呪鏡

戌師ぐら

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望むもの、生け贄

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「ただいま!!」

誰からも返事はない…。
母親は既に他界し、父親は仕事で夜8時まで留守だった。
洗面所に行って顔を洗い、数日前に母親の妹に言われた。母親に似てると言う言葉を思い出し、鏡の前で自分の顔をよく眺めた。

「お母さんに似てる?」

嬉しくて微笑みを浮かべるが、すぐに辞めた。
虚しくなったからだ。

冬時雪花とうときせつかは今、小学5年生だ。
小学校は楽しくない、唯一の親友は両親も居て優等生で誰にでも優しく、ほぼ完璧な親友に嫉妬心はなくとも少し羨ましかった。
二階に上がってすぐ、自分の部屋の前にある物置部屋に興味が湧いた。
父親が母の遺品を色々と置いたのは知っているが散策することはなかった。
雪花は部屋に入り、遺品を見て回った。
赤ちゃんの頃の自分を抱いた母の写真、父と並んで笑っている写真、父も忘れかけているであろう懐かしい思い出を呼び起こす様な物が沢山あった。
その中で雪花は惹かれるように布が覆う何かの前に立った。
約150cm、自分の慎重より少し高いぐらいの物だ。

「なんだろう。お母さんの物かな?」

雪花は思いきってその布を取り上げた。

「鏡?」

それは、母の残した鏡台だった。
鏡に手を向けると当たり前に向こう側の自分も同じような仕草をする。
鏡に一面に触れるよう円を描くようにぐるっと動かすと自分の顔の高さで手が止まった。

「えっ?」

そんなことはあり得ない、自分の手と鏡の自分の手の位置がずれている。

『雪花…』

「誰…?私…じゃない?」

『驚くことはないよ。僕は君だ。』

「違う、誰?私、僕なんて言わない!」

『待って!!お母さんに会わせてあげる。』

驚きと恐怖でそそくさと部屋を出ようとした雪花の足を一瞬で止めた。

『僕には君の望むことを叶える力がある。』

雪花は再び鏡の前に戻り、自分を見返した。

「どうやって?」

『簡単な事だ。僕の手を取ればいい。』

そう言って掌を出した。合わせろと言うのか…雪花は手を出して従った。
鏡の雪花は手を握り、物凄い力で鏡の中に引っ張られた。



「ここは…」

暗い畳の部屋で目覚めた雪花、呼んでも誰も返事はしない。

「嘘つき…ここ、何処なの?」

辺りを見回していると、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。

『雪花、おいで…君のお母さんが待ってるよ』

部屋を出るとそこにもう1人の雪花が居た。そしてもう1人の雪花が指を指す方向に…ドロドロとした物体が佇んでいた。

「違う!!あんなの…何処に行ったの!?」

ドロドロの物体は身体からボトボトと液体を落としながらこちらに向かってくる。
雪花は違う別の部屋に入り、ドアを閉めて奥の押し入れに隠れた。
部屋には数体のカラスの置物があり、不気味に何かを見つめており
よく見るとどこか一点を集中的に見ている様だった。

「追ってこない…よね。はぁ…あの部屋、見なきゃよかった。最悪…。」

渋々、押し入れから出るとカラスの見つめる方向にキラキラと光る物が見えた。

「カギ…?」

ゆっくりと部屋を開き、化け物がいないことを確認するとカギを手に階段を降りることにした。
一歩降りるごとに軋む階段、家のとは大違いだ。

「と、ときあめ?なんだろう。」

#時雨__しぐれ__
#の間
カギにそう書かれていた。

「同じ文字、ここだ。」

時雨の間は階段を降りたすぐ左、雪花はカギを開けて中へ足を踏み入れた。

「なんだろう。あれ」

何もない座敷、中心に寂しく置かれていたのは1枚の紙、その近くに半分以下に減った蝋燭が置いてあった。

_________________________

望むもの 美貌

引き換えるもの 妹

_________________________

『美人な妹への嫉妬心が手紙の主を蝕んだ。』

もう1人の雪花が現れ、自分の隣に並んだ。

『僕は叶えてやった。そこに書かれた事…つまり、美しさを』

雪花はハッと後ろを振り向いた。
そこには二階で出会ったドロドロとした化け物が一定の距離を保ち、佇んでいた。

『あれがその妹だよ。僕の下僕となってこの屋敷の番人をしてくれている。そして、その姉は美貌を手に入れた。雪花、君は何を犠牲に何を望む?この世界でならなんでも叶えてあげるよ。』

雪…花…

「誰?今、そっちから」

化け物を避け、その部屋を飛び出し、雪花は声が聞こえる方向へ走った。

『雪花…ここは僕の世界だよ。逃げられるわけがない。』

一階奥、声のする扉を開けると、一枚の鏡があった。
鏡の向こうには父親が立っていた。声の主がわかりホッとした雪花。
父は半狂いかけのように雪花の名前を必死に叫んでいる。

「お父さん!?私はここだよ!!」

「雪花?雪花なのか!!」

父にも声が聞こえたようだ。

「なんで鏡の中に…どうやって入った。」

「お母さんの鏡台、私…そっちに戻りたいよ。」

二人の会話を裂こうと言うのか、ピキパキと小さな音と共にゆっくり鏡へヒビが入り始める。

「雪花、鏡から帰るにはあいつを封印するしかない。」

「あいつってもう1人の私?」

ヒビの入る速度が早まり、ついには中心にまで及んだ。

「お父さん…ヒビが!!」

「雪花、蝋燭を探すんだ。どんなものでもいい…5本」

本数を言ったすぐ後、バリバリと鏡は崩壊し、足元に散らばった。

「ろうそく…さっきの部屋に一本あった!」

そう言って振り向いた目の前にもう1人の雪花が立っていた。


『雪花、僕を封印するって?ここは僕の世界、手に取らなくたって鏡を壊すこともできる。僕はこの世界の神様だよ。』

「じゃあ、お母さんを出して!!会わせてくれるって言ったのに!!」

『僕があの物置部屋で君に会い、引きずり込んだ理由がわかるか?考え込んでもわかるわけなんてない。教えてあげるよ…』

顔が横にやってきて呟いた。

『契約が交わされたんだ。君のことを僕の下僕にする代わりに、次は永遠の美貌が欲しいって…』



雪花は鏡の世界に捕らわれた。母と同じく、母の姉の欲望の犠牲となってしまった。
妻も娘も失った父親は堕落し、家にこもっている。






















































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