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第4章 青い竜の村
81話 二人がたり
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「しかし話しをするからと呼ばれてみたら、床の上に敷いた毛布の上で、とはね」
「仕方ねえだろ、姉さんに聞かせるような話じゃねえんだから」
床の上に直接座らせるのも悪いと思って、普段使ってる毛布引いてやったのにこれだ。
「ゴーヴァン、ここはゴーヴァンの部屋なのだよね?」
「そうだぞ」
「せめて、ベッドくらい買おうとは思わなかったのかね?」
「オレの背丈じゃ足と尾が伸ばせねえから窮屈なんだよ。床で横になってる方が楽なんだ」
今まであちこちで寝はしたけど、足も尾も伸ばせた場所はレオナルドのトコくらいだ。
何よりオレが楽に横になれるようなベッドを、どう運び入れるのかって問題もある。
「そんなことよりオメェの話だ、オメェの」
「とは言っても、あまり話せることもないのだけどね」
いや、あるだろ。
道具みたいに使われてるなんて、まともな状況じゃないだろ。
「レーテ、オメェは自分が道具みたいにされて、それで満足なのか?」
「満足か不満かで言えば不満だね。」
「だったら続けねえで……」
「でもね、そうしないと私はこうして外に出ることも許して貰えないらくしくてね。
夜のこの時間があるだけでも、何をされても文句は言えないね」
レーテの言葉に奴隷として、物として扱われてた頃のオレが重なって見える。
「ゴーヴァン、ひょっとして昔の自分と私を同じだと思ってるのじゃないかね」
言葉を返せない。
「やっぱり、そう見えるよね。」
「それ以外に、何に見えるってんだ」
目を伏せ、無理に笑おうとしているのか、口元が固まっているのが見える。
「ありがとう、私を人としてみてくれて」
「何だよ、急にあらたまったみたいな」
「私なんて、ゴーヴァンにとっては血を吸う化け物だと思っていたから。
そんな人に対しての言葉を私に言ってくれるなんて、思ってもいなかったから」
レーテがオレの手に手を重ねてくる。
誰の手を見ても小さいと思うが、コイツの手は小さいだけじゃなくて細かった。
「指、細いな」
「病で体が弱って、やせ細って死んだから。服の下は骨と皮みたいなもの物になってる。
風呂に行った時には体が細すぎて、シアラに心配されてしまったくらいだから」
レーテの体を見る。
今まで来てたようなヒラヒラした服だと体型がよく分からなかったが、いま着ている服だと体の細さがよく分かる。
「血飲むだけじゃなくて、飯ちゃんと食え」
「もう何を食べたようと飲もうと、太りも細りもしない。この体は、私が死んだあの日から何一つ変わっていない
服も、体型を隠す道具くらいにしか思っていなかったから」
立ち上がり、自分が来ている服を広げて見せてくる。
この家を片付けた後、風呂屋の行って着替えた服だ。
「こういう服のほうが好きと言われて、嬉しくって。実は似たような服をあの後、何着か買ってたんだ」
笑っている。
子供のような顔で、レーテが笑っている。
「自分の歳も数えるのを止めるほど生きてきたけれど、こんなささやかな事で明日が来て欲しくて仕方ない。
明日何があっても、ゴーヴァンに会えるかもしれないと思っていると、それだけで満たされるのだよ」
「だからって、物扱いされていいわけじゃねえだろ」
オレの前にしゃがみ目を合わせようとしてきたから、とっさに視線をそらせてしまう。
レーテが一瞬悲しそうな顔をした気もしたが、すぐに笑顔に戻っていた。
「その物扱いも悪いことだけじゃなくてね、人と目を合わせて話せるようになるのかも知れないのさね。
もしそうなったら、もっとみんなと一緒にいられるように、そうなれるようにしていきたいね」
笑っていたのかと思ったら、急に真剣な顔になって目を伏せる。
「ねえ、ゴーヴァン。帰り道で、誰かに惚れたら地の果て空の果てまで追いかける、って言っていたよね」
「ん? お、おう」
「じゃあもしもだよ、誰かが地の果て空の果てまで追いかけたいくらいゴーヴァンに惚れたら、ゴーヴァンはどう答える?」
オレが惚れられたら……考えたこともなかった。
そうだな、でももしそんなヤツがいたら……
「そんなヤツがいたら、ソイツの気持ちがわかるまで話す、だろうな。
オレは頭使うのはダメだから、ソイツの気持ちがわかるまでに愛想つかされるかも知れねえけど、ちゃんと話がしてえ」
話して話して、ソイツの気持ちがわかれば……
「そうしたら、案外オレもソイツに惚れてるかもな。
もっとも、そんなこと今の今まで一回もねえんだけどな」
そう、とだけ短く答えるとオレの顔に抱きついてきた。
レーテが言っていたとおり、体をくっつけると布一枚向こうに肉ではなく骨の感触を感じる。
「ねえ、ゴーヴァン。もし、もしもだね。私が顔を隠さずに外を歩けるようになったら、一緒に昼の街を歩いてくれないかね」
「なんだ、買い物にでも行きてえのか?」
「そう言うのじゃないさね。ただ、何の意味もなく街を歩いて回りたいのさね」
「そのくらい構わねえけど、日に当たれるようにでもなるのか?」
「なれるかも知れないし、ならないかも知れないし、これはルクレツィア次第だね」
へえ、ルクレツィアのヤツちゃんとやることはやってたんだな。
しかし日に当たれるようになるってことは、昼間でも馬鹿みたいに強くなるってことか?
街を歩いて回るか、菓子でも買って欲しいのか?
「おじさん!」
「お、アズ。どうした?」
「ごめんなさい、ゴーヴァン。アズ、あなたのところに行くって聞かなくって」
ドアを開けて入ってきたと思ったら、突撃かと思う勢いでオレに抱きついてくる。
「おやおや、これは相当好かれているね」
「ねえ、おでかけするの? ぼくも行きたい」
「アズ、いま叔父さんはレーテお姉ちゃんとお話してるの。少しガマンしなさい」
「やだぁ! ぼくも一緒におはなしする!」
こりゃ、引き剥がそうとしても無理じゃねえかな。
「いいよ、姉さん。今はレーテとどこか出かける話をしてたんだ。アズがいても問題ねえ」
何で姉さん、そんな済まなそうな顔してレーテの方見てるんだ?
「私も構わないさね。何かあれば明日、あって話せばいいんだからね」
「なんだ、泊まっていかねえのか?」
レーテと姉さんが同時にため息を吐く。
「そう言う言葉はね、ゴーヴァン。せめて二人きり時に言う言葉だからね。
こういう時は送って行く、くらいにしておきなね」
夜で歩くのは危ねえだろうから送って行くくらいなら、泊まっていったほうが明日楽なんじゃねえのか?
「仕方ねえだろ、姉さんに聞かせるような話じゃねえんだから」
床の上に直接座らせるのも悪いと思って、普段使ってる毛布引いてやったのにこれだ。
「ゴーヴァン、ここはゴーヴァンの部屋なのだよね?」
「そうだぞ」
「せめて、ベッドくらい買おうとは思わなかったのかね?」
「オレの背丈じゃ足と尾が伸ばせねえから窮屈なんだよ。床で横になってる方が楽なんだ」
今まであちこちで寝はしたけど、足も尾も伸ばせた場所はレオナルドのトコくらいだ。
何よりオレが楽に横になれるようなベッドを、どう運び入れるのかって問題もある。
「そんなことよりオメェの話だ、オメェの」
「とは言っても、あまり話せることもないのだけどね」
いや、あるだろ。
道具みたいに使われてるなんて、まともな状況じゃないだろ。
「レーテ、オメェは自分が道具みたいにされて、それで満足なのか?」
「満足か不満かで言えば不満だね。」
「だったら続けねえで……」
「でもね、そうしないと私はこうして外に出ることも許して貰えないらくしくてね。
夜のこの時間があるだけでも、何をされても文句は言えないね」
レーテの言葉に奴隷として、物として扱われてた頃のオレが重なって見える。
「ゴーヴァン、ひょっとして昔の自分と私を同じだと思ってるのじゃないかね」
言葉を返せない。
「やっぱり、そう見えるよね。」
「それ以外に、何に見えるってんだ」
目を伏せ、無理に笑おうとしているのか、口元が固まっているのが見える。
「ありがとう、私を人としてみてくれて」
「何だよ、急にあらたまったみたいな」
「私なんて、ゴーヴァンにとっては血を吸う化け物だと思っていたから。
そんな人に対しての言葉を私に言ってくれるなんて、思ってもいなかったから」
レーテがオレの手に手を重ねてくる。
誰の手を見ても小さいと思うが、コイツの手は小さいだけじゃなくて細かった。
「指、細いな」
「病で体が弱って、やせ細って死んだから。服の下は骨と皮みたいなもの物になってる。
風呂に行った時には体が細すぎて、シアラに心配されてしまったくらいだから」
レーテの体を見る。
今まで来てたようなヒラヒラした服だと体型がよく分からなかったが、いま着ている服だと体の細さがよく分かる。
「血飲むだけじゃなくて、飯ちゃんと食え」
「もう何を食べたようと飲もうと、太りも細りもしない。この体は、私が死んだあの日から何一つ変わっていない
服も、体型を隠す道具くらいにしか思っていなかったから」
立ち上がり、自分が来ている服を広げて見せてくる。
この家を片付けた後、風呂屋の行って着替えた服だ。
「こういう服のほうが好きと言われて、嬉しくって。実は似たような服をあの後、何着か買ってたんだ」
笑っている。
子供のような顔で、レーテが笑っている。
「自分の歳も数えるのを止めるほど生きてきたけれど、こんなささやかな事で明日が来て欲しくて仕方ない。
明日何があっても、ゴーヴァンに会えるかもしれないと思っていると、それだけで満たされるのだよ」
「だからって、物扱いされていいわけじゃねえだろ」
オレの前にしゃがみ目を合わせようとしてきたから、とっさに視線をそらせてしまう。
レーテが一瞬悲しそうな顔をした気もしたが、すぐに笑顔に戻っていた。
「その物扱いも悪いことだけじゃなくてね、人と目を合わせて話せるようになるのかも知れないのさね。
もしそうなったら、もっとみんなと一緒にいられるように、そうなれるようにしていきたいね」
笑っていたのかと思ったら、急に真剣な顔になって目を伏せる。
「ねえ、ゴーヴァン。帰り道で、誰かに惚れたら地の果て空の果てまで追いかける、って言っていたよね」
「ん? お、おう」
「じゃあもしもだよ、誰かが地の果て空の果てまで追いかけたいくらいゴーヴァンに惚れたら、ゴーヴァンはどう答える?」
オレが惚れられたら……考えたこともなかった。
そうだな、でももしそんなヤツがいたら……
「そんなヤツがいたら、ソイツの気持ちがわかるまで話す、だろうな。
オレは頭使うのはダメだから、ソイツの気持ちがわかるまでに愛想つかされるかも知れねえけど、ちゃんと話がしてえ」
話して話して、ソイツの気持ちがわかれば……
「そうしたら、案外オレもソイツに惚れてるかもな。
もっとも、そんなこと今の今まで一回もねえんだけどな」
そう、とだけ短く答えるとオレの顔に抱きついてきた。
レーテが言っていたとおり、体をくっつけると布一枚向こうに肉ではなく骨の感触を感じる。
「ねえ、ゴーヴァン。もし、もしもだね。私が顔を隠さずに外を歩けるようになったら、一緒に昼の街を歩いてくれないかね」
「なんだ、買い物にでも行きてえのか?」
「そう言うのじゃないさね。ただ、何の意味もなく街を歩いて回りたいのさね」
「そのくらい構わねえけど、日に当たれるようにでもなるのか?」
「なれるかも知れないし、ならないかも知れないし、これはルクレツィア次第だね」
へえ、ルクレツィアのヤツちゃんとやることはやってたんだな。
しかし日に当たれるようになるってことは、昼間でも馬鹿みたいに強くなるってことか?
街を歩いて回るか、菓子でも買って欲しいのか?
「おじさん!」
「お、アズ。どうした?」
「ごめんなさい、ゴーヴァン。アズ、あなたのところに行くって聞かなくって」
ドアを開けて入ってきたと思ったら、突撃かと思う勢いでオレに抱きついてくる。
「おやおや、これは相当好かれているね」
「ねえ、おでかけするの? ぼくも行きたい」
「アズ、いま叔父さんはレーテお姉ちゃんとお話してるの。少しガマンしなさい」
「やだぁ! ぼくも一緒におはなしする!」
こりゃ、引き剥がそうとしても無理じゃねえかな。
「いいよ、姉さん。今はレーテとどこか出かける話をしてたんだ。アズがいても問題ねえ」
何で姉さん、そんな済まなそうな顔してレーテの方見てるんだ?
「私も構わないさね。何かあれば明日、あって話せばいいんだからね」
「なんだ、泊まっていかねえのか?」
レーテと姉さんが同時にため息を吐く。
「そう言う言葉はね、ゴーヴァン。せめて二人きり時に言う言葉だからね。
こういう時は送って行く、くらいにしておきなね」
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