その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

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第1章 売身都市

16話 誰が為に刃を振るう

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 振り下ろした剣は首を断つ寸前で止められた。
 男がオレの顔を見て、目を皿のように丸くしている。
「な、何だお前は!」
「何だたあ随分だな。闘技場じゃ、オレをさんざん見世物にしてくれてたんだろ?」
「お前は買われて、いや、どうしてここに!」
 男の目が周りを見て、オレの後ろに立っているのだろう女のところ視線が止まる。
「あんたはさっきの」
「ああ、ゴーヴァンを買ったものさね。ゴーヴァンが君を殺したい、というのでね。こうして連れて来てあげたのさね」
「兵もいるのに、どうやって」
「夜だからね、みんな朝まで寝ているのだろうさ」
 女の笑顔を見て、男の口から短く息が漏れる。
「なあ、今どんな気分だ? オレぁ最高だね! ヒトを良いように弄んでくれた奴を殺すんだからな!」
「ひぃっ、ま、待て」
 ああ、そうか。一度で終わらせたら、そこまでか。
「ぐぎぃ」
 男を椅子ごと蹴り倒す。
 虫みたいに這って逃げようとするが、逃がすもんかよ。
 虫を踏み潰す感覚で男の背を踏みつけ、首筋に剣を押し当てる。
「お陰様で体中傷だらけなんでな。同じだけ切り刻むか、一発で首を切り落とされるか、どっちが良い」
「あ、あ、たす、助け」
「すまないね。私はこれから、この屋敷や周りに住んでいる人間を殺して回らないといけないんだ」
 女の目の色が赤くなっていた。
「ああ、でも子供は別さね。私が血を飲み干してあげよう、子供の血はある意味ご馳走だからね」
 女の言葉で胸の奥に何かが刺さる感じがする。
「子供も、殺すのか?」
「勿論さね。だって、この街の人間全員をたくさん殺すと約束したじゃないかい」
 なんでガキの頃の俺を思い出す。
 どうしてコイツの毒蛇みたいな笑顔の向こうに、泣きそうになってるガキのオレが重なる。
 ああ、義兄さん。なんでオレは……どすりゃいい。
「じゃあゴーヴァン、また後で会おう」
「待てっ!子供は」
 女が首を傾げる。
 足の下で男がもがいている。
 こんな時に、義兄さんの仇を討てるって時に、なんで義兄さんに助けて欲しいなんて思ってる。
「ひょっとして、子供を殺すことに抵抗があるのかね? 何、殺すなんて」
「ウルセェ! 黙ってそこにいろ!」
 なんでオレの中にガキの俺がいるんだよ、どうして泣きそうになんてなるんだよ。
「オイ……」
「はひぃっ!」
「お前、子供はいるのか」
 止めろよ、オレ。どうして胸を締める。
 義兄さん、オレは、オレは……
 パキィと何かが砕ける音がした。
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