

「どうやったかは知らんが、奴はクロムとの戦いで生き残り……またその復讐に燃えて今の今まで生きてきたようだ。生きているかどうかもわからん相手を千年も待っていたとは……ハハッ! 畜生の執念とやらも見事じゃあないか」

 千年もの長き時を生きた執念を、ギアスは愉快そうに笑う。
 その執念がレイをどこまで追い詰めるか、楽しみでもある。

「しかし、奴は千年も生きた妙齢……。そんな魔獣にあの巨人を倒せるでしょうか……?」

「どうだろうなぁ……? 奴の執念が、あの甘い偽善者の喉を食いちぎるかもしれんし……その逆もありえるなぁ……」

 委員はギアスの、どちらの結果になっても構わないといった態度が気になって仕方がなかった。
 星団委員会は、地球侵略の障害になる巨人が消えれば好都合なのにだ。

「ギアス委員長……あなたは巨人を葬りたいのですか? それとも……」

「さぁ……? どっちだろうなぁ……?」

 ギアスは目を閉じて、こめかみに人差し指と中指を二本揃えて念派を魔獣――レッドドラゴンに送った。

『さぁ、レッドドラゴンよ……。そこにクロムはいるか? 千年前、お前に大傷を追わせた憎き怨敵……白金の巨人。見つけたら……遠慮する事はない、千年分の怒りを、恨みを、憎しみを奴にぶつけ……殺すがいい!』

 ギアスはニヤリと口角を引きつる程上げて笑っていた。



『うおおおお……!』

 山を文字通り駆け登る巨人のレイは、山頂からレイ目掛けて駆け下りるレッドドラゴンの顔面目掛けてパンチを放つ。
 だが、レッドドラゴンの顔面はレイの拳の内側、懐に潜り込み、頭突きのように胴体を強く打ち付けた。

『ぐあっ!?』

 衝撃で後ろに転がり、山から転落しそうになるが、何回か転がった所で山の中腹に指を立て、滑落しそうになるのを必死に留める。
 必死に耐えて顔を上げると、口から炎を含んだブレスをレイ目掛けて吐き出す直前であった。

『クッソ!』

 炎を吹き出す直前に横に逸れて回避するが、その回避した先にもう一度火を噴き出し、レイは紙一重でそれをもう一度避ける。
 何度も炎を吹かれて避けてを繰り返しては、いつかは命中する。
 レイは急いで、山の傾斜がきつい角度でも立ち上がり、レッドドラゴンの懐に飛び込み、掴みかかった。
 二度、三度と、左腕でレッドドラゴンの身体を抑え、その顔面にガントレットを装着した右手を叩き込む。
 叩き込む度に、レッドドラゴンから悲鳴が上がるのを確認出来、ちゃんとダメージとして与えられている事がわかった。
 だが、翼竜としてのアドバンテージがレッドドラゴンにはあった。
 レイが抑えつけていても、その両腕の翼は自由であったため、レッドドラゴンの大きな翼がはためくことによって、上空へと空を飛ぶことが出来た。
 空に浮き、雲を突き抜け、星々が煌めく夜空へと急激な速度で舞い上がったレッドドラゴンの速度に、身体にしがみつくレイは耐えきれない。
 しがみつく力がつき、身体から離れ、火吹山へと落下していくレイ。
 だが、それに対してレッドドラゴンは追い打ちを掛けた。
 落下していくレイの身体に、両足の爪を食い込ませ、鷲掴んで浮上から一転、山へと急降下したのだ。
 レッドドラゴンの鷲掴む爪のダメージがレイの身体に走る中、物凄いスピードで山まで急降下させられ、地面スレスレで両足の力で放り投げられるように、山に叩きつけられる。
 山に大きなクレーターが出来る程の衝撃が、レイの全身に走り、ダメージとして残った。

『こ、コイツ……!』

 鷲掴まれた爪の跡から血を吹き出しながら、レイはガントレットの水晶を向け、光子エネルギーを集めて放出する。

『フォトン・ビーム……!』

 だが、膨大な光子エネルギーの光線は空中のレッドドラゴンによって楽々と回避され、その隙に飛びかかられ、足の爪で引き裂かれ、クチバシで突かれる。

『ぐあ……! クソ! コイツ……!』

 そして翼ではためいて空中に浮き上がりながら、口の中で作り出した火炎ブレスをレイ目掛けて吹き出した。
 巨大な炎の渦が、レイの全身を包み込んだ。
 熱く、ヒリヒリとした痛みが全身を襲う。

『ぐあああああ……!』

 レイの白金の甲冑が赤々と熱せられ膨張し、一部は引火し燃えていた。
 甲冑のお陰である程度はダメージを防げてはいるが、熱せられた甲冑が直に身体を焼き、単純な火だるまとは違ったダメージをレイに与えている。
 その後も、レイの息の根がまだあるのを確認したレッドドラゴンは、立て続けに再び火炎ブレスをレイに浴びせかける。

『うああああ……!』



「あぁ……レイ……! いや……! やめて……!」

 レイが火だるまになり、苦しむ姿を、リズは涙を流して目を逸し続けた。
 あまりにもあんまりな姿で苦しめられている姿を見るのは、自分でも心が張り裂けそうなくらい辛かった。
 もうここからレイがレッドドラゴンに逆転する方法はリズにも考えつかない。
 レイはレイで、レッドドラゴンが至近距離にいる事を利用してフォトン・ビームを撃とうとするが、その度にレッドドラゴンの火炎ブレスによって防がれてしまう。
 今は巨人としての体力とその甲冑で耐えてはいるが、それも時間の問題であろう。
 もう無理なのか。
 今までも苦戦してきた事はあったが、ここまで一方的――絶望的なワンサイドな苦戦は初めてであった。
 今度ばかりは……もう終わりかもしれない。
 リズは、自分の力では何も出来ない事が悔しく、ただレイが一方的に苦しんでいく姿を見ることしかできない事に、ひと目をはばからずむせび泣いた。
 レイの痛みや苦しみが自分の事のように感じられる。
 そして、レイを失うのがもっとも苦しかった。

「……おーい、みんなー! 長老が手伝えって呼んでるぞー!」

「あー!? なんでだよー!?」

「聖剣だよー! 聖剣を急いで掘り出して、あの巨人に届けるんだってよ! それがあのドラゴンに勝つ、たったひとつの方法だってよ!」

 坑道奥の長老からの伝言を伝えたドワーフは、まわりのドワーフにそう言って協力を求めた。

「……聖剣……?」

 休憩所でドワーフから聞いた、かつて千年前の巨人がドラゴンと戦う時に持っていた剣――聖剣。
 それはこの山のどこかに埋まっている、と。
 その聖剣があれば、もしかすると……勝てるかもしれない。

「……っ! モックン!」

『キュイッ!』

 リズはモックンと共に坑道の奥へと駆け出した。
 空気の悪さなど今は気にしてはいられない。
 一分一秒を争うのだ。
 長老を手伝うドワーフも大勢中に入り、ツルハシやスコップを持ち、一番奥の岩盤の前へと集合した。。

「おう……! 来たの、若造共! 伝説の聖剣を掘り出して、あの巨人殿へ届けるぞ!」

『おう!』

 ドワーフ達はみな、自分たちがこれから行う事に何の疑問も抱いてはいなかった。
 目の前の事に集中し、それ以外一切目もくれない。
 それがドワーフという種族であった。
 坑道の奥の岩盤に横一列となった長老を含むドワーフ達は、長老達の掛け声で一斉にツルハシを振るった。

「せーのっ……!」

『せい!』

「せーのっ……!」

『せい!』

 今までほとんどひとりで岩盤を攻略していたが、直前までレイがその超人的な怪力で岩盤を攻略していたため、長老の予想を遥かに越える速度で、岩盤は次々と欠片となって砕けて、少しずつ崩壊を初めていった。
 リズも念動力で岩盤に力を入れる。
 固定された物を念動力で動かすのは苦手ではあるが、そんな事で躊躇している場合ではない。
 今は少しでも力を加えて岩盤を引き剥がし、聖剣まで掘り進める。
 モックンは小さいながらもゴリラに変身し、砕けた岩盤の欠片をどかし、力を入れて岩盤を引き剥がす手伝いをする。
 個々の力は小さくとも、長老がひとりで格闘していた時とは比べ物にならない程、ドワーフ達の集団の力は凄かった。
 しばらくして、岩盤に大きな亀裂が入ると、それまで保っていた姿が崩れるように岩盤が砕けて崩落する。
 が、あまりの巨大な崩落に作業をしていたドワーフ達が下敷きになりそうなところを、リズの念動力でそれを阻止する。
 空中に浮いた岩盤の欠片は坑道の壁へと放り投げられた。
 岩盤が崩れた先に――白い鋼の刀身に、白金の柄の巨大な両刃の剣が埋もれているのを、リズ達は見つける事が出来た。
 聖剣は緑青や赤錆に塗れてはいるが、その下の本来の輝きは失ってはおらず、立派な剣である事を見る者に示している。

「出たぞー! 聖剣だー!」

「ほ、本当にあった……聖剣……」

 リズが本物の聖剣を見つけて呆然としているところを、ドワーフ達は構わず、急いで聖剣のまわりの土や石や岩を掘り出し、運び出す作業に移る。

「くっそ、これどうやって運ぶか……?」

 長老やドワーフ達が、巨大な聖剣を運び出す方法に苦慮していると、リズが前に出た。

「私がやります!」

 リズは聖剣に手をかざすと、念動力によって聖剣はわずかに浮き、動かす事が出来るようになった。
 ドワーフ達から歓声が上がる。

「よーし、今のうちに押して運ぶぞー!」

 リズが念動力で巨大な聖剣を浮かすと、そのままドワーフ達は皆で勢いよく出口まで運び出す。
 猶予はリズが念動力で動かせる体力が続くまで。
 だが、その力の行使は、幌馬車を動かす力の比ではない。
 膨大な体力を使い、額に汗を浮かせながらも、リズは耐えて、念動力を聖剣に与え続けた。
 自分が力尽きたら、レイは助からない。
 レイを助けたい、その一心であった。
 ドワーフ達は聖剣を押し、その通りの邪魔になる物はどけ、必死に、無理矢理に、坑道の出口へと聖剣を勢いよく運んだ。
 ――月のあかりに、千年間の錆に塗れた聖剣が照らされ、輝く。

「レイーッ!」

『ぐ……あ……』

 うつ伏せに倒れ、火だるまになった巨人に、リズは力の限り声を張り上げた。

「聖剣です! これで……これを使って、倒してください!」

 全身から汗を流し、顔に髪が張り付いてもなお、リズはレイに向かって叫んだ。
 何度もあのドラゴンに火あぶりにされているだろう。
 もしかしたら、命が尽きかけているかもしれない。
 それでも届いて欲しい。
 あのドラゴンを倒して、生きて戻って欲しい。

「無事に戻るって……私と約束したじゃないですか……。あなたは……私のボディーガードなんです……。私を……ずっと守ってください!」

『……っ!』

 火だるまになって赤々と甲冑が赤く熱せられたレイは、その錆だらけの聖剣を力を振り絞って握り、立ち上がる。

『う……』

「レイ……!」

 レイの意識があり、まだドラゴンに立ち向かえる。
 リズはほっと安心した。

『うあああああ……!』

 レイはほぼ半狂乱で、その錆だらけの聖剣を両手で持ち、レッドドラゴンに向かって真上から振り下ろした。
 ――だが、そんなものは、レッドドラゴンにはお見通しであった。
 聖剣の切っ先は、レッドドラゴンが紙一重で避け空を切り、その代わりに身体を捻って振り回した尻尾がレイの聖剣の刀身をへし折った。
 折れた刀身の切っ先は山の山頂付近に刺さり、レイは勢いよく後ろに吹き飛ばされる。
 そしてレッドドラゴンのクチバシが開き、炎がレイに向かって吹き出されると思ったが、何を思ったか、その矛先はリズ達に向いた。

「っ!?」

『やめろ……」

 リズ達に向かって無慈悲にレッドドラゴンの火炎ブレスが吐き出された。

『やめろぉー!』

 炎はリズ達に届く寸前で、レイの巨人の背中を焼いた。
 背中を盾に、ドラゴンの火炎ブレスからリズ達を守る事が出来た。

「レイ……?」

 レイは無言で、甲冑の兜で見えないが、リズに向かって笑ったような気がした。
 ガントレットの水晶が赤く光り、甲高くなる警告音もリズには聞こえない。

『リズ……君を守れてよかった……』

 ドラゴンの火炎ブレスに耐えきると、レイの巨体はうつ伏せのまま、リズの目の前で倒れた。
 レイは巨人のまま、動かなくなり、ガントレットの光も消えていった。

「レイ……? レイ……どうしたんですか? なんで変身が解けないんですか? ねえ!?」

『キュイ……』

 リズと、そしてモックンが巨人のレイの顔に駆け寄るが、その奥からは一切の光を失っていた。

「死ぬわけないですよね!? だってあなたは……巨人……。人々を守る、英雄(ヒーロー)なんですよ!? ねえ!?」

 一切動かない巨人を前に、リズは嗚咽を漏らしながら、必死で訴えかけた。

「お願いです……。私はもう何も望みませんから……。あなたと……モックンさえいてくれたら……私それで幸せですから……。お願いですからっ……」



 巨人にすがり付いて泣くリズとモックンを、どこか不思議と客観して見る者がいた。

『……あれ? 俺なんでこんなところで……? 俺は一体何を……?』

 自身を見ると透き通る程透明になっている、レイであった。

『君はもうすぐ死ぬのだ』

『誰だっ!?』

 後ろから不思議な声色の声が聞こえて来たが、どこかで聞いたことのある声であった。
 振り返ると、白い光が人間の形をして立っていた。
 その光が話しているのだ。

『君はもうすぐ死ぬ。今の君は魂だ。あの巨大な本来の身体から抜け、その魂は消えていく。それが何処に行くかは私も分からないが、君一人ではない。私も共に行くのだ』

『そうか……。俺は……みんなを守って死ぬのか……』

『あぁ。だが、見てご覧。君を倒したあの魔獣はまだ生きている。今は君を倒して喜んでいるが、その内に気が変わって、この地で生きている全ての生き物を殺すだろう」

『そんなっ……!』

『君は確かに守った。だが、それは一時的な事。君が死んでしまった以上は、あの魔獣を止める事はできず、彼女達の死をほんの少し遅らせたに過ぎない。……結局、君は守れなかったのだ』

『俺が弱いせいで……!』

『あの老人が言っていたね。守るという事は負けないという事だ、と。その通りだ。負けてはいけない。負けた先にあるのは、守るべき人々の死だからだ』

『どうにも出来ないのか!? 俺は……! 俺は助けたい! このまま……リズ達を守れずに死ぬのなんて嫌だ!』

 白い光の人間はそのレイの言葉に、微笑んだ気がする。

『なら、強くなるのだ。覚醒して、みんなを守る勇者となるのだ。それが……我々、巨人族の務めなのだから』

『覚醒して……勇者になる。守りたい人を……守るために』

『行け……レイ!』



 レッドドラゴンが意識を、生きている者たちに向けた。
 今度の殺意の矛先はこちらだ。

「あ、アイツ、こっちを見たぞ!?」

「クソ! タダじゃやられねぇぞ!?」

 ドワーフは勇ましく、ツルハシやスコップを構えるが、それでなんとかなるとは本人たちも思ってはいない。

「レイ……私は、あなたを誇りに思います。最後の最後まで……私を守ってくれて……」

『キュイ……』

「モックン……ごめんなさい、巻き込んでしまって。あなただけでも、遠くに……」

『キュイッ! キュイッ!』

 モックンは激しく首を振り、リズを抱きしめる。

「モックン……!」

 リズもモックンを抱きしめ、覚悟を決めた。
 レッドドラゴンが近づき、そのクチバシを向け、火炎ブレスの炎が見えてきた。
 皆が覚悟を決めたその時、吐き出された火炎ブレスは彼らの直前で、突然の壁によって遮られた。

「……え?」

『キュイ……?』

「お、おぉ……!」

 巨大な白金の甲冑の小手の掌によって、炎はリズ達に触れる事はなかった。
 そしてその巨大な手は、ドラゴンの火炎ブレスを防ぎきると、地面に着いた。
 リズの目の前で光りを失ったままの白金の巨人がゆっくりと立ち上がったのだ。

「れ、レイ……?」

 生きているのか死んでいるのか、リズは声が聞きたかった。

『……弱いよな、俺……』

 光を失った白金の巨人の声は、まぎれもなくレイの声であった。

『……弱いから、こんなになって……。守りたい人も守れずに死んじまうんだ……。……そんなのは、もう二度と御免だ!』

 白金の甲冑から黄金の光が溢れ出ると、巨人本来の色を取り戻し、今まで以上に光り輝いた。
 そして、手にしていた折れた聖剣も光りに包まれると、刀身が復活し、錆もない立派な聖剣へと生まれ変わった。

『俺は二度と負けねぇ! どんなに傷ついて、死にそうになっても、絶対に負けねぇ! 守りたい人がいるからなぁ!』

「レイッ……!」

 歓喜の涙で声を詰まらせながら、リズは巨人・レイの復活に感動した。
 それは、モックンも、ドワーフ達も同じであった。
 聖剣を構え、レッドドラゴンに突っ込んでいくレイに、火炎ブレスを浴びせかけても一向に怯む事はなかった。

『さっきからそれ熱かったんだよ、トカゲ野郎ッ!』

 聖剣の振るう切っ先が、紙一重で避けようとしたドラゴンの胸に触れ、切り裂いた。
 ドラゴンの悲鳴と共に、鮮血が宙に舞う。
 反撃とばかりに身体を捻り尻尾を振り回すが、それすら見切ったレイによって聖剣で切り落とされる。
 切断された尻尾は地面に転がり、切断面から血が溢れ出た。
 逃げようと翼をはためかせるも、右の翼をすぐに聖剣によって真上から振り下ろされ、レイは切り落とす。
 尻尾も、逃げる翼も失い、ドラゴンは無我夢中で火炎ブレスをレイに吐き続けた。

『そればっかり……見飽きてるんだよ!』

 レイはガントレットの水晶を前に差し出すと、水晶は赤く光った。
 だがそれは警告の時のような赤ではない。
 炎のように燃えるような美しい赤であった。
 水晶から赤い光りが溢れレイの全身を包み込むと、レイの白金の甲冑は、炎のように赤黒く光輝いた色になった。

『炎っていうのはな……こう使うんだよ! フレイム・カリバー!』

 ガントレットから赤い光が聖剣を包み込むと、刀身が炎に包まれた。
 そしてその炎の刃でレッドドラゴンの胸を刺し貫く。
 ドラゴンの甲高い悲鳴が上がった。

『じゃあな……! トカゲ野郎』

 刺し貫いた炎の聖剣を上に切り上げ真っ二つに裂くと、レッドドラゴンは炎に包まれ絶命した。
 だが、レイは気を許さず、四方を見て、とある物を見つけ出すと、そちらに向き直り、聖剣の切っ先を向けた。

『おい! 見てるんだろ、ギアス! すぐにそっちまで行ってやる! 首を洗って待ってろ!』

 そう言って、レイは聖剣を振るい、目線の先にあったドローンを破壊した。


「クックック……。ハーッハッハッハッハ!」

 星団委員会の会議室の委員長席で、ギアスはレイからの宣戦布告に堪らず大笑いをした。
 ギアスにとっては愉快でたまらない。

「い、委員長……」

「見たか、諸君……? あれが巨人・クロムだ! 奴は戦う度に強くなる! 早く倒さないと……どんどん強くなるぞぉ~? フハーッハッハッハッハ……!」

 レイの覚醒に慌てふためき恐れおののく委員達を前に、ギアスはその喜びを隠そうとはしなかった。

 どんどん、強く……本来の力を取り戻せ……!
 そして本来のお前を倒すのは……この私だ……!



 全ての戦いが終わり、聖剣を降ろしたレイのガントレットは、タイムリミットを知らせるアラームが鳴っていた。
 レイはそれを静かに見ていた。
 光の粒子が空に解けていくのと同時に、レイの変身は解けていった。
 右手のガントレットに、人間の等身大サイズに縮小された聖剣を携えて。

「レイッ!」

 ふと、突然自分に飛びつき抱きしめる存在が現れ、レイは驚くが、それがリズである事に気付くのに、しばらく時間が掛かってしまった。

「あ……リズ……」

「心配したんですよっ! 死んだかと……本当に死んだかと思ったんですから! ボディーガードのあなたがいなくなったら私……どうやって生きていけば……」

 リズはレイの胸の中で、体面も気にせずむせび泣きながらどれほど心配していたのか訴えかけた。
 それに対し、なんと答えて良いのかわからなかったレイは、こう答えた。

「……ただいま。心配かけて、悪かった」

 リズはようやく心から安心すると、ぎゅっとレイを抱きしめる。
 レイもそれに応えるように、リズを抱きしめた。
 その足元にレイの脚を抱きしめるモックンもいた。
 モックンの頭をレイは撫でると、リズに提案した。

「あのさ、リズ……」

「は、はい……。なんですか……?」

 ドキドキしながらリズは待っていたが、レイの言葉は拍子抜けするものだった。

「めっちゃ疲れた……。飯……なんでも良いから飯食わしてくれ……。あと眠い……すっげー眠い……」

 身体中のエネルギーを消費しきったレイはその場で意識を失って倒れてしまった。

「れ、レイっ!? あー、もう、こんなところで寝ないでください!」

 その場に倒れて眠ってしまったレイを、リズはドワーフ達に手伝って貰って休憩所まで運び込んでいった。

 夜明けの太陽が、戦場となった鉱山を明るく照らしだしていく。
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