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 北に山脈を置き、三方を四つの国に囲まれたその国は、比較的穏やかな歴史を刻んできた。
ほんの少し前、西隣の国が己が仕掛けた戦争により戦火にまみれ、その統治が終了するときまで、ではあるが。
それでも「直接」には関わっていないその戦では、表面上は何も変わらない日常が紡がれていた。



 この国は、王族とそれを支える貴族によって政が行われている。
中心にいるのはもちろん国王であり、王妃であり、その後継ぎである。
非常に厳しい国家宗教の教えにより、厳格な一夫一婦制であるこの国では、王様と言えどもお妃は一人しか迎えることはできない。
たとえ、継ぐべき立場の人間が一人しか生み出せなくとも、それを変えることはできないのである。

そんな中、たった一人の跡取りである王子の婚約者選びは、その適性を見るために、ということで非常にゆるやかに、長い時間をかけて行われている。
妃にふさわしいだけの立場と資質、それを持ち合わせた少女たちが王子の周囲に侍り交流を図る。
些末ないざこざはあるものの、その行いは、高貴な立場にいる三人の少女たちによって安定的に運営されていた。


一人は、王家派筆頭家の娘。

煌めく銀の髪をもち、控えめではあるが芯の強く賢い銀の姫。

一人は、中立派最上位の娘。

華やかな金の髪を揺らし、愛嬌があり周囲を魅了する笑顔をもつ金の姫。

一人は、貴族派最古参の家の娘。

慈愛に満ちた碧の目を持つ、誰もが彼女に縋りたい、と思わせる碧の姫。
この三人の少女たちによって、王子の周囲は非常に統制が取れた集団を形成していた。
それは周囲の者たちにも良い影響を与え、お互いが切磋琢磨をし、若者めいた浅慮な行いが時折みられるものの、それもすぐに収束する。

これでこの国は安泰だ、そう誰もが思っていた。


王子が、名も知られぬどこぞかの娘を茶会に伴ってくるその日まで。





「まあ、殿下、とてもかわいらしいお嬢様ね。紹介してくださる?」


その日の茶会の主催者である夫人が、にこやかに殿下に問う。
殿下は、想像よりもはるかに穏やかに迎え入れられたことに満足し、隣に立つ少女の紹介を口にする。
だが、その少女のことを、誰も知りはしなかった。
それは、この場に集う女性たちとは違う集団に属する人間であることを示している。
今、ここは中立派が主催する茶会の場である。
その少女は少なくとも中立派ではなく、交流のある王家派の人間でもない。
そして、少なくとも名を知る貴族派の家のものでもないのだろう。
首をかしげながら、主催者はその場を取り仕切り、少女を自分の目の前の席へと案内する。
彼女が迎え入れられたのに満足をしたのか、王子は簡単な挨拶をしてその場を去って行った。
そもそも、この茶会は女性のみの交流の場であり、男である王子はお呼びではない。
非常識にも近いマナー違反ではあるが、彼女たちは笑顔を絶やさず、彼らを排除することはしない。

それどころか、最新作の菓子などを少女に勧め、「かわいらしい」と言っては、彼女がほおばる姿に微笑みかける。

彼女の皿の周辺が、明らかに招かれた客たちとは違う様相を呈していたとしても、食べにくい菓子があちこちと彼女の服装を汚したとしても。

それを指摘することはない。

穏やかに、そして彼女を相手する主催者の夫人以外は、この会の目的の打ち合わせを済ませ、表向きに茶会は成功をおさめ終わりの時を告げた。



 そして、一人、王子の婚約者候補の婚約が発表された。

それは中立派の金の姫。
彼女は王家派の銀の姫の兄と結婚をすることとなった。
突然の慶事に、周囲が騒がしくなる。
大勢いる、とはいえ、その筆頭格である王子の婚約者候補の一人だ。騒がない方がおかしいだろう。

茶会に、あずかり知らぬ娘を引率していった王子は驚き、そして父親である陛下に抗議をする。


「どうして、私の婚約者候補が、私以外と婚約をするのですか?」

心底わからない、といった風情で王子が不満を告げる。

「候補はあくまで候補だ。おまえがとやかく言える立場にはない」

そしてぴしゃりと、それを国王がはねのける。

「しかし」
「おまえは、呼ばれてもいない小娘を連れて、茶会の場を荒らしたのだろう?正式に抗議があったと聞くが」

中立派の茶会へ乱入した件は、すみやかに祖母である王の実母の耳に届けられている。もちろん婉曲な抗議とともに。
ため息をついた祖母は、それとなく孫である王子に注意をしているはずだ。
その意味が理解できていれば、このような間抜けな質問を口にできないだろう。
おまえは、中立派の信頼を失ってしまったのだと。

だが、「温かく」彼女を迎え入れられた、と思っている王子は、どれほど注意をされようがまるで意に介していない。
それ以上の言葉は許さない、といった父、というよりもは陛下の態度に、王子はしぶしぶといった風情で撤退をしていった。

婚約者候補が一人減ったところで、残った二人の高位な少女が場を取り仕切る限り、場が乱れることはない。

定期的に開催される、婚約者候補である少女たちと、王子との茶会に、その王子本人が場違いな人間を連れ込まない限りは。







「かわいらしい方ですのね、殿下、紹介してくださらないの?」

貴族派筆頭の碧の姫が口を開く。
他の少女たちは彼女に倣って扇を口元にあてながら、にこやかに彼ら二人を見つめる。

「ああ、彼女は最近貴族となった少女でね」

どこかで聞いたような彼女の出生物語を滔々と語る。
身分差の恋、が主題となった恋物語の主人公のような彼女の生い立ちは、おそらく同情できるものなのだろう。
それが、婚約者候補たちとの交流を深める茶会、といった場でなければではあるが。
話題を市井ではやっているものを中心にして、かわいらしい彼女が置いてきぼりにならないように配慮された茶会は、とても穏やかに過ぎていった。
銀の姫は碧の姫とささやきあうように会話を交わし、そして笑う。
二人は、とても絵になる美少女であり、それが仲良さげに寄り添っていれば、とても絵になる風情である。
王家派、貴族派という家の立場の違いはあれど、家そのものですらいがみ合っているわけではない。
いわば、考え方の違いであり、彼女たちはとても仲が良い。
それは、もうこの場に出席することはない金の姫も同様であり。三人はそれぞれと非常に仲が良く、それぞれが己の派閥をよく束ねてもいた。

ガチャン、と硬質な音がして、おしゃべりが中断される。

しんと静まり返った茶会で、「かわいらしい」彼女が悲鳴をあげる。
お代わりをしたばかりの茶が思いのほか熱く、カップを落として中身をぶちまけてしまったらしい。
銀の姫がそっと目配せをして、周囲のものがその場をきれいにしていく。
涙目になった彼女に配慮をして、茶会はいつもより短い時間をもって終了した。


 そして、また一人婚約者候補である少女の婚約が発表された。

貴族派有数家の姫である碧の姫の輿入れが決まったのだ。
お相手は、今だくすぶったまま非常に不安定である隣国との国境を守る辺境伯の嫡子である。
隣国は、かつては王子の母親が生まれ育った国ではあった。
それが、何を思ったのか無謀にも大国に喧嘩を売り、あっという間に逆に征服されてしまったのだ。
大国の統治は思いのほかうまくいき、今では国民は穏やかに暮らせている。
残っていた旧王家の人間は、残らず消されてしまってはいるが。
その、戦争とも言えないお粗末な出来事は、この国にも影をもたらしている。
なにせ、王妃がその侵略戦争をした国の王女だったからだ。
彼女の要請にこたえ、王はしぶしぶながら援軍を隣国に送った。
その援軍は大半が戻ってくることはなく、王家は相当な賠償金を支払う羽目にもなってしまった。
もちろん、王女であった王妃は、表向き病死ということで、責任をとった。いや、とらされてしまった。
隔離された王子は、そのあたりのやりとりの裏を、知ることはなかったけれど。
だからこそ、その国防の要ともいえる場に、中央を知る高貴な娘が輿入れすることは、とても喜ばしいことではある。

王家としては、王家派の中から、と考えてはいたが、それもまた致し方がないだろう。
なにせ、一番格の高い娘を、王家はずっとしばりつけているのだから。


 王子は、今度はなぜ、と口に出すことはなかった。

それは熟慮をして、でも、自らの浅慮な行動を顧みて、でもなく、貴族派の姫だから最も婚約者からは遠い人物だろう、と甘く考えていたからだ。
どれだけ自分があちこちふらふらしていたとしても、結局は王家派の最上位の娘、銀の姫と結婚するのだと思っている。
そして、少しだけそれをおもしろくない、と思っている子供じみた考えも同時に。
だからこそ、身分は低いけれども、接していた気楽な娘をつれ歩いているのだ。
自分の立場を考えもせず。

うわべだけは何も変わらず、王子と候補者たちの交流は続いている。
あれ以来、知らない少女の乱入はない。
だが、王子と彼女の交流もまた続いていることを彼女たちは知っている。
一人、また一人と候補者たちが少なくなっていく。
それは、数合わせで呼ばれたような立場の者たちではあったが、まるで競うように彼女たちは婚約を整え、そしてぴたりとはまる立ち位置へと降りて行った。
銀の姫はおっとりと祝いの言葉を口にして、王子と笑いあう。
やっぱり、自分はこの少女と結婚するのだと。
それをやはりおもしろくはないな、と王子は自問自答しながら。


 孤児院の慰問は、高貴なる立場のものたちの仕事の中では重要ではないが必須であるものだ。

どのような立場のものであっても、支配者階級の自分たちはあなたたちを見捨てることがないのだと、訴えることが必要だからだ。
その重要な慰問の日に、王子はよりにもよって、あの小娘を連れ立って訪れて行った。
知った顔の王子と、どちらかといえば浮ついた雰囲気の少女の顔に、視線が注がれる。
対峙した院長も、何度も彼らに視線を往復させ、静かにうなずいたのちにおとないを歓迎した。
王子と、少女の訪問は表面上はとても和やかな時間が過ぎていった。
子どもたちと歌い、本を読み、そして食事を共にする。
少女は、こんな簡単な公務なら自分にもできる、と自信を深めてもいた。

どこか抑制的な表情を形作る高貴な者たちは、こんなことでいばっていたのか、と。

楽しい時間は過ぎ、そして王子と少女は少し困ったような顔をした院長に見送られた。
そっと、お付きのものが院長に何かを差し出したことも気が付かずに。



「有意義な時間を過ごしたようだな」

私的な部屋で、陛下に呼ばれた王子は意気揚々とやってきた。
いつもは銀の姫と行う公務を、身分の低い少女と行ってきたのだと。それも銀の姫にも劣らぬほど立派にこなしてきたのだと。
そう信じて、父の問いに胸を張る。

「ええ。もちろん、あれぐらいは造作のないことですよ」

どこか亡き王妃に似た浅薄な表情を浮かべ、ほめてほしいともおもえる言葉を口にする。

「ああ、聞いている」

王子がただ一人でどこかへ出かけるわけはない。
もちろん侍従もいれば、側近候補となる年の近い高位貴族の息子たちも侍っている。
その誰もが、王子の言うことに逆らいもせず、ぼんやりと存在しているだけであったことに、王はひどく失望した。

「おまえは、孤児院での行いようを知っているのか?」

もちろん、知らないことを知っていて尋ねている。

「行い?ですか?もちろんです。一緒にごはんを食べたり遊んだりしました」

幼児なら満点をもらえそうなことを告げる。
深くため息をついて、王が口を開く。

「……そうか、やりようを聞いていなかったのか?」


控えている侍従が、否定のために軽く首を振る。
彼の立場では王子の行動を否定することはできない。せいぜいそっと穴埋めをして、あとで上司に報告をする程度が精一杯だ。

その点、側近候補たちはそれを咎め、ともに正しい道へ進むことを望まれる存在である、はずだった。

だが、上がってくる声は、一人の少女に入れ込み、彼女を連れて公務のうわべだけをなぞっていい気分になっている王子と、それを窘めもしない周囲の評判ばかり。
どこで間違えたのか、どうすればよかったのか。
短い間に思案する。

「よくわかった、もうさがれ」

手取り足取りすべてを教えればよかったのか、と。得意満面な息子の顔をぼんやりと眺めながら考える。
だが、同じように教えられているあの三人の少女たちは粛々とすべてを吸収し、年かさの貴人女性たちすら舌を巻く出来上がりだ。
間違った、といえば、王は自分の婚姻そのものを後悔している。

あの時は、あまりに濃くなってしまった血を薄めるために、他国にその血統を求めた。
他国で高位な血筋であれば、この血を薄めるのにちょうどよいと。
いくつかある候補の中で、双子の国、と言われるほど仲の良い隣国の王女との婚姻を推し進めた。
彼女の資質を問題視した声を無視して。
自分のそんな浅慮が、こんな事態を引き起こしたのかと。
一つの届け出が提出されてから抱いていた思いがめぐる。

もう、結論をださなければ、と。





「父上!」


先触れも出さずに、息子である王子が王の執務室へと駆け込む。
ぎょっとする文官や側近たちを抑え、とりあえず話を聞く体制を整える。
周囲のものを下がらせもせず、話をする王に驚きながらも、王子がさえずりを開始する。

「なぜ、彼女が結婚するのですか!」

強く、わけがわからない、といった顔をして王子が怒声にも似た声音で詰問する。

「なぜ?言われないとわからないのか?」

淡々と言い放つ王に、「息子」である彼への感情は希薄だ。
少しひるんだものの、なおも彼は言い募る。

「彼女は、僕と結婚するはずでしょう?」

身分が一番高く、最も近しい派閥にある貴人なのであるから、最も高い位置に据えられるべき自分に嫁ぐべきである、と。

「だったらなぜあれと公務をこなした?」

あれ、と、お気に入りの少女を表現され、そんな場合でもないにもかかわらず気に入らない思いが顔に現れる。

「いや、でも、あれは」

別に、あの仕事は誰と行くかまでは指定されていない。
ただ、確かに三人の姫の誰かか、もしくはその次の位にいる少女たちと行くことが多かった。
それは婚約者候補として、そして将来の王子妃としての資質をみるための一種の試験みたいなものだからだ。
今更ながらにふと、そう言われたことを思い出す。
教育係もそのようなことを念押ししていた、とも。
交流会は、ただの茶会でもお忍びの外出でも逢引きでもない。
すべては、将来の立場への足固め、そして練習であるのだと。

「ともかく、彼女は我が弟、おまえにとっては叔父と結婚することは決定事項だ」

叔父、と聞いて王子は優しくて、けれどもどこかこちらを憐れむようにな視線をよこす男の顔を思い出す。
仕事ができて、穏やかで、けれども決して本心を見せないような叔父のことが苦手だ。
けれども、そんな男に彼女が嫁ぐ。
許せなくて、けれども許せない、と思うことが許されないことぐらいは理解している。
両手を握りしめ、うつむく。


「ついでだ、次代を継ぐのは弟だ。おまえではない」
「なぜ!!」

反射的に顔を上げ、にらみつける。
全く感情を見せないその顔は、ちらりと叔父と似た憐みの色をのせた。

「おまえは、自分の立場が盤石ではない、ということに気が付いていたか?」
「それは、私の母の国が原因ですか?」
「それぐらいは理解しておったか」

ようやくの正解だが、王の顔は緩まない。

「だからこそ、強固な後ろ盾が必要だとは思わなかったのか?」

王家派の姫は、王妃も出し、降嫁もしたことがある名家だ。
血が近すぎることは難点ではあるが、それは血を薄めた王子にあてがうとすればうってつけではある。
国内の高位貴族が後ろにいれば、亡国の王女の子、と言えども低くみられることはないだろうと。
のんびりと候補を決める、といいながら年頃の高位の立場の少女を侍らせながら、結局は最初から相手は決まっていた、ということだ。
もちろん、相性によっては三家の中のどれを選んでも差し支えはない。
中立派はもちろん、貴族派だとて国内で確固たる立ち位置を得ているのだから。

「ですが、だったら」

なぜ、王命を出して銀の姫と自分の婚姻を成立させないのか。

「それだけわかっていながら、なぜあのようなことをした?」

本気で理解していないのか、思い切り首をかしげる。
そんな王子に対して、失望しながら言葉をつづける。

「まず、夫人方の茶会だ。あれは慈善事業の打ち合わせだ。ただの茶会ではない。いや、ただの茶会だとしても招待もされずにのこのこと乱入する馬鹿がどこにいる」

じっと目を見据えながら淡々と事実を吐き出していく。

「おまけに、お前がつれて行ったあれはごてごてと飾り付け、マナーもなにもあったものではなかったと聞く」

あのあと、ちくちくと王は金の姫の母親から小言を繰り返されたのだ。素敵なお嬢さんをお隠しなのね、と。
それもこれも教育の失敗、ではあるのだからまるで言い返せずに言われるまま。

「その次は交流会への乱入だったか?碧の姫がとりなしてくれたらしいがな」


あの時の彼女たちの表情を思い浮かべる。
誰も、まるで嫌な顔一つしていなかったはずだ。いや、自分だけのときよりもはるかに和やかだった。
自分が見てきたものとまるで正反対の成果に、ぐらりと地面が揺れたような気がした。

「とどめは孤児院への慰問だ。彼らの貴重な食材を食い漁り、何も残さずに去って行ったそうだな」

余りのいいように、王子が反論をしようと口を開ける。
だが、それよりもはやく王の言葉がそれを制する。

「いつもは立場の分かっている彼女たちが差し入れをし、帰り際にはきちんと余分な心付けを残して行ってくれていたそうだな」
「それは……」

確かに、そのようなことは聞いていた。いつしか、気が利く彼女たちが代わりに手配していたことも気がついてはいた。
そのことを思い出しもせずに、さんざん例の彼女を連れまわし、公務を行っていたことに、今更ながら血の気が引く思いをした。
だが、やらかしたことはなかったことにはできない。
もっと前に注意をしてくれればよかったのに、という思いはあるが、それを口に出す勇気はない。
そして、そういうことをしてくれそうな側近候補を、自分はすべて遠ざけていたことすらつらつらと記憶がよみがえってきてしまった。

すべては、自分が楽な方、楽な方へと流れて行った結果だ。
婚約者候補たちとの交流も、側近候補たちとの付き合いも。

苦言も、小言も言わず、耳心地の良い言葉だけで過ごしていけるほど優秀であったのならば、それはそれでよかったのだけれど。
ただ、この短いやりとりで、すべてを理解してしまえるほどには「優秀」であった王子は、再び下を向く。

とても、顔が合わせられないと。

「もうよい、下がれ」


興味を失ったかのように、息子を下がらせる。
周囲も、何事もなかったかのように仕事を再開する。
国の中枢にいる人間に囲まれた中で行われた醜聞は、あちこちでまことしやかに噂されるのだろう。
王が口止めをしないことからも、「そうなる」ことを期待もしている。

やがて、後継ぎとして銀の姫を娶った王弟が指名され、代わりに王子が王弟の家の跡取りとして発表された。
婚約者もなく、一代限りの身分と引き換えに。
あれほどお気に入りだった少女は、どこか裕福な商人のもとへと嫁いでいった。
彼女もまた、己の立場を十分に理解してはいたのだ。

そして、ゆっくりと季節は巡り、国は穏やかで平和な時を刻んでいった。
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